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一丸


________***


キリッとした表情で部屋に入るその姿に、アーノルドは息子の成長を感じ眩しそうに目を細める。


「フィンレーか」


「お父さま! お父さまがこれから情報を吐かせようとしている事は守衛の人達から聞きました! 僕にも手伝わせて下さい!!」


「!」


思わぬ申し出でアーノルドは一瞬固まり呆けるもののすぐさま切り替えて温厚な笑みを浮かべた。

そしてすぐそばまで歩み寄ってきたプラチナブロンドの頭に軽く手を置く。


「無理はしなくていいぞフィンレー。拷問(これ)はある程度知識と経験を求められる上にお前には刺激が強すぎる。…なに案ずるな、お前の姉を想う気持ちは私にも痛いくらいによくわかっ」


「さっき大急ぎで作りました! ぜひ使って下さい!!」


やんわり断ろうとしたアーノルドの声を遮ったフィンレーはそのまま何故か後ろを振り向いて「こっちこっちー!」と手招きし始めるのだった。

主の命を受けて淡々と…否、遠い目をしてワゴンを押す従者によって運ばれるのは、大小さまざまな瓶などで保管されている薬品の数々。

どこからどう見ても物騒なアイテムが登場したためアーノルド含め部屋に居た男子ズまでもが言葉を失う。


「こっちは最近開発したベラドンナベースのオリジナル自白材です。あとこのガスみたいなのは亜酸化窒素(あさんかちっそ)。それとこの瓶は…」


(え? あれれ?? うちの可愛い愛息子が知らない間にヤベェもん作ってる…)


先刻まで凶器片手に王子を非難していた自分を棚に上げたアーノルドは顔に黒い影を覆ったまま息子の斜め上な言動にオロオロし始めるのだが、それを知ってか知らずかフィンレーは瓶を手に取りペラペラマイペースに説明を続けた。


「あっそうそうさっきテオ君に頼んでテオ君のところの製薬会社から使えそうな薬はないか調べて貰ってます。あとオーガストにも業者の伝手が無いかを…」


「お、落ち着けフィンレー。化学好きなのは知っていたがいつそんなもんを自作して……最悪パクられるぞ。あと自白剤は正気を失った相手の発言の信憑性に問題があるからあくまで最終手段だ。命を落とすリスクもある。それと今回の件は公にしていない極秘事項だからお友達とはいえ無闇に喋るのは良くないな」


「え〜せっかく作ったのに勿体ないです! あとテオ君もオーガストも昔からの趣味友達だから信用出来ますよ、オーガストに至っては公爵子息だから地味に人脈広いですし」


「あ"〜確か休暇中遊びに来ていたラミレス公爵のとこの(せがれ)か…。しかしなぁフィンレー」


「僕だって姉さまの役に立ちたいんです。僕にしか出来ない事が、きっとあると思うんです!!」


「ゔう〜む」


嗜めようとすればするほど反発するフィンレーにアーノルドは少し弱っていた。アーノルドとてフィンレーの気持ちはよくわかるのだ。

そして家族想いな息子に花を持たせたいと思うのも親として当然の感情ではなかろうか。


(フィンレーにしか出来ない…フィンレーにしか…)


そんな事を思案しながらアーノルドはフィンレーを上から下までマジマジと見つめた後…何か閃いたらしくハッとした顔になる。


「……」


「なんですか他に僕に出来る事がありました!? 出来る事ならなんだってやります!! だからどうか僕を…!」


顔を下に向けて黙り始めたアーノルドに対しフィンレーがひたすら嘆願の言葉を繰り返す。

しかしアーノルドの表情は険しく、何故か僅かに悲しみが混ざっていた。


「お父さま! お願いします…ッこのまま姉の帰りを待つだけなんて出来ません!!」


「…そうか」


息子の必死な姿にポツリと、アーノルドがそれだけ呟いて今度はフィンレーの肩に両手を置く。

そして体勢を低くしラベンダーの双眼を真っ直ぐ見つめて問い掛けるのだった。


「例えお前にとって辛い事でも……耐えられるか?」


アーノルドの真剣な声にフィンレーも真面目な顔で頷いて答える。


「はいお父さま。覚悟は出来てます」


「ならばよろしい」


返答に納得したアーノルドがフィンレーから手を話して立ち上がりざまに振り返りリアム達に声を掛けた。


「申し訳ありませんが私とフィンレー、そしてギャビンの三人で誘拐犯を揺さぶろうと思います」


「何か策があるのですか?」


アーノルドの提案に対して速やかに質問したのはリアムである。

想定内だったのだろう、アーノルドも首を縦に振って返答する。


「洗脳の可能性を考えると時間が掛かるでしょう。が、焦って過剰な拷問を課すれば信用性の低い自白が出る恐れもあります。しかし必ずや有力な情報を吐かせてみせましょう」


「…わかりました。この件はオルティス侯爵に任せます」


「ありがとうございます。ではその間リアム様方は情報収集を続けて下さい。フィンレー、ギャビン、行くぞ」


「は、はい叔父上」


「あ…」


素早く二人を引き連れ退出しようとしたアーノルドにフィンレーが躊躇するような声を上げた。

彼の視線の先には先程怒りの矛先を向けてしまった相手である。


「「……」」


自然と薄紫と青玉の目が合い……かと思えばフィンレーは眉間に皺を寄せ腕を組み、不機嫌そうに顔を背けてしまった。

彼の反応に二人の激しい口論を思い出したイーサン達男子ズはオロオロと狼狽え、リアムもまた居た堪れない風に顔を下にする。

けれど不機嫌そうな表情は段々と崩れてフィンレーもまた居心地悪そうに眉を下げ、そしてゆっくりとリアムの方へ身体ごと向き直して静かに頭を下げるのだった。


「…さっきは、言い過ぎました。申し訳ありません」


「!」


フィンレーから出た謝罪の言葉にリアムも目を僅かに見開いた。少し間を置いたのちにリアムもまた気不味そうに歯切れ悪そうに口を開く。


「…僕の方こそ、す…」


「偉いぞフィン! あぁ良かった!!」

「ったくよぉ…ヒヤヒヤしてたんだぜこっちは!!」

「お前も大人になったな!! でも謝る時くらいはちゃんと相手の顔を見た方がいいぞ〜?」


かと思えばリアムが何か言い掛けるよりも早くイーサン達がわっとフィンレーの元へ駆け寄るのだった。

イーサンは本気で嬉しそうな笑顔で両手を握ってブンブンと上下に振りフランシスは安心した様子で背中バシバシ叩き、さらにギャビンがフレンドリーに片手で頭をわしゃわしゃと豪快に撫でる。


「ちょっと! 前から思ってたけどなんでいつもみんなして僕だけ子ども扱いするんですか!?」


三人の反応が気に食わなかったのだろう、フィンレーがぐしゃぐしゃの髪のまま不満げに抗議しそんなフィンレーにイーサン達も三者三様で弁解する。


「すっ すまない微笑ましくてつい…」

「この中で物理的な圧迫感ないからじゃね? あとガキっぽい雰囲気」

「実際一番年下だろ? しかも誕生日が数日ズレてたらまだ入学してないレベルだしさぁ!」


「ぐぬぬ…!」注:早生まれの十五歳


「フィンレー」


名前を呼ばれて、フィンレーがもう一度リアムの方へ顔を向ける。彼の理知的な表情には少し前まで残っていた迷いや後悔は無い。…脳裏に浮かぶのは幼き日のフィンレーだった。

リアムの軽口に泣きべそをかく気弱で幼かった彼が、今では正面からぶつかり合うほど逞しく成長したのだ。懐かしい日々を思い起こしながら、リアムの口角は自然と上がった。


「そっちは任せた。しくじるなよ」


「!!」


初めて仕事を一任されたフィンレーは胸を張り勝気に笑う。


「リアム様こそ、得意な書類仕事なんですからサッサと終わらせて下さいよ!」



________***


「んん…」


リアムやフィンレー達が一丸となりエキドナとミアの救出に向けて動いていた最中、エキドナは一人目を覚ました。


(あれ…ここは…? 私……何を…??)


まだ覚醒しきれていない思考のままゆっくり身体を起こして辺りを見渡す。

自身の周りを囲むのは古い家屋だ。

質素で古くて、どこか懐かしい見慣れた空間だった。


「…?」


そしてふと、身の回りだけでなく自分自身の姿にも違和感を覚える。


(私…こんなに髪が短かったっけ?)


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