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侵入者


<<警告!!>>

残酷描写および流血描写があります。



________***


「こいつであってるのか?」


「こりゃ本当に珍しい髪色だ。そして青い目、情報からして間違いなくあれがこの国の王子。そしてあっちは婚約者の娘」


「ケッ ガキの癖してもう嫁がいるのかよ…」


緊迫した空気の中、帽子の男の後ろで男二人がヒソヒソと会話するのが聞こえる。その話し方は標準語ベースだけどどこか発音に癖があった。


「何者だ」


言いながらリアムは自身の前に立っていたエキドナの腕を引いて後ろへ隠してゆっくりと校舎側へ後退する。

リアムの問い掛けにリーダー格らしき帽子の男が含んだ笑みを浮かべて一歩前へと足を進めた。


「俺達ゃ坊ちゃんに用があんだわ」


(リー様狙いか!)


目的を耳にしたエキドナは咄嗟に触れていたリアムの服をキュッと握る。


(ヒロイン失踪の次は賊!? なんなの次から次へと…ッ!!)


ミアの失踪といい妙にタイミングよく現れた侵入者といい、まるで見えない何かに弄ばれているようで腹が立つ。

だがしかし、そんな異常事態であるもののエキドナの頭は冷静だった。不審な男達が出て来た時点でとっくに腹を決めていたのだ。


「リー様逃げて」


「はぁ!? 何言って…!」


エキドナの声色で意図を察したのだろう。

こちらを見ずともリアムは信じられないという顔で驚いている様子だ。けれど時間が無い。今向こうから『行けお前ら』と短い声が聞こえた。

捕まえるべく顔をニヤつかせながらジリジリと近付いてくる男二人に対して、エキドナはリアムとさりげなく守衛室がある本校舎の方向へ下がりつつ口早に説得する。


「二人で逃げた場合、周囲に居る無力な生徒達が巻き込まれて最悪人質にされるかもしれない。例え一緒に逃げたとしても二対三で分が悪いしリー様は今帯刀してない」


対する相手は三人ともデカくてゴツいダガーナイフを持っており明らかに不利なのだ。

リアムの場合護身用の小刀を持っているだろうが本来彼がよく使うのは長剣。小さな剣では心許ない。


(対する私は愛用の双剣を隠し持ってる)


つまりエキドナが三人を相手取る間にリアムを逃がす作戦である。

これなら少なくともリアムは確実に逃げられる。


「馬鹿か危険すぎる!」


けれどそんな要求にリアムも納得出来ないのだろう、拒否の言葉と共に敵側の動きを見ながら素早くエキドナの腕を掴んで駆け出した。後方から「待てコラぁ!!」という声と共にこちらを追いかける足音が聞こえる。


「ドナもわかってるはずだ。二人はまだいいがあの帽子の男…あんな至近距離に居たのに気配が無かったんだ只者じゃない!! だからっ…」


「リー様!!」


言い掛けようとした言葉を察してエキドナがわざと遮った。同時に一瞬の隙を突きリアムに掴まれた自身の手をもう片方の手で掴んで引っ張り自力で拘束から抜ける。

こんなやり取りをして逃げている間も男達が追いかけているのだ。

すでにバテ始めている痩せ型と巨体ゆえに足が遅いらしい肥満型の男二人はこのまま振り切れそうだが、一番問題なのはリアムが名指しした帽子の男。

なかなかいい歳をしてそうなのに未だ余裕な笑みを浮かべて、まるで遊んでいるかの如く最後尾からエキドナ達を追いかけている。おそらく今は手加減しているだけで本気を出せば手前の二人よりは早く動けるのだろう。

そう考えながらエキドナは冷静に、諭すようにリアムへ手を向け言葉を続けた。


「いい? 貴方はただ走って守衛を呼んでくるだけ。要は使いっ走り」


次に向けた手を自身の胸に置いて宣言する。


「そして私は大嫌いな男共相手に鬼ごっこするだけだよ」


「だけどそれじゃ…」


「それに貴方ならちゃんと覚えてるでしょ? 守衛の配置や守衛室の場所! ……私は全く覚えてない」


「ッ…!!」


気不味そうに述べた最後の一言が効いたらしい。絶句し『お前マジか』みたいな蔑んだ目で見つめるリアムに、エキドナは笑って背中を押した。


「という訳でよろしく!」


「それくらい覚えろこの鳥頭!!」


「ひどい!!」


その場で立ち止まるエキドナにリアムが声を張り上げる。


「すぐ人を呼ぶ! だからドナも早く切り上げて逃げろッ 深入りだけは絶対するな!!」


リアムの足音が遠ざかるのにつれて侵入者達の足音が近付く。


(まず一人目)


ダガー片手に近付く巨体の男へ地を蹴り一気に近付く。


「退けこのクソガキ!!!」


勢いのまま刃物を振り上げる男にエキドナは身体ごと逸らして斬撃を流した。そこから膝を曲げ体勢を低くし……


「イ"ッ…!?」


相手の脛目掛け思い切り蹴り上げるのだった。


「〜〜!!!」


痛みで体勢を崩した男にエキドナは淡々と追撃する。軽い足取りで男の身体を踏んで登りさらに自身の両足で相手の首を容赦なく締め上げ勢いよくぶん投げた。

"フランケンシュタイナー" ……プロレス技の一種だ。

技が技なのでリアムやフィンレーはもちろん父親にさえ『女の子だから絶対やるな』と全力で止められた禁じ手である。

体格差ゆえ流石に投げ飛ばせなかったが十分威力はあったのだろう、グッタリした様子で伸びている。その隙にエキドナは安全のため男が手放したダガーナイフを人気が無さそうな遠くへ向かって蹴り飛ばした。


(二人目)


「嘘だろこのアマ…!?」


一部始終を目撃した痩せ型の男が慌てたままリアムからエキドナへと向きを変え迫ってくる。

ヒュンっヒュンっと刃物を振り回すが慣れていないらしい、手付きが完全に素人だ。攻撃を避けつつダガーを持った腕を極めさらに小手返しで手首の関節を極める。


「いでででででで!!!」


あまりの痛みで悶絶し男が手からナイフを離したところでそのまま顔に数発膝蹴りをお見舞いするのだった。



「ぅゔ…ふざ、けんじゃねーぞゴラァ!!」


鼻血を出した男のダガーを手の届かない場所へ蹴り飛ばしたところで一人目の男がもう復活したらしく、怒声を上げエキドナへ突撃してきた。

エキドナは臆する事なくその場で高くジャンプして攻撃を避ける。飛んだ勢いそのままに肥満の男の頭を踏み台にしてまた跳ねながら……同時に隠しポケットから双剣を取り出した。そして迷いなく男の背中を斬りつける。


「ぎゃあ!!」


「下手に、動くと…失血死するよ?」


悲鳴を上げる男にそれだけ言うと、エキドナは温度の無い目で相手の脳天を狙って踵落としをするのだった。

男二人が失神した事であたりはまたシンと静まり返る。




「ほォ〜!! これはこれは…珍しいもんが見れたなァ」




けれどすぐさま場違いなほど間延びした声とエキドナを賞賛する軽い拍手が一帯に異様に響いた。

もちろんその声の主はリーダーらしき帽子の男だ。


(三人目…)


警戒しているエキドナに対して男は実に愉しげだ。本気で関心したらしく顎に手を添えうんうん頷いている。


「護身術くらい習ってるたァ思っていたが最近のお嬢サマは随分勇ましいんだなァ。真剣使うのもお手の物ってか!」


その特徴的な話し方を聞き流しながらエキドナは双剣を構え直す。


「あんた達の目的は…」


「せっかく嬢ちゃんが真面目にやってんだ……俺もこォんな借り物じゃなくて真面目に相手してやんなきゃなァ」


エキドナの声を遮って男はダガーをなんて事なしに投げ捨てた。

そして腰に下げていたものを取り出す。

それは二本の小さなナイフだった。

つまり二刀流、エキドナと同じ戦闘スタイルらしい。用心深く相手を見据えるエキドナに対して男がニヤッと笑う。


「せいぜい愉しませてくれよォ?」





__そこからは激しい攻防戦だった。



キィンガキィンッ



風を切り金属音が鳴り響く。

切り込み躱し時には蹴りなどの打撃を交えながら、エキドナと男は互いに動きを止めない。


「っ…!!」


「よく避けられてんじゃねェか。でもいつまで保つんだろうなァ」


忙しく鉄の音が鳴る最中、エキドナは劣勢に立たされていた。

どれだけ時間が経過したかはわからない。

否、たった数分…数十秒くらいしか経っていないかもしれない。

それくらい神経を研ぎ澄まさなければ殺られる戦いだった。

剣身をぶつけ合いお互いの動きが止まる。一人は余裕綽々と、もう一人は息を切らしてギリギリの状態だ。


「手、震えてるぜ」


「!」


男の指摘に反応するかの如く小さな手がまた小刻みに震えた。


「一番勢いがあったのは最初の斬撃だけだったなァ。オマエさん、血を見てビビっちまったんだろォ?」


エキドナが剣を弾き、カァン!と高い音が鳴ったのを皮切りにまた素早い攻防が再開する。


「人を斬るのは初めてだったかい」


鉄同士が激しく打つかり合う中で男が嘲笑うように問い掛けた。


「なァどうだった? 人間の肉や皮膚が裂ける感触は。今感じる思いは戸惑いか? それとも恐怖かァ?? ……だからかねェ、その後の攻撃はみィ〜んなどこか遠慮してるぜ。ギリギリのところでブレーキをかけてやがる」


また互いの距離が離れまた急接近する。


「ったく失礼なもんだ…。殺す覚悟がねェなら、最初から出しゃばんなクソガキィィィィ!!!」


凄まじいせめぎあいでポツリと不機嫌そうな声が聞こえたかと思えばいきなり罵声を浴びせられ、直後に腹へ強烈な蹴りを入れられ飛ばされるのだった。


「ガハっ…!!」


派手に飛ばされたエキドナは容赦なく地面へと叩きつけられる。

勢いで双剣も手から離れてしまい一つは男の足元に、もう片方は遠くへ飛んだのか姿が見当たらない。


「ゴホゴホッ ゔぇっ…」


むせ込む様子を眺めながら男は造作なく足元に転がる短剣を拾った。その剣は宝石で飾られ繊細な細工が施されている。


「……」


(軽りィな)


あまりの手応えの無さに男はさらに興醒めする。

けれどエキドナはそれどころではなく肋骨に手を当て悶えていた。


「い"ッ…」


(あの反応、アバラやったか…。どんだけ武術叩き込まれても所詮華奢なお姫様かい。あ"ァ〜〜つまんね)


心底呆れながら男は自身のナイフと拾った短剣を腰に収めてエキドナへ一歩、また一歩と近付く。

エキドナはこちらの動きに気付いていないらしく未だ身体を丸めて震え、咳き込んでいる。

煩わしそうな顔で男はエキドナの目の前まで身体を屈めて覗き込むのだった。


「おい、これくらいで死にかけてんじゃねェぞ…。!!」


伸ばした手をガッと掴まれ男が反応する。

すると眼下に迫るのは……一つの懐中時計だ。


「うォッ!?」


避けようとするが距離が近すぎて間に合わず眉間に思い切り当たった。


「痛てェェ!!」


同時に右足へ強烈な痛みが走り悲鳴を上げる。攻撃を受け一瞬意識を飛ばした間にエキドナは短剣を奪い足元を切りつけたのだ。


(もう少し、時間を稼ぎたかったけど…このままじゃ不味い)


相手が弱ったこの一瞬を無駄にせずエキドナは校舎の方へと駆け出した。


(逃げる!!!)


「……あァ、そうかい」


エキドナの動きに男もすぐさま思考を切り替え走り出した。

そして男は先ほどまでの彼女の行動を振り返る。


(あん時わざと後ろへ飛んで蹴りのダメージを最小限に…だから手応え無かったのかい。そして大袈裟にやられたフリをして俺を誘い込んだ。身体を庇い丸め込む動作をしながら時計を準備し、こっちが油断した一瞬を狙ったんだ)


本来なら足の速さがメンバー内最速のエキドナだ。男との間にはどんどん距離が広がっていた。

すると男は感嘆したように叫ぶ。


「邪魔が入るのも時間の問題…上手いことやったじゃねェか、嬢ちゃん!!」


男の声に振り返りもせずエキドナは走り続ける。


(あと少しで建物内…リー様がその辺うろついてる守衛見つけて増援頼んで、守衛室に着いた頃かもしれない)


無視を続けるエキドナに対して男は変わらず足を引きずりながら追いかけ叫び続けていた。


「俺は足切られちまったから全力で走れねェしよォ〜。このまま逃げ切れるかもなァ!!」


……誘拐が失敗したにも関わらず明るい調子の男にエキドナは内心底知れぬ不気味さを感じた。

ついに男は追いかけるのをやめ立ち止まったけれど、フッと怪しく笑い再び口を開ける。


「残念だったなァ」


__僅か一瞬の出来事だった。

前触れもなくいきなりエキドナの前から人影が現れたのだ。


「え…」


ガン!!! と耳元で大きな音が響くと同時に頭へ強い衝撃が加わり、視界がグニャリと歪む。

全身から力が抜け落ちてエキドナはその場から崩れ落ちた。身体から汗が伝い自然と呼吸が荒くなる。

何が起こったのかわからないまま後方からまた……徐々に暗くなっていく視界の中から、嘲笑うような声が聞こえたのだった。


「もう一人居たんだわ、仲間」


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