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竹蓖返し


________***


「い、『印象操作』…って何?」


「えぇ〜とね、その、」


『断罪イベント』及びミア虐めの本当の主犯であるアデライン・デイヴィスを辛くも退けてから翌日の放課後にて、エキドナはフィンレー達と共に生徒会室へ集まり改めて詳細を話していた。

疑問符を浮かべるフィンレーに対してエキドナがうまく説明出来ずにいると、知恵を貸すようにリアムが温度のない声で淡々と解説し始める。


「相手に与える情報を取捨選択、或いは恣意的な伝え方をして相手が受け取る印象を制御しようとする事だよ」


「もっと噛み砕いてわかりやすく」


「自分にとって都合の良いように相手に思い込ませる伝え方をして操る事。ゴシップを耳にする事があるでしょ? あのイメージだね」


「えぇ!? 姉さまそんな陰湿な事が出来たのぉ!?」


姉がやった事を理解しフィンレーは素っ頓狂な声を上げるけれど、一国の王子をまるでS○ri扱いしたその姿に周囲の男子ズはとてもソワソワしていた。


「…今のやり取りを突っ込んだらダメか?」


「こいつらに突っ込み入れたら底なし沼っすよクラーク先生」注:ツッコミ担当


「リアムも普段からフィンやドナを揶揄ってますし、微笑ましく見守るのを勧めます」注:元ツッコミ担当


クラークの質問に対して机に片肘を付いたフランシスが気怠そうに答え、さらにイーサンも苦笑混じりで淑やかに返答する。


「いやもちろん普段はしないよ!? ただあの時はそれくらいしか対応策が浮かばなくてね…」


一方渦中の人であるエキドナは弟の引き気味な反応に慌てた様子で釈明するのだった。


「咄嗟の判断でよく思い付いたな」


「そんな事が出来るなんて少し意外ですわ」


「それな!」


イーサンとステラ、そしてミアの言葉にエキドナは軽く俯き視線を外しながら言葉を付け足すが、その口調はえらく歯切れ悪そうなものだ。


「…まぁ、知り合いにそういう小細工得意な人が居たんですよ」


「知り合い?」


「はい」


反芻するイーサンに頷きながらエキドナは懐かしそうに……そしてどこか呆れた色を浮かべて金の目を細める。


「しかも何が恐ろしいって、その人は生存本能でほぼ無自覚にやってたんです」


前世で一番近しかった異性。

そんな彼の姿や立ち振る舞いを想起すればするほどエキドナの口は自然に回った。


「自分は純粋無垢で "きれい" な存在だと思わせて目上の人達を都合の良いように誘導したり、もしくは…まぁ、身近な相手を自分より悪く見せる事で優位に立とうとしたり。だから私よりずっと違和感なくて上手でした」


(その件で長年とばっちり食らってたのを後から学んで知ったというか…でもあいつの事情を知ってるからこそ無闇に責められないというか…)


むかしの事を思い返して少しもやもやした気持ちを持て余す。

するとリアムが素朴な疑問という風に声を掛けた。


「そんな人間が身近に居るなんて知らなかったよ。誰なの?」


問い掛けにエキドナは曖昧に笑って誤魔化しつつ密かに吐露するのだった。


「秘密」


(前世の、私のお兄ちゃんだよ)


「そーいやこないだドナと殺り合ってた『ディ……? は反撃して来ねーなッ!!」


「デイヴィス様ですぞニール」


名前をよく覚えていないニールに見かねたセレスティアが突っ込みを入れる。

清々しく話をぶった斬った彼の一言で皆の話題はエキドナの昔話からアデラインの今後の動きへと移っていった。


なおクラークによると今回の一件で非を認め反省している様子の断罪パーティーには無関係な生徒達を巻き込んだ罰として反省文の提出を、さらに後日エキドナ同様に聞き取りのため教員から呼び出されたアデラインには『あくまで生徒同士の会話中に起こった些細なトラブル』との双方の訴えにより問題視されず軽い口頭注意のみで終わったそうだ。


「なんでも武術に変換してんじゃねぇよこの脳筋! …まぁ、リアム王子サマ直々に釘刺されたら流石にもう動けねぇだろ」


そう言ってフランシスは含んだ笑みを浮かべながらチラリとリアムの方へ視線を向け、エブリンもにこやかに手を合わせて片割れの意見に賛同するのだった。


「彼女の父親にあたるデイヴィス公爵様からの動きも無いわね♡ 『この話はこれでおしまい!』で良いんじゃないかしら?」


「え〜! 僕はまだ目を光らせてた方がいいと思うけどなぁ」


「私もフィンと同じ派〜」


「なんだなんだッ!? 今度は姉弟(きょうだい)同士でバトルすんのかッ!!?」


「「「「しません」」」」



……あーだこーだとみんなで意見を交わしつつ警戒していたが、そんなエキドナ達とは裏腹にアデラインは本当に静かだった。


あの一件から彼女は直接攻撃をしたり陰口を叩いたりする事もなく、むしろ長年続いた定期的な嫌がらせの手紙と贈り物さえぱったり止んだ。


「良かったですねお嬢様」


「うん…そうだね」


嬉しそうに笑うエミリーにエキドナも微笑み返す。

本来なら手放しで喜ぶべき事なのだろう。

けれどエキドナには何故か、嵐の前の静けさのような不気味な "何か" の前兆に思えたのだ…。


(でも攻撃されてる訳じゃないし、考え過ぎかな。ただ、そもそもなんで『断罪イベント』が発生したかも謎のままなんだよなぁ…)


あれからさらに一週間経過したもののアデラインから不審な動きは無く、エキドナは今後の対応について逆に考えあぐねていた。


「ドナ〜また考え込んでるのぉ?」


「ミア…」


アデラインの件で悩んでいたエキドナの前にミアがぴょこんと顔を出す。

現在エキドナはミアと二人で生徒会の書類を渡しにクラークの研究室まで歩いているのだ。


「ちょこっとだけど眉間にしわ寄ってたわよ?」


「え、マジか」


「マジよ」


指先で軽く突かれたため咄嗟に守るように自身の手で眉のあたりを覆う。

そんなエキドナにミアはケラケラ笑いながら指の向きを変えて再度つつき始めた。


「隙あり! えいっ えいっ♡」


「わっ、ちょっと!? 脇腹はダメだって…!」


容赦なくズブッ ズブッ!! と脇腹を刺されてエキドナが小さく悲鳴を上げる。

薄々勘づいていたがこの美少女ヒロイン、超絶可愛いのに割とドSな面があるのだ。


「待て待て〜♡」


「ストップ…ストップぅ!! 随分上機嫌だねどしたのっ!?」


書類片手に逃げ回るエキドナの言葉で嬉々として攻撃の手を止めなかったミアの動きが止まった。

かと思って振り返ると、ヒロインがこちらを見つめとろけるような極上の笑みを浮かべる。


「あはっ☆ わかる? ほら明日学園休みでしょ? だから実家に帰って遊ぶ約束をしてるの〜♡♡」


「ッ…!!」


(発光!? 発光してる!!?)


ぱあああぁ…!! と光り輝き止まるところを知らないヒロインの魅力に当てられたエキドナは同性でノンケなのに何故かドキドキしてしまうのだった。

なんというかこう、キラキラ愛されオーラが半端ないのだ。


「へ、ヘェ〜ヨカッタネ…!」


絞り出すように簡潔に答えたエキドナは赤面したまま目を逸らし、書類をギュッと抱きしめる。


(ミアって最近頻繁に街へ遊びに行ってるよな…楽しそうで可愛い尊い公式ありがとう。ヒロインマジパネェ…!!)

注:可愛い顔に弱い面食い


圧倒的ヒロイン力を前に屈しつつも普段の冷静さを取り戻すべく、その場で数回深呼吸を繰り返して愛すべき弟妹達や友人達の名を呟き始めた。


(フィン)の方が可愛い、(アンジェ)の方が可愛い、お母様の方が可愛い、ステラの方が…」


「何急にブツブツ独り言言ってんのよこっわ!! …て、あぁ!? ドナ、紙がっ」


「えっ? …あ"」


ミアの声に気付き、慌てて手や腕に込めていた力を緩めるも時すでに遅し。

見るとクラークに手渡すはずの書類達は思い切り抱き潰したことでぐしゃぐしゃになってしまったのである。


その後エキドナはクラークから雷を落とされ、さらに『ヒロインが可愛すぎたんですよ貴方も一度見たら惚れますからね!!?』とつい反論してしまったがために不毛な言い争いが勃発したことは言うまでもない。



________***


__それから二日後の夜、エキドナは自室でのんびり寛いでいた。


「は〜、明日は学校かぁ。休みの日って時間が早いよねぇ」


「お嬢様…あの、本日は主にセレスティア様のお部屋で過ごされていましたが一体何を…?」


「そんな恐る恐る聞かなくても。ただティア氏の趣味に付き合ってただけで、」


コンコンコン


そばで仕えているエミリーと雑談していると出入り口の扉から性急そうな音が響く。


「?」


(ほとんどノックされる事なんてないのに…誰だろう)


不思議に思い首を傾げていたらエミリーが素早く扉の方へ向かい対応し始める。

すると不審者では無かったらしくエミリーはガチャリと扉を開けた。

距離があるためよく見えないが身なりからして誰かの侍女らしい。



…………いや、


彼女のお仕着せには既視感があった。



(あのデザイン、ミアのところの…?)


嫌な予感がして近寄るとエキドナの存在に気付いたらしい来訪者が慌てて頭を下げた。

やはり、相手はミアの専属侍女だった。


「こ、こここのような夜更けに申し訳ありませんっ…! わ、わたくしはミア・フローレンス様の専属侍女をしている者でございます」


「あぁ、何度かお会いしましたね。突然どうされたのですか? 私に何か?」


「はっはい!!」


不安や急りがない交ぜになっている侍女の様子に胸のざわつきがどんどん増していくのを感じた。

エミリーも何かを察したのだろう、静かに扉を閉める。

すると侍女は顔を上げ今にも泣き出しそうな表情で口を開くのだった。


「お嬢様が……どこにもいらっしゃらないのです!!」


「「!?」」


エキドナとエミリーは驚きのあまり言葉を失う。

けれどすぐさま落ち着きを取り戻してそのまま急ぎ侍女を客間まで案内した後で詳細な話を聞いた。


侍女曰くミアは昨日から実家のフローレンス男爵邸へ帰宅して過ごし、そして今日の日中に誰かと遊ぶ予定を建てていたらしい。

いつも通りなら今日の夕方頃には屋敷を出て学生寮へ戻っていたはずなのだが……街まで送り届けたのを最後に、忽然と姿を消してしまったのだ。


たまに街で誰かと遊んでいる事は侍女も、そして男爵家の人間もかなり前から知っていた。

相手がどこの誰なのか尋ねた事はあるもののミアは決して教えなかったそうだ。

けれど本人はいつも楽しそうに笑っていたし、従者が馬車で迎えに行く時間に多少遅れる場合があっても、ちゃんと日が暮れる前には帰っていたから敢えて誰も干渉しなかった。


そんな娘が…どれだけ待っても迎えの場所へ帰って来ない。


いきなり訪れた娘の失踪事件に、フローレンス男爵家は今大混乱に陥っていたのだ。


ミアの立場や容姿から、誘拐も視野に入れて秘密裏に男爵夫妻が探し始めているらしくその一環で侍女はミアと交友があるエキドナ達から情報を集めているそうである。


ドッッックン


(ミア…貴女は今、どこに居るの…!?)


一瞬最悪の光景が目に浮かびエキドナは息が詰まって身体が強張る。

震える手でスカートの生地をギュッと握り締めた。


けれどミアの家族さえ知り得ない情報をエキドナが持っているはずもなく……居なくなったミアが感じているだろう恐怖やミアの家族の心中を察して無力感を抱きながら、侍女へ今知っているだけの情報を話すしか出来ないのであった。


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