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候補達


第七の選択肢、『隠しキャラルート』。


(ティア氏もよくわかってない隠しキャラ…でもあり得なくはない)


女子会から翌日の昼休憩時間にて、エキドナはいつものメンバーと食堂で紅茶片手に談笑しつつ考え込んでいた。



セレスティアは前世で乙女ゲーム『乙女に恋は欠かせません!〜7人のシュヴァリエ〜』…略して『乙恋』をプレイしていたが、全てのルートを把握しておらず隠しキャラの正体も依然謎のまま。

だがしかし、このゲームの隠しキャラが登場するには発動条件というものがあるらしいのだ。それはズバリ "隠しキャラ以外の攻略キャラ全員と接点を持つ事"。


(つまり、ミアが攻略キャラ六人全員と接触して交流を深めた現段階で登場するイケメン…そいつが隠しキャラだ)


そこでエキドナは隠しキャラがどこの馬の骨かを探るべく慎重にミアの身辺を観察する事で……疑いが強い人物を二人、見つけ出したのだ。


バサァ!!


「ミアさん! 相変わらず美しく…いや日を追うごとに美しさが増しているようだ!!」


(さっそく出たな隠しキャラ候補)


各々会話を楽しんでいる最中、突然高らかな声と共にミアの目の前には大きな花束が出現した。


「ス…スタン君、こんにちは〜…」


当のミアは少し引き気味だ。

けれど大量の花を差し出してきた男、スタンが周囲の目も気にせずその場で跪きミアの手を取りマシンガンの如く口説き始めた。


「こんにちは!! あぁ、困ったな。この鮮やかな花々も君を前にすると色褪せて見える…きっとミアさんのあまりの美しさに萎縮してしまったのだな」


「や、やだ〜。そんな事…」


「だが君の引き立て役になれるのなら花もきっと光栄だろう。そして俺はそんな麗しのミアさんにすっかり夢中なんだ」


困惑しているミアに構わずスタンは頬を染めうっとりと甘く見つめ、ますます興奮気味に捲し立てる。


「この学園生活だって入学当初は勉学とコネ作りが本命だったのに、いつの間にか君の顔を見るのが楽しみで通い始める自分が居て…。流石我が学園のアイドル!! いいやもはや女神ッ!! この学園に来て良かったー!!! バンザァァァイ「時間でーす」


限界オタク的なヤバい空気を感じたため、エキドナはイベントスタッフばりの淡々とした対応でヒロインを回収して自身の背中へ隠すのだった。

しかし愛しい最推しを取られたスタンはめげもせずエキドナを不満そうに睨む。


「おや? 人の愛の告白を邪魔するとはいい度胸だな、エキドナ・オルティス侯爵令嬢殿?」


「貴方が人目を気にしなさすぎです。ミアが引いてましたよ? スタン・エドワーズ公爵令息様」


そんな彼の視線に怯まずエキドナは営業向けな笑みで対応しながら…目の前の人物を改めて見つめる。


スタン・エドワーズ


黄緑色の目と同じ色のサラサラした髪を持つエドワーズ公爵家の跡取り息子であり、キリッとした感じのインテリ風イケメンだ。彼の家は我が国、ウェルストル王国でも古株の家で過去に王族が嫁いだ事もある名家で…つまりリアムやイーサンとは遠い血縁関係にあたる。


「……」


(あ、やっぱりリー様気配消してる)


チラリと後方を伺うとリアムは見事なほど完璧に気配を消しており、無音で紅茶を嗜んでいた。貴族社会で王族を除けば最上位の家格、公爵家の生まれであるスタンはフランシス同様に昔からある程度交流があるそうだ。

けれどどうもリアムはミア絡みの奇行が目立つ彼の相手をするのが面倒らしく極力関わらないでいるのだ。


「っ…」


なおイーサンは別段意識してスタンを避けていないらしいが、今回はリアムを気遣ってか静かにしている。ちょっとソワソワしてるけど。


「まったく、我が学園の花を独り占めしてあんな事やこんな事をするなどなんて羨まし…! いやけしからんッ……これも違うか」


「大丈夫ですか? 色々誤解している上に思考がパニックになってません??」


エキドナの突っ込みに対し「俺とした事が取り乱した…」などとそっぽを向きぶつぶつ呟き始める。そんな彼が指で押し上げているのは……白いフレームが特徴のメガネだ。

そう、彼はメガネ男子。

公爵家の跡取り息子という攻略キャラにはまだ無い肩書きに加えて『ニールルート』の悪役令嬢、セレスティアを除けば貴重なメガネキャラだから隠しキャラ疑いが強まったのだ。同時にエキドナはかつてセレスティアに言われたとある一言を思い出していた。


『乙ゲーの隠しキャラは大体トリッキーと言いますか、個性派なキャラが多いでござる』


(こいつじゃん。ゴリ押しな個性しかないですやん)


『あと何かでかい事をしでかすタイプでもありますな』


(やっぱりこいつじゃん。かつてヒロインの取り巻きだった親衛隊(ファンクラブ)のメンバーと隠れてミアの追っかけをしていた人達を統制して新たに愛好会(ファンクラブ)を創った第一人者だし)


考えをまとめつつ静観していると向こうも頭と感情の整理が出来たらしく、わざとらしい咳払いをしてからエキドナを指差し宣言する。


「とにかくっ ミアさんは存在そのものが天からの恵みッ! 恩恵!! 君一人で独占するのではなくみんなで分け与えるべきだ!!」


「……」


スタンの意見…というか持論に対してエキドナは瞼を閉じ両腕を前で組む。

そして目を開いたかと思えば流し目で宣言するのだった。


「だが断る」


「ナニッ!?」


「ドナ氏ドナ氏、絶対その台詞を言いたかっただけでありましょうぞ?」


エキドナの拒絶の言葉に聞き覚えがあったセレスティアは反射的に突っ込む。

エキドナはセレスティアの方を向き、指先で口元に触れながらニヤリと笑った。


「バレた?」


「クッ…あくまで俺と敵対する立場を取ったという事だなッ よかろう!! なら今から貴様にはこの手袋を…!」


「まぁまぁ、落ち着けってスタン」

「そうだよ〜! ミアさんも困ってるし」


まだ戦う気だった様子で決闘の象徴らしい白い手袋をどこからか取り出したスタンに彼の友人らしき人物達がスタンを宥めて仲裁に入る。


(え〜っと、あの人は確かモリス侯爵の御子息でもう一人は……誰だっけ?)


「ヴィンセント! ケイレブ!」


物忘れで苦戦しているところにタイミング良くスタンが名前を呼んだ事でちょっとだけ思い出す。彼がいつも二人の友人を伴って行動しているのを隠しキャラ疑いの観察している過程で知ったのだ。


「さっきはすまなかったな、ミアさん」


「ううん! 助けてくれてありがとう」


エキドナ越しに黒髪の男が遠慮気味に謝罪し、ひょこっと顔を出したミアが笑顔でお礼を言う。

彼はスタンに声を掛けた友人の一人、ヴィンセント・モリスという黒く長い前髪で目元を覆っているのが特徴の男子だ。その風貌からセレスティアとこっそり『ギャルゲーの主人公』と呼んでいる。

なおスタンの場合、最近の言動によりエキドナ達を含め周囲の人間から『発狂したメガネ』と影で囁かれていた。


「スタンも悪気は無かったから許してあげて〜」


「もちろんよ!」


「おうケイレブッ オマエ久しぶりじゃねーかッ!!」


「あ、ニールだ! 相変わらず元気そうだね〜」


「ケイレブ君こんにちは〜」


「フィンレー君! この間はノートを貸してくれてありがとう♪」


「いえいえ〜♪」


そして現在ミアに始まりニールやフィンレーとにこやかなやり取りをしているのがスタンの二人目の友人、ケイレブ…………苗字なんだったっけ、どっかで聞いた事があるはずなんだけど…家は伯爵あたりだった気がする。

赤みがかった茶色の目とくせっ毛が特徴でセレスティアとこっそり『ワンコ系男子』と呼んでいた。

思い返しながらエキドナは未だ談笑するケイレブの方をじっと見つめる。


(ティア氏曰くもじもじオドオドしている素振りによって可愛らしい "雰囲気がある" …そうだ)


__いや、うちの弟の方が可愛いけど。


(やや癖のあるふわっとした髪がワンコっぽいとか)


__いや、うちの弟の方がデカく育ったポメラニアン感あって愛らしいんだけど。


(ついでに『話しやすくて可愛い』と一部の女子生徒から人気があるらしい)


__いやうちの弟の方が明らかに天使ですけど!! ←


そんな事を考えていたら視線に気付いたのか赤茶の瞳がこちらに向いて…刹那、相手の顔が強ばり肩がビクッと弾む。


「ヒッ!! す、すみません!」


何度も頭を下げたかと思えば素早くスタンとヴィンセントの後ろに隠れるのだった。以前から(フィンレー)と仲が良いらしい割に(エキドナ)の事は怖がっているらしい。


(あらら〜対抗心が態度に出ちゃったかな…なんか申し訳ないねぇ、フィンのお友達)


「オルティス嬢! 我が友ケイレブをガン付けるとは良い度胸だな!!」


心の中で謝罪しているとやり取りが目に付いたらしくスタンに再び絡まれる。


「睨んでません。目が合っただけです」


「我らの女神ミアさんをかどわかしただけでなくケイレブにまで手を出すとは…! やはり貴様を野放しには出来ん!! ここは俺が」


「……」


猪突猛進(ちょとつもうしん)なメガネによって再び暴走しそうだったため適当にあしらうべく、エキドナが軽く臨戦態勢に入った…その時だった。


「まぁまぁ、わざとじゃないんで見逃してやって下さいよ。エドワーズ公爵家の御子息殿」


賑やかなな空間の中で、その声がやけに明快に響く。聞き慣れた低い声にエキドナの動きは止まり、内心『マジか』と呟いた。


(まさかこのタイミングでやって来るなんて…!)


カツカツと後方から足音が聞こえる。

…ヤツは二学期に入った途端、生徒会を頻繁に出入りするようになった。

それもそのはず。ニール同様に受けていた騎士志願者の特別訓練、さらに家業の武術関係でずっと業務に来られなかっただけで "議長" という役職は健在なのだから。

ポン、とエキドナの肩が跳ねるのも構わず、鷲色(わしいろ)の髪を持つ男は頭に大きな手を置き快活な笑みを浮かべる。

目鼻立ちがはっきりした顔。その釣り上がり気味の目にはめ込まれているのは強めの黄色…つまり金色。


「俺やこいつ……ホークアイの血筋はみんな目力が強いんで」


そう、彼の名はギャビン・ホークアイ。

もう一人の隠しキャラ候補であり、武闘派一族ホークアイ伯爵家の跡取り息子。

そしてエキドナの従兄(いとこ)である。


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