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隠された選択肢


________***


暑い夏と夏季休暇が終わり二学期へと突入した。

セレスティア曰く、乙女ゲームの世界ではヒロインは転入から今年の三年生の卒業パーティまでの約九ヶ月間で攻略キャラを落とさなければいけないらしいのだが…


「どうです? 最近仕入れた生地なんですけどこの『シュガーピンク』って色可愛くないですか!?」


「確かに可愛いらしいですわ」


「でも色合い的にミアしか着こなせないじゃない。ジェンナ達への当て付けかしら」


「同感です♪」


現在ヒロインは悪役令嬢達(エキドナたち)に営業中だ。

ステラがサロンを手配しジェンナはわざわざ取り巻き達と別かれ、部屋にはミアが用意したサンプル用の小さな布切れが整列されている。

皆で予定を合わせて女子会を開いているのだ。


「いえいえそんな〜♡ でも工夫次第だと思いますよ? 色合いが大人っぽいですし…」


「それは言えるかも。ステラだったら髪色とのコントラストが映えて "きれい" に決まりそう」


「あら、ドナったらお上手ですねぇ♪」


ちゃっかりノリノリでエキドナも加わる。

自身が着飾るのはともかく他者(ひと)を着飾るのは割と好きである。(注:美術分野が得意な人)


「ジェンナはどうなの!?」


「ジェンナはね〜髪色的に…オリーブとかディープブルーとか…」


「もっと可愛い色がいいわ!」


「じゃあマスタードかテラコッタ?」


「何故一気に黄系統なのよッ!!」


リクエストに応えるべく、エキドナは小さな生地を摘んでジェンナの前に掲げ見比べたがお気に召さなかったらしい。


「『マスタード』…ムムム、お腹空いてきましたぞ!!」


「ステラ様が用意したお菓子食べる? すっごく美味しいわ♡」


「ぜひとも頂くであります!」


花より団子で小腹を空かせたセレスティアにエブリンが茶菓子を勧めている。


「お口に合って良かったです♪ 以前サン様に教えて頂いたもので…」


「えー! 王族御用達とかどこのお菓子ですか!? あたしも試食したいです!!」


「ジェンナの生地選びを手伝いなさいよ!!」


転入から今に至るまでいろんな事があったけど、みんなすっかり打ち解けていた。

ミアは "元平民" の立ち位置を逆手に取って家業の手伝いに勤しんでいるらしい。

そしてステラやジェンナなど知人・友人伝えで商品を宣伝する手法を取り始めたのだ。


『最近ね、自分の立場をちょっと開き直れるようになったの。仲良くしてくれる子は友達として大事にするし…残りの女は男爵家(うち)の商品を宣伝をしまくって金ヅルにしてやるわ! 顧客確保よ!!』


だそうな。逞しいなぁ。

ヒロインのミアと悪役令嬢達(わたしたち)の関係性も大幅に変わり、ゲームのシナリオとは明らかに違う路線へ突き進んでいるからこちらの破滅フラグは回避出来たように見えるが……エキドナはセレスティアと共に今後の展開を警戒している。


何故なら前に軽いノリで好きな人の有無を聞いた時、ミアは…



『え? あははっ居るよ〜♡』



頬を染めガチオタが発狂しそうなくらい可愛い笑顔で言ってのけたのだ!!!


つまり、だ。

いつの間にかミアの恋愛フラグ…誰かとの恋愛ルートがすでに出来上がっているはずなのである。


「せっかくですしドナに似合いそうな色も選びましょうか…よく着ている寒色系も似合いますがボールドレッドも良いですね。華やかですわ♡」


「ブライトグリーンも着こなせそうね」


「強めのオレンジも善きですぞ」


「ショッキングピンク♡♡」


「ゴールド似合いそう!!」


「なんでみんなが選ぶ色全部派手なの!?」


ステラ達とのやり取りを楽しみしつつ…エキドナは脳内でミアと攻略キャラ達の現状について再確認し始めるのだった。




〜〜〜〜〜〜


__改めて情報を整理しよう。


まず一番無難だと思われた "クラークルート" はミアの『あたしも別にクラーク先生と付き合いたいとかじゃないわよ?』発言でとっくにフラグが折れていたらしい。

なので "クラークルート" の可能性は無し。


"イーサンルート" もまた然りだ。

何故なら前の騒動で『ミアはサン様を盗ろうとしていたのではないそうです』という旨をステラから聞いたのだ。

むしろステラとイーサンの距離が少し縮まった感さえある。

うん、推しカプが良い雰囲気で私もしあわせ。←




あと "フランシスルート" では正直ノリの良い友達っぽい空気があり微妙だ。

念のためフランシスに確認してみたら、


『ミアって明るくて可愛いけどやっぱガード硬てぇんだよな〜。でもそこもまた落とし甲斐が……んだよ、心配するなってドナ♡ 俺は例えミアと付き合ってもカノジョを何十人増やそうともアンタごと全員愛しまくっ…痛てぇッ!!』


『だから何で私も含まれてんだ』


ヤツの肩に迷いなく手刀打ちした事を、私は絶対後悔しない。

なんかあの人、他の男子達と違って(バイオレンス的な意味で)手を出しやすい雰囲気があるんだよなぁ。不思議。

…とりあえず "フランシスルート" は保留にしておこう。




次に "ニールルート" の様子を見てみよう。


『ウッス ミアッ!!』


『ニール イェーイ☆』


『イェーイッ『危ない危なーーいッ!!』


『きゃ!? 急にどうしたのよドナ!』


『よぉドナッ!!』


ミアとニールの間に割り込み妨害したのだ。

二人はただ挨拶代わりに軽いハイタッチをしようとしただけなのだろうが私は知っている。

というか経験した。

ニールの怪力は昔に比べれば多少コントロール出来るようになったが、まだまだ完璧ではない上にランダム制。

前に似たような状況でニールに触れた時に手を犠牲にしたのだ。


『ミア、ニールは軽い打撃でも最悪骨折するからまともに受けたら危ないよ!!?』


『ウッソマジで〜!?』


『俺は鍛えてっからなーッ! 分厚いレンガの壁だって一撃だぜッ!!』


『ヤバ〜!!』


うん、ミアは笑って流してたけどあの時は本当に肝を冷やした。

ヒロインを病院送りにするんじゃないかと別の意味でドキドキした瞬間だった。

今のところ二人は良き友人関係に見えるが…それ以前に攻略キャラの中でお馬鹿フラグクラッシャー故に最高難易度らしい "ニールルート" のフラグが建ってるのか折れてるのか、むしろ発生してるのかさえわからない。

だからこれも他同様に保留だ。



そして最後は "悪役令嬢エキドナ" が参戦する "リアムルート" と "フィンレールート" だ。


"リアムルート" は……どうなんだろう、判断が難しい。

試しに『ミアにドキッとしたりしないの?』って聞いた事がある。

そしたらあの人は、


『……特に何も感じないよ』


淡々と言いながら素っ気なく私から顔を背けた。


何その間ッ!! どういう感情なのこの人!!?


ただ私が感じ取れる範囲ではやはり苦手意識と嫌悪感に近い感情みたいだ。

まぁ昔から完璧主義で潔癖なところがあるし…これはあくまで私の憶測だけどリアムは実母や異母兄、現王妃絡みで複雑な生い立ちをしているから、ミアの複数の男子生徒達との悪い噂が出始めた辺りから何か思うところがあったのかもしれない。


同時にそんなリアムの心中を知ってか知らずか、ミアもリアムとは最低限しか関わらないようにしているようだ。

ミア本人曰く『なんかあの人怖い』らしい。

間違っても険悪とまでは行かないけれど、このメンバーの中で一番ヒロインと距離がある気がする。


……普通ならこの状況を『脈なし』と判断するだろう。

だがしかし、ヤツはゲーム内において天才的な頭脳を持つサイコパスキャラなのだ。


結局何を考えているのか長い付き合いの私でも頭が良すぎて読み取りにくい時がある。

それに、好きの反対は嫌いではなく無関心。

だから例え悪い感情だろうとある意味意識しているのは事実だ。

だからこそフラグが立つ危険性もある。

ひょっとして意識してる反動で…とかの可能性もあるかもだし…う〜〜ん、サイコパスの心理わかんな……いやそもそもあの人ほんとにサイコパスなのかな??

やっぱりよくわからない。


サイコパスうんぬんは置いておくとしても "リアムルート" に入った場合 "ヒロイン殺害ルート" があるため下手に楽観視出来ないだろう。

リアムはなんだかんだ優しいところもあるし常識と分別を持ち合わせているはずなんだけど、いざとなったら手段を選ばず切り捨てる面がある。

以前ミアの保護を申し立てた際、反対して見捨てようとしたのが良い例だ。

だから何かの切っ掛けでヒロイン殺害フラグが勃発する可能性はゼロだと言い切れる自信が無い。


しかも厄介な事に相手は国で最上位の権力者だから、もしミアを殺害しても隠蔽工作だって出来る。

仮に私が武術で応戦してヒロインを守ろうにも手加減なしな実力勝負だと彼にはもう勝てない!

……という訳で、"リアムルート" の進展は謎だけど殺害リスクがあるから気を付けなければと思う。




そして "フィンレールート"。

見た感じは可愛いモノ同士の可愛いオトモダチ感があってとても可愛い。(注:語彙力崩壊)

もし二人が付き合ったらお姉ちゃんはちょっと寂しいが必ず祝福するだろう。

ただ……どうもフィンレーは別にミアに興味がある訳じゃないらしいのだ。

尋ねたら『良い子だと思うけど好きとかじゃない』と断言していた。

あんなにハッキリ言い切っちゃうなんて可愛い顔して容赦ないなぁ…誰に似たんだか。


でもこの子もまたバッドエンドでヒロインを監禁してしまう危険がある。

一応我が家の地下牢の存在は知らないみたいだけど、化学好きと長年のリアムへの対抗心によってすっかり化学に精通しているから毒殺だってあり得る。

だから当分は…とりあえずゲームの世界ではヤンデレキャラだったらしい弟の情緒面を重点的に見守って行こうかな。


なおこれは余談だが、フィンレーに『ミアはどう!? 可愛いとか好きとか思わないの!!?』と質問攻めし過ぎたらしく


『もうっ! 違うって言ってるじゃん!! 姉さましつこい!!!』


とこの前怒られた。

その夜は一人枕を濡らした。


〜〜〜〜〜〜



…以上のようにみんな恋愛フラグが折れていたり保留中だったりと各々違うけど『このルートに入りました!』という決定打も欠いている。

とりあえず今すぐにミアの殺害or監禁ルートが始まる可能性が下がりちょっとだけホッとするものの、疑問やモヤモヤが余計積もるばかりだ。


そこまで思い至りエキドナはハッと気付く。

隠された選択肢が、もう一つ残っているではないか。


(まさか…………『隠しキャラルート』か?)


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