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−α閑話〜その頃、男子達は…〜


第一章前半の改稿作業を始めたのでお知らせします。



________***


時間は少し遡り、まだエキドナがミアと共にジェンナのサポートをしていた頃の男子達はというと。


「「「「「……」」」」」


生徒会室にて男子生徒五人が静かにテーブルを挟んで睨み合う。

そのどこか緊張感漂う光景に違和感を覚えるのは女子生徒の姿が一人も居ない事、そして…


「上がり」


各々カードを持っている事だろう。


「だあああッ!! またかよ!!」


淡々とした宣言でフランシスが悔しそうに叫び、持ち札を乱雑に投げ捨てた。


「リアムお前、何連勝する気なんだ…」


「……」


困惑気味に尋ねるイーサンに対しリアムは無言を貫く。

けれどもその涼しげな目と表情は心底煩わしそうだった。


「あー! 今絶対『みんなが弱いだけでしょ』とか思ったでしょ!? 次っ! 次行きますよ!! 今度こそリアム様をぶっ潰してみせます!!」


「次は何するんだーッ!?」


目ざとく気付いたフィンレーがより対抗心を燃やしニールはウキウキと次の戦いに心躍らせている。

そう、現在男子ズはトランプゲームに興じているのだ。

切っ掛けはフィンレーの些細な一言から始まる。


「姉不足がヤバい…」


「フィン、大丈夫か?」


どんより沈んだ様子で机に突っ伏すフィンレーに心配そうに声を掛けたのはイーサンだ。


「なんかアル中みてぇな反応だな」


「そうなんだよ。定期的に摂らないと手が震えて…ッ」


「乗ってんじゃねぇよ。割とノリ良いよなお前」


フランシスの揶揄いにフィンレーは深刻ぶった顔と手をガタガタ激しく震える芝居を打って返す。

思ったより余裕そうだが…今度はリアムが呆れ気味に意見した。


「相変わらず重症だね。いっそ国外へ長期留学でもして頭を冷やせば良いんじゃない?」


「リアム様に言われたくないです」


その意地悪な言葉にフィンレーはラベンダーの瞳でキッと睨み強気で反論する。

しかし対するリアムはどこ吹く風だ。

全く動じず言葉を返す。


「僕は二週間ほど会わない状況がたまにあるけど平気だよ?」シレっ


「それ定期の嫌がらせで姉さまを怒らせた期間ですよね!? は〜……姉さま、早く帰って来ないかなぁ。姉さまぁ〜…」


リアムと軽い言い合いをしつつもフィンレーの口から出てくるのはやはり姉の名前である。

机に身体を預けたまま、退屈そうに右へ左へうだうだゴロゴロと転がり始めるのだった。

余談だがエキドナとステラの一件に関して、男子達はあくまで静観の態度を貫いていた。

良かれと思って動いた結果ますます事態がこじれる恐れがあるからだ。

また見た限り解決の兆しが見えていたからこそ不要な介入はさけているのだ。


けれどもそんな背景があるとはいえフィンレーのあまりにブレない態度を見た同じく弟ポジションなフランシスは軽く引き、ついリアムに本音を漏らす。


「こいつマジなシスコンなんだな」


「昔からマジなシスコンなんだよ」


そこから『気晴らしに遊ぼうか』とイーサンが提案してトランプが始まった次第である。

だがしかし、先程から大富豪、ポーカー、神経衰弱、ダウト、七並べ…と色々やっているにも関わらずリアムばかりが圧勝していた。


「どうする? ページワンとかどうよ。ほぼ運ゲーだぜ?」


「運じゃなくて実力でリアム様に勝ちたいんだよ!!」


ついでに目的も暇潰しから(主にフィンレーによる)打倒リアムへと変わっているのだった。



あーだこーだと話し合いの末、次のゲームはシンプルにババ抜き対決に決まった。

なお順番はジャンケンで勝ったニールから時計回りにスタートして ①フランシス→②イーサン→③リアム→④フィンレー→⑤ニール→再び①' フランシスへ… とカードを引く事となる。


「やったぜッ!! オレから引い…」


「勝った人が先にカードを引かれるの!! あとみんなまだ捨て終わってないから!」


「結構捨てられるね。ちゃんと混ぜた?」


「ちゃんと混ぜました!」


「マジ? 俺のあんま捨てられなかったわ」


「バラつきがあるみたいだ…サン様??」


一人だけやけに静かなのでフィンレーは不思議に思い紺色の髪の人物をチラリと目視した。


「……!」


手持ちの一枚を凝視して固まり、かと思えば直後にその場で落ち込んでいる。

あまりに正直すぎる反応(リアクション)にフィンレー達は言葉を失うのだった。


(なんてわかりやすい!! ていうか "また" なの!?)


(また引いたのか)


(前やった時も引き当てたよなイーサン様…)




『ババに選ばれババに愛される男』……後のイーサンの異名である。




「俺のにはババねーなッ!!」


「ニール声に出すなや。ゲームぶち壊しじゃねぇか」


こうして各々複雑な思いを抱える中ババ抜きが始まった。

まず最初は一番手、フランシスからである。


(イーサン様のとこにあるってわかると気楽でいいぜ〜♪ 余程の事がなけりゃここまで回って来る心配ねーし)


フラグである。

上機嫌でニールの手札からカードを取った。

が、すぐに顔を顰める。


「……。なかなか揃わねぇな」


どうやらペアが出なかったらしい。

フランシスは手札を8枚所持しているためこのメンバー内で一番かさばっているのだ。



次に二番手のイーサンの番である。

現・ババの所有者たるイーサンは当然迷うはずもなく無言でフランシスからカードを引くものの即座に眉を寄せた。


「む、確かに揃わないな」


「人数多いですもんね〜」



今度は三番手のリアムが引く番だ。

ババを持っているイーサンが緊張気味に手札をリアムの前に出す。


(おっ思い出せ…昔ドナに教えて貰っただろうが!)


想起しながら目の前に居るリアムを見ずにギュッと瞼を閉じた。

ババに好かれては惨敗するイーサンを見兼ねて、以前エキドナからこっそりコツを教えて貰ったのだ。


(確か『身体が固まるなどの反応や仕草、口数、視線、表情を見れば位置が特定出来る』と…。だから今はその逆で何も見ず喋らなければバレ_)


「ババはどこ?」


「へっ!?」


突然の問い掛けに驚き目を見開く。

一瞬『戦略か』と焦るが、リアムの表情は明らかに冷め切っていた。


「お前が持ってたら勝敗が決まってつまらない。寄越せ」


実弟からの身も蓋もない言い方で圧倒されたイーサンは、そのまま「一番右の…」と正直に伝える。

リアムは迷わず自身から一番左側のババを引き取り、手早くをシャッフルし始めるのだった。

リアムの行動に周囲はざわつく。


「ま、まぁ確かにずっとサン様に持たせるのも…ねぇ」


「そうだよな…」


「おもしろそーだなッ!」



その後四番手へと順番が回り、フィンレーがリアム相手に果敢に挑んでいた。


「いざ勝負ですリアム様!」


「ひゅーひゅー! フィンちゃんカッコイ〜☆」


「フラン茶化すな!! あと『ちゃん』付けやめろキモイッ!」


「言い方容赦ねぇな!!」


「フィン! …が、頑張れ〜」


「ありがとうございますサン様〜♪」


「俺との落差ぁ!!」


「ボロ負けしたのかフランッ!!!」


「フランとニールうるさい」


ぎゃーぎゃー騒ぐ中でフィンレーはリアムを正面から見据えて、同時に心の中で焦りを覚える。


(参ったなぁ…ペアにならなかったカードを狙ってたのに、リアム様自らババ受け取っちゃうなんて!! しかもシャッフルしたから場所もわからないし…)


スッ


どうしようか思案していると…なんとリアムは持ち札から一枚、わざとらしく突出させたのだ。


(な、なんて古典的な作戦をーーーッ!!?)


まさかの行動にフィンレーの動揺を隠せず愕然とする。


(ババでしょ? その出てるヤツ絶対ババだよねぇ!!? あんな見え見えの作戦誰でもわかっ)


ここまで考えた刹那、フィンレーはハッとした。



"リアム様があんな低レベルな作戦をするか?"

"カードは6枚。確率は6分の1…"

"考えろ、考えろ"

"あのリアム様だぞ、これは高度な駆け引き"

"今僕は試されている"



(もし引かずに別のカードを引いて…もし、アレがババとは無関係なカードだったとしたら)


『フィンレーはビビりだね』


自身を嘲笑うリアムの黒い顔が容易に思い浮かび、一気に腹が立つ。

同時に腹も括った。


(ええいっ!ここは敢えて…!!)


しゅぱっ


勢いよく手に取りフィンレーはカードを見たッ!




ババだった。




「ッ……!!!!」


あまりの絶望で言葉を失う。


(騙されたぁぁぁ!!!)


「ブハッ! マジか取るかよ普通!!」


終始見守っていたフランシスがフィンレーを指差して笑い転げている。


「ふっ…クっ…考え、すぎ…だろ…ッ」


罠に嵌めたリアムも言葉が途切れ途切れになりながら腹を抱え笑っていた。

考え込んではコロコロ変わるフィンレーの反応を楽しんでいたのだ。


「っ…!」


同じく見守っていたイーサンもフィンレーに申し訳ないと思いながらこっそり笑っている。


「てか顔に出すぎだろ思考回路ダダ漏れじゃねーか!!」


「相変わ、らずッ…わかりやすい、ヤツ…!」


「〜〜!! こんの…!」


未だ爆笑するフランシスとリアムの二人に、フィンレーは悔しがるのだった。



五番手は最後尾のニールである。


ニョキッ


「はいニール!」


「おうッ!」


ニールはカードの中から迷いなく出てるヤツを選ぶ。

そのやり取りは実にスマートだ。


「ウソだろババだったぜッ!!」


「お前の行動の方が『嘘だろ』なんですけど」


「さっきのやり取りを見たら取らないだろ…」


呆れを通り越して慄くフランシスとリアムであった。


「よ、良かったなフィン!」


「ニールがお馬鹿で助かりました!」



そして一周回ったため、順番は再び一番手のフランシスへと戻って来た。


(マジかよもうババ回って来やがった!!)


見事なフラグ回収である。

フランシスは一瞬焦るが、気を取り直して冷静に作戦を立て始めた。


(いや落ち着け俺は出来る男だ。ここはむしろ直球で『これがババか?』って触って相手を揺さぶって…)


ニョキッ!!


「「……」」


ニールはいたって真面目な表情である。

お互いこの学園に入学してからまともに知り合ったため交流が周りより浅く、知っている事よりも知らない事の方が多い。

だがしかし、ここで再認識した真理が一つ。


(そうだ。こいつ馬鹿だった…)


自身を遥かに上回る直球ぶりに度肝を抜かれたが、裏を返せば『単純ゆえに悪巧みする能が無く直球勝負しか出来ない』という事でもある。

そんなニールの性質を即座に理解したフランシスは、安心して頭一つ分出ていない方のカードへ手を伸ばすのだった。

すると、


「オマエ、それでも男かッ?」


「あ?」


突然降ってきた挑発とも取れる言葉に、フランシスはカチンと来て顔を上げる。

そこには汚れを知らないオレンジの瞳が、真っ直ぐフランシスを見つめていた。

……ニールが再び声を張る。


「それでも男なのかッ!!?」注:深い意味など無い。


「!!!」ピシャーーン!!


あまりに真っ直ぐすぎる一言で何故かシンパシーを感じ、フランシスの良心は大きく揺さぶられた。

額に手を当て悶絶し、苦悩し、そして…


(男なら…男ならッ! ここは潔ぎよく!!)


結局ババを引き全力で後悔するのだった。


「チクショォォォッ!!!」


「あははははっ!! 馬鹿だー! フランも馬鹿だ〜!!」


「ッ…!!!」


フランシスの咆哮にフィンレーは足をバタつかせゲラゲラ笑い、リアムもどツボに入ったらしく俯き震えながら机を叩いている。


「はっ…ゥグッ…!」


イーサンはイーサンでフランシスが居ない方へ身体を向け笑いを誤魔化しているが、無論バレバレである。



こうして、


〜イーサンのターン〜


「なっ! フラン、君ってヤツは…!!」


「ほらよどうした。ここは男を見せようぜ」



〜リアムのターン〜


「……」


「オラオラどうした発案者ぁ!!!」


「しっぽ巻いて逃げる気ですか〜!? 王子の癖にダサッ! カッコわる〜!!」



〜フィンレーの…〜


__このように開き直る者や顔が引きつる者、挑発する者、ヤジを飛ばす者、それに悪ノリする者…と外野に熱に押された事で単なるババ抜きのはずが気付けば "わかってる癖にわざとババを引く" という不毛な度胸試しに成り果てるのだった。

日が傾き校内に居る他の生徒達の気配さえ無くなった頃、とうとうイーサンが



「わかった! もうわかったからッ…これ以上争わないでくれぇぇぇ!!!!」



と根負けしてババの自主回収を行うまで、このやり取りがループしたとさ。



結局リアムが一番に上がった。



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