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誰だ


________***


「それでは失礼します。リアム様」


「楽しい時間をありがとうエキドナ。また後日会いましょう」


和やかな空気のままリアムと別れて、部屋の外で待機していたエミリーと共に広い廊下を歩く。

城の外では馬車と従者が待っている頃だろう。


今日は何回目かな…もういいや、なくらいに行われているリアムとの定期お茶会だった。

今回も順調に世間話をして終わった。

話題がそれほど尽きた試しがないので意外にリアムとは相性が良いのかもしれない。


そこまで考え…ピタリと歩みを止める。


「…………」


後ろの振り返り辺りを窺うが、それらしき人影は居ない。

チラリとエミリーに視線を送るもエミリーも残念そうな顔で首を横に振った。


はぁ、と溜息を吐く。


(最近リアム様と別れた後、誰かにつけられてるんだよな…誰だ)


実はここ数回にわたって、リアムとの定期お茶会終了後の馬車まで向かう道のりの中で背後から人の気配を感知していた。


最初は気の所為かと思った。

しかしエキドナは前世からまぁまぁ耳が良く、並みの人よりも小さな音を拾う事が出来たので試しに耳を澄ましながら歩いてみたら…前回かすかな足音を確かに聞き取ったのである。

気の所為ではなく本当に誰かにつけられているのだ。


(しかも足音からして…男)


思わずギリィと歯を噛み締め表情が険しくなる。

女の子相手ならまだ良かった。

状況的にリアムの婚約者の座を狙って突っかかって来たのだろうと予想が出来る。

目的がわかれば対策は幾らでも出来るのだ。

しかし相手が男、それも恐らく同年代の少年なら目的がわからない。


…何の用かは知らないが『背後に男が立っている』状況はエキドナに強烈な不快感をもたらしていた。


これ以上は我慢ならないとエミリーに視線を送りエミリーも頷いて答えた後に、意を決してカツカツ早歩きで廊下を渡る。

背後の人物が慌てたように後をついて行く気配を感じ取った。

エキドナはそのまま角を曲がり…振り返って静止した。


「うわっ!!?」


気配の正体が驚き高いソプラノの声を上げて柔らかな絨毯へ尻餅をつく。


「!!」


「お嬢様! この方はもしかして…ッ!!」


予想外の正体にエキドナは固まりエミリーは動揺を隠せなかった。


「すっすまない! こんな後をつけるようなマネをして…ッ!」


エキドナよりも高いであろう背丈の少年は未だに尻餅をついたまま慌てて弁解している。



サラサラの紺色の髪と紺色の瞳。

何処か見覚えのある端正な顔立ち。

彼が身につけている衣服は一目見ただけでわかるくらいに非常に上質な生地で出来ている。

そして…リアムと同じ王族の証である勲章が胸元で鈍い光を放っていた。

今迄まともに会った事はなかったがそんな特徴を持つ少年はこの国で一人しか存在しない。

エキドナは意外過ぎる人物の登場にやや呆けながら声を出すのであった。



「何故貴方がここに居るんですか…イーサン王子」



そう。

彼はイーサン・イグレシアス。齢九歳。

この国…ウェルストル王国王位継承権第二位の王子で、リアムの兄である。




「あのその…。君と一度話をしてみたくて…」


ゴニョゴニョ言いながらイーサンが恥ずかしそうに俯く。


「……」


(えぇ…私この人との接点全くないんですけど…。あるとするならば)


「…でしたら、リアム様も呼びましょうか?」


言いながら片手をスッとイーサンの前に差し出す。

王族相手に不敬かもしれないが、エキドナがイーサンを見下ろす今のこの状況をどうにかしたいのだ。


「あっありがとう…」


お礼を言いつつイーサンがエキドナの手を握る。

自分より一回り以上大きな手で握られ、差し出した側だが思わずビクッと身体が跳ねた。


「…とっ、ごめんな大丈夫か?」


強く握り過ぎたと勘違いしたのだろうか。

イーサンが慌てて立ち上がりながらエキドナの手を離した。


「…いえ、私の方こそ驚かせてしまい申し訳ございません」


深々と臣下の礼を取る。

リアムは偽の婚約者同士という間柄だから本人から多少の対応の雑さは許されて来た。

だが、イーサンはまた別件。

王族としてきちんと敬意を払わねばならない。


「いやそんな! 俺が勝手に付いて来てただけだから気にするな!」


「こっちこそごめんな!」とイーサンが両手を前に振って慌てて釈明する。


「……」


( "俺" って。さっきからの謝罪の言葉といい、あんまり王族らしくないな…。初対面だけど常に品行方正なリアム様とは随分立ち振る舞いが違うし…見た目といい本当に兄弟なのかこの二人は)


割と失礼な事を考えながら姿勢を戻すのだった。


「えぇと…それで私に何の御用でしょう? リアム様にも先触れを出して呼びましょうか」


チラリとエミリーを見る。

エキドナの視線にコクンとエミリーが頷き返す。

先程定期お茶会を終えたばかりだから予定さえなければリアムもすぐ来れるはずだ。


「いやっそのっ! 君に! 君に用があるんだ!! リアムは呼ばないでくれ!!」


エキドナとエミリーのやり取りを見てイーサンが慌てて制止をかける。


「……私に、ですか」


「そ、そうだ!!」


その瞳は真剣そのものだ。


(う〜〜んどうしたもんかなぁ…)


エキドナは表情に出さず(注:出せず)悩んだ。

噂で知る限りこのイーサンとリアムの兄弟関係はあまり良くなかったはずだ。

イーサンのこれまでの対応からは必死さが伝わるもののどこか挙動不審で……悪いが怪しい。

ウェルストル王国内で王位継承権を巡る派閥争い自体はないのだが、今私が下手な行動を取れば厄介ごとを招く危険性がある。…厄介ごとはもうウンザリだ。


「申し訳ありませんが、この後予定がございまして…」


ニコッと残念そうな笑顔を作る。

こう言えば流石にイーサンも諦めるだろう。

エキドナの表情筋は普段なら死んでいるがこのような突発的な猫被りの際のみ一瞬蘇るのであった。


「そっそうか…ならっ、ならっ!! いつなら都合が良いんだ!!?」


(ありゃ効かなかったか)


しかも焦りと緊張からかイーサンの声が徐々に大きくなっている。

離宮は王宮に比べて人が少ないとはいえどこで誰が聞き耳を立てているかもわからない。

さてどうしたものか。


チラッとエミリーを見る。

エミリーも『王子相手にこれ以上は…』みたいな視線と表情を送っている。

確かにこれ以上こちらが誤魔化し続けても王族相手に不敬だと思うし、そもそも話す機会を設けるまであちらが解放してくれなさそうだ。

『リアムを呼ぶな』と言われた手前、今リアムを呼ぶ訳にも行かないだろう。


「…わかりました。では今から少しだけでしたら…」


「えっでも君予定があるんじゃ…」


「まだ少し時間がありますので」 注:予定自体嘘です


そう言うとイーサンはパアッとわかり易く顔を明るくして「ありがとう! 準備はしてあるんだこっちに来てくれ!」とエキドナの手を引く。

先程のやり取りを気にしてかイーサンはとても弱い力でエキドナの手を引いたのであった。


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