閑話〜仲間はずれ(ミア視点)〜
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あたしの名前はミア・フローレンス。
今は男爵の位を授かってるけど元々あたしのパパやママ、おじいちゃん達は平民生まれ平民育ちなの。
パパ曰く『おじいちゃんが若い頃に始めた仕事が成功して事業展開したいから爵位を買った』らしいわ!
あたしみたいな元平民出身の貴族を "新興貴族" って呼ぶそうね〜。
でもパパが爵位を買った後の方が大変だったわ…。
だって娘のあたしが貴族の学校に通うなんて全く考えてなかったんだもの!
今迄もお茶汲みとかせいぜい秘書見習いとか…ちょっと仕事のお手伝いをしてあとは未来の旦那サマを支えればいいのかな〜くらいに思ってたし。
だけどパパとおじいちゃんから
『これからの時代は女性も学を身につけるべきだと思う。ミアは賢い子だから、将来の選択肢を増やすためにもいい経験になるんじゃないかな?』
って悪意ゼロな笑顔で言われて…。
ママとおばあちゃんはパパ達の言葉に笑ってうんうん頷いてたけど、
『貴族友達確保!!』
『婿探し!!!』
って顔にはっきり書いてたのよね〜。
相変わらずわかりやすいなぁ。
だからあたしも渋々パパ達の意見を受け入れて……しばらくは雇ってもらった家庭教師の元でずっと勉強してたのよ〜。
流石お貴族サマが通う学校だけあってレベル高すぎだわ…。
お陰で入学式に間に合わなかったし。
ただ、転入する前は結構期待してたのよね。
…少し時間を遡るけど花売りが家業だったパパと "町一番の美人" と評されていたママが結婚して、あたしが生まれたの。
若い頃のママそっくりらしいあたしは、物心ついた頃からパパやおじいちゃん達、それに従業員やお客さん達からも『かわいいね』っていっぱい褒めてもらって育ったわ。
当時は大好きなママとお揃いで嬉しい! くらいに思ってたのにねぇ…。
その一方で、あたしには壊滅的なくらい女の子の友達がいなかったの。
『アルロくんがミアちゃんの事かわいいーって言ってたよ。アルロくんに何したの?』
ある日、家が近くて時々遊んでいた子達が怖い顔であたしの周りをぐるりと囲んでそう言った。
("アルロくん" ってだれ…??)
かなり後から知った話だけど "アルロ" って子は当時同年代の子達からカッコいいと言われていた男の子で、パパのお仕事関係で偶然会って一緒に遊んだだけだった。たった一度だけ。
そもそもあたし自身はその子に興味が無かったからうろ覚えだった。
必死に弁解した。
でも彼女達は納得しない。
『うそつき』と言われた。
突き飛ばされた。
次の日からは話し掛けても無視されて、近付いたらあたしを見て笑いながらみんな遠くへ走って行った。
目の前でたくさん悪口を言われた。
物を隠された。汚された。壊された。
そんな感じの事が、彼女達以外の女の子でも何度かあって。
あたしなりにダメだと思ったところは直して色々工夫したけどそれでも上手く行かなくて、いつも女の子達から仲間はずれにされた。
……だからあたしは自然と男子達と遊ぶようになった。
だって男の子はそんなひどい事しないもの。
悲しくて泣いてるあたしを、遠巻きで嘲笑ったりなんかしないもの!!
今でも時々夢に出て来て、悔しさや悲しさで泣いちゃう夜もある。
(でも…優しくて上品なお嬢様なら、違うわよね?)
そんな希望を抱いてた時期もあったなぁ。
だからこそ長時間の勉強だって頑張れたのに。
もちろん新興貴族って立場でしかも転入生だからすぐには友達出来ないかもって事覚悟してた。
だけど、
『あなた生意気なのよ!!』
『目立つからっていい気になるんじゃないわよ!!』
『どうせ色仕掛けで殿方を誑かしてるんでしょこの身の程知らず!!』
『学園から出て行け!!!』
……転入初日から女子寮で呼び出されて、集団で詰られたり教科書を破られたりするなんてあんまりだわ〜…。
『……』
『いい気味』
『当たり前ですわ』
しかも助けてほしくて周りを見ても他の女子は顔を背けて立ち去るか馬鹿にしたようにクスクス遠巻きで笑ってるかのどっちか。
だからあたしは思った。
(結局平民だろうが貴族だろうが、やる事は同じなのかよっ!!!)
さらに厄介な事に貴族の方がやり方が陰湿というか手が込んでるというか……目を離した隙に本をズタズタにされたりお気に入りのドレスにジュースかけられたり、部屋の前に悪口が書かれた紙を貼られたり…。
挙げ句の果てには身に覚えの無い噂をばら撒かれて婚約者を名乗る子から人前で絡まれて。
男爵寮なのに家格が上の令嬢が乗り込んでくる始末。
教員に相談しても全然ダメだった。
『君自身が招いた種』
『カースト最下位の立場だから何をされても我慢するしかない』
『同性の友人を作ったらいいんじゃないか?』
ですって!!
身分が弱いのは自覚あるけどそれ以外は本当に理不尽っ。
助ける気ゼロじゃん!!
まともにあたしの話を聞いてくれたのは保健室の先生と化学教師のクラーク先生くらいで……あぁでも保健室の先生は教員の中で立場が弱いらしくて『話を聞くくらいしかしてあげられない』って言われて、それでクラーク先生に虐めの件を相談しようとしたらあのぐるぐる縦ロールの先生の親戚の子? がめちゃくちゃ邪魔してきて話せなかったのよね〜ッ!
妨害される前にサッサっと『虐められてる』って言えば良かった!!
ずっとこういう状況だから少しずつ "こんな所なんて居るのも馬鹿馬鹿しい" って思うようになった。
本当は逃げ出したかった。
でも…
パパとママとおじいちゃん達を、心配させたくない。
せっかくお金を出してくれて、平民なら絶対行けないような学園に通わせて貰ってる訳だし。
それに昔…女子から虐められて泣くたびに、ママから何度も聞かされた言葉がある。
『同じ "女" だからこそ些細な切っ掛けで関係が崩れたり拗れたりしやすいの。黙って我慢してても相手は調子に乗ってより酷い事をするだけ。やられっぱなしになるくらいなら、意地悪してくる子には強気で言い返しなさい』
容姿を理由に苦労してきたらしいママの言葉。
今迄もそうだったけど前よりずっとその言葉に重みを感じた。
(まっ こんな意地悪女達の妬み嫉みで挫けるあたしじゃないわね)
(元平民を舐めんじゃないわよ!!)
幸い男子の方は身分関係なく優しい人達ばかりだったから男友達には包み隠さず相談した。
みんなあたしの話を信じてくれた。
休み時間や登下校も嫌がらせしてくる女子達からも一緒に居てくれて守ってくれたの。
……まぁ、流石に女子寮は入れないからいっつも部屋まで走って逃げてたんだけどね。
待ち伏せしてくる連中も居て本当にしつこかった。
そんなある日の事だった。
『あら、見ない顔ですが寮生のご友人様でしょうか?』
窓口の人の言葉で背筋がゾッとした。
あたしの背後に男爵令嬢じゃない誰かが居る。
(あぁ… "また" なの!!?)
だからあたしは逃げた。
でもやっぱり他の女子達に待ち伏せされて捕まった。
しかも家の事まで侮辱されて本気で腹が立った。
大体何よ何でいちいち群れるのよ。
文句があるなら一人で来なさいよ!!!
売り言葉に買い言葉で言い返して頭おかしい女に殴られそうになったその時。
…………よくわからないけど、あたしは助けられたらしい。
しかも女子に。
『貴女を害する人だけじゃなく力になりたいと思ってる人も必ず居るから…だから、どうか負けないで!』
あたしを気遣う優しい声、優しい言葉、温かい手。
その時は誰かわからなかったけど、本当に本当に…嬉しかったの。
で、次の日にはこの国の王子の婚約者だからある意味 "本物のお姫様" な…エキドナ・オルティス様に声を掛けられる訳だけど。
(あーあ最悪……今度は侯爵令嬢様に目を付けられるなんてもう嫌…)
声を掛けられた時はそんな風に思っていた。
だって仕方ないじゃない。
初対面でのドナ、無表情すぎてめちゃくちゃ怖かったんだもの。
絶対難癖つけてくるタイプの人だと思ったんだもの。
あと赤い双子をやっつけたのもフツーに怖いし。
初めて一緒にご飯を食べた時はとにかく恐ろしくて何されるのかわからなくて。
そしたら嘘ばっかりの噂を淡々と挙げられて…。
でもドナから直接何か言われるよりもずっと…周囲から突き刺さる無数の目が怖かった。
(こわい。こわい、こわい、こわい!!!)
(何でこんな目に遭わなきゃいけないの?)
(あたしそこまで悪い事したのかなぁ??)
あたしはただ、女の子の友達がほしかっただけなのに…!!!
だけど、気付いた時にはほぼ無理やりあたしの生徒会参加が決まってそのまま連れ出されていた。
……連れ出してくれたドナの手は温かくて…あたしと同じくらい震えてた。
その時は『怒りの震え!!?』ってビビってたけど今思えばドナもめちゃくちゃ緊張してたんだろうなぁ〜。
あと部屋に入った途端リアム王子に散歩中の犬みたいにズルズル引きずられる姿や正座で説教受けてる姿を見た時はものすごく混乱したわ。
正直あの時は『あまりのストレスで気絶して変な夢でも見てるんだわ!きっとそうよ!!』って一人で結論付けたくらいだもの。
だけどその後改めてドナ達から受け入れられて、しばらく平和で穏やかな時間を過ごしているうちにドナが善意であたしを気にかけて、助けてくれた事に気付いたの。
女子寮で助けてくれたのも多分…。
……まっ色々あったけど、あたしはやぁっと念願の女友達をゲットしたって事!!
すっごく嬉しかったわ!!!
そういえばちょっと前にドナとティア(注:ティアはニール絡みで前から知り合いだったわ! 当時警戒してたから距離取ってたけど!)から変な事聞かれたのよねぇ〜。
『"乙女ゲーム" って知ってる?』ですって!
聞き慣れない単語だったから思わず『女子会か何か?』って返したら急に二人がヒソヒソ話し始めたの。
それで、
(何か不味い事言った!!?)
って焦って耳を澄まして聞いてみたの。
そしたら…
『ムムムこれは…?』
『まさか…』
『ですがそれだとキャラ設定が』
『…ゲームとリアルは違うって事じゃね?』
『このルックスにも関わらず一般ピープルだと叩かれる……世知辛い世の中でござるなぁ』
言ってる意味がわかんなくて『ねぇ何の話!!?』って聞いたら、『ミアは可愛いからこそ苦労したんだなって話!』って返されて…。
絶対あたしに何か隠してる!!!
マジイミフなんだけど〜っ!!
しかもなにあの生暖かい目ッ 仲間はずれにされたぁ〜!!!
もうっ! あたしに隠し事なんてズルいわ一緒がいい!!
こうなったら意地でも二人の隠し事を暴いてやるわ!!
さっきパパに『"乙女ゲーム" って知ってる?』って手紙を書いて送ったし何の事なのか必ず正体掴んでやるんだから!!!
活動報告にて『更新ペース変更のお知らせ』を記載しました。すみません。