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収束


________***


ミアの話から気付けば一時間が経過した。

先刻までジュースが入っていたボトルは、すでに二本空になっている。



ダンッ!!


グラスからいつの間にか変わったジョッキを机に当てる音でエキドナの肩がビクリと震えた。

しかしそんなエキドナにミアは目もくれず話し続ける。


「だからっ…だからこそ『この学園なら良いとこ育ちのお嬢様だから大丈夫』って思ってたらむしろやり方が陰湿というかやっぱり理不尽というか…ッ!!! あたしが何したって言うのよぉ何もしてないわよぉぉぉッ!!!」


ジュースだから酔ってる訳ではないのだろうが喋っているうちにスイッチが入ってしまったらしく、美少女ヒロインがヤケ酒モードに入っているのだ。

まだまだ気が済まないらしいミアは悔しそうにジョッキを持ってない方の手でこぶしを作り机を叩いた。


「そもそも今回の事だって先に仕掛けてきたのはあっちだし!! 『やっと女の子の友達出来るかも』とか浮かれてた自分が馬鹿みたいっ! 初日から呼び出されて突き飛ばされるわ怒鳴られるわ教科書破られるわ……酷い事ばっかするから優しくしてくれる男友達の方へ行くのは当たり前でしょうッ!!?」


「誰かアルコール!! お酒持って来てーッ! 呑まなきゃやってられん内容だったわヤケだヤケ!!」


そして悪役令嬢(エキドナ)もヤケ酒モードに入っていた。


「お前がヤケ酒推奨してんじゃねーよッ!!」


「姉さまお酒弱いじゃん…」


「こーゆー時はたまにはっちゃけて阿呆な事してガス抜きした方がいいの!! 多分この子思ってたより溜め込んでたわ!!」


フランシスの突っ込みとフィンレーの心配に対してエキドナは持論を展開する。

そんな賑やかな状況にリアムがやれやれと息を吐くのだった。


「…今日はこれで解散にしよう。僕達は帰るからフローレンス嬢の事は任せたよドナ」


「りょーかいッ!!」


リアムに冷静な指示にエキドナがそう言って敬礼のポーズを取る。

すると今度はイーサンが戸惑いの声を上げた。


「えっ リアム、ドナとミアをこのままにして帰るのか? それはそれで大丈夫なのか…?」


「フローレンス嬢の証言は声がうるさいし随分感情的だけど、フラン達が集めた情報と矛盾点がほぼ無いから証拠としてはもう十分だよ。それに今後どうするか確認するのも日を改めた方がいい」


「ま、まぁそうなんだが…」


リアムの意見に納得しつつもやはり気になるらしい。

酒が無いため仕方なく三本目のジュースを開け始めるエキドナ達の方をチラチラと伺っていた。

そんな(イーサン)に呆れ気味なリアムはさらに言葉を重ねる。


「それとも…いつ終わるかわからないこのやり取りをずっと黙って見守るの?」


「帰ります」

注:自分に正直な男であった。



「サン様が帰られるのなら(わたくし)も…」

「俺もかーえろっと。…女の嫉妬超ヤベェ」

「あらフラン、そんなところも女の子の魅力じゃない?」

「そりゃ彼氏(コッチ)に嫉妬は可愛いから大歓迎だけどよぉ…」

「ワタクシも退散するでござる」

「あれ? ティアも帰るの? 意外」

「今回はドナ氏が適任かと思いますぞフィンレー殿!」

「まぁね!」



一人、また一人と仲良くゾロゾロ部屋を後にする。

しかしそんなリアム達の存在も気にせずエキドナはジュース片手にひたすらミアの話をうんうん頷きながら聞き続けるのであった。





『大体さぁ、友達なのよ彼らは。友達でしかないから。手を繋いだりキスしたりしてないのに何で "恋人を奪うビッチ" 呼ばわりされるのよぉッ』


『あ、ほんとにただのお友達だったんだ…』


『当たり前でしょ!? しかも名乗り出てきた婚約者の()達って前から不仲らしいのにマジイミフなんだけど〜!』



今迄目撃したミアの男子生徒に対するあの姿は、単に異性ではなく友人として扱ったからこそのものだったらしい。

平民育ちなミアは人懐っこくコミュニケーション能力が高い反面、貴族社会における異性との距離感がよくわかっていなかったようなのだ。


加えて他の女子生徒達から嫌がらせを受けている事を知った男子生徒達が我先にとミアを守ろうとした結果、常時男子に囲まれている状況になったそうな。



『うんうん。それは辛かったねぇ、苦しかったねぇ。でもさ、こうやって少しずつ誤解解いて女友達増やしていこう? 大丈夫だよ。貴女の中身をちゃんとわかってくれる子は居るって。とりあえずミアさんが言い方ちょっとキツいだけの真っ直ぐで優しい子って事はよくわかったからさぁ』


『ほんとぉ?』



その後も二人は葡萄ジュース片手に会話がさらに続いて行き…



『てゆーか "可愛いからって調子に乗って" って時々腕つねられたり足踏まれたりしてるのよね。あたしの容姿が恵まれてるらしいのはよくわかったけどどうしろって言うのよぉ…。昔目立たないように無言で俯いて過ごした事もあったけどそれさえ悪口言われてッ…!』


『それは嫌だったねぇ。私としてはミアさんの顔は端的に大好きです』


『あ、ありがとう? そういうエキドナ様も綺麗系で素敵だと思う〜』


『あ、ありがと〜?』


『なんで疑問系??』



なお化学教師であるクラーク・アイビンに関しては "何故自分はここまで同性に嫌われるのだろうか" という相談をずっと聞いて貰っていたらしい。

そしてその事が切っ掛けでジェンナ・イネスに目を付けられたというのも発覚した。



『クラーク先生と保健室の先生以外の教師達みんなには "元平民だから仕方ない事。我慢しなさい" って言われてさぁ…。あ、でもあの縦ロールの子は言い方キツいし超酷かったけど、クラーク先生から離れた途端ピタッと嫌がらせやめたからまだマシな部類だと思ってるの〜…』


『そうなの〜』



こうしてリアムの一声でみんな帰宅してから数時間後の日が暮れ始めた頃。




「__そういえば初めてかも。身内と大人以外でこんなにあたしの話を聞いてくれた女の子」


「私も初めてだったよ。……生まれながらの美貌でここまで苦労してる女の子」


お互いの胸の内を明かして話しまくったエキドナとミアはすっかり打ち解けていた。

どこかほんわかしたリラックスムードが二人の間に漂う中、エキドナが微笑む。


「ねぇミアさん。改めて私と友達になろうよ」


「……いいの?」


驚いた様子のミアはおずおずと遠慮がちに顔を上げエキドナを見た。


「ミアさんがいいの! …じゃあさ、早速『ミア』って呼び捨てしてもいいかな? 私はドナで!」


「…!!」


エキドナの真っ直ぐな言葉に、ミアは信じられないと言わんばかりに薄緑の目を大きく開いて…


「うん!!!」


涙を浮かべ、花が綻ぶような笑顔で応えるのだった。





次の日の放課後。


「ドナ〜♡」


ミアが甘えるように後ろからエキドナに抱き付いている。


「ッ…!!」


対するエキドナは苦手なバックハグでビキッと硬直していた。

しかしそんなエキドナの反応に気付いてないミアは構わず背中に抱き付いたまま、ゴロゴロと喉を鳴らしそうなくらいに破顔して頬擦りしている。


「…懐かれたね」


「かなり懐かれましたね」


リアムとフィンレーが見守る中、ミアに背後から抱き付かれた状態のエキドナは流石に不快らしくやや眉を顰めた無表情のまま後ろを振り返り……そして溶けた。


「ふふふ〜♪」


頬を染めテレ〜と顔をニヤつかせている。

普段なら(特に男子による)背後からの動作を異様に嫌い、すぐ不機嫌になる癖にミアに対してはデレデレだ。


「ドナも満更ではなさそうだね…」


「あぁ…姉さまは基本可愛いものに弱いですから。(リア)やステラ様にも甘いですし、猫などの動物も好きですし…」


「今回に関しては一件落着…か?」


リアム達のやり取りにさらにイーサンやフランシスが加わる。


「…今のところは」


「『女友達いないから男と連んでた』って話、マジ話だったみたいだな〜。ミアって俺ら男子にも普通に優しいけどドナ達ほど懐いてないし」


「全くだ。それにしても随分打ち解けたな。タイプが違う気がしていたからどうなる事かと思っていたんだが」


「フッフッフッ」


フランシスやイーサンの指摘に対して今度はセレスティアが謎の含み笑いをしながら口を開くのだった。


「これはあくまでワタクシの推測でござるが、男性受け抜群で良くも悪くも天真爛漫、かつ何もしなくても自動で男が寄ってくるからガツガツする必要がないミア氏。そして男嫌い…と言いますかそもそも異性に興味が無くむしろ居ない方がハッピー☆ なマイペースたるドナ氏は、ぱっと見正反対な印象を抱くでありましょう」


説明と共に指で眼鏡を押し当てレンズがキラーンと光る。


「しかぁしッ! 振り子の右と左の振れ幅が同じように!!『極端』という意味で実は波長が似ていたからこそ相性が良かったと推測するであります!!」


「なるほど。ティアもよく考えたな…」


「そっかなんか納得した〜」


「あ〜正反対だから補い合う的なアレか」


「その通りですぞフランシス殿!」


「……」


セレスティアの分析でリアムを除いた周囲はそれぞれ素直に納得するのたった。


「もうドナったら…私という者がありながら私のミアまで寝取るなんてどれだけ罪作りなの?」


「エブリンは姉さまともフローレンスさんとも付き合ってないし、寝取った訳でもないから妙な言い方やめてくれない?」





その後『大事(おおごと)にして家族に迷惑を掛けたくない』というミアの希望を尊重したエキドナ達は主犯格である子爵令嬢及び関係者を秘密裏に呼び出し、これまで集めてきた証拠を突きつけ容疑を認めさせた。

さらに二度とミアに危害を加えないよう軽く脅して……ようやくミア・フローレンスにまつわる一連の騒動は解決となったのであった。


「あ〜女子だけで帰れるってサイコー♡」


「良かったね〜」


「俺達の存在ガン無視かよミア。ドナも」


なお未だ他の生徒達からの誤解が解けていないミアはしばらく生徒会の一員としてそばに置き見守る方針が決定される。



「あ、あのっ…エキドナ・オルティス様!!」


「…何でしょう?」


みんなで下校中、突然見知らぬ男子生徒に声を掛けられてしまいエキドナは少し怪訝な顔をしながら男子生徒の方を向く。

すると男子生徒は緊張からか頬を染め、バッと勢いよく片手をエキドナに差し出して周囲の目も気にせずその場で平伏し出したのだ。

いきなりの動きにエキドナとミア達もギョッとする。

そして…


「悪女っぽい色気にやられました!! 僕も貴女様の奴隷にして下さい!!!」


「…チッ」


「ありがとうございますッ!!」


エキドナの悪態に男子生徒は歓喜してお礼の言葉を口にする。

こうして今回の騒動解決の代償としてエキドナは一部の友人達から引かれたり距離を置かれたり、挙げ句の果てには一部のドM男子達から『奴隷にして下さい』と申し込まれたりと割と涙目な状況になるのであった。





活動報告にて『更新ペース変更のお知らせ』を記載しました。すみません。


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