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顛末を語る 後編


________***


"もう一つの噂" の登場で周囲に衝撃が走るが、リアムは変わらずやや厳しい目付きでフィンレーを追求する。


「何故今迄言わなかったの?」


「薄情かもしれませんけど、僕にとってフローレンスさんはそこまで接点無い人ですし何より噂話だから混乱させちゃうかなと思いまして」


「具体的にどういう噂話なの?」


エキドナの追求に対してフィンレーが頷き口を開いた。


「うん姉さま。なんかテオ君達が別の男子から聞いた話だけど…」


__フィンレーの友人であり伯爵子息のテオ・モルガンから聞いた噂話は以下の通りである。



ある男子生徒がたまたま普段より早く目が覚めてしまったため、何となく早めに登校して誰も居ないであろう教室のドアに手をかけた。

するとそこには先客が居たのだ。…それも複数の女子生徒が何かやら話し込んでいる。

女子の群れの中に男子一人で入って行くのは流石に気不味かったので廊下で立ち往生していたら……いきなり女子の不機嫌そうな怒声が辺りに響き渡った。


『いい加減学園から出て行かないかしら腹が立つわッ!!』

『同感です。視界に入るのも不愉快ですから…!』


朝っぱらから誰かの陰口を叩く会話を聞く羽目になった男子生徒は思った。


"女子って怖い"


しかし次の発言を聞いて耳を疑う。


『どうして教師達は動かないのかしら…わざわざ周囲に "ミア・フローレンスは人の婚約者を奪う泥棒女だ" って吹聴してるのに』

『せっかくですから後で婚約者を盗られた子を煽ってミア・フローレンスの元へ行かせます?』

『あぁ、あの子…こちらの思惑通りに動いてくれるでしょうか?』

『プライドの方を刺激すればきっといけますわ!』


言いながら女子生徒達の声は次第に上機嫌で楽しそうなものに変わり、はたからみれば女子トークをしているだけに見えるだろう。

否、むしろ彼女達にとっては女子トークの範疇(はんちゅう)なのかもしれない。


そんな事を現実逃避で考えながら男は恐怖で震える足を奮い立たせ、息を殺して逃げるようにその場から離れるのであった…。




「__ちなみにその男子生徒がどこの誰なのか、その後どうなったかは誰も知らない』…」


「それ何て怪談??」


珍しく真顔で淡々と語ったフィンレーにエキドナはつい率直な感想を述べる。

そして無意識のうちに掴んでしまったリアムの服の袖からパッと両手を離す。


(しまった恥ずかしい。……いやもう一人怯えてる人が居たわ)


「女子って怖い…」


いつの間に向かい側から隣に移動してリアムの腕を掴んでいたのだろうか。

顔を下に向けたまま小刻みに震えている。


「離れろ気色悪い」


リアムが不機嫌な声を出しエキドナの反対側に居るイーサンの手を振り払った。


「あっご、ごめんリアム!!」


その乱雑な動作でイーサンも我に帰ったのだろう。両手を上げ大慌てで数歩離れる。


「善きものを見れましたな…メモメモ」


(ティア氏何か呟いて手帳に記しているけどホラーBLでも書くのかな)


そんな事を考えているうちにフィンレーは怪談口調からパッといつもの調子に戻り、明るく言葉を紡いだ。



「その時は一種のこわい話かなと思ってたからただ『女子ってこわ〜』って盛り上がって…いや姉さまは違うからねッ!!!?」


「あぁうんわかってるよ!? …ていうかやっぱりミアさん濡れ衣な感じなの!?」


「ドナも落ち着いて。証言者が特定出来ないから信憑性に欠けるよ」


リアムの冷静な指摘にフィンレーも腕を組んで唸る。


「う〜んそこなんですよねぇ…。テオ君も人づてで聞いたレベルですし」


「そっかぁ…」


フィンレーの言葉にエキドナが残念そうに呟くとリアムがさらに畳み掛けた。


「そもそもミア・フローレンスに濡れ衣を着せた主犯を見つけないと意味が無い。しかも新しい噂が事実だったとして、『婚約者を盗られた』と主張する他の令嬢達はどう説明するの?」


「ゔぅ…確かに」


「……」


リアムの正論でオルティス姉弟(きょうだい)は反論出来ず言葉を失う。

エキドナは打開策を練るべくその場で思考し始めた。


(犯人特定に関しては一応考えがあるけど、他の令嬢達の件が難しいんだよなぁ…)


再度友人達から聞き込みをするにしても昨日の反応からしてはぐらかされてしまうかもしれない。

しかも元々噂話に疎いと自他共に認めいているためこれ以上動き回ったら怪しまれるリスクが上がるのだ。


どうしようか考えていると、セレスティアの右隣で片手に顎を乗せずっと沈黙を貫いていたフランシスが口を開いた。


「なら俺が裏取ってみようか?」


「出来るの!?」


思いがけ無い提案で周囲がフランシスの方を向きエキドナは驚きの声を上げる。


「任せろって。虐めの主犯と目撃した男子を特定して、ついでに被害に遭った子達の情報を集めればいいんだろ? カノジョ達の方から探り入れて貰うわ…もちろん『(フランシス)が興味本位で聞いた世間話』って前提でな☆」


「ありがとうっお願いします!!」


勢いよく席を立ちエキドナがフランシスに頭を下げた。

その反応を見たフランシスは「いやいや頭上げろって…」と言いつつも途中で何か閃いたような顔をして、今度は椅子から立ち上がりエキドナに近付き始める。


「でもそぉ〜だな。折角ドナからのお願いなんだし何か "対価" を貰うぜ?」


「"対価"?」


エキドナはどこか愉しげなフランシスの言葉を反芻して軽く首を傾げた。


「そ。だって俺ミアの人柄は何となくわかってるけどここまで調べる義理ねーし」


「!! …そうだよね。当たり前だ」


言葉の真意を理解したようにエキドナの顔は真剣な表情へと切り替わる。

無言でスッとポケットから何かを取り出し、


「じゃあこれで」


フランシスの手のひらに握らせるのは……綺麗な包装紙に包まれたビスケット達だった。


「そういう意味じゃねーよ!! つーか何普段から菓子持ち歩いてんの!?」


フランシスの突っ込みに平然とした態度で肩をすくめる。


「いつもならチョコなんだけどね。ほら今の時期溶けるじゃん?」


「あぁ夏だからな〜…じゃなくて!! はぁ、通常運転で安心したぜ」


少し脱力気味なフランシスはひとまずビスケット達をポケットに入れた後、ひらひらと手招きをした。


「?」


頭上にクエスチョンマークを浮かべるがエキドナは素直に数歩足を進めてさらに近寄る。

そんなエキドナに対してフランシスは軽く屈み、顔を近付けて…


ヒョイッ


脊髄反射で首ごと曲げフランシスから自身の顔を遠ざけるエキドナであった。


「……」


ヒョイッ


無言でリトライするフランシスにエキドナは再度躱す。

見事な拒絶に流石のフランシスも苦笑した。


「ほんと隙がねぇよなアンタ。まぁいいや今回はこれで許してやるよ」


「!?」


そう言って流れるような動作でエキドナの長い髪を一房手に取り唇を当てる。

まさかの行動でしばし呆然とするエキドナを見つめながらフランシスは上機嫌に片目を閉じた。


「あとは俺に任せとけ♡」


「姉さま〜!! 消毒消毒☆」


「あっフィンこの野郎!!」


即座にフィンレーが貼り付けた笑顔でハンカチ片手に駆け寄り、フランシスの不満げな声にも構わず汚れを擦り落とすが如くキスされた箇所をゴシゴシと丹念に拭い始めるのであった。



その後もあーだこーだと協議は続いたが結局リアムの『証拠不十分だからまず証拠集めから。話はその後』という妥協案が採用されたためミアに関する話し合いは一時休戦となった。


けれども同時に『もし新しい噂の方が事実で差し迫る危険があった場合はミア・フローレンスを生徒会で保護してもいい』とメンバーから承諾を得るのに、エキドナは成功したのである。







さらにその日の放課後、


「姉さま何その格好。いや可愛いけどさ」


「……はぁ」


本日も生徒会は閑散期に入ったのか仕事が無いので部屋にはフィンレー、リアム、エキドナ、セレスティアの四人しか居ない。

そんな中フィンレーは遠い目をして姉の姿を指摘し、リアムはすでに匙を投げたのか諦めたように溜息を吐いていた。


「ホホ〜! ワタクシとお揃いですな!!」


「こっそり用意して来たんだよ」


舌を巻くセレスティアにエキドナも説明を加えた。


エキドナの最大の特徴とも呼べる金眼は分厚い伊達メガネで覆われ、ハーフアップリボンで下ろしていたプラチナブロンドの髪も現在シンプルなお下げに変わっている。

身に纏っているのは普段の白シャツ・紺無地スカート・ケープボレロではない…柔らかな色合いをした若草色のドレスだ。

靴は編み上げブーツのままだが(かかと)が高いものらしくいつもより背が高く見える。

完璧な身長詐欺だ。


「リー様あたりに反対されるのは想定内だったからね。…だからミアさんが住む男爵家用の女子寮に潜入して証拠を見つけてくるよ!!」



さて、今更であるがこの聖サーアリット学園の学生寮は性別だけでなく爵位別にも建物が区分されている。

王族、公爵家、侯爵家、伯爵家…と身分ごとに寮の建物が違うのだ。


(普段の学園生活なら私もさりげなくミアさん達を観察出来る)


だがしかし、学園内で見るのは男子生徒達がミアの周りを囲みさらにその光景を女子生徒達が遠巻きで睨んでいる光景ばかりなのだ。

そのため唯一エキドナが知らないミア・フローレンスの姿…すなわち放課後と女子寮に居る時の様子を覗きに行こうという魂胆である。


(男子禁制の女子寮内なら、ミアさんや周りの女子達の立ち位置もまた変わるかもしれない)


「もう帰宅してたら不味いから行くねっ じゃあまた明日!」


「「……」」


「いってらっしゃいま〜せっ ドナ氏ぃ〜☆」


リアム達男子ズは無言で軽く、セレスティアはノリノリでぶんぶん勢いよく手を振り見送る。

こうして男子二人の冷めた視線と友人のエールを背に、エキドナはまた元気に駆け出すのだった。


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