表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/233

閑話 〜お嬢様にお仕えして(エミリー視点)〜


________***


私の名はエミリー・オーバートン。

今年で十七になります。


オーバートン家は元平民の出ながら代々オルティス侯爵家に仕える家系でございまして、私を含めて現在五人が使用人として従事させて頂いております。大叔父が執事長、叔父が執事長補佐、父がオルティス侯爵家専属の庭師、母が侯爵夫人である(ルーシー)様の専属侍女兼侍女筆頭です。

他には叔父の息子…すなわち私の従弟(いとこ)が、将来オルティス侯爵家にお仕えするべく屋敷を出て今は専門学校の寮で生活しております。学費は有難い事に当主である旦那(アーノルド)様が負担して下さっています。

補足ですが…従弟の母、つまり私の叔母と祖父は大分前に亡くなりもうおりません。


私自身の話はここまでにして…今お仕えしているお嬢様についてお話したいと思います。

態度には出さなかったのですが……実は最近まで、お嬢様が別人のように人が変わられた事に私は密かに困惑しておりました。

お嬢様にお仕えしてはや三年…月日が経つのは早いものですね。


ちなみにオーバートン男爵家は元々男系一族なので(わたし)が生まれたのは当時非常に珍しかったそうです。

ですが、流石は我が一族。将来オルティス侯爵家にお仕えすべく幼少から大叔父に使用人としての心得や技術を伝授して頂き、実践訓練として王宮で仕える予定になっておりました。王宮仕えは平民の血を引く私にとって簡単に経験出来るものではありませんから……当時は未知なる世界に期待と好奇心で胸を躍らせたものです。


そんな時でした。


オルティス侯爵家の姫君であるお嬢様…エキドナ・オルティス様がリアム・イグレシアス王子と婚約する事となったのです。

リアム王子は王位継承権第一位の未来の国王陛下……つまりお嬢様は未来の皇太后陛下になられるという事です。

旦那様はとても家族想いの愛情深いお方ですから大事な娘を妃にするつもりは全くなかったと聞いております。そんな旦那様の元で働いていたので、私達にとっても非常に衝撃的な出来事でした。


そのような流れで急遽お嬢様の専属侍女が必要となり……私に白羽の矢が立ったのです。

もちろんお嬢様の事は使用人の娘として存じ上げておりましたが…当時きちんとお話した事は一度もありませんでした。

私は大叔父から使用人の作法を習うのに忙しかったですし、なにせお嬢様とは年が九つも離れております。

お嬢様の方はいつも弟妹であるフィンレー様とアンジェリア様と一緒におりましたので……私はほとんど交流のないまま専属侍女になりました。


当時は畏れ多くも……お嬢様の専属侍女が不満、でした。

お嬢様がお妃様に成られれば王宮で仕える可能も十分ありますが、やはり早いうちに行った方が学べる事も多いでしょう。何より前々から聞かされていた話でしたから私としてもずっと楽しみにしておりました。

主人の都合でこちらの事情が変わるのは当然なのですが…当時の私はまだまだ子どもだったという事ですね。反省しております。


それに……お嬢様は真面目で家族想いの優しい方ではありますが、同時にとても内気で無口で人見知りの激しい方でもありました。

ですからどう接すれば良いのかわからなかった事も今思えばお嬢様に対する不満の要因として大きかったと思います。


お嬢様と初めてお会いした際は、当時まだ五歳にも関わらず目鼻立ちがハッキリとした旦那様似の端正なお顔立ちが印象的な…とても大人びた少女に見えました。

ですがこちらが声を掛けても返事の声があまりに小さく何を言ってるのか聞き取れませんし(恐らくお礼を言われたのかと思われます)、視線を合わせようともしません。

そして何より…自己主張がほとんどありませんでした。


他家で働いている同期の侍女仲間の友人達からは『お世話し易くていいじゃない!!』とかなり羨ましがられておりました。私は詳しく存じませんが、余所のお嬢様は我儘放題でとても手を焼いていて大変なんだそうです。

ですが…私から言わせて頂ければ友人達の方が羨ましいのです。

我儘を言って貰えるという事は、それだけ信頼されている証だと思っていたから。一人前の侍女として認められていると思っていたから。

だからこそお嬢様にお仕えする事が今思えば傲慢でしたがとても退屈でやり甲斐がなかったのです。


ですがここ数ヶ月でお嬢様に変化がありました。

いえむしろ…『変化』という表現で正しいのか判らないほどの変わり様でした。私にも何が切っ掛けでそうなったのかは存じておりません。

ですが、お嬢様が王家主催のパーティで普段通りただ遠くの景色を見ていたあの瞬間から、お嬢様の中で何かとてつもない大きな変化が起こったようです。


本音を申しますと…前より明るくなられてお世話もし易くなりました。

前より話す声が大きくなって聞き取り易いです。以前はとても小さな声だったので気付きませんでしたが、お嬢様はよく通る綺麗で可愛らしいお声の持ち主だったようです。…視線は相変わらず合ったり合わなかったりですが。


しかしながら特に有り難く感じた変化が自己主張が増えた事です。

それでも一般的なご令嬢に比べたらまだまだ控えめではありますが……今迄のお嬢様から見たら大きな前進でした。


そして本日ついに初めてお嬢様とまともな会話を致しました。

お嬢様が今迄何をお考えになられていたのか知る事が出来たので良かったです。

お嬢様が以前から使用人である私とお話しがしたかった事、原則オルティス侯爵家の影から支える役目を担う私からも、要望を口にした方が良い事…。どれも今迄思いもよらなかったご意見でしたので内心とても驚いておりました。主人の影として『存在感を示さない』…これは大叔父からかつて教わった原則とは大きく異なっていたからです。

しかしながら主人であるお嬢様からの "お願い" ですから…喜んで承る所存です。


お陰様で先程ついにお嬢様のお召し物や髪型を選んで着飾る事に成功致しました…!達成感と高揚感がとてもすごいです。

お嬢様は元々綺麗で可愛らしい見目をされてますし髪も私とは違って美しいブロンドをお持ちなのですから磨かないともったいないです!

お嬢様自身その事実に気付いていないようですからこれは専属侍女として腕が鳴りますね。


…そういえば、普段からされているお嬢様のあのリボンのような可愛らしい髪型。あれはお仕えした初めの頃にお嬢様から提案されたのですよね。か細い声を聞き取るのに苦心した事をよく覚えております。

改めて思い返せば…あれが初めてのお嬢様からの "お願い" だったと思います。


話しが少し逸れましたがやっとお嬢様から "お願い" をされるようになって一流の使用人に近付けた気がします。

ですがやっとスタートラインに立てたようなもの。これからも気を抜かず自身の技術を磨いて精進して行きたいと思います。

次はお嬢様にどんなドレスで、どんな髪型にするか…今のうちにコーディネートを考えて置きましょう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング ★多くの方にこの小説の存在を知って頂きたいので良かったら投票よろしくお願いします! 2021年6月24日にタグの修正をしました★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ