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予感的中


________***


ゲームのヒロイン、ミア・フローレンスが転入してからさらに数日が経過した。


「おはようございますミアさん!」

「おはようございます!」

「いつも可愛いですね!!」


すっかり日常と化してきた、男子生徒達が我先にとミアへ駆け寄り挨拶して声を掛ける光景。


「おはようございます皆さん♡」


そんな男子達に対してミアもとても可愛い笑顔で挨拶し返す。


「まぁっ 朝から騒々しいですこと」

「はしたないですわ…」


そして遠巻きにミアを批判する令嬢達も数知れず。

否、むしろ徐々に増えていると感じていた。


(大丈夫かな…)


少しずつ、少しずつ鋭くなっていく一部の女子生徒達のギスギスした不穏な空気を感じ取ったエキドナは、内心危惧していた。


生まれながら高貴な身分である令嬢達にとって、成り上がりにも関わらず美貌や能力に恵まれ複数の男子生徒達からチヤホヤされているミアが気に入らないのだ。

……そしてそれは同じ男爵の位を持つ貴族令嬢も、かつて同じ成り上がり貴族だったはずの令嬢達でさえ負の感情を抱いているようだった。


(下手な揉め事が起きなきゃいいけど)





しかし残念な事にその予感は的中してしまう。

それは放課後、フィンレーと二人で生徒会業務をサボって失踪したフランシスとエブリンを探していた時の事。



「_いい加減にしなさいよ貴女!!」

「その通りです! 目障りなのですよ!!」

「何よその目はっ生意気ね…!」




「「!!」」



ヒステリックな声が向こうの方から聞こえてエキドナとフィンレーは目を合わせる。

そのまま壁際から顔を出して状況を確認するのだった。


「あれは…フローレンスさん!?」


フィンレーが驚きの声を上げる。

どうやらミア・フローレンスが複数の令嬢達に囲まれて虐められているようだったのだ。

しかも突き飛ばされたのかミアは床に尻餅を付いている。


「すぐ助け「待ってフィン!」


飛び出そうとするフィンレーをエキドナが弟の腕を掴んで引き留め、冷静に声を潜めて諭した。


「ね、姉さ…」


「私が時間を稼ぐ間にフィンは先生を呼んで来て。出来れば女性の先生で」


「え!? でも姉さまが…」


「あのね、こういう女同士の喧嘩で男が介入するとその場は良くても後が拗れかねないんだよ」


ただでさえミアは今の時点でも男子にモテるという事実で複数の女子生徒達から顰蹙(ひんしゅく)を買っているのだ。

そこに男の子のフィンレーがミアを庇ってしまうと余計に相手が根に持ってしまう可能性は高い。

だからこの状況下では、生徒同士よりも第三者の教師を介入させた方が無難だとエキドナは判断した。


「だけどそれじゃあ姉さまが危ないじゃん!」


「大丈夫。私は私で何とかうやむやな感じで時間稼ぎをしてその場を誤魔化すから!!」


「なんて説得力の無い言い方ッ!!」


フワッと大雑把な説明をして胸を張るエキドナにフィンレーが突っ込みを入れる。


「とにかく!! そんなに心配なら貴方は先生呼んできなさい! じゃあそういう事で!!」


「あっもう姉さまぁ!!」


後方から少し拗ねた声が聞こえ……そのまま走り去ったようだ。


(良かった。とりあえず呼びに行ってくれたみたい)


一瞬だけホッとし…すぐさま気持ちを切り替えて前を向いた。


「な、何で貴女がここに…」


呆然と呟く少女達を見据え、エキドナはとりあえず扇子を取り出す。


(暑さ対策で持ってきて良かった。形だけでもお嬢様っぽい)


バッと広げたそれで口元を隠しつつミア達にゆっくりと優美な足取りで近付くのだった。

背筋を伸ばし出来るだけ冷ややかで凛とした圧を放ちながら今度は目の前に立つミアを虐めた主犯の令嬢を真っ直ぐ射抜く。



どっかの先生を連想させる深緑色の髪と目。

けれども背中に流れる形状は癖のないストレートヘアの先生とは全く違う…立派なぐるぐる縦ロール。



"他の悪役令嬢の中には駄々っ子のようにヒロインに絡むキャラも居りまするし"



かつてセレスティアにこの世界…『乙女に恋は欠かせません! 〜7人のシュヴァリエ〜』の説明を受けた際に聞いた言葉である。


ジェンナ・イネス


攻略キャラの一人、クラーク・アイビンの親戚であり『クラークルート』の悪役令嬢なのだ。


「…失礼、そこを通らせて頂けるかしら?」


普段使いもしない上品なお嬢様言葉をエキドナは淡々と口にしてミアとジェンナ、そしてジェンナの後ろに居る取り巻きらしい令嬢達の前に向かい合う。

余談だが気心が知れたリアム達以外の人間に対して、エキドナは上記のように猫を被る事が多い。


「は? 見てわからないのですか、今取り込み中ですの」


「ジェっジェンナ様…!」


エキドナの立場を知ってか知らずかジェンナは変わらず強気な姿勢でエキドナにガンを飛ばし、周囲の令嬢達が慌てて宥め始めている。


無理もない。

取り巻きの令嬢達を見ても先刻までこの中で一番身分が高かったのは伯爵令嬢のジェンナ。

そこに伯爵より一つ上のランクである侯爵令嬢のエキドナが乱入して来たのだから。

そして同時に未来の国王たるリアム・イグレシアスの婚約者故、何気に生徒達の中ではかなり権力を持ってる方である。

…完全に虎の威を借るナントヤラだけれども。


ジェンナ達の状況から恐らく身分の差を理由に虐めているようだったので自分が行けばうやむやになりそうだとエキドナは考えた。

相手の勢いを少しでも削げるのならこの時くらいは『侯爵令嬢』という家柄効果に全力で乗っかってもいいだろう、と。


(ほんとはもっとわかりやすくヒロインを守れたら良かったんだけど)


説明でもしているのかジェンナの耳元で令嬢が何か囁いている姿を眺めながらエキドナは痛感する。



フリーの侯爵令嬢の肩書きだけなら堂々と守ったとしても周囲へ丁度いい牽制になれただろう。

しかしエキドナは直系の王族の婚約者。

上部だけとは言えそれでも表向きは未来の王妃。

影響力は恐らく本人が自覚している以上のものだろう。

そんなエキドナが平民出身の成り上がり貴族、ミアを庇う……それは王家がトップに立つ貴族社会のパワーバランスを崩しかねない行為なのである。


(そんなリスクを取るくらいなら『(エキドナ)がミアを陰でこき使って虐めるため』って建前で保護した方が早いかもね…)


「あぁ、そうでしたか。貴女が "あの" エキドナ・オルティス侯爵令嬢様でしたの…」


自身の立ち位置や貴族の暗黙のルールに頭を悩ませているうちに内緒の会話が終わったらしいジェンナが再びエキドナに声を掛けた。

……彼女の背後から何故か既視感がある、メラメラと燃えるような怒りのオーラが見えたのは気のせいだろうか。


「単刀直入に申しましょう。こちらのミア・フローレンスが私の親戚にあたるクラーク・アイビンに付き纏っていたので排除しようとしたのですわ。つまり彼女は悪い虫ですの」


「な!! だからあたしそんなのじゃ…」


「お黙りなさい!!」


ジェンナが顔を顰めて説明する横でミアが反発し再びジェンナが怒鳴って黙らせている。

その光景に二人の間に何があったかは謎だが、予想以上にドロ沼らしい事はよくわかった。


(うわぁ…はっきり言っちゃったよこの子)


そしてエキドナはエキドナでジェンナの『私はミアをいじめました』というあまりに貴族らしくない、直球過ぎる物言いで天を仰ぎそうになっていた。

つまりこの子は貴族がよくやる遠回しの牽制や家柄効果が効きにくいかもしれないという事。

当初の『うやむやに誤魔化す作戦』が一番通じにくそうな相手という事なのだ。


(これはほんとに先生が来るまで時間を稼がなきゃかな…)


若干途方に暮れながらエキドナは次の言葉を探し始めていると、先に口を開いたのはまたしてもジェンナであった。


「そしてエキドナ・オルティス!! 貴女もクラークお兄様の悪い虫ですの!!!」


(…………はい??)


自身を指差すジェンナのまた予想外な台詞が耳を通り抜け、金の目を大きく開き、エキドナは危うく持っていた扇子を落しかけるのだった…。


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