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評価と印象


________***


「「……」」


フランシスの問い掛けにより、二人の間にはなんとも言えない沈黙が流れていた。


(言えない)


エキドナは思わず俯き、より口を固く閉じる。

……そして深刻な面持ちで心中を吐露するのだった。


(結構最近まで今世十六歳の自分をちゃんと受け入れてなかったから、実は『友達兼子育て感覚で接してました』なんて口が裂けても言えない…!!)


八歳の頃に前世の記憶を取り戻し一時的ではあったが二十四歳の精神年齢を獲得していたエキドナだ。


当時の状況は成人女性と少年達…

一人一人の意思を尊重して出来る限り対等に接してはいたがどうしたって子育て枠なのである。


(『小さなお友達感覚でした』とかぜっったいに言えないよ…!!)


しかも前世のトラウマによりそもそも罪のない子どもにやましい感情を抱く事自体、過去のロリコンクズ野郎を連想させる忌むべき行為だと思っているのだ。

そんなエキドナが今迄リアム達同年代の男子を恋愛的な…要するに下心アリの状態で見るなんて天地がひっくり返ってもあり得ない話であった。



『いやただの犯罪じゃねーか』と。



(正直今でも家族愛とか友情とかが強い)


ただ、フランシスから尋ねられた『どう思っている』の真意を理解出来ないほどエキドナも鈍感ではない。


冷静な表情で顔を上げ改めて目の前に居る人物を見やる。

そしてはっきりと言葉にするのだった。


「恋愛感情は、無い」


「…そっか」


「ていうかリー様も『恋愛感情がよくわからない』って言ってたから私が恋愛感情持ってたとしてもね〜」


どこかションボリした様子のフランシスにエキドナが慌てて明るく言葉を付け足す。

するとフランシスは若干不貞腐れた表情をしてエキドナに続けて尋ねるのだった。


「…ちなみに聞くけど、フィンレーの事は?」


「大切な可愛い(てんし)


「秒でブラコンかよブレねぇな。じゃあイーサン様は?」


「優しいよねあの人」


「えーっと『友人枠』って事?? ニールは?」


「友達」


「クラーク先生」


「明らかに嫌われている」


「言いたい事は何となくわかった。あっ、ちなみに俺は〜??」


「女好きチャラ男」


「……」


オブラートに包まなかったエキドナの評価でフランシスがショックを受けて言葉を失った。


「あっいや、もちろんいい人だと思ってるよ!? 気配り上手で周囲へのフォローいっつもすごいし!! 頭いいしそれに…」


「わかったわかった。…アンタって素直だよなマジで」


慌ててフォローするエキドナにフランシスはおかしそうに笑って両手を上げ降参のポーズを取る。


(馬鹿正直に人を褒められて、表情とか身振り手振りで必死そうにさぁ…。『本心からそう思ってます』感がよく伝わるわ。……ん? 待てよじゃあこれって)


エキドナは周囲の異性に対して恋愛感情を抱いていない事がよくわかった。

しかしそれは同時にみんな平等な立ち位置に居るという意味ではないだろうか。


(誰にも恋愛感情芽生えていないから、今後どう転ぶのかわからねーヤツじゃねぇか)


「……フラン?」


エキドナの声にハッと気付く。


「悪りぃ、なんでもねーよ」


そう言って誤魔化しつつ、とりあえず自分が付け入る隙が十分ある事をフランシスは理解するのだった。


「そういやアンタって昔の印象とギャップあるよな。初めて声掛けた時は睨んで無視だったから」


「…あの時は、ごめん」


「いや気にすんな。見ず知らずの男への対応としちゃあながち間違ってねーし」


言いながらフランシスの脳裏には目の少女と……幼馴染である男の顔が思い浮かんだ。



一見無表情で冷たそう見えて、実は感情豊かで面倒見が良いらしいエキドナ。

一見にこやかで愛想が良いように見えて、本当は天賦の才故か冷めた思考回路を持つリアム。


世間から認識されている顔と身内にしか見せない顔の印象が二人は真逆なのに、どこか "似ている" と感じさせられるのは何故だろうか。



「まぁアレだな…ある意味似た者同士でお似合いなのかもな」


「…?」


フランシスの意味深な発言でエキドナが眉をひそめる。


「フラン、それはどういう…」


エキドナが問い掛けようとした刹那フランシスは突然ガタッと席を立ち、迷いなく店の出入り口まで向かった。


「おーいフィン! いい加減隠れてないでこっち来いよ〜!!」


外へ向かって…厳密にはずっと尾行していたフィンレーとイーサン及び護衛達の方向へ呼びかけ手招きをしている。

すると、


もぐもぐ

もぐもぐ


「お前らなんなの仲良しか」


クレープ片手に咀嚼中だったらしいフィンレーとイーサンが物陰から姿を現しそんな二人の姿にフランシスが呆れた声を出すのだった。





「__よく俺達の存在がわかったなフラン」


フランシスに存在がバレたフィンレー達は結局クレープを食べ切った後、堂々とエキドナ達二人に同席している。

フランシスの隣に着席したイーサンが声を掛けた。


「ん、これも美味いな…」


余談だが現在彼は苺のミルフィーユをにこにこしながら食している。


「むしろアンタの護衛が周りウロついてたからわかったんだよ。つーか仮にもこの国の王子が街へ外出とか大丈夫な訳?」


そんなイーサンの姿にフランシスは呆れと心配が入り混じった複雑な心情で苦笑した。

もちろんイーサンの身分がバレたら不味いので、この会話は第三者に聞かれないよう声を潜めて行われている。


「あぁ。流石に時々しか出られないが父上やリアムに代わってお忍びの視察に行ったりドナやフィンと街へ遊びに行ったりするぞ。この前は猫がいる喫茶店に行った」


「サン様猫達から大人気でしたね〜」


「猫の毛まみれになって帰った時にリアム様から怒られてましたね!」注:小声


「そ、そうだったな。改めて指摘されると少し恥ずかしい…」


「マジで何やってんだよイーサン様」


チョコレートケーキを食べていたフィンレーの指摘でイーサンははにかみフランシスが突っ込む。


こうして四人でケーキを美味しく頂き……いい頃合いになったので各々解散する事となった。





「え、何でリアム様が来てるの? 何で姉さまが乗る馬車に当たり前のように同乗してるの?? 怖ぁ〜」


「お前にだけは言われたくないと思うぜ」


フィンレーの発言にフランシスが即座に突っ込む。


そう。

解散ムードが漂ったのでエキドナが先刻フィンレーと乗った馬車へ乗って帰ろうとしたら、


『リアムが乗ってる馬車に拾ってもらえよ』


とフランシスに言われたのだ。

現在通路にはオルティス侯爵家のお忍び用の簡素な馬車と……こちらも恐らくお忍び用なのだろう。シンプルな馬車が並んでいた。


「…というか僕は一緒に乗っちゃダメなの!?」


「お前さっきイーサン様の土産買うのに付き合うって約束したんだろー?」


「ゔっ そうだった!!」


『約束』という単語(ワード)で勢いが削がれたフィンレーはそのままイーサンとフランシスにまーまーまーと宥められエキドナから引き離される。


「じゃあね〜フィン、また学校で!」


エキドナとしては別段寮に帰れればどちらの馬車でも良かったため二人に連れられているフィンレーに片手を振り、そのまま方向転換をしてリアムが乗っているらしい馬車へ向かおうとした。


「ドナ」


フランシスに名前を呼ばたので足を止め一旦振り返る。

そこにはフィンレーをイーサンに預けたフランシスがにっこり笑ってエキドナを見つめていた。


「今日ドナとデート出来てすげぇ楽しかったぜ!」


「こちらこそ楽しかったよ。ありがとう」


フランシスの言葉にエキドナも微笑んで返答する。


「……」


フランシスは何故かフッと口角を上げエキドナの頭に手のひらをポン、と置いた。

その触れ方はまるでエキドナを労っているようで、


「…無理させてごめんな。お大事に」


「!!」


フランシスのその優しい声にエキドナ驚き、絶句する。


「フラっ…!?」


「また俺とデートしたくなったら言ってくれよ! いつでも歓迎するぜ♡」


しかしそんなエキドナを他所にフランシスは相変わらずの笑顔で先程まで触れていた手をヒラヒラさせてその場を後にするのだった。


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