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根本的な違い


________***


「話…? うん、構わないけど」


セレスティアの提案にエキドナは同意するがその表情は困惑したままである。

チラリと金の目が向ける先には黄色いかすみがかかったブラウンの髪が特徴的な侍女。


「……」


主人に視線を向けられたエミリーは無言で微笑む。

笑顔が怖い。


(いや原因は間違いなく私だけどね!!!)


心の中でダラダラ汗を流しながら今回…否、これまで自身がほとんど説明もせず一人で泣いたりふらふら徘徊したりと奇行を繰り返した事がリアムやフィンレー…恐らくセレスティアやエミリーにも心配や迷惑をかけ続けてしまったのだとエキドナは思い返す。


(改めて振り返ると…我ながら色々やらかしたな)


特に自身と長年生活を共にしたエミリーには一番負担を掛けてしまったと改めて思う。

…精神が不安定になった時は席を外して貰ったり "散歩" と称して姿を消す事で彼女の前で涙を見せないように可能な限り配慮したつもりだったけれども。


「エミリー」


「はいお嬢様」



"またエミリーに何も言わないままでいいのか?"


「…っ」


そんな思考が頭をかすめて、エキドナの顔が僅かに強張り言おうとした言葉を飲み込んだ。


"これだけ巻き込んだならいっそ本当の事を…"

"エミリーに意思決定を委ねるか?"

"いや相手の意志を尊重するフリをして責任逃れをしているだけでは?"



「…内密な話をするから…席を、外して貰える?」


結局、エキドナは脳裏で刹那的な自問自答の末に当初言おうとしていた言葉をそのままエミリーに伝えるのであった。


「……承知しました」


エミリーも淡々と答えお辞儀をして退室する。

静かに閉められた扉を見ながら紅茶を飲んでいたセレスティアが口を開く。


「ドナ氏ぃ。エミリー殿も話せば受け入れて下さるかもしれませんぞ?」


「一瞬悩んだけど…彼女にこれ以上私の事で深入りさせたくないと思ったからさ」


セレスティアの指摘にエキドナは困ったように笑って答えた。


("前世の話" をするには必然的に男嫌いになった経緯や今の私の精神状態も絡んでくる)


思わず自身の膝の上に置いている手をぎゅっと握り締める。


真実を話すという事は自分は今後隠さなくていいのだからある意味で楽になる反面、相手に重いものを背負わせ先々を縛りかねないリスクも孕んでいるのだ。

この状況で安直に判断し打ち明けるものではないとエキドナは思った。


「それで? ティア氏の "話" っていうのは?」


ひとまず先程の話題に戻すべくエキドナは話を振る。


「ムムム、そうでありましたな〜! では単刀直入に行くでござる」


リアムやフィンレーも沈黙を貫き見つめる中でセレスティアはカップをソーサーに置き、エキドナの方を改めて見つめた。


「ドナ氏は "前世" の事をどんな風に覚えているでありますか?」


「えっ? …昨日の事のように、ありありと」


驚きと共に即答するエキドナにセレスティアが「ムム〜?」と言いながら首を捻っている。

……何か引っ掛かる事でもあるのだろうか?


「ウウム…では質問をちょいちょい変えて尋ねるであります。イエスかノーで答えて下され」


「うんわかった」


セレスティアの珍しく真剣な雰囲気にエキドナも姿勢を正して向き合った。


「ドナ氏は "自身がかつて『エキドナ』とは全く違う人間として別世界で生きていた" と自覚してるであります?」


「イエス」


「"前世の記憶" の中でも、恐らく "前世の自分" の興味関心が強かったものへの記憶がハッキリ残っておりますか??」


「"興味関心" …? う〜んある意味イエスなのかな…」


「フムフム。ではその前世の興味関心が今世の人格にも影響を与えましたかな?」


「……理屈で言うなら、イエス」


「ウムぅ〜?」


エキドナの回答にセレスティアが腕を組み再び首を傾げている。


「"この辺り" はワタクシとドナ氏に差はありませぬなぁ…?」


「ねぇさっきからどうしたのティア氏」


セレスティアからの質疑応答とその反応にエキドナもやや困惑して声を掛ける。


「あのっ…つまり姉さまもティアも "前世の記憶がある" っていう共通点があるんだよね? それの何が引っ掛かるのさ」


我慢出来ず尋ねたフィンレーの質問に対してセレスティアは考え込む動作をしながら答えた。


「そうなんですぞフィンレー殿。ワタクシとドナ氏は前世での面識は無けれども同じ "転生者"。…ですが、な〜んかドナ氏を見てると自分と何かが違うと前々から思ってましてな〜。ウヌヌヌ? ……あっまさかとは思いますが、」


明るい口調でセレスティアが質問する。


「まさかドナ氏ぃ、前世の記憶を主観的に覚えてたりしてませぬか〜?」


「イエス」








「えっ…?」






とても小さな声でセレスティアが信じられないと言わんばかりに呟いて固まった。


「ど、どうしたの…?」


突然フリーズしたセレスティアにエキドナも焦って肩に触れようとし、


ガシッ


逆に強く肩を掴まれエキドナの肩が跳ねる。


「ティア氏!?」


「マジすか」


「えっ」


「"記憶が主観的なもの" という事は、すなわちその時の感情やもしや痛覚なども覚えているという事でありますかぁ!!?」


「そうだよ当たり前でしょ!?」


セレスティアの問い掛けにエキドナも思わず噛みつく。


(忘れた日なんて一日も無かった! 家族の事も、親友の事も全部…!!)


するとエキドナの大真面目な態度を見たセレスティアは両手をパッと放し、かと思えば身体を長椅子に投げ出して脱力するのだった。


「…あ"〜なんかやぁっとわかったでござる…。長年感じていた違和感が」


「リベラ嬢、一体貴女とドナで何が違うというのでしょうか?」


一人自己完結しそうになりつつあったセレスティアにリアムが冷静な声で介入する。


「おっとそうでありましたリアム王子! つまりですな」


飛び跳ねるように起き上がり指で少しずり落ちた眼鏡の位置を整えてセレスティアが解説を始めた。


「ワタクシとドナ氏は "この世界とは全く別の世界の人間だった" 記憶を持つ、いわゆる "転生者" というヤツでござる。…ですが、ワタクシとドナ氏は "同じ転生者" でありますが本質的には "違う転生者" だったという事でありましょう」


「は…?」


「え、なにそれどういう事??」


「つまりこういう事ですぞフィンレー殿、ドナ氏ぃ」


フィンレーとエキドナの顔をセレスティアは交互に見つめた。


「例えるならワタクシという "転生者" は『自分の前世の人生☆』というタイトルのお芝居を傍観していた感覚でして…。すなわち "観客"。つまりは "客観的な記憶" のみでござる」


「えっ!!?」


「そしてドナ氏という "転生者" の場合ですと」


言葉の真意を悟ったエキドナの声を受け流してセレスティアは落ち着いた様子で言葉を続ける。


「『自分の前世の人生☆』というお芝居のステージに立つ "役者" であり、つまり一人の人間として生きていると実感が強い "主観的な記憶" を持っていたのでありまぁす!!」


バァァンとエキドナを指差してセレスティアが断言する。


「ワタクシは所詮 "お客さん" 感覚ですのでごっさ他人事なとお〜い記憶ですぞ。だから知識としては知ってるし覚えてますが感情移入はほぼないであります。実際ワタクシが一番興味関心を持った事柄は "登場人物" がどハマりしていたBL関連ばかりですからBLの記憶が特に焼き付いて影響を与えたでござる」


((BL(それ)以外が焼き付いてほしかった!!!!))


リアムとフィンレーの血を吐くような心の叫びが重なるがそんなミラクルを知らないセレスティアは気にせず解説し続ける。


「ですがドナ氏の場合お芝居に出ている "役者" で… "情報" ではなく "人生そのもの" だからこそ情は湧くし愛着もあって、後悔や罪悪感とかが出るではありませぬか?『やり直したい』とか『帰りたい』とか」


「ッ…!!」


今迄思いもよらなかったセレスティアと自身の "根本的な違い" 。

それ故に生まれた自身とセレスティアの "差" を痛感したエキドナは内心激しく動揺し、言葉を失い、そして、


「なんだ。そういう事だったのか…」


肩周辺に入っていた緊張が解けて思わず脱力する。


「良かった…」


ずっと胸中でセレスティアと自身を比べては焦りや劣等感を抱いていたエキドナはやっと安堵したのであった。


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