物語開幕
現在第一章の改稿作業中です。
矛盾は後日調整するのでスルーして下さい。
改稿済みは第一話と第三話のみなので、読みにくいと感じた方は第二章から入った方が読みやすいかもしれません。
(2021年6月29日)
________***
__一瞬で理解した "私" は愕然とした。
(…うん。落ち着け)
濁流のごとく、走馬灯が脳裏を…否、全身を容赦なく駆け巡って行く。
(落ち着くのだ私)
心の中で言い聞かせてみたが衝撃のあまり効果は無く、心臓がバクンバクンと激しく鳴り響いた。
(普通このまま『うそー!!!?』とか叫んで気絶でもしそうなのになぁ…。修羅場慣れしてしまった…)
思いながら私は死んだ魚の目で遠くを見た。
色々諦めて黄昏ているのだ。
(夕陽が "きれい" だなぁ…。流石はお城から見える景色。深い緑に覆われた大きな山々の間から光が漏れ出てて見惚れちゃう)
「どうかされましたか?」
横からの声にハッと意識が戻る。
現在王族主催のパーティー真っ最中である。
周囲が盛り上がっている中で呆然としているのが不自然だったのだろう、婚約者の王子が私に声を掛けたのだ。
(しまった。つい現実逃避を…)
一旦思考の海から脱却し、私は外の景色から王子達の方へとゆっくり顔を向ける。
先程の声の持ち主たるリアム王子が澄んだ青い瞳で不思議そうにこちらを見つめた。
整った顔立ちといいふわふわの柔らかそうな金髪といい、同年代の女の子達にきゃーきゃー言われそうな美少年だ。
(かわいいなぁ。男の子なのに睫毛長っ!)
「お嬢様、いかがなさいましたか?」
今度はそばに控えていた侍女、エミリーが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
素朴ながら上品な目鼻立ちの若いお姉…お嬢さん? の顔が眼下に迫り、同性ながらちょっとドギマギする。
(わっ、べっぴんさんだ。この人素材が良いからすっぴん&お仕着せじゃなくてメイク&ドレスでもっと "きれい" になりそうだな〜)
あっちへこっちへ呑気に思考を飛ばししながら、私はリアム王子とエミリーの二人に対してにこりと作り笑いを浮かべた。
「少し疲れてしまっただけですわ。でも大丈夫です!」
「えっ…」「!!?」
(なんで王子とエミリーさん、衝撃受けた風に固まってるんだろう…。まぁいいか)
我ながら "前世" 同様に冷めているなと思う。
そう、前世…『前世』だ。
私はついさっき、前世の記憶を思い出したばかりなのである!!!
(にしてもこの光景、どこかで見た気がするな…)
そこでふと、おそろしい仮説が頭をよぎった。
①中世ヨーロッパ風の世界観。
②婚約者は美少年王子。
③いかにもな名前と顔と家柄(注:詳細は後ほど)。
④前世の記憶を思い出す。
__おわかり頂けただろうか?
どうやら私は、いや、せっかくだからこう言うべきか。
『男嫌いが悪役令嬢に転生したらしい』…と。
________***
あの後無難にパーティーをやり過ごして帰宅した私は、エミリーに手早く身支度を整えられ自室に引きこもっていた。
とりあえず状況を確認しようと思い、ベッドで横になりながら情報を整理する。
前世の私は日本生まれ・日本育ちの二十四歳成人女性で……うん、訳あって男嫌いだ。
と言っても男なら誰でも全否定する過激派ではない。
男でも善人が居るのは理解しているし、ちゃんと日常会話や愛想笑いも出来る。
男嫌いの中でもかなりマイルドな方だと思う。
…まぁ "前世" の話はこの辺にして『今世の私』の情報をおさらいしよう。
私は我がウェルストル王国名家の一つ、オルティス侯爵家の娘でまだ八歳の少女だ。
そして三年前の五歳から、王位継承権第一位たるリアム王子と婚約関係にある。
さて、ここで何故今世の私がこの世界の悪役令嬢ポジションに転生したと思ったかを説明させてもらおう。
まず先に言っておくと私は乙女ゲームを実際にプレイした事がない。
ただ前世で某小説サイトや漫画アプリで悪役令嬢転生モノをよく読んでいた、いわゆる読み専なのだ。
男を当てにしない自立した主人公が多い悪役令嬢モノが特に好きだった。
ちなみにそんな乙ゲー未プレイな私が何故前世の記憶を取り戻したのかはよくわからない。
ずっと今の自分に違和感があって考え込んでたらパッと電流が走って…そんな感じ。
あと人格乗っ取り系かと思ったけど微妙。
今世と前世、それぞれ元の人格に差がなかったらしく、今世の自分に前世の記憶が+αで追加され思い出したイメージだ。
熱も出ず混乱せず長年の違和感も消えてむしろスッキリ! である。
にしても『転生』…『転生』かぁ…。
事実を反芻しながら遠い目をして前世の死に際をサラッと思い起こす。
死因はもちろん転生トラックである。
__と、話が逸れたので時を戻そう。
①中世ヨーロッパ風の世界観。
②婚約者は美少年王子。
③いかにもな名前と顔と家柄(注:詳細は後ほど)。
④前世の記憶を思い出す。
先程挙げた私がこの世界の悪役令嬢ポジションと思った理由達だが……主に③について情報を再確認していきたい。
まず名前。
私の名はエキドナ。
エキドナ・オルティス。
……。
"エキドナ" __ギリシャ神話に登場する怪物。
上半身は美女で下半身は蛇で背中に翼が生えた姿をしている。蝮の女という意味。
どんな名前ぇぇぇ!!?
周りは『リアム』とか『エミリー』とかザ・西洋系なのになんで私だけ悪役っぽいニュアンス込められてんの!?
これで悪役じゃなかったらただのDQNだよ前世で言うところの『悪魔ちゃん』だよ!!!
心の中で一瞬荒ぶり……少し冷静さを取り戻してから、私は最後の理由の外見を確認するべくベッドを降りて鏡台へ向かう。
大きな鏡に映るのは金髪金眼の小柄な少女。
何故か顔…声も? 前世と同じなのでもはやゲームの2Pカラー状態だ。
どこぞの雪の女王様を連想させるプラチナブロンドは悪役令嬢の代名詞ドリルではなく、腰あたりまで真っ直ぐに伸びている。
ただ問題は目。正確には目の色だ。
大きく釣り上がり気味の目にはめ込まれているのは強めの黄色。
良く言えば猫の目キャットアイで愛嬌があるかもしれない。
だがしかし、少しでも目付きを鋭くすると……
どこからともなく私の背景にコキンメフクロウ、ワシミミズク、メンフクロウ、ハクトウワシ、ハヤブサ、アフリカオオタカ、トンビとオールスターが集結する。
…………猛禽類だ。
色違いなだけでこんなに雰囲気変わるなんて知らなかったなーあははっ☆ …じゃないよ目付きが前世よりキツくなってんじゃん!!!
どう見ても餌を狙う危ない猛禽類だよぉぉ!!!
…けれど、現状を凹んでいる時間は無い。
『ここが乙女ゲームの世界かも?』以前にそもそも私は男嫌いなのだ。
ちゃっかり婚約者が居る状態で生活なんて無理出来ない。
男と結婚なんて、ヒロイン虐めて罰せられる以上に処刑。
そんな未来なんか一番のバッドエンドだ。
だから私は決意した。
「よし、王子に婚約破棄を申し込んで一人で幸せに生きよう!」