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挨拶

 



永禄五年(1562年) 一月中旬            山城国葛野・愛宕郡 今出川通り 兵法所 吉岡直光




 カンカンカンと木刀と木刀がぶつかる音がした。源田忠兵衛、富樫真十郎の二人が木刀を撃ち合っている。木刀の重み、撃ち合った時の衝撃に慣れようとしているのだろう。二人とも息は上がっていないが額に汗をかいている。

「熱心じゃの。未だ誰も来ておらぬというのに」

 父吉岡又一郎が満足そうに言った。


「あの二人は今年に入ってから良く来ています。二人とも入門して五年、最近めきめきと力を付けてきました。稽古が面白くて仕方が無いのでしょう」

「うむ、そういう時が有るの」

「それに年が明けてから新しい弟子が五人も入って来ました。負けられないという思いも有るようです」

 父が”うむ”、”うむ”と満足そうに二度頷いた。


「やはり新しい弟子が入るのは良いわ。今年も八坂神社で奉納試合を行ったがその成果が出たか」

「それも有りますがやはり例の件が」

 父がニヤリと笑った。

「公方様の新刀流よりも頭中将様の吉岡流の方が上か?」

「はい」

 今度は”うふふ”と父が笑った。


「良い事よ。他流には吉岡流を温いと貶す者も居る。袋竹刀で剣の厳しさが分かるか。兵法が身につくかとな。弟子が増えこの道場が賑わっている事が面白く無いらしい。だが此度の一件で吉岡流の評価が上がった。決して温くは無いとな。他流も文句は言えぬ筈じゃ。頭中将様には感謝しなければならぬ」

 また”うふふ”と父が笑った。そして悪戯な笑みを浮かべて私を見た。


「良く踏み込んで受けたものよ。下手に避けようとすれば大怪我をしただろう。道場には滅多に姿を見せぬが間違いなく鍛錬は続けておる。強くなっておるぞ」

「そのようですな」

 頷くと父も頷いた。

「今年で十四じゃ。随分と体付きも逞しくなった。丈も四尺五寸を越えたわ」

「育ち盛りです。ここ一、二年で五尺を越えましょう。そうなれば力も付きます」

 うんうんと上機嫌で父が頷く。そして真顔になった。


「まあ、技量【うで】は公方様には当分及ぶまい。あのお方も相当に鍛えているからの。だが心構えはどうか。兵法は人殺しの技、刀は人殺しの道具じゃ。されば刀を持ち兵法を志す者は常に生死の狭間に己が身を置く事になる。心に緩みなど許される事では無い」

「はい」

 父の表情に厳しさが増した。

「戯れで木刀を振るう、脅しで木刀を振るうなど有ってはならぬ事よ。相手が名人上手ならその場で殺されているかもしれぬのだ。心の緩み以外のなにものでもない。それを行ったが故にあのような騒動になった。そして今では多くの者が公方様を蔑んでおる。怖いものよ。他人事と思ってはなるまい。我等も心しなければならぬ」

 父の言う通りだ。どれほど技が上達しようと心に緩みが有れば公方様のようになる。 




永禄五年(1562年) 一月中旬            山城国葛野・愛宕郡 西洞院大路 飛鳥井邸 松永久秀




「新年、明けましておめでとうございまする」

 筑前守様が頭を下げた。私も一緒に頭を下げた。頭中将様も”おめでとうございまする”と言って頭を下げた。

「旧年中は色々と御配慮頂き有り難うございまする。頭中将様の御蔭で三好家は何度も窮地を救われました。この事、決して忘れませぬ。また、此度は正四位下に昇進され貫首に成られたとの事、心からお喜び申し上げまする」

 筑前守様がまた頭を下げた。私も一緒に頭を下げた。筑前守様が言った事はお世辞でも大袈裟でも無い。三好家は頭中将様に随分と助けられている。


「いえいえ、こちらこそよしなに願いまする。それより宜しいのでおじゃりますかな? 此処に居て」

 頭中将様が案ずるように言った。

「六角の事は内藤備前守に任せておりまする。備前守からも頭中将様に宜しく伝えて欲しいと頼まれております。お会い出来ない事を大層残念がっておりました」

 頭中将様が顔を綻ばせた。


「いずれは会って親しく話をしたいものでおじゃります。戦の事とか色々と聞きたいと思っていたのです」

「それを聞けば備前守も喜びましょう。そうであろう、弾正」

「はい」

 和やかな空気が流れた。筑前守様も頭中将様も楽しそうに話している。この二人は歳も比較的近い。筑前守様は頭中将様を危険視していないしウマが合うのだろう。


 戸が開いて膳を持った女中達が入ってきた。

「いや、これは」

「直に昼になります。今日はゆっくりして頂きたいものです。話もしたい」

 筑前守様が”有り難うございまする”と言って頭を下げたので私も頭を下げた。女中達が筑前守様、私、頭中将様の前に置くと頭中将様が立ち上がった。そして筑前守様に近付いて腰を下ろすと銚子を取った。


「どうぞ」

 筑前守様が”あ、いや”と慌てると頭中将様が顔を綻ばせた。

「わざわざ陣を抜け出して来てくれたのです。酌ぐらいはしなくては。さあ、遠慮はなされますな」

「畏れ入りまする」

 筑前守様が盃を取ると頭中将様が酒を注いだ。


「弾正殿、一つ参りましょう」

「畏れ入りまする」

 頭中将様が私の盃に酒を注ぐ。注ぎ終わると自らの席へと戻った。後を追って頭中将様の傍に行って銚子を取った。

「失礼致しまする、どうぞ」 

「ああ、済みませぬな」

 頭中将様の盃に酒を注いで席に戻った。


「では」

 頭中将様が盃を一段高く掲げた。筑前守様、私も掲げる。目礼を交わして酒を飲んだ。美味いと思った。このお方と飲む酒がこんなにも美味いとは……。

「ここからは手酌で参りましょう。その方が気が楽で良い」

「左様でございますな」

「真に」

 笑い声が上がった。頭中将様が遠慮無く食べて欲しいと言う。膳の上には煮物、魚、肉、香の物、汁物が有った。汁物の蓋を取る。雑煮だった。一口汁を飲む。美味いと思った。柚の皮が入っている。その風味が良い。これは冷める前に食べなければ。


「筑前守様。この雑煮は美味でございますぞ。熱いうちに食べた方がよろしゅうございます」

「そうか、では私も」

 筑前守様が蓋を取ると頭中将様も”では麿も”と言って三人で雑煮を食べ出した。

「なるほど、これは美味い」

「今日は冷えます。寒い時に熱い汁は何よりの馳走でおじゃりますな」

「出汁が良く出ております。それに柚が」

 三人で熱い雑煮に舌鼓を打つ。あっという間に食べ終わってしまった。腹が温まったせいだろう。酒が一段と美味いと思った。


「昨年の勝利は見事なものでおじゃりましたな。流石は三好家と宮中でも評判でおじゃります。筑前守殿の事も頼もしい、修理大夫殿も立派な跡継ぎを持たれたと皆が口にしておじゃりますぞ」

 頭中将様の言葉に筑前守様が首を横に振った。

「弾正、備前守の御蔭でございます。某一人ではとても……」

「いやいや、そのような事はございませぬ。三好家の跡取りに相応しい見事な戦振りでございました」

 私が褒めると筑前守様が困ったような表情をした。うむ、煮物が美味い。


「ほほほほほ、頼もしい事でおじゃりますな」

「はい」

 私が頷くと筑前守様が益々困ったような表情をした。

「話は変わりますが京を離れる時は山崎だけは押さえられた方が良いでしょう」

「山崎?」

 筑前守様が訝しむと頭中将様が頷いた。


「あそこを押さえれば西から京に入る米を押さえられます」

「なるほど」

「北近江は浅井が押さえておじゃりますからな。その辺りの事も筑前守殿から浅井に頼んだ方が宜しいでしょう。そうなれば六角が北陸から米を得ようとしても簡単には行きませぬ」

 ふむ、浅井、一色の問題も有るが米も不足すれば簡単には摂津に攻め込めぬ。上手い事をお考えになる。


「御教示有り難うございまする」

 筑前守様と共に礼を言って頭を下げた。

「ところで、お怪我の方はよろしいのでございますか?」

 問い掛けると頭中将様が”はい”と笑顔で答えた。

「元々大した怪我ではおじゃりませぬ。それにもう半月以上経ちました」

「しかし幾ら悪ふざけとは言え木刀で殴りかかるとは……」

 筑前守様が憤ると頭中将様が首を横に振った。


「面白くないのでおじゃりましょう。何一つ上手く行きませぬからな」

「六角と畠山は兵を挙げましたが?」

 問い掛けると頭中将様が首を横に振った。

「弾正殿、公方が真に望んでいたのは上杉の上洛でおじゃります。残念ですがそれは叶いませぬ。六角と畠山は兵を挙げましたが公方は不満だった。そんな時に麿が昇進し貫首となる事が決まった……」

 頭中将様が息を吐いた。


「何故昇進したか? その理由を思えば決して喜べませぬ。京を戦火から守るためでおじゃりますからな。しかし外目には近衛の娘を娶り順調に出世している。そう見えるのでおじゃりましょう。少し凹ませてやりたい。面目を潰してやりたい。公方はそう思った」

 筑前守様が”愚かな”と呟いた。その通りだ。愚かでしか無い。本来なら公方の解任騒動が起きてもおかしくはなかった。起きなかったのは解任しても混乱が酷くなるだけだからだ。誰も公方をその地位に相応しい人物だと思っていない。帝も謝罪した公方に相当に不満を漏らしたと聞く。


「昨日の事でおじゃりますが朽木から長門の叔父が出てきて室町第へ年賀の挨拶に行きました」

 思わず筑前守様と顔を見合わせた。

「公方は叔父に京に兵を出せぬかと言ったそうです」

 やはりそれか……。筑前守様の表情が厳しくなった。

「もっとも幕府としての要請では無く公方の思い立ちのようでおじゃりますな。幕臣達の中からもその場で反対する声が上がったと聞きます」


「長門守殿は何と?」

 問い掛けると頭中将様が首を横に振った。

「断りました。朽木はいざという時の公方の避難場所。軽々に兵を出して危うくする事は出来ぬと。もっとも今の時期は朽木は雪が積もり簡単に兵は出せませぬ。叔父は雪が酷いので朽木谷へは向かわず安曇川から淡海乃海に出て大津から京に入ったと聞きました。その事も言ったようです」 

 なるほどと思った。朽木は兵を出さない。分かっていた事だが改めて確認出来た。


「室町第には行きましたかな?」

「はい、此処に来る前に」

 筑前守様が答えると頭中将様が頷いた。

「公方の様子は? 機嫌良く応対してくれましたか?」

「面白く無さそうでした」

 頭中将様が大きく息を吐いた。


「新年早々、嫌な想いをされましたな。陣を抜けて年賀の挨拶にきたというのに……。慶寿院様には年賀の挨拶は機嫌良く受けて欲しいと頼んだのですが……」

 頭中将様が息を吐いた。忠告が無になった。そんなやるせなさが有るのだと思った。「あまりお気になさらないで下さい。歓迎されるとは思っておりませんでしたので……」

 私が言うと筑前守様が頷いた。しかし頭中将様は首を横に振った。


「挨拶は人と対する時の基本でおじゃりましょう。挨拶もまともに出来ないと誹る言葉がおじゃりますが挨拶が出来ないというのは相手への配慮が出来ないという事でおじゃります。それを咎める幕臣も居ない。これでは……」

「……」

「家を興す者、人の上に立つ者は気遣いを忘れませぬ。そうでなければこの乱世を凌ぐ事は出来ないというのに……」

 頭中将様が息を吐いた。幕府が振るわぬのも当然という事か。

 



永禄五年(1562年) 二月中旬            山城国葛野郡    近衛前久邸  飛鳥井基綱




 貫首となって一月が経った。今のところ特に問題は無い。新たに頭弁になった甘露寺経元とも上手くやっている。弁官には新たに烏丸光宣が権左少弁に中御門宣教が右少弁に任じられた。烏丸権左少弁は俺と同い年なんだがどういうわけか俺の事を酷く恐れている。俺と目を合わせるのを避けるんだよ。困った奴。大丈夫かな。もう一人の中御門右少弁は今年で二十歳だ。父親が早く死んだせいで官界へのデビューが遅くなったらしい。真面目で悪くない。


 そろそろ頭弁に戦の事を話した方が良いかもしれないな。重蔵からは最近六角、畠山の間で使者の往復が増えてきたと報告があった。いよいよ戦だろう。多分、頭弁は三好が負けるとは思っていないだろう。事前に教えておけばその時が来ても動ぜずにすむ。頭弁は年齢も三十に近いし人物もしっかりしている。周囲の信望も厚い。この男が動じなければ勧修寺左少弁、烏丸権左少弁も大丈夫だ。それと権右中弁の柳原淳光。こいつは俺には近付かないが頭弁には一目置いている節がある。


「殿」

 隣に寝ている寿が俺を呼んだ。最近寿は俺の事を殿と呼ぶようになった。そして妙に甘えてくる。

「如何した?」

 問い掛けると寿が無言で抱きついてきた。ほらな。

「何をお考えでしたの?」

「寿の事だ」

 寿が笑いながら”嘘”と言った。


「うむ、嘘だ」

「まあ、酷い。憎うございます」

 笑いながら寿が俺の腕を軽く抓った。

「痛いぞ」

 寿が”ほほほほほほ”と笑いながら身体を寄せてきた。なんで朝倉義景はこの女を離縁したかな。こんなに可愛いのに。


「本当は何をお考えでしたの?」

「仕事の事だ。麿は年が若いし本来なら貫首を務める立場に無い。色々と配慮しなければ上手く進まぬ」

「でも父からは帝の信任も厚く大過なく務めていると聞いております」

「今は問題ない。だが三好が負ければ……」

「……」

 寿は無言だ。厄介な事になるのは寿も理解している。


 直に三月になるな。そろそろ田植えの準備だ。となるとやはり早めに勝負を掛けてくるだろう。

「遅くとも此処一月くらいでそうなると思わなければならぬ」

「はい」

 弓矢の準備は整った。まきびしも大丈夫だ。米の値段も上がっている……。上手くいけば六角、畠山を米で締め上げる事が出来る。


「その時が来たら使者を出す。御台所、太閤殿下と共に宮中に逃げよ。養母上のところなら安全だ」

「毬もですか?」

「そうだ、御台所も危ない。小侍従が懐妊しているからな」

 寿が頷くのが分かった。進士にとって今一番邪魔なのは毬だ。


「公方様はその事に気付いているのでしょうか?」

「いや、気付いておじゃるまい。公方の頭にあるのは三好を討つ、それだけだ。その陰で様々な思惑が動いている事など気付かぬだろうし関心もおじゃるまい」

 寿が息を吐いた。頼りないと思ったのだろう。同感だ。義輝は自分の思いに夢中で周囲に関心を持たない。だから周りが勝手に動くのだろう。或る意味極めて扱い易い男なのだろうな。 


 


永禄五年(1562年) 二月中旬            山城国葛野・愛宕郡 西洞院大路 飛鳥井邸 甘露寺経元




 頭中将の邸を訪ねると頭中将自身が出迎えてくれた。

「良く来てくれました」

「いえ、お招き有り難うおじゃりまする」

「さあ、中へ」

 頭中将が手を取らんばかりに迎え入れてくれる。恐縮しながら邸の中へ入った。頭中将の後を歩く。背はそれほど高くない。だが背中にはしっかりと肉が付いていると思った。ひ弱さは何処にも無い。同い年の烏丸権左少弁とは全然違う。


 案内されたのは小さな部屋だった。既に火鉢が有り部屋の中は温かかった。頭中将と向き合って座った。

「夜遅くに御足労頂きました。心から御礼申し上げる」

「いえ、他聞を憚るとの事なれば已むを得ませぬ」

 頭中将が頷く。私も頷いた。


「これから話す事、他言は無用に願いまする」

「承知しました」

 また二人で頷いた。

「三好、畠山、六角の戦が始まって半年が過ぎました」

「はい」

「近々、大きな動きが出ると思います」

「……」

 身が引き締まった。用件はこれか。


「三好が敗れまする」

「なんと……」

「畠山と対峙する三好豊前守殿が敗れましょう。討ち死にという事もあるやもしれませぬ」

「まさか」

 声が掠れた。百戦錬磨の豊前守が敗れる? 確かに昨年の末には遅れを取ったが……。待て、戦の帰趨を見る目において頭中将を凌ぐ者は居ない。武家も怖れる程なのだという事を忘れてはならぬ。 


「その場合、三好は京を捨てるかもしれませぬ」

「捨てる?」

 思わず問い返すと頭中将が頷いた。

「京は守り辛い所でおじゃります。筑前守殿には大敗した場合は京を捨て摂津辺りで態勢を整えた方が良いと伝えておじゃります」

 唾を飲み込んだ。負けた後の算段までしている。頭中将は相当前から三好が負けると想定していたのだと思った。そして三好と緊密に連絡を取り合っている。


「三好が負ける……」

「最後は勝ちます」

 最後は勝つ。つまり京の放棄は一時的なものか……。

「それは何時頃に?」

「さあ、年を越す事はおじゃりますまい」

 一年か……。長いのか、短いのか……。京を捨てる程の大敗となれば後方に居る修理大夫も前に出てくるだろう。となれば……。


「修理大夫殿が前に出れば京の回復はあっというまではおじゃりませぬか?」

 頭中将が”うふふ”と笑った。

「修理大夫殿は病でおじゃります」

「まさか、先月は連歌を催しましたぞ」

 頭中将がまた”うふふ”と笑った。


「畠山、六角の目を誤魔化そうと必死でおじゃりますな」

 振るえが走るほどの恐怖を感じた。修理大夫の病、秘中の秘の筈。何故それを私に教えるのか……。

「麿に、何をせよと?」

 頭中将が三度”うふふ”と笑った。

「驚かないで頂きたい。慌てふためかれては困ります。それと蔵人所を落ち着かせて頂きたいのです」

「……頭中将殿は?」

 問い掛けると頭中将が苦笑を浮かべた。


「三好が敗れ京を放棄するとなれば動き出す者がおじゃりましょう。そちらの相手をする事になるかと」

 なるほど、万里小路か……。

「麿は敵が多いですから」

 確かに。二条様、幕府……。なんと不敵な。頭中将は怯えるどころか笑みを浮かべている。

「この事、帝はご存じで?」

 訊ねると頭中将が頷いた。


「全てご存じでおじゃります。頭弁殿に話す事もお伝えしました」

 やれやれ、それでは断る事は出来ぬな。

「分かりました。蔵人所が混乱する事は麿も望む所ではおじゃりませぬ。そちらは何とか抑えましょう」

「よしなに願いまする」

 頭中将が頭を下げた。なるほど、そうか。前【さき】の頭弁では蔵人所が混乱する。だから参議へと昇進させたか。万里小路だからというわけでは無いのだな。苦笑いが出そうになって慌てて堪えた。

 



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