群雄
永禄四年(1561年) 三月上旬 山城国葛野・愛宕郡 西洞院大路 飛鳥井邸 松永久秀
「遅いな」
三好日向守長逸殿が顔を顰めて呟いた。
「もう直でしょう。先程ざわめきがありました。宮中からお戻りになられたのだと思います」
私が宥めると日向守殿が”フン”と鼻を鳴らした。そして白湯を一口飲む。直ぐにトントントンと足音が聞こえてきた。日向守殿と顔を見合わせた。緊張している。豪胆な日向守殿でも中将様に会うのは容易な事ではないらしい。その事が少しだけ可笑しかった。
カラリと戸が開いて中将様が部屋の中を見た。十三歳、小柄だが体付きはしっかりとしている。そして表情にも子供らしさはない。公家の持つ弱々しさは何処にも無かった。二、三年経てば背も伸び精悍さを増すだろう。
「お待たせしたようでおじゃりますな。お許し下さい」
そう言いながら部屋の中に入ってきた。
「いえ、中将様が忙しい事は我等も分かっておりまする」
中将様が座って威儀を正した。
「呼び立てたのは麿におじゃります。にもかかわらず待たせるような形になった。礼を失しておじゃりましょう。改めてお詫びします。この通りです」
中将様が頭を下げた。
「左程に待ったわけではありませぬ。どうかそのような事は……」
日向守殿に視線を向けると日向守殿が顔を顰めた。
「左様、弾正の言う通りにござる。どうか、頭をお上げ下され」
中将様が頭を上げたのは日向守殿の言葉が終わってからだった。随分とこちらに気を遣っている。女中が現れた。我等の前にあった茶碗を新しい茶碗に替えた。中には茶色い水が入っている。香りからするとゲンノショウコらしい。女中は中将様にも茶碗を置いて立ち去った。中将様が一口飲み”ホウッ”と息を吐いた。私も一口飲むと日向守殿も一口飲んだ。
「日向守殿はこの邸は初めてでおじゃりましたな」
「はい、今日は弾正が中将様に呼ばれたと聞いて某も同道致しました。御迷惑でございましたか?」
中将様が”いいえ”と首を横に振った。
「歓迎致しますぞ。これからは何時でも遠慮無く訪ねて欲しいものです」
「それは、有り難うございまする」
日向守殿の声が硬いと思った。まあ何度か命を狙った相手に歓迎されても素直には喜べぬか。今日、此処に来たのも私と中将様が親しい事を危うんでの事……。
「御成の準備で忙しいのでおじゃりましょうな」
”それは”、”まあ”と私達が答えると中将様が頷いた。
「順調ですかな?」
「大凡のところは。後は細かいところを詰めれば……」
「月末【つきすえ】の式日には間に合いましょう」
私と日向守殿が答えるとまた中将様が頷いた。ふむ、用件は御成についてか……。
「堂上の方々は如何でおじゃりますかな?」
「大勢の方々が参加して下さる事になりました。戦が無くなると皆様喜んでおります。賑やかな御成になりましょう」
「ま、その分費えは掛かります」
日向守殿の言葉に中将様が”ホホホホホホ”と笑った。
「筑前守殿の晴れ舞台です。多少の出費は已むを得ますまい」
その通りだ。公家達を呼んで派手に行おうというのは中将様の御発案。殿も筑前守様も三好の勢威を示す機会だと大いに乗り気だ。日向守殿も中将様の御発案という事に拘ってはいるが案そのものには賛成している。
「今日、お呼び立てしたのは麿も其処に加わりたいと思ったのです。久し振りに筑前守殿にもお会いしたい。席を用意して頂けますかな?」
「真でございますか? お忙しいのでは?」
「……」
中将様は笑みを浮かべたまま答えない。頭中将は帝の側近、そして中将様は帝の御信任が厚い。簡単には傍を離れる事など出来ない筈だが……。事実一度は断られたのだ。
「帝からそのような御指示が?」
まさかと思った。そのような事が……。日向守殿の問いに中将様は笑みを浮かべたままだ。
「……如何でおじゃりましょう。難しいですかな?」
日向守殿と顔を見合わせた。緊張している。自分も同様だろう。中将様は何も答えない。つまり、帝の命なのだと思った。私が頷くと日向守殿も頷いた。
「そのような事はございませぬ。中将様の御臨席を頂ければ皆も喜びましょう」
「弾正の申す通りにございます」
私達が答えると中将様が”よしなに願いまする”と言って頭を下げた。胸が震える。帝が今回の御成に関心を持っている。中将様を臨席させるという事は単純に平和が来ると喜んでいるわけではないのだろう。中将様は御成は三好を欺く欺瞞だと帝に伝えている可能性が高い。帝は三好と足利の動向に危惧している。つまり畿内で戦が起きる可能性が有ると見ているのだ。それは中将様の見立てでもあるのだろう。
「麿の話は以上ですが日向守殿が居られるのです。今少しお話ししたいと思いますが如何でおじゃりますかな?」
「それは、願っても無い事で」
日向守殿がつっかえながら答えると中将様が顔を綻ばせた。ふむ、中将様は日向守殿を忌諱する事は無いらしい。
「それは嬉しい。で、何を話しましょう。遠慮は要りませぬぞ」
中将様が私達を見た。なるほど、折角だから聞きたい事は聞いていけという事か。
「されば、朽木長門守殿が織田から嫁を貰うと聞きました。中将様のお口添えが有ったと聞きますが真でございますか?」
日向守殿が問うと中将様が苦笑を漏らした。
「その話を何処で聞かれましたかな?」
「……」
私と日向守殿が無言でいると今度は”クスッ”と笑った。
「先日、細川兵部大輔殿が見えましてな。その時に長門の叔父上の嫁取りの話になりました。麿が口添えしたというのはその時に初めて出た話だと思うのですが……」
「……」
答えられずにいるとまた中将様が”クスッ”と笑った。
「事実でおじゃりますよ。麿が口添えしました」
「中将様が織田と親しいのは知っていましたが……」
朽木と織田では身代が違い過ぎる。にも拘わらず話が纏まった。
「まあウマが合う、そんなところでおじゃりますな」
ウマが合う? 日向守殿を見た。難しい顔をしている。中将様が”クスッ”と笑った。
「そのように難しく考える事はおじゃりますまい」
日向守殿が”いや、それは”と言うと中将様が”ホホホホホホ”と声を上げて笑った。
「尾張一国の統一も未だというのに僅かな手勢で上洛した。妙な御仁だと思って興味半分に会ったのです。なかなか面白い人物でおじゃりましたぞ」
日向守殿が私を見た。訝しんでいると思った。
「それに運も良い。誰もが負けると思った今川に勝った」
「中将様のお力添えが有ったのではありませぬか?」
日向守殿が問うと中将様が苦笑を浮かべられた。
「弾正殿からも似たような事を言われましたが麿は何もしておりませぬ。買いかぶりでおじゃりますな」
「……」
我等が無言でいると”困ったものです。なかなか信用されない”と中将様が笑った。
「いや、疑うわけではありませぬ。ですが……」
「左様、我等は中将様を良く知っておりますので……」
中将様がゲンノショウコを一口飲んだ。
「朽木も困っていたようです。幕府との関係が思わしくない。その所為で幕府に嫁を世話して貰えない。だからといって嫁を世話してくれと頼めば更に蔑みを受けかねないと」
「……」
「それで麿に相談したのです。驚きましたな。其処まで関係が拗れているとは思いませんでした。麿にも責任の一端は有る。無碍には出来ませぬ。それで織田に話してみようとなったのです。織田は親族が多い、一人くらい出してくれるかもしれぬと」
「……」
我等が無言でいると中将様が”クスッ”と笑った。
「やれやれでおじゃりますな」
「……」
「まあ織田殿もこれからが大変でおじゃりましょう。今川との因縁はより強まった。そして美濃の一色とも敵対している。一色は六角と同盟を結びましたから対織田戦に総力を挙げられる。東と北、両方の敵を相手にするのです。楽ではない」
確かに、東海道はこれからが大変だろう。織田にとって年頃の娘は何かと使い道が有る筈だ。にも拘わらず織田は朽木に娘を出した。やはり織田は中将様を重視している。如何しても桶狭間へと視線が向く。
「美濃の一色治部大輔殿が左京大夫に推挙された事、御存知でおじゃりますかな?」
「存じております。六角と同盟を結びましたからな、それへの褒美でございましょう」
日向守殿が冷笑すると中将様が“ほほほほほほ”と笑った。
「とは限りますまい。織田と一色は不倶戴天の仲、織田と朽木の婚姻を不快に思う人間が一色を左京大夫に推挙する事を公方に勧めた。麿はそう思っております。まあ表向きは同盟への褒美でしょうが」
なるほど、同盟を結んだ事を評価するなら推挙はもっと早くても良い。幕府内部での織田、朽木への反感は相当に強いのだと思った。
「ところで陰陽師の件ですが」
話題を変えると中将様が顔から笑みを消した。
「驚きました。まさか呪詛など……、余りに愚か過ぎる」
「陰陽師が殺されました」
日向守殿の言葉に中将様が頷いた。
「御成の前でおじゃります。皆が平和が来ると喜んでいるのです。大事にしたくないと思い春日局殿に止めさせて欲しいと頼みました。陰陽師が殺されたのはその直後でおじゃりましたな」
「口封じだと噂が流れております」
「ええ、麿が命じました」
シンとした。まさか認めるとは……。日向守殿も驚いている。中将様が”フフフ”と笑った。
「そのように驚く事はおじゃりますまい。養母は麿にとって命の恩人なのです。日向守殿はお分かりでおじゃりましょうな」
「それは……」
「今回は警告でおじゃります。だから陰陽師だけで留めました。次に養母の命を危うくするような真似をすれば容赦はしませぬ」
警告か……。これは幕臣達へだけではない。我等に対する警告でも有るのだろう。
「西三河の松平が公方様に馬を献じましたが」
私が問うと中将様が頷いた。
「そのようでおじゃりますな。今川の混乱が酷いと見たのでしょうが自立するようです。三河は混乱するかもしれませぬな。今川は苦しい立場になる」
織田と結ぶのだろうか? となると織田は今川との間に楯を得たという事になる? それとも織田と今川の関係はより悪化する? 判断が難しいところだ。
「織田が松平を如何するのか。喰えば織田の勢力は一気に三河一国に広がりましょう。手を結ぶのなら北へという事になりますが……、悩ましい所でおじゃりますな」
十分にそれも有り得る事だ。長尾、北条、武田、今川、織田、一色、それに松平。一体どうなるのか……。
中将様が”そうそう”と膝を叩いた。
「忘れていました。御成の件でおじゃりますが太閤殿下にお声を掛けましたかな?」
中将様が心配そうな表情をしている。思わず日向守殿と顔を見合わせた。
「いえ、掛けておりませぬ。お身体が万全では無いと伺っておりますので」
私が答えると中将様が”ふむ”と頷いた。
「お誘いしては? 大分具合は宜しいようでおじゃりますぞ。ずっと邸に居るので鬱屈しているようです。介添えとして寿殿と御台所も一緒にと誘えば臨席なされるのではないかと思います。その時は麿も傍に付きましょう」
日向守殿に視線を向けると日向守殿が頷いた。
「分かりました。では太閤殿下に御臨席を願いまする」
「臨席されるかは分かりませぬが声を掛ければ太閤殿下もお慶びになりましょう。それに華やかな宴には美しい花がなければ。そうではおじゃりませぬかな?」
”それは”、”まあ”、私と日向守殿が苦笑いをすると中将様も”ホホホホホホ”と笑った。ふむ、太閤殿下と公方様の関係は今一つだ。太閤殿下に三好が近付く良い機会になる。不遇な時こそ人の恩を感じるものだからな……。
永禄四年(1561年) 三月上旬 山城国葛野・愛宕郡 西洞院大路 飛鳥井邸 飛鳥井春齢
カラッと戸を開けて兄様が入ってきた。そして座ると溜息を吐いた。
「大丈夫だった?」
「うむ、心配は要らない」
「でも、三好日向守が来たのでしょう」
兄様が”ああ”と言って頷いた。兄様を殺したがっている日向守、まさか兄様を訪ねてくるなんて……。
「それに溜息を吐いてた」
兄様がまた溜息を吐いた。
「桶狭間の件を疑われている」
「やっぱり……」
「それと織田と朽木の結婚も」
「そうよね」
身代が違い過ぎるんだもの。私にだっておかしいと分かる。
「それに松平が公方に馬を献じた。その事も気にしていた。確証は無いが東海で動きが出つつ有る。そう見ているのだろう」
「……」
「まあ疑われても構わぬ。今の時点で織田を上洛させようと考えているなどとは誰も思うまい。稲葉山城は難攻不落だからな。だが鬱陶しい事だ」
疲れているのだと思った。あ、いけない!
「織田から文が来てるわ」
文箱から封書を取り出して渡すと兄様が文を取り出して読み始めた。表情が厳しい。そして息を大きく吐いた。
「松平から同盟を結びたいと打診が有ったそうだ」
「!」
凄い、兄様の予想通りになった。でも……。
「大丈夫? 疑われない?」
「大丈夫だ。上洛を疑うのはまだ先、稲葉山城が落ちてからだ」
「なら良いけど……。疲れていない?」
「大丈夫だ」
本当かしら? 毎日出仕して遅くに帰ってくる。疲れている筈よ。遠慮して欲しくないな、疲れているって言って欲しい。
「それよりだ、三好は危ないぞ」
呟くような口調だったけど兄様の表情は厳しかった。
「十河讃岐守の病を疑っていないようだ。弾正も日向守も幕府を警戒する素振りがない。あの二人、連中よりも麿を警戒している。麿と織田の関係をな」
「……本当に病じゃないの」
兄様が私を見た。厳しい目をしている。
「たとえそうでも疑うべきでおじゃろう。畠山を破り、六角は浅井に敗れた。そのせいでおじゃろうな、彼らを甘く見ているとしか麿には思えぬ」
「……」
「十河讃岐守は和泉国で松浦家に養子に行った息子の後見をしている事になっている。多分、そういう事にして療養しているのだろうが状態は良くないようだ。重蔵の報せでは外に出かける姿を見た者が居ないらしい。有り得ぬ事だ」
「……」
「もしかすると讃岐守は修理大夫に自分の本当の病状を報せていないのかもしれぬ。だとすれば弾正、日向守に危機感が無いのも頷ける。讃岐守も毒を盛られたとは思っていないのだろう。つまり三好家全体が油断しているという事だ。益々危ない」
そんな事が有るのかしら。
「或いは三好も関東の情勢に気を取られているのか……」
「……」
「あの二人、関東の事には一言も触れなかった。敢えて触れなかったのなら相当に気にしているのかもしれぬ……」
兄様は俯き加減に何かを考えている。有り得るのだと思った。兄様が顔を上げた。
「九兵衛! 九兵衛は居らぬか!」
兄様が声を張り上げた。直ぐにタタタタタと軽い音がして戸が開いた。
「これに」
「入れ!」
「はっ」
兄様の声が鋭い。嫌でも身が引き締まった。九兵衛が部屋の中に入って戸を閉めた。
「九兵衛、松平がその気になったぞ」
「真でございますか?」
「うむ、とうとう耐えられなくなったらしい」
兄様が笑うと九兵衛も笑った。
「いよいよ美濃攻めでございますか」
「そういう事になるな。知っていると思うが日向守と弾正は麿が織田と朽木の縁結びをしたと知っていた」
「幕府では朽木の件で細川兵部大輔様と進士主馬頭様が公方様の御前で激論になったと聞いております」
「三好に筒抜けとも知らずにか?」
兄様の口調が冷たい。蔑んでいるのだと思った。
「まあ良い。これで幕府も朽木に無理を言うのは少しは躊躇おう。それに三好も朽木と幕府の間には相当に溝が有ると見た筈。朽木を危険視はすまい」
「その代わり、中将様を危険視しております。日向守の来訪はそれ故でございましょう」
九兵衛が心配している。やっぱり不安、大丈夫かしら。
「麿には兵は無い。それに親足利でもない。本来三好にとって麿の危険度は小さいのだ。弾正、日向守が麿を危険視するのは六角、畠山を侮っているからでおじゃろう。もうじき麿に構っている様な余裕は無くなる」
「でも織田が上洛すれば……」
私が口を出すと兄様が小さく笑った。
「確かにそうだな。危険視されよう。逃げねばならぬという事も十分に有り得る。だが未だ未だ先の事だ。今の段階では何も見えぬ」
その時には尾張に行くのだと思った。織田弾正忠の軍勢と共に上洛するのだろう。行って欲しくないけど京に居れば間違いなく殺されると思った。
「それにしても、兵部大輔様、中々のお働きでございますな」
九兵衛の声が笑っている。
「そのために餌を与えたのだ。役に立って貰わなければ困る」
「御意」
兄様の声も笑っていた。二人とも怖い。細川兵部大輔、感じの良い人だったけど兄様と九兵衛にとっては利用出来る役に立つ道具なのだと思った。
「朽木領で噂を流すように重蔵に伝えて欲しい」
「はっ、どのような噂を?」
「浅井が兵を整えつつ有る。意外に野良田の戦いでの損害は少なかったようだと」
「朽木領だけで宜しいのでございますか?」
兄様が頷いた。
「噂は徐々に高島五頭に広がれば良い。一気に広めると訝しむだろう。讃岐守の死後でも良いかと考えていたが存外六角の動きは速いかもしれぬ。噂が追いつかぬようでは意味が無い。御爺と長門の叔父御には麿から文を送る」
九兵衛が”なるほど”と頷いた。
「六角は宜しいので?」
「うむ、構わぬ。それよりも浅井領で噂を流して欲しい。六角が畠山と組んで三好と戦おうとしている。だがその前に浅井を一叩きしようとするかもしれないと」
「なるほど、浅井がそれに備えれば……」
「浅井が戦支度をしている。朽木は高島五頭に協力して備えようと声を掛ける事が出来る。そして六角には五頭と協力して浅井に備えると言える。六角も無視は出来まい」
九兵衛が”確かに”と頷いた。
「他には何か?」
兄様が首を横に振った。九兵衛が一礼して部屋を出て行くと兄様が溜息を吐いた。
「小さい、弱いというのは惨めだ。どうしても周囲に振り回される」
「朽木の事?」
兄様が頷いた。
「三好との戦に巻き込まれれば碌な事にはならない。なんとか此処を凌がなければ……」
「……」
「楽では無いな」
「うん」
頷くと兄様が大きく息を吐いた。
「織田殿に文を書く。松平との同盟の件、目出度いとな。織田と朽木の縁談で京は幕府も三好も大騒ぎだと伝えよう。直に朝廷でも騒ぎになる。そして松平との同盟が公になればその事も騒ぎになるだろうとな。織田殿も喜ぶだろう」
「喜ぶの?」
問い掛けると兄様が頷いた。
「先年、上洛した時は誰も織田殿に注目はしなかった。小さく、弱い存在だと思われたのだ。だが今は違う。織田殿はもう無力ではない。戦国の群雄の一人だ。その一挙手一動に皆が注目する」
そうよね、私だって織田なんて気にした事は無かったんだから。でも今では三好も幕府も無視出来ない存在になっている。だから幕府も三好も兄様との関係を危険視するのだろう。……あまり無理はして欲しくないな……。




