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雲海のオデッセイ  作者: 砂川赳
第十章 邪教の領域
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見届ける者達

本日二話目の更新です。

 ソロンが帝都へ到達して数日後。

 下界を進み続けた呪海の王は、昇竜の門へとたどり着いていた。


 街道から外れた荒涼たる大地に、その大穴は穿(うが)たれていた。

 大穴から吹き出す巨大な空気の渦が、絶え間なく回り続けている。周囲に響き渡る轟音(ごうおん)は、耳をつんざかんばかりだ。


 見た目は巨大な竜巻だが、渦は移動もせず、ただその場に在り続けた。昼夜を問わず、時代を問わず、渦は有史以前よりこの地に存在していたという。

 渦はその身を震わせながら、上空へ向かって昇っていく。それは白雲をも貫き、上界にて雲の柱と呼ばれるものに転じていくのだ。


 そして、呪海の王は今まさに昇竜の門へ身を投じようとしていた。

 形の定まらぬ巨体が、激しい空気の渦の中へと入り込んでいく。

 常識で考えれば、体を切り刻まれて崩壊するのが関の山だ。

 しかし、上昇する気流を受けた呪海の王は、上界へ向けてゆるやかに浮上していく。その体が崩壊することもない。


 やがて、呪海の王は高く、白雲の彼方(かなた)へと消えていった。



「行ったか……」

「ああ」


 呪海の王の昇天を見届けた男達が、深く息を吐いていた。

 ラグナイ王子レムズと、イドリス国王サンドロスの二人である。


 さしものサンドロスにとっても、呪海の王の追跡は神経をすり減らす仕事だった。なんせ、気まぐれにあの閃光を撃たれたら、一瞬にして自分達の存在が消滅するのだ。

 こうして目の前から危機は去った。

 ……とはいえ、その後の相手をするのは自分の弟達だ。とても喜ぶ気にはなれなかった。


「さあて、後は坊っちゃんとアルヴァさんが、うまくやってくれることを祈りましょう」


 遥かな空を仰ぎながら、ナイゼルは口にした。


「祈るのは早いだろう。俺達でもやれることを探すぞ」


 サンドロスが言えば、ナイゼルは得たりと頷く。


「もちろん、考えていますよ」

「ほう、どうする気だ?」

「星霊銀を探します。帝都の神鏡だけで、うまくいくかは分かりませんからね。こちらも手を尽くしておいて、悪いことはないでしょう」

「しかし、どこを当たるつもりだ? 少なくとも、城の宝物庫にはなかったと思うが」

「黒雲下の遺跡を探せば、見つかるかも知れません。手つかずのところも多いようですから」

「黒雲下か……。口で言うほど簡単じゃあないぞ」

「承知しています。ですが、何もせずにはいられません。坊っちゃんのためですから」

「だな。……レムズ王子、そちらでも星霊銀に心当たりはないか?」


 サンドロスは、そっぽを向いていたラグナイ王子へと声をかけた。


「……かつては王都の宝物庫に残っていたが、邪教徒にそそのかされた父が処分したはずだ。奴らにしても、星霊銀を脅威に思っていたようだからな」


 レムズは億劫(おっくう)そうにしながらも返事をする。


「まったく、つくづく面倒なことをする連中だな……」


 サンドロスは溜息をつくが、レムズが続ける。


「だが、国内の遺跡を当たれば見つかるかもしれん。こちらでも捜索してみよう」

「そうか、助かる」

「例には及ばん。邪教の魔物を倒すためだ。それに紅玉の姫君のためとあらば、これしきの労苦を惜しむわけにはいかん」

「報われぬ愛ですか……。いかにも騎士道ですねえ」


 と、ナイゼルが聞こえないようにつぶやいていた。

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