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雲海のオデッセイ  作者: 砂川赳
第八章 帝都決戦
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邪教の儀式

 枢機卿(すうききょう)は神官達を従えながら、皇城の回廊を歩いていた。

 枢機卿の手には、黒い結晶が大事に抱えられている。例によって、神官達はいずれも赤い装束をまとっていた。

 帝都には似つかわしくない奇妙な集団を見て、城内の住民達が奇異の目を向ける。


 もっとも、恐れるような視線ばかりで、声をかけてくるものはいない。大公の後ろ盾を持った神官達を忌避しているのだ。後ろ盾がなくば、確実に不審者として追い出されていたであろうが……。

 何にせよ、凡俗が何を思おうと知ったことではない。自分達は選ばれし者。これから、始まるのは真の神へと通じる儀式なのだ。

 そう――神竜教会のようなまやかしの神とは違う真の神である。


 やがて、一行は前庭へと達した。

 西の貴族街に立ち昇る火柱が、相も変わらず未明の帝都を照らしている。必死の消火活動の甲斐もあって、ようやく火勢も衰えてきたようだ。

 少し気は散るが、儀式には問題ないだろう。


聖紋(せいもん)を刻みなさい」


 枢機卿は神官達へ最初の指示を下した。


「承知」


 神官達は静かに返事をし、それぞれの配置へと動き出す。

 まずは聖紋を、前庭の地面へと刻み込むのだ。皇城の前庭を儀式に使えるとは贅沢なことだ。それについては、大公に感謝せねばならない。

 神官達は明かりを頼りにしながら、血で紋様を描いていく。前庭の樹木には、蛍光石の明かりが据えつけられていた。さすがに暗闇で儀式を行うわけにはいかないので、これも都合がよかった。


 枢機卿も誤りがないように、神官達の作業を指導し監督する。

 聖紋とは神との交信に用いる紋様のことである。いわゆる魔法陣に似た紋様の中に、(いにしえ)の文字を書き込んでいくのだ。

 この紋様と文字の組み合わせが、神への請願となる。ゆえに誤りがあってはならなかった。


 聖紋を刻み終われば、次は捧げ物である。

 神への請願を行うのに必要なのは、やはり生贄だ。

 ……といっても、今この場で生贄を捧げる必要はない。

 事前に生贄は捧げられ、結晶となっているためだ。捧げられた者達も、神の奇跡の材料となれるのだから本望というものだろう。


 枢機卿は手に持っていた結晶を、聖紋の中央へと配置した。

 ザウラスト教団の秘術に用いるカオスの結晶……。透けて見える内部には、赤黒い霧のような何かが渦巻いていた。

 まるでカオスの神が鼓動しているかのように。

 枢機卿はこの赤黒い霧を目にする度に、恍惚(こうこつ)とした気分になるのだ。


 結晶から離れた枢機卿は、聖紋の端へと移動した。それにならって、神官達もそれぞれの配置へと着いていく。

 枢機卿と神官達が、聖紋にそって黒い結晶を囲む形になった。

 前庭が静寂に包まれる。

 今、ザウラスト教団に伝わる(いにしえ)の儀式が始まろうとしていた。


「――――」


 枢機卿は呪文の詠唱を開始した。それに呼応して神官達が呪文をつむいでいく。

 余人には理解できぬ神秘の呪文。


 魔法を行使するために呪文を唱えるのは、おとぎ話の中だけ。魔法とは自らの精神と魔導物質を共鳴させるものであり、何かに呼びかけるわけではないからだ。

 少なくとも、それが現代の帝国やイドリスにおける魔道士の常識である。

 ところが、ザウラスト教団の秘術にはそれが当てはまらない。今唱えられているのは、カオスの神へと呼びかける正真正銘の呪文なのだ。


 枢機卿と神官達の体から魔力があふれ出す。あふれた魔力は聖紋の中央――結晶の元へと流れ込んでいく。

 魔力を引き金に結晶を活性化させ、神の化身たる神獣を呼び起こすのだ。

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