11話
短いので今日は2話です
* オリー *
今日は改めて地下水道の居住者たちとの話し合いをすることに。今までは盗賊たちが仕切ってたから、縄張りを侵害する人は居なかったし、地下水道に住もうって人もそんなに多くはなかったらしい。なんせ、邪術師まで居たくらいだ。悪い噂は絶えない。せいぜい、街の南部にある貧民街にも住めなかったような人間くらいしか入ってこなかったそうな。それも地下の入口付近とか、割れ目があって光が差し込むような場所に限ってね。
燃料が不足しがちなこの世界では常時ろうそくなり松明なりの灯りが必要だから、そもそも地下は人の住む世界じゃないんだわ。そういうのを潤沢に用意できる、大手の盗賊はその限りではないかもしらん。他所の地方だと夜目の効く種族や地下をものともしない他種族が居て、そういうのが地下を支配してるらしいのだが、古王国周辺にはあまり居ないらしい。もうちょっと寒いか温かい地域なら、街の地下にネズミ頭が巣食ってることが時々あるそうで。
でまぁ、安定してたのが、先日の騒動で盗賊と邪術師両方が一気に居なくなってしまった。結果、元盗賊の財産を狙う者、邪術師の痕跡から何かを得ようとする者、地下に勢力を伸ばして犯罪をしようとするもの、単なる宿無し、浮浪者などなどがあちこちから侵入してこようとしているらしい。一時的なものだとは思う。
そのことをオータル卿に相談したら、先に昨日の高級官僚相手にやらかしたことに対して話があると言われた。流石にあれを正当防衛と言い張るのは無理があるって。僕はこの国で市民権持ってない、いわばアウトローなので法の庇護下に無いからしゃーないわな。
それが僕も知らない内に地下水道管理官とかいう役職を与えられていて(伯爵に地下の所有を願い出て、それが許可された時点で僕から申請があったという扱い)、行政上既に地下水道全域が管轄下になっていたらしい。勿論、僕には市民権が同時に付与されていたことになっている。知らなかったぜ!
そのため、犯罪防止とかまで僕の責任になるとか無茶苦茶を言われた。いわば、自分の家の管理は自分でおやんなさいという話。そうは言っても都市に匹敵するサイズの広さがある迷宮を個人が管理出来るわけもない。抗議したところ、流石に地下がもう一度アンタッチャブルな領域になるのは騎士団も衛士もお断りらしく、一応協力してもらえることにはなった。伯爵様もそれをお望みだろうしね、と。
この話を受けたのならあの高級官僚に対しての行為はなかったことにしてもらえるって言ってもなぁ。それ実質拒否権無いじゃん。それに、相手は高級官僚でしょ、流石に行政上大きな変更は彼の意見を無視して通せないのでは、と聞いてみた。
「本件は最終承認済みであります。本来なら高官の認可が必要でしたが、あいにくと昨日から病気で休暇をとっておられ、さらに体調が悪化して執務に耐えられそうにないので引退する運びになったそうです」
「あーそういうことニャ……」
やらかしすぎたことと、横暴な性格で内部に味方の少ない人だったので引退してもらうのだと。元々家宰さんがねじ込んだ人事だったらしくて、伯爵様としてはいつクビにするかタイミングを図ってたほどらしい。ちなみに本人は昨日の影響でまだ起き上がることも出来ないそうな。貴族と言っても下級だし、あの醜態なんで家督を子供に継がせた方が良いってことにもなりそうなんだってさ。ちょっと可哀想。
そうは言っても一人で管理なんて出来ないので、実際地下水道をどう活用するかという話もすることになった。実際どう協力してくれるのか決まってないし。まだ日時も定かではないものの、行政の会議を行うから出席してくれってさ。まぁしゃーあないのかね。なし崩しにこの都市の運営に組み込まれてる感じがするな……。
とりあえずは地下全体を回って、新たに人が入り込まないようにすることと、出入り口がいくつあるのかを把握することになった。人手不足なんでヒューを使ってくれて構わないってさ。
「うへぇ……」
それを聞かされた時のヒューの言葉がこれだった。気持ちはわかる。
「あんたに着いてくことに文句が有るわけじゃねえんだよ。それとは別で厄介事が出たら呼びつけられるのがしんどいんだ」
そりゃそうだ。僕もそんな状態は嫌だな。
どの道、他の地下生活者に会う必要があったのも確かなので、そのときに押し出しも効く官憲がいるのはこちらとしてはありがたい。早速着いてきてもらうことにした。




