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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第一章
6/75

6話

残酷描写ありタグが活躍する時が来ました


サブタイトル考えるのが大変なのでシンプルなやつに変更しようと思ってます……

* マリークレスト *



 夜半、静寂を貫く悲鳴を耳にして目を覚ましました。頭がはっきりしていないのですが、悲鳴は二種類あるようです。断続的に続く野太い悲鳴と、もうひとつは恐らく若い男の悲鳴だと思います。

 急を要する事態の可能性もありますし寝間着を着替える暇もないので、長衣を上から羽織って顔だけ天幕から外に出しました。


「ひぃっ、いやああああああああああ」


 胸を刺され、地面に仰向けになった従士を目にしたときはまだ我慢できたのです。醜く焦げて身悶えする姿には我知らず声を上げてしまいました。垂れ幕にしがみついてなんとか倒れるのだけは防ぎましたが。

 なんとか視線を逸らすと、寝る前に会話した若者が腰を抜かしているじゃないですか。


『敵対組織によると思われる襲撃が始まっています。そこで燃えている方が、近くで倒れている方を刺してから襲いかかってきましたので、焼きました。おそらく裏切り者でしょう』


 こんな時なのに白猫は随分と落ち着いています。内容は恐ろしく物騒です。焼きましたって簡単に言われましても。そもそも素直にこの言葉を信じてよいのかどうか。


「姫様、ご無事ですか!」


見覚えのある騎士が血塗れの剣を片手に走ってくる。鎧にも返り血を浴びていて、凄惨な戦いを乗り越えて来たことを物語っている。あれ、鎧? 鎧って寝起きですぐに身につけられるようなものでしたっけ?

 違和感を抱いたことが顔に出てしまったのかもしれません。


「騒がないで頂こう! 貴女には人質になってもらう」


 彼は直ぐ側に来ると、私の手を掴み引き寄せ、剣を首筋に突きつけた。私もとっさに動けずにみすみす捕らえられてしまいました。内心の動揺から、マナが収束せず、上手く魔術を紡ぐことができません。身を守ることもできないとは情けない限りです。


「裏切り者……」


 悔しさに打ち震えながら唇を噛み締めました。このまま賊の手にかかり、辱めを受けることになるのでしょうか。あまりの惨めさに涙が出そうになった瞬間、視界の端を何かが舞い上がります。え、腕?


「姫は手中にあり、無駄な抵……」


 裏切り者が周囲に呼ばわろうとした瞬間でした。


 いつの間にか、すぐ近くまでキジトラの猫が寄ってきていて宙に跳ね上がると、その短い前足を伸ばして、私を捕らえた男に対して爪を振っていたようです。切った瞬間は視界におさめていたはずが目にも留まらぬ鮮やかさで、腕は音もなく切断され血を撒き散らしながら飛んでいきました。まだ剣を掴んでいますね……。

 切られた騎士も痛みを忘れて唖然とするほど鮮やかな切り口です。わずかに私の方が我に返るのが早く、身を捩って騎士に体当たりして離れました。


「腕が、俺の腕が! このクソ猫野郎、死にやがれ!!」


 遅れて痛みがやってきたようで、喚き出しています。しかし腐っても騎士なのでしょう、残った手で腰から短剣を引き抜くとキジトラの猫に襲いかかりました。痛みをこらえ闇雲に短剣を振るうも、猫には掠りもしません。騎士は必死なのですが、猫の方は危うげなく散歩にでも出かけるような足取りでこれをかわしていきます。


「待って、殺してはダメ!」


 猫は私の言葉を一顧だにすることもなく、軽やかに騎士の肩に乗るとその首を刎ねてしまいました。そういえばあの猫とは話が通じなかったような……。

 頭部を失った胴体からかなりの出血があり、避けるひまもなくかなり浴びてしまいました。血臭でクラクラします。すぐにでも汚れを落とし、寝床にもぐりたい気分ですが、周囲は既に訳のわからない乱戦のまま。なんとかこれをおさめる必要はあるものの、身内に裏切り者が居た現状、この人と猫の主従が敵か味方かはっきりさせなければいけません。とはいえ夜襲などという手段を取った以上は、裏切り者はそれほど居ないと思います。


「現状についての説明をお願いできますか。なるべく簡潔に」


 私も血まみれですが身なりに気を使っている余裕はありません。若者の方を見たのですが、眼の前の光景にショックを受けていて、しどろもどろになっているのが言葉を理解できなくてもわかりました。


『私の方からお話させていただきましょう』


 白猫の方は落ち着いた様子でした。

 実際簡潔で上手な説明でした。この白猫は本当に頭が良いようです。

 周囲を囲まれていることを感知して対応しようとしたものの、間に合わず襲撃が始まってしまったこと。見張りに声を掛けようとしたものの片方が裏切り者で対処せざるを得なかったこと。いち早く無力化を始めたキジトラだけど、乱戦が始まってしまうと敵味方の区別がつかないので戻ってきたこと。そこまで聞いたところで横から声をかけられました。


「姫様、ご無事で!」


 先ほどと同じ内容なのでビクっとしてしまいます。そちらに目を向けると、やはり見覚えのある騎士が抜身の剣を携えています。先程の裏切り者とは異なり鎧はなく自らもあちこちに傷を負っている様子。激戦を潜り抜けて来たといったていです。

 いえ、わがままばかりは言ってられません。誰彼疑っていては何も始められません。信頼できる手勢を結集し襲撃に立ち向かわなければ。


「貴方は確かオータル卿?」


 この方はニール騎士団内でも家格が高く、平騎士ではなく十人長だったので辛うじて覚えてました。普段は騎士の方たちとあまり接点が無いので平騎士相手でしたらこうはいかないでしょう。


「はっ、覚えていただけたようで光栄であります。いえそのようなことを言っている場合ではありませぬ。野盗と思われる襲撃が!」


 今度は飛びかかって来ませんし、味方のようです。実際裏切り者はそんなに多くはなかったのではないかと。


「なんと、姫様、血まみれですがお怪我はありませんか! あと、この有様と、此奴等は一体」


 近寄ってきて私の姿だけでなく、周囲の状況も目に入ったのでしょう。


「私の方は無事です。この血も返り血ですから」


 倒れている首を刎ねられた死体に目を向けます。


「この裏切り者に襲われかけたところを彼らに助けられました。とりあえず味方を糾合し態勢を整えましょう」


 彼はなにか言いたそうではありましたが、黙って頷いてみせると、猫達の方を向きました。


「色々世話になったようでこのようなことをお願いするのは申し訳ないのだが、引き続き姫様を守ってはいただけないだろうか」


『オリーが望むのならそうしましょう。個人的には面倒ごとには関わりたくないのですがね』


「おお、本当に猫が喋った! いや、驚いている場合ではないか。姫様、どこかに隠れていていただけますか。ここでは目立ちすぎ、いや遅かったか」


 いつの間にか喧騒は静まり、離れたところに幾人も固まってこちらを伺っているのがわかりました。

 風にのってうめき声が聞こえてくるところをみると、まだ息のあるものは残っているのだとは思います。だけど、明らかにその集団は味方ではない様子。

 暗くてはっきりとはわかりません。恐らく10人ほどでしょうか。その集団から一人が抜け出して、灯りの範囲まで近寄ってきました。


「夜分遅くに失礼致します。姫様大人しく降伏していただけたら、他のものの命までは取りませんよ」


 この者にも見覚えがあります! 裏切り者は少なくとも3人は居たのですね……。


「ガンドゥ貴様っ、この慮外者が! 恥知らずにも主君に刃を向けるとは」


「オータル、生き延びたか。うーん、どうも上手くいかんな。暗闇で突然獣に襲われたなどと言って半数は役立たずになってしまったし」


 ガンドゥと呼ばれた騎士は死体に視線を走らせ目を細めた。


「私の部下と従士も役目を果たせなかったようだな」


 すちゃりと剣を向けてくる。文字通り主君に剣を向けるとは、と思いつい片眉をあげてしまいました。


「もう一度言いますよ。どうか降伏を。痛い思いはしたくないでしょう」


 オータル卿が私を庇うように前に進み出ると叫びました。


「逆賊め! 姫様、ここは私に任せてお逃げください!」


 逃げおおせられるのならそうすべきでしょう。この暗闇に敵の数、頼りになる味方はたったの一人では如何ともし難いのが実際のところです。


「暗くてよくわからんかもしれんが、周囲は囲んでいるからな。一人では流石に無理だと思うぞ」


 面倒だから投降してくれやつってもお前さんは聞きやぁしねえわな、と頭をボリボリかきながらガンドゥはこちらへ近づいて来ます。

 その言葉が確かなら、逃げるのも難しいでしょう。いけません、どうにも私は判断が遅い。


『横から口を挟んで申し訳ありませんが、私どもはどういった扱いになさるおつもりです?』


 オータル卿もガンドゥも不意打ちを食らったように目を見開いて、喋る白猫の方を向いてます。私もついそちらに視線が。彼らの立場なら確かに気にかかるところでしょうけど、空気を読んで黙っていただきたいところです。

 いえ、彼らも魔法が使えるのならなにか戦力にはならないでしょうか。猫に背中を掻いてもらうという故事もありますが、あれは確か役に立たない上に実際やってもらっても爪が痛くてとても使えないとかダメな意味だったような……。余計なことを考えている余裕はありませんよね。


「驚いたな、本当に猫が口をききやがる。いやまぁ、こんな珍しいものはいい土産になるだろう。男は要らんから処分するしかねえなぁ」


「お主らも逃げろ、姫様をお守りくだされ!」


 オータル卿はそのままガンドゥの方に剣を掲げて斬りかかります。

 剣を合わせ迎え撃つガンドゥ。騎士団内での序列はオータル卿の方が上だと思いましたが、剣の腕についてはさっぱりわかりません。私もなんとか魔法で援護できないかと2人を注視していたら、突然後ろから肩と腕を掴まれます。いつの間にか、野盗どもが背後に忍び寄っていたのです。この状況で注意を怠るなんて!


「離しなさい!」


 背後から私を捕えるためだけに4人の男たちが来ていました。うち一人に後ろ手に両手を抑えられてしまいます。動転して使い慣れた魔法も出てきません。いえ、この距離で火炎術でも使えば自分も被害を受けるので使わなくて正解だったのかもしれませんが。


「オータル、剣をおろし降伏しろ。姫様がどうなっても知らんぞ。おい、魔法が使えないようにさっさとしばっちまえ。猿ぐつわも噛ませろ」


 2人も一旦戦うのを止めて、距離をとりました。私の方はというと、暴れようにもあっという間に両手を縛られ、口に小汚い布を噛まされます。


「下郎共、姫様から離れろ!」


 口では強く言っても彼にはもうどうしようもないでしょう。私もここまでかもしれません。挫けそうな心をなんとか気力でもたせます。立っているだけですが。


「XX"!Y;V\Y:6SXX*2Y8JIXX&1XX&FXX&"XX&2XX&F[[R!」


 西方人の彼が私を指さして声をあげています。だがそちらに注意を払う余裕は誰にもありません。

 あ、こちらに突っ込んできました。何も考えずに。無手で。いえその勇気は称賛に値するかもしれませんし、助けようという心意気は本当にありがたいのですが、無謀というか考えなしというか……。

 あっという間に殴られ、転がされ、踏みつけられてしまいました。うーん。


「先程の返答も合わせて、我々を完全に敵に回したいようですね」


 白猫の瞳が闇夜でも輝いて見えました。


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