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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第二章
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22話

* マリークレスト *



 あの後、猫たちとも無事合流出来ました。気になっていた呪詛鼠の死骸はキジトラちゃんが気を利かせて、確保しておいてくれました。本当にありがたいです。きちんとお礼をしないといけませんよね。


 合流早々、オリーが猫ちゃんたちに噛みつきます。


「ビアンコゥ! この鼻ッ、鼻ッ、どうなってるんだニャ!!」


「あー、こちらはそうなっていましたか。カルネ」


 キジトラちゃんが影から光の下へ出る。あら、鼻が人間のものになっています。これは気持ち悪いですね……。


「以前、市場で肉を選んだときにオリーとカルネの鼻を魔法で接続しましたね。効果自体は切れていたのですが、魔的な接続はまだ残っておりました。はぐれてからそちらの状況を知るために色々試してみたのですよ。焦ってたらちょっと失敗しましてね……」


 その結果がこれですか……。いやこれは凄いですよ。是非研究したいところです。本人たちは嫌がりそうですが。私だったらもちろん嫌ですけど……。


「まぁこれのおかげで助かったのですし、良いじゃありませんか」


「そうだけどニャ、そうだけどニャ!」


 オリーは置いておきましょう。今必要なのは冷静な知性です。


 呪術師の拠点は水浸しになりましたが、色々興味深いものがありそうで、時間をかけて調査したいところです。ただ、あそこは太陽神殿が一度取り調べを行い、怪しいものは没収するそうです。今回はかなり協力して頂いたので譲らざるを得ないところですね。


 急いでお父様の呪いを解かねばなりません。


「では戻りましょう。お父様の呪いを解いて、叔父様を逮捕しなければ」


 濡れた服を絞る暇もなく、向かおうとしたのですが、侍祭様に止められました。


「お待ち下さい。お嬢様。今のままでは家宰殿は罪に問えないかもしれません」


 聞き捨てならないことを仰っしゃりますね! 如何な太陽神殿の侍祭様とて今の言葉は許容できませんよ!


「現状、伯爵暗殺に家宰殿を結びつけるのは、この羊皮紙だけなのです」


 そう言ってかれは懐から羊皮紙の束を出しました。流石に少し濡れてますね。


「濡れてダメになったのですか?」


「いえ、一応包みに入れておいたので十分判別はできると思います。問題はそこではなく、この証拠の正当性が証明できないことです」


 なんですって?


「こちらの書類はオリー君がこの地下に掬う犯罪組織から入手したものです。そこには家宰の名前の署名があり、毒物の取り寄せと殺人依頼されていますが……これはあくまで状況証拠にしか過ぎないのです。この署名を彼が自分を陥れるための罠だと主張したら、それを否定するだけの材料がありません」


「それは……」


 確かにそうです。そもそも、私は叔父様がお父様を殺そうとしていると頭から決めつけていました。そこに丁度良い証拠がでてきたこともあって考え無しに飛びついたのです。まさか、この期に及んで叔父様が犯人では無いと……?


「で、では、叔父様は犯人ではないのですか、真犯人が他にいるのですか!」


「いえ、家宰のノスル殿が犯人でしょうね」


「はぁ~~~~~~~~~??」


 な、何を言ってますのこの方は、今散々証拠能力がないって言ってたところじゃないですか!!


「わ、私を馬鹿になさってるのですか!?」


「そんなつもりはありませんよ。実は他に証拠があります」


 貴方さっきから言ってることが無茶苦茶ですわ!?


「一体何が言いたいのかさっぱりです!」


「証拠はあるのですが、それを証明出来るのがナガリ君しか居ないのですよ。それにこの方法でも言い逃れをしようと思えば出来てしまうのですよね……」


 ちょっと説明しますので聞いてくださいね、と言われました。貴方の説明は長すぎるので適宜中断しないと……。

 

 度々急かして説明を聞き終えました。確かにそれでは証拠にならないかもしれない。このまま行っても行き当たりばったりになる可能性が高い……。


「ではどうしたら良いというのですか!」


 今すぐにでもお父様を救いに行かなければいけないのに。それだけで我慢して叔父を見逃すというのでしょうか。悔しさと、魔力の使いすぎで頭がぼーっとしてふらつき、壁に寄りかかります。足元には猫たちが着ていました。私を慰めてくれるのでしょうか。優しい子達ですね。侍祭様とお付きの方は申し訳無さそうにしています。まぁ貴方達のせいではありませんし……そういえば、こんなときにこの子達の飼い主はどこに? 女性がこんな状態の時はもっと気を使うべきですよ!


「今の話、これが役に立つかもしれないニャ?」


 ひょっこりオリーが戻ってきました。手に何かを持って。


「きゃあッ!」


 気が弱っていたのでしょう、思わず悲鳴を挙げてしまいました。



   ◆



 時間も押していましたが、騎士団に寄って騎士団長様に面会をお願いしました。盗賊団壊滅の報は既に北方人の元傭兵から受けていたらしく、騎士団は蜂の巣をつついたような騒ぎになっていたところです。暗殺依頼の証文についても、話は通っていたので、その証拠を用意したから逮捕に協力して欲しいと要請すると、騎士団長様だけでなく、副騎士団長様もご同行くださることになりました。


 まずはお父様にかけられた呪いの解除からですが……。目の前でお父様が横たわっています。相変わらずまったく意識は戻りません。私には細かいことはわかりませんが、確かにこのままではまずいでしょう。


「これからお父様に掛けられた術式の解呪を行います。侍祭様、本当にナラベア解法でよろしいのですね?」


 侍祭様の方に目をやります。


「はい、文献にはそうありました。具体的には、先日の話の続きになるのですが、多発する不審死を疑問に思った町の有力者が当代きっての魔導師であったカランネル師を双月の園から招聘し、調査を依頼したのです。師は」


 その話は興味ありますけど、あとでお願いします。


「術法については知識がありますので大丈夫です」


 呪詛の大本さえあれば準備はさほど手間でもありません。四方に結界を張り、犠牲者の前で銀の大盆に呪詛体といくつかの触媒を載せて、誓願を行い(これは儀式的なもので効果は無いとされる)を唱え、定められた呪文を口誦しながら、魔導による炎で呪詛体を焼き尽くします。そうすると、結界内にある呪詛体に源を発する呪詛が焼き尽くされるというものです。


 呪法は有名所しか教えてもらえませんが、解法については学院でみっちりと教わりました。宮廷魔導師などでは必須の知識ですからね。とはいえ、このナラベア解法などは対象の呪術に関する知識も必須なので、このようなほとんど知られていない呪術に対抗するのは難しくて……。とはいえ、呪法を教えないというのも、致し方ないことなのですよ。方法を知っていたらそれを要求する君主も多いので、学院自体が学生に絶対教えることはない、と宣言することで生徒を無理な命令から守っているのです。


 助手が居ないのでオリーにお願いして、お父様が横たわる寝台の四方に簡易の柱を立ててもらいます。儀式でよく使う細い木の組み立て式のものに糸を張って柱同士を繋ぎ、この内部を結界とします。


「これでいいかニャ?」


「ええ、結構です。では台を置いたら下がって」


「貴様ら、勝手に屋敷に入り込んで何をしているか!!」


 叔父様が怒鳴り込んできました。案外時間がかかりましたね。事前に話をしておいたので騎士団長様の方に目で合図を送ります。騎士団長が合図を送ると、部下の騎士二名が叔父様を阻むように前へでました。そして、そちらに気付かれないように副団長様とナガリさんが部屋をでていきます。あの方たちには別の役目がありますので。


「お静かに、儀式が始まります」


「騎士団が邪魔立てするとはなんのつもりだ!」


「ちょうど良かったわ叔父様! お父様に掛けられた呪いを解除いたしますので、叔父様も見守っていてください」


 わざと元気な声で笑顔を浮かべて見せます。見ようによっては嫌味に見えるかもしれませんね。


「なんだと、そんなこと出来るわけが……」


「安心してください、叔父様。私も双月の園の魔導師ですから、タネさえ明らかになればこの程度の呪術、朝飯前ですわ!」


 さっきからちょっと演技が大げさかもしれませんね。やはり私にはあまり似合わない気が。まぁときには良いでしょう。


「いや、本当ならそれは素晴らしいんだが、お医者様や月光司祭様にも無理だったのがお前に出来るのか……」


 叔父様の相手をしている時間も勿体無いので始めますか。


「では始めます。皆様お静かに願います」


 一応服は着替えてありますが、髪も梳かしてないし、湯浴みもしてないし、正直儀式をするような状態では無いですが、時間もありませんから始めましょう。


「魔導の祖たる月の女神に祈念し奉る。これなる邪悪を炎によって清めんと欲す。同じう呪詛をこの場より浄化せしめたまえ」


「我は聖なる炎の守り手に連なる者、ウドゥンの火よ顕現せよ」


 滅多に行わない聖炎招聘の術が成功し、聖なる炎が驚くほどの速度で邪法を受けた鼠と触媒を灰にしていきます。一瞬黒い影が炎に巻かれたのが見えたような気がしました。同時に鼠は燃え尽き、結界の中に清浄な空気が満ちるのを感じます。お父様からもマナの気配は消え……ました! 周囲の皆さんも固唾を呑んで見守っているのが感じられますね。


「うっ、くぅ、ゴホッゴホッ」


お父様が息を吹き返されました!


「お父様、無理をなさらないでください」


「マールか、随分寝ていたようだが……」


 飛びつくようにお父様の体に抱きつきます。あぁ、よかった。本当に良かった。私は一人になってしまうところでした……。


 周囲から少ないながらも歓声があがっています。


「素晴らしい、流石はお嬢様!」


「お見事です、伯爵様もお元気になられてこれでニールも安泰ですな!」


「伯爵様元通りになってよかったニャア」

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