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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第二章
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18話

* ヒュー *



 最善はなるべく殺さずに降参させること。それが無理ならなんとか捕らえて、殺害依頼を誰が出したのか白状させること。黒幕がわからなくても、殺害依頼さえ撤回させられたらそれでいい。打ち合わせでオリーはそう言ってた。まぁそうはならなかった訳だが。


「すまねえ、さっきまで硬いやつを殴ってたから、ついそのつもりでやり過ぎちまった」


 目の前にはザクロのように裂けたマシシが倒れてた。ご丁寧に頭を狙っちゃったらしい。気持ちはわからんでもない。しかしこのキジトラを見てたら、昔聞いた名刀の話を思い出した。切れ味が良すぎて触れるものみな何でも切れるようなものは、名刀でもなんでも無いってやつ。使い手が刀を握り、切ろうと思ったとき、思ったもののみを切るのが名刀だってね。聞いたときはよくわからんかったが、たしかに今ならなんとなくわかるわ。


 ちなみに俺としては好都合もいいところ。ほぼ最良の結果だ。どうせ雑魚どもはこまけえことは知らねえだろうし、頭目さえぶっ殺せたのならいくらでもごまかせるってなもんよ。


 盗賊どもは降参した。触手に散々痛めつけられて、親分の頭かち割られたら流石に戦意を喪失したようだ。まぁこんなものかね。生き残った連中、まだ20人近くいるが、床に座らせて尋問していく。そいつらの背後にはまだ触手がうねって床を叩いてた。使いこなせば伴奏とか出来るんじゃねえか? とか益体もないことを考える。


「えーっとそれじゃあ、お前らの中で殺害依頼を誰から受けたか知ってるやつは居ねえってことだな?」


「へぇ」


「へぇじゃねえ、はい、だ!」


 俺の言葉に合わせて触手が床を強めに叩いた。ビクっとなって返事をし直す盗賊。白猫、上手いこと合わせるねぇ。


「はいぃ」


「伯爵家の家宰から何か仕事を受けたりはしてなかったのか?」


「基本おえらいさん相手の仕事は親分が直接受けてたんすよ。おめえら汚えのが出向いたら失礼にあたるとか言われたことがありやす」


「んじゃ何もわからニャいのかニャ?」


「いえ、伯爵家からの仕事は親分が何か受けて、定期的に届け物をしてたはずでさ。毎週荷物を届けるってのをやってましたから」


「誰が届けてたんだ?」


「俺です」


 盗賊の一人が手を挙げた。平凡そうなやつだ。


「どこに何を届けてたんだ?」


「指定の空き家があってそこに決まった日時までに荷物を置いとくってのでした。中身が何だったかは知りやせん。親分マメだったから、書類が残ってるんじゃないすかね」


「それはどこだ?」


「親分の部屋の机に大事な書類やらまとめてあるんじゃないかと……俺らは字が読めるのも少ねえし、見せてもらえるわけもねえんで細かいことはさっぱりなんですが」


 何かニールの外とやり取りをしてたらしく、それに関する書類を受け取って親分に渡したことがあるそうな。あ、うちの部下がこいつらとなんかやり取りしたって言ってたな。確か毒だったはず。あれって家宰からの依頼だったのか。


 それらしく、オリーと視線を合わせると、頭目の私室に向かった。盗賊どもの監視は猫たちに任せる。


 物が乱雑に散らばった机に目をつけた。駆け寄ろうとするオリーを押し止める。さっきの奴は部下も信用してなさそうだし、罠の一つや二つ仕掛けてるだろうからな。んで実際に毒針の罠があった。あと、引き出しが二重底になってるのもあっさり見つかった。お、こっちは宝石箱とかあるな。金目のものもチラホラと。


 引き出しに突っ込まれてた羊皮紙の束やらをオリーにそのまま渡す。実は俺も調べ物はそんなに得意じゃあない。


「こっちの言葉は読めニャいニャ……」


「ありゃ、そうなんで? しゃーねえな」


 ほんとにしゃーねえな。読むか。オリーから紙の束を受け取る。


「家宰の野郎の名前ってなんだっけ?」


「確かノスルだニャ」


 お、一番上が今回の俺の依頼だな。


「お前を狙えってのはあったけど、そっちには依頼者の名前書いてねえわ。なんでかはわからねえ」


 まぁバレないようにしたからな! これで俺の名前とかあったら怖いわ。


「ンニャ? 無いのかニャ?」


「ねえな。他も探してみるぜ」


 ノスル、ノスル、と……おや、本当に名前があるな。ごく最近だ。


 ノスルから伯爵を処理を依頼され、トロホグに連絡済み……。なんだこりゃ、変なの掘り当てたな。


「これは一昨日くらいか? 家宰が伯爵を殺すようにトロホグとかいうやつに依頼したらしい」


「伯爵が昨日倒れたやつかニャ! まさか家宰がやらせたニャんて!」


「いや、本当に病気かもしれねえぞ? よくわからんうちに憶測でものを考えるのはやめときな」


 その紙を選り分けてさらに昔のをさらっていく。大体一ヶ月ごとに薬が納品されてきてるな。


「家宰宛てに着てたものが、一ヶ月に一回届いてそれを仲介して毎週渡してたらしいな。カピテの粉薬とか言うものだそうな」


 なんの薬だかは流石に知らねえが、と言っておく。勿論本当は知ってるがな。とはいえそれが実際伯爵に使われてたのかまではわからん。


 家宰の名前があった紙だけ別にして一年分くらいまでざっと目を通した。後からゆするつもりだったのか記録はまめにとっておく性質だったんだろうな。もう死んじまったけど。


「一年前くらいまで遡れるみたいだが、それ以前は無さそうだわ。こんなところかね」 


「結局僕を狙ってるのは誰かはっきりしないってことニャ?」


「そうだなぁ。他に心当たりとかないのか?」


「ニャいニャァ」


 命を狙われるなんて大変だなー。


「んじゃこの情報、お姫様に急いで知らせに行くニャ」


「まぁ待ちな」


「ニャ?」


「あのさ」


「ニャ」


「ここをお前らの住処にしたらどうだ」


「ニャニャ?」


「この部屋に限って言えばそれなりに住みやすそうだ。さっきの広間の方だって片付ければなんとでもなるだろ。盗賊どもは全員追い出してお前らが占領しちまえばいいのさ」


「ニャア……」


 お前さっきからそれしか言ってねえぞ。


「面白いと思うぞ。お前らを狙った連中が他に居たとしても、ここなら被害が広がらないだろ」


「それはそうニャ」


「ここの金庫を探せばしばらくは生活出来るだけの金も手に入るだろう。ここを捨てて宿に移ってもいいが、猫も住めるような高級な宿じゃあいつまでもつかわからねえし」


 実際、個人的には名案だと思う。確かニールには他に犯罪組織が幾つかあって鎬を削り合ってるはずだ。その平衡が崩れ、突然ぽっと出が現れる。しかも猫二匹を連れただけの本人は弱そうな西方人だ。何も起こらない方がおかしなくらいだな。


 あ、名案だってのは俺にとってってことな。オリーにとっては知らねえ。まぁ住処が手に入るなら悪いことじゃねえんじゃね?


「確かに悪くなさそうだニャ……」


「他の下水道の住人には、もともとの盗賊の縄張りの中に入ってくるなって通達して、あとは猫に任せときゃいいだろ」


 自分で言っといてあれだが、案外猫たちはこういう環境の方が気にいるかもしれん。


「なーに、ちょっと住みづらいところとかがあっても、自分が良いように改造していきゃあいいのさ。ここはもうお前の家なんだからさ!」


 俺なら嫌だけどな。


「わかったニャ、やってみるニャ!」


 よしよし、良い子だ。


「うーし、決まったな。盗賊共追い出そうぜ!」


「ヒューに追い出すのお願いしてもいいかニャ?」


 ん? まぁお前さんじゃ押し出しが弱いか。


「良いぜ、その代わり何をいうかは任せてくれよ」


 広間に戻ると、盗賊たちは観念して大人しくしていた。そいつらを前にして高らかに宣言する。


「ここは俺達が占拠する! お前たちは今すぐ此処を出ていけ、そして二度と戻ってくるな!」


「巫山戯るな!」


「何言ってやがる!」


 盗賊共は次々と文句を言い、先程までの恐怖も忘れて立ち上がった。今にも食って掛かってきそうだ。まぁそりゃあ文句も出るわな。


「黙れッ! 今からここは猫使いオリーの領地だ! 逆らうやつはぶっ殺す!!」


 俺の言葉に合わせて、白猫とキジトラが前に進み出た。横で触手がまたうねりだしている。


 その姿を見て盗賊たちは相手が何かを思い出したのだろう、後ずさっていった。


「てめえらが今身につけてるものだけは持っていくのを許してやる。だがこれ以上ここでもたもたしてるようなら、お前らの元親分と同じところに送ってやるぞ!」


 剣を抜いて一歩踏み出した。まぁ俺は実力見せてないから脅しにならないかもしれねえが。


 まぁそれでも立ち去ろうとしてくれるようだ。おっとそうだ。


「待て!」


 盗賊たちはビクッとして振り向いた。


「鍵とか持ってるやつが居たら置いていけ。すぐ出さないなら身体検査をして、出さなかったやつはぶっ殺す。おい、キジトラ、ちょっと匂いかいで金属の匂いがしたやつから殺していけ」


 キジトラは俺の命令なんか聞かないだろうけど、これはあくまで脅しのためってね。効果はあったようでキジトラが文句を言う前に何人かが鍵を放ってよこした。おっと、そうだ、頭目の体も漁って財布と鍵を取っておく。


「他に持ってねえな? 持ってたらほんとに殺すからな? よし、あとはそこの死体を持っていきな。地上まで持っていってどっかで捨ててこい。弔いたきゃ勝手にそうしろ」


 悪態をつきながら奴らは俺の言葉に従った。


「あー、掃除もさせりゃあ良かったなぁ。結構血のあととか酷いぞ」


 オリーを振り返る。


「おめでとう。これで一国一城の主だ。あとは自分で上手くやるんだぜ?」


「ニャ、それはまぁおいおいやるニャ、まずは伯爵のことを連絡しなきゃニャ」


「おっと、まったその前にもう一つあるだろ」


「ニャ?」


「囚人解放してやらねえとよ」


「忘れてたニャ」


 オリーは急いで家探しをはじめた。この広間から、入ってきたところ以外にも何本か通路が繋がっていてそのうちの一つが頭目の部屋になっていたことはさっき見てきたとおりだ。


 で、他に倉庫やら食料庫やら寝部屋があって、中に二つ外から鍵のかかった部屋があった。閉まってるにも関わらず隙間から匂いが漂ってきやがる。まぁこんな地下で綺麗にしておける訳がねえわな。間違いなくここだろう。


「臭いニャ」


「まぁ牢屋だからな」


 さっきの鍵を適当に差して試す。ひとつが当たった。ついでだから鍵は全部オリーに渡しとこう。


「こっちは任せてもう一つの方を開けに行きな」


「あいあいニャー」


 どんな返事だ? 中身はまぁ予想した通りだった。汚くて臭え部屋に男が三人閉じ込められてた。絶望しきった目でこちらを見てる。嫌だねぇ。負け犬どもは。まぁそれを口に出すわけにもいくめぇ。


「助けに来たぜ。表に出な」


 不思議そうな顔をしてこちらを見てる。まぁわからなくもねえよ。おっと、包帯まきっぱなしだったのを忘れてたぜ。囚人たちの前で包帯を解いて素顔を見せる。なかなか良い男だろ?


「信じられねえのも仕方ねえが、盗賊団黒の刃は本日限りで店を畳んだのさ。で今は在庫処分中でな。あんたたちは自由になるんだ」


 衛士としての立場を優先するのなら、こいつらには詰め所に来てもらわないといかねえんだよなぁ。でもめんどくせえなぁ。オータルに報告するなら、どうせ言わなきゃいけねえことだから連れて行くかぁ。


「まぁすぐ自由ってわけにもいかねえ。これから衛士詰め所に行くからちょっとついてきてくれや」


「本当に自由になれるのか?」 


「あんたたちが、盗賊団所有の正式な奴隷だったとしても多分大丈夫じゃねえか? そこんところをはっきりさせるためにも色々手続きがいるだろうからな」


 男たちは恐る恐る部屋から出てきて、警戒しながら歩いていく。よくみりゃああちこち殴られたあとやら怪我やらあるな。まぁ奴隷扱いされてたってことだろう。


「とりあえず広間で待っててくれや。逃げないでくれよ? おーい、猫たち、この人達をあとで詰め所につれてかなきゃいけないんで逃げないように見張っといてくれ」


「仕方がありませんね。逃げたら殺せば良いんですよね?」


「いや、そりゃ流石にまずいからよ。あんたたちもあの猫には逆らわないでくれ。俺より強いからな」

  

 さて、オリーの方は、と。お、向こうはやっぱり女か。比較的若いのが多いな。まぁほぼ半裸だが。オリーも顔を曇らせてるな。まともな感性持ってるようで安心したよ。


「こういうのを見るのは初めてかい?」


 オリーに近寄って小声で話しかけた。


「ニャ、話で聞いたことはあるニャ。見たのは初めてだニャ……」


 育ちが良さそうだしなぁ。


「無理して慣れろとは言わねえよ。こんなの慣れる方がおかしいんだ。でもな、この程度なら世の中いくらでもあることだからな……」


 肩を叩いて歩くように促した。止まってる訳にゃあいかねえよ。所詮他人事なんだしよ。


 とりあえず総勢七人を広間につれていく。簡単に事情を説明して、解放されたことを伝えた。皆最初は信じられなかったようだが、流石にここまで来て騙すこともないからな。他に盗賊の姿も見えないし、広間の血の跡とかで理解したのだろうか、それぞれ喜びだした。とはいえ、女の囚人の中でも借金返せなくてとっ捕まったとかではなく、金持ちの家から攫われてきた娘とかはずっと暗い顔をしたままだったが。


 んで、頭目が逃げようとしてたところに裏口があって地上に繋がってた。表通りに結構近い廃屋の地下から近道があった訳だ。んで、そこから俺が全員を詰め所に連れて行くことになった。俺が衛士だって言ったら皆驚いてたけど、猫使いが盗賊を追い払ったって聞いたときはびっくりなんてもんじゃなかったからな。


 流石にそのまま出発って訳にもいかないので、探してきた服を適当に元囚人たちに着てもらう。


「さて、あとはさっきも言ったけどお姫様に連絡ニャ」


「そりゃ構わんが、屋敷にいってお姫様に会えるのかい?」


 オリーは無理ぽいニャアと呟いた。この喋り方にも慣れたな。下手すると感染ってしまいそうで怖いニャ。なんつって。


「明日になればオータルの旦那が戻ってくるはずだから、俺から渡せるが」


「明日じゃあ間に合わないかもしれニャいニャア」


「まぁヤバそうだからどの道オータルの旦那には報告しとくわ」


「ヒュー、この書類を持って、お屋敷のお姫様のところに行ってもらえニャいかニャ?」


 んー、正直難しいだろうな。家宰がお嬢さんを外部と連絡取れないように遮断してるかもしれねえ。


「ただの平衛士じゃあ難しいんじゃないかね。もうちょい立場がねえとよ。俺はこいつら連れて行ったらここであったことも報告せにゃならんし、多分夜まで何も出来ないぜ」


「それもそうかニャ……」


「お、そういや猫に運ばせれば良いじゃねえか」


 こいつら言葉も喋れるから説明もできるしな。めちゃくちゃ便利だなおい。


「いや、それよりも良い人がいるかもしれニャいニャ」


 オリーは何かを思い出したように手を叩いた。

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