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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第二章
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17話

* オリー *



「「ガスカ! ガスカ! 処刑人ガスカ!」」


 巻き起こるガスカコール。観客はスタンディングオベーションだ。カルネが飛び乗った椅子を一撃で砕くガスカ。更に盛り上がる観衆。


 こちらはハラハラしながら見守ってる。 


「危ないニャ! カルネは大丈夫かニャ? ずっと避けてばかりだニャ」


「弟にも困ったものです。こんなときですら遊んでいる」


 あれって遊んでるの? ヒヤヒヤして見てられないよ。


「いや、きちんと斧が見えてるぜ。あのイォルク、力はかなりのものだが、速さが全然足りてねえ。あれじゃ百年経ったってキジトラには追いつかねえ」


 ヒューが冷静に観察してそう言うのならそうなんだろうね。って、頭で納得はしてもこのままで見てるのは辛いなぁ。


「でも全然こっちから攻撃してないニャ」


「よく見てりゃあわかるさ。あの大男、あれほど小さい獲物はあまり狙ったことがないんだろうな。段々と動きが雑になってる」


 確かに息があがってるように見える。手数も徐々に減ってるようだ。大斧が下がった。やはり犬だからか、舌を出してハァハァしている。ここは地下だから寒いくらいなんだけど、あんな重そうな鎧着て大斧をブンブン振り回して、かなり暑いのかもしれない。


 ずっと回避一辺倒だったカルネが動いた。ギャリギャリギャリギャリ、という金属の擦れる音を立てながら、ガスカの巨体をまとわりつく蛇のように駆け上るカルネ。ガスカはというと、咄嗟に武器を捨てて、両腕で顔を守った。


 それを見て、相手の胸を前足で一蹴りし、空中で回転しながら距離を取るカルネ。おお、カッコイイな、見事な空中後方三回転くらい? 音も立てずに着地。盗賊たちもカルネに視線を奪われてるのがわかる。


 ガスカの体は怪我こそないものの、さっきまでは綺麗だった鎧が全身傷だらけになって削られてる。


「あー、これ兜をかぶらせろとか言われたらまずいかもな。まぁイォルクは兜をかぶっちまうと長時間戦えなくなっちまうんだが」


「鎧を削り切るとかすれば勝てるかニャ?」


「いや、予想以上に鎧がしっかりしてやがる。盗賊にこんなまともな装備持ってる戦士がいるとは思ってもみなかったぜ。ちとキジトラには相性が悪かったかもな。白猫なら一発だろ」


「確かに、武器を振り上げる間も無く感電死させられるでしょうね」


 ガスカの方は息があがってるし、武器を拾う暇も無いので、両手を上げてガッチリ頭をガードしている。カルネが頭を狙いに来た瞬間を捕まえてそのまま、みたいなことを考えてるらしい。


 カルネがガスカの周囲を回り始めた。最初はゆっくりと、徐々にスピードを上げて……。あかん、すぐに僕の目では追えなくなった。


「はええな! あんな速さで動けるのか、速さで撹乱して頭に飛びつく気か?」


 ヒューは見えてるのかね。暗いことを差っ引いても、盗賊たちのほとんどは反応出来て無さそう。ガスカはもう追えなくなって闇雲に斧を振るってる。


「な、なんだこりゃあ」


 観衆の一人がうめき声を上げた。いや、気持ちはよくわかる。見ている僕らの目の前で無数のカルネの姿が写り始めたのだ。


「分身の術かニャ……」


 こんなの漫画じゃなくてリアルに見ることになろうとは。しかもやってるのはうちのネコよ。某龍玉集めのアニメを猫と一緒に見てたから覚えたのかなぁ。


「ありゃ何をやってるんだ?」


 ヒューも流石にわからなかったのか僕に聞いてきた。


「物凄い速度で移動したり、急に止まったりするニャ。動作に緩急をつけることで、残像が見えるようにする術ニャ」


「なにそれ本気で意味分かんない」


 ヒューですら動転して語彙が女子高生っぽくなってるのに、他のものが対応出来るわけもないよね。


 ガスカはどこから来るのかもうわからなくなっちゃって、武器も捨て、頭をがっしりと両手で抱え込み縮こまってる。とは言え当然隙間はあるわけで。その隙間を削るようにカルネが駆け巡る。そぎ落とされた長い毛が、皮ごと幾筋にも分かたれてばら撒かれた。


「グルァアアアアアアア!!」


 痛みと焦りからカルネを捕まえようと腕を振り回すガスカ。速度が違いすぎるので万が一にも捕まりようがない。


 終わりは呆気なかった。左目を斬り裂かれたガスカが後に大きく倒れ込んだのだ。その胸の上に屹立し、自分こそが天地の支配者であるかのように周囲を睥睨するカルネ。誰が見ても勝負はついた。


「お、オデの負けだァァアア。助けてくれぇええ」


 左目を抑えながら縮こまろうとするガスカ。哀れささえ催される。


「ははっ、すげえや速さだけでなんとかしちまいやがった!」


 ヒューは拍手して大はしゃぎだ。とはいえ、喜んでるのはこちらだけ。


「クソがっ、野郎ども、やっちまえ!!」


 マシシの反応は早かったと思う。一騎打ちなんぞ屁でも無いとばかりにカルネに短剣を投げつける。遅れて他の盗賊たちが、手にした投げナイフ、クロスボウ、などで犬人の上に立つキジトラ猫を狙い始めた。まーでも、さっきの動きを見てたら当たるわけもないってね。武器の多くは倒れたガスカの巨体に当たる。とは言え鎧があるので、派手な金属音がするだけだった。


「親分ヤメテヤメテ」


 ガスカの泣き言を無視して、マシシが今度はこちらへ向き直った。


「猫は無視しろ! あいつらを狙え!!」


 ここまでは想定通りだ。


「ビアンコ。頼むニャ」


「お任せあれ」


 盗賊たちが思い思いに投げる武器が到達する前に、ビアンコが僕とヒューの目の前に石の壁を作り上げた。事前に何度か練習をしたので過たずに、高さも僕の肩くらいになってる。すぐにしゃがんでヒューと壁の内側に身を隠す。壁と言っても通路を完全に塞ぐものでもないし、高さはそれほどでもないから乗り越えることは簡単なものだ。


「ガスカ、てめえは起きて猫を体で抑え込め! 他のやつは壁の裏に突っ込んでぶっ殺せ! 相手はたった二人だ!」


「ビアンコ!」


「はいはい、一応手加減しますよ」


 事前の打ち合わせでそれぞれ役割を決めてあった。カルネは、相手が降伏しない場合ボスを狙う。ビアンコは雑魚を一網打尽にする。ヒューは僕の護衛。僕は自分の存在を敵に印象づけることくらい。


 ビアンコが毎度おなじみイカの触手を召喚した。これをビタンビタン床に叩きつけるだけで敵は近寄ってこれない。それだけではなく、無理に近寄ろうとするものをピンボールのバーのように弾いた。打ち合わせのときに細かい話を聞いて、色々試させてもらったんだ。触手は強力なものの、召喚した位置から伸ばせる長さが決まってるらしい。長さはおよそ10mに届かないくらい。とはいえ屋内ならその威力を十分に発揮できる。ビアンコの方もかなり慣れてきたようで、優しく撫でるようにすれば殺さずに済むのではないか、ただし、掴んだら加減が出来なくて握りつぶしてしまうかもしれない。とのこと。なんだか頼りないなぁ。まぁ、これが以前なら盗賊の頭数分壁のシミが増えていたと思う。


 矢やナイフが飛んできては石の壁に当たる。隙間からちょっと顔を出して様子を伺うとひどい有様だ。悲鳴をあげて逃げ惑う盗賊たち。闇の中を畝る白い触手が盗賊たちを嬲り者にする。あれ臭いんだよねえ。触らせてもらったらえらい気持ち悪いし。一本の触手で複数人まとめて捕まってるのも居た。耐え切れずに嘔吐してる盗賊もいる。敵ながら哀れだわ。


「おい、危ねえ」


 壁の後に引っ張り込まれた。さっきまで僕の頭があった位置を矢が通り過ぎる。


「不用意に覗き込んでるなよ。余計な手間はかけさせんでくれ」


 ごめんニャごめんニャと軽く謝る。


「畜生、どうなってやがるんだ! てめえらしっかりしやがれ!!」


 マシシはまだ諦めてないのか。


「いい加減降伏するニャ! 今なら命は取らないでおいてやるニャ!」


「巫山戯るなッ! 俺達にも面子があるんだ! ここまでやられて大人しく引き下がれるか!!」


 うーん、ダメかなぁ。


「ん、口ではそう言ってるがあいつ逃げるつもりじゃねえか? 壁を弄ってやがる。裏口があるのかもしれん」


 ヒューが壁の陰から中の様子を伺って教えてくれた。それなりの部屋だし端の方は結構暗いんだけどよく見えるね。僕には見えないな。


「カルネ、逃がすニャ!」


 逃がすニャだと「逃がせ」なのか「逃がすな」なのかわからないな! こんなときだけど改めてこの語尾不便過ぎる。まぁカルネが誤解することもないだろう。


「往生際が悪いぜ、大人しくしな!」


「ち、近寄るなッ!!」


「あっ」


 あって何? 今のカルネの声だよね。見えづらくてよくわからない。ヒューの方を見る。彼も目を凝らして、じーっと見つめてる。


「あっ」


 ヒューが呟いた。だからあってなによ。


「やっちまったなぁ……」

 

 もしかしてボスをやっちゃったってこと?

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