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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第一章
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4話

* マリークレスト *



 オリーと呼ばれた男性が猫に話しかけています。何を言っているのかは全く理解できませんし、彼が話している声にはマナの流れは一切感じられませんでした。もう一匹の猫もなにか言っているようですが、そちらも変わりありません。

やはり魔導を通じて会話ができるのは白猫だけなのでしょう。ということは、彼ら自身の言葉で人と猫が魔法によらずに意思疎通が可能ということですよね? 白猫が内輪の話をしている時はマナを感じませんし多分そうだとは思いますが、謎が深まった気がします。


 少し時間がかかりましたが、どうやら彼らの中で折り合いがついたようです。

 言葉はわかりませんが、一応彼らの中で意思決定は猫たちではなく男性が行っている様子。


『これからはビアンコではなく、僕が話します。ビアンコは一字一句間違いなく翻訳することだけに努めますのでよろしくおねがいします』


 逆に先程までは猫がそのまま自分で考えたことを話していたということですよね。それはそれでどうとらえていいものやら困惑します。


「しゃべる猫を連れた難民が居ると聞いたのですが、あなた達がそうですか?」


 彼らの一挙手一投足を見逃さず、ただしそれと勘づかれないように見守る。帰国してからなるべく話す時に相手を見るように心がけているのですがなかなか難しい。


『道に迷っただけで別に難民ではないですよ。傍からみたらそう見えますかね?』


 そうとしか見えませんよ。難民でなければあるいは浮浪者にしか。


「あなた達の旅の目的と行き先を教えてもらえませんか?」


『商談が終わり故郷へ帰るところでした。その途中で盗賊に襲われまして、命からがら逃げたところ道に迷ってしまったのですよ。どうかお手数でなければ一番近い街を教えていただけないでしょうか』


 やはり野盗が増えているようです。今回は魔獣討伐が目標ですが、野盗対策も講じなければなりません。さもないとニールが干上がってしまいます。


「どの辺りでどれだけの規模の盗賊に襲われたかわかりませんか?」


 出没地域に人数、装備、練度、可能なら主だった者の外見までわかると助かるのですがそこまでは要求できないでしょう。盗賊に襲われたと言う言葉を否定する材料はありませんが、道がわからないというのは理解しかねる発言です。この辺りは一本道なので方角さえ間違えなければどちらに進んでも街はあります。あと『近い街を教えて』というのもおかしいんですよね。ここから西に進んだところにある宿場町と私達が着た道の先にあるニールしか無いんですから。

 考えられるとしたら北の交易路から道をそれて荒野をさまよってここまできたくらいですか。距離が離れすぎている気もします。


『昨日の晩、一人で野宿している最中に襲われたので相手がどんなだったのかもよく見てません。荷物は全部ほっぽりだして猫だけ担いで道を外れて荒野の方に走りました』


 一人旅とは無謀だとしか思えません。今は昔の安全な頃とは違います。我々も宿場町近くに出没するようになった魔獣を討伐しに行こうとしているくらいですから。とはいえ荷物に頓着しなかったから命は助かったのでしょう。本当ならですが。


「それだけですか? 他になにか覚えてませんか?」


『焚き火の側でウトウトしていたら突然殴りつけられて、剣を向けられ荷物を差し出すように脅されました。気づいたら取り囲まれていたので正確に何人いたかはわかりません。猫はいつも一緒に寝ているので……』


 地名がわからない以外は特におかしなところはなさそうです。盗賊に襲われたというのも案外本当なのかもしれません。それで猫だけ連れて逃げ出したという感じなのでしょうか。盗賊に関する情報がほとんど無いのは残念ですね。

 一応猫について聞きましょうか。魔法生物の可能性もあります。まぁ、多分使い魔でしょう。使い魔の猫というのは珍しいものでは無いですが、西方魔術ではどうなのかその辺りを聞いてみたいところです。


「ところでこちらの猫たちは貴方の使い魔なのですか? 西方魔術に詳しくないのですがそちらではどういった獣を使役されるのです?」


 西方魔術の深奥に関わるような秘術であれば開示されることはまず無いでしょうが、この方はオドの量もさほどではないようですし、恐らく魔術師では無いと思われます。そんな方が使い魔を有しているというのにも勿論興味があります。


『その使い魔というものがどういったものかは存じ上げません。ですが私と弟は異なると思いますよ』


 白猫が飼い主に先程の言葉を伝えずに自分で返事をしました。とはいえ、これは本当かどうかはわかりませんが一応彼にも聞いてみないと。


「オリーだったかしら、一応あなた達の飼い主にも聞いてみたいのだけど、伝えてくださる」


 猫の表情はよくわからないのですが、今一瞬白猫がムッとしたように思えます。


『えーっと、使い魔ってのはよくわからないし、西方魔術というのも知らないんですが』


「え?」


 おっと、不信が顔に出てしまったかもしれません。


「使い魔ではないとしたらあなた達は一体何なのかしら」


『私達は自らを光輝なる毛皮を纏いし血族と呼んでいます』


 ごめんなさい、何を言ってるのかさっぱりわかりません。つまりどういう?


「えっとそれは……」


『貴女たちケナシザルの言葉で言うならば、猫ですね』


 やっぱり猫じゃない! ってほんとに猫? 言葉が喋れて魔法が使えるのに? というかケナシザルって何? もしかして猫って私達人族をそう呼んでるのかしら。

 さっきから、後ろの男は関係なくの猫が直接返答しています。眼の前で見ても到底信じられる内容ではありません。猫が自分で考えて発言していますよね? 男は猫に話しかけていますが、猫の方では明らかにそれを無視してこちらに答えてます。


「猫が人間と会話して、その上魔法まで使えると言いたい訳ですか?」


『左様でございます』 


「信じられると思う?」


『……私は真実のみを述べています。が、しかし、それを貴女に押し付けるつもりはありませんし、信じていただく必要性も感じておりません』


 到底信じられることではない。とはいえ、彼らのやり取りの中身はわからないものの、白猫が自分で判断して返答をしている場面があったのも事実。腹話術やそれに準じた手妻では無いと思うし、魔法で声を猫から発しているわけでもない。マナが感じられない。明らかにこの猫には知性がある。

 事前に猫を知性化し、会話可能にした上でさらに翻訳魔法(そのようなものがあればの話だが)を使用可能にする。そんな手間をかける意味が全くわからない。眼の前の男からは魔力をほとんど感知できないし、彼がそれを成したのかも判断できない。いや、人の業だとしても彼の手によるものでは無さそうだ。

 ため息を一つついてそれ以上考えるのを諦めた。


 この広い世の中には多分、人語を解し、魔導を嗜む猫が存在するのだろう。学院でもそんなものは聞いたこともない。とはいえ、知性のある幻獣の話はいくつか授業で受けたことがあります。

 おそらくそれだけでしょう、これ以上は自分には関係のないことですね。


「わかりました。明日も早いのでこれくらいにしておきますか。他にも色々聞いてみたいことがありますのがまたの機会にしましょう」


 猫からそう伝えられた彼は頷いてみせた。


「ここから東に進めばニールという街があります。途中地形の関係で道が曲がったりもしますが基本一本道です。ゆっくり歩いても2日くらいで着きますよ。今日のところはこの野営地で休んでいきなさい」


 彼にはこちらの都合で無理に逆方向へ歩かせてしまったのだから、別れの際に食事と水を少し、路銀も幾ばくか提供しましょう。こちらから指定した宿に泊まるように伝えて、戻ったらもう少し他の話を聞いてみるのも良いかもしれませんね。


『ありがとうございます。我らからも感謝を』


 最後の言葉は猫からかしら? 彼らとの会話を終えたあと、予備の毛布を一枚渡しておくよう従士に言付けておきました。明日が本番なので今日は早めに休むとしましょう。


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