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猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第二章
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14話

* ヒュー *



「殺害依頼があったんだ。猫を連れた若い西方人の男を殺せって」


 目を大きくして、オリーをみやり、驚いたフリをする。


「依頼者は誰だ?」


 実は俺だ。もっとも、間に何人も入れて隠蔽してるから絶対俺にたどり着くことはできないだろうがね。


「し、知らない」


 足元に、持っていた剣を突き立てる。


「嘘をつくな! 正直に言え!!」


「ほ、本当だ、なんでもさる高貴なお方からの依頼からだとしか。俺達下っ端に回ってくる話なんてその程度なんだ」


「オリー、こんなことをしそうな相手に心当たりは?」


「この町での知り合いなんて限られてるニャ。その中で僕を嫌ってそうな相手なんて伯爵家の家宰くらいニャ」


 嫌ってなくても命くらいは狙われるぜ? そこはやっぱり必要に応じてってやつよ。


 また盗賊に向き直って髪の毛を掴む。


「こいつはそう言ってるんだが、実際どうだ? 家宰からの依頼なのか?」


「だから知らないんだって! 家宰なんて野郎、名前だってわからねえよ」


 まぁそんなもんだろうなぁ。


「他に聞きたいことはあるか?」


 オリーは目をつむって首を横に振った。そうか、んじゃこいつにはまた静かになってもらおう。男の方を向き直ってそのまま当身をして気絶させる。


「盗賊結社って逮捕はできニャいのかニャ?」


「俺も衛士になったばかりだからよくはわからねーけどさ、こいつら自体は当然上も把握してるんだよ。でもその上で結社を根こそぎ逮捕とかはしねえみたいなんだ。実際、上の連中の一部は裏で繋がってるかもしれねえ」


「サルどもは浅はかですね」

 

 白猫が鼻で笑ってら。


「違いねぇ」


 こればっかりは猫を笑えねぇ。実際そんなのはどこの町でもある話だろう。今回はたまたま俺の方が先に依頼を出したんだが、家宰がこいつの殺害依頼を出してもおかしくはないんじゃないかって感じはする。


「こいつらの仲間はまだまだ居るからな。これからも狙ってくると思うぞ」


 そこで一旦言葉を切って猫たちを見る。


「猫たちがいれば直接的な害は受けねえだろうけどさ。多分どっかで毒を盛られたりする。馴染みの店や屋台で出た料理がいつの間にか毒入りになったりするだろうな」


 これは確実だ。間違いなくそうなる。


「お前さんがどこかで働き始めたら、今度はその店に被害が出るだろう。その場は撃退してもしつこくしつこく手を変え品を変え、な」


「ニャァ……」


 こいつの喋り方やっぱりおかしいよなぁ……。いや、笑ったりはしねえよ? そんなことをしたら折角築き上げた信頼関係ってやつが無駄になっちまう。


「お前さんの住処の周囲でも色々嫌がらせが起こるだろうな」


「この町から逃げるしかニャいのかニャ?」


「いや、それも難しいらしい。やつらも商売でやってるだろ? 面子もあるから、見逃すわけにも行かねえんだとさ。んで裏の世界は結構横のつながりがあるらしくて、ようするに他所の町にいっても、現地の犯罪組織に通達がいって命を狙われ続けるんだと」


 逃げられても困るんでちょっと誇張しておく。実際そういう話はあるんだが、反目しあってる組織だってあるから、そういうところに逃げれば問題はない。

 あとは、既存の社会勢力と断絶してる土地も存在する。魔王軍の支配領域のことだがな。


「やるしかニャいってことニャ。仕方ニャい。降りかかる火の粉は払わざるを得ニャいニャ」


 お、あまり感情を見せないと思ってたが、怒るときは怒るんだな。ちょっと見直したぜ。


「おう、俺達に任せとけよ。連中皆殺しにしてやるぜ」


 キジトラが威勢のいいことを言ってるが、こいつの場合は口だけじゃないからな。まぁやる気があるのはありがてえ。これで話を進められる。


「確か下水道を本拠地にしてるって話だ。まぁ俺も行ったことはないんで正確な場所は知らねえ。上からは近づくなって言われてたしな。それはこいつに案内させれば良いだろう。でも良いのかい? 多分、恐ろしく凄惨な殺し合いになるぜ」


「やるニャ。それで黒幕を吐かせてやるニャ」


 良いねぇ、その調子で盛り上がっていってくれよ。お前には期待してるからさ。


「先に言っておくが俺は手助け出来ねえ。これでも衛士になる際に、偉大なる調停者の天秤に公正を誓った身としちゃあ、『命狙われてるんで、反社会勢力皆殺しにいきます!』、なんて言われて、はいそうですかって訳にもいかねえからな?」


「……あんたの立場を考えたら仕方ニャいニャ」


「俺は見なかったことにするから、あんたたちも俺を見なかったことにしてくれ。もしも取り調べを受けることがあっても、俺の名前は出さないでくれればそれでいい」


「法で処罰されるかニャ?」


「殺害依頼が掛けられた証拠があれば、一応正当防衛を主張出来たりするんじゃねえかな。それに相手が相手だから表向きはお咎め無しだろう。問題は、黒幕がお前の言うように家宰だった場合、悪意は続くってことだな」

 

「家宰に繋がる何かを探す必要があるってことニャ」


 いやー、存在しないものを探すのはやめといた方が良いと思うぜ。止めはしないがね。


 しかしこいつらほんとに後は任せっぱなしで大丈夫か? なんか頼りねえんだよな。興味もあるし、一応見届けた方がいいのかねぇ。いやぁ、俺も人が良すぎるかな。


 よし、確かそんな汚れてない包帯があったはずだが……。隠しから包帯を取り出して頭に巻き始める。つっても細断した、ただの布だ。まぁ目と耳だけ出しとけば大丈夫だろ。


「何をしてるんだニャ?」


「これで、今ここにいる俺は新米衛士のヒューじゃなくて、顔を怪我してこの町に流れてきた難民だ。名前はめんどくせえな。『包帯』呼びでいいぞ」


「ついてきてくれるってことニャ。助かるニャァ」


「ヘヘ、気にすんなよ。単なる好奇心ってやつさ」


 謙遜して美談ぽく聞こえるかもしれないが、紛れもなく好奇心だったりする。


「うーん、ちょうど昼飯どきだが、腹を切られたらまずいからな。さっさと片付けて飯にするか」


「ビアンコ、カルネ、行くニャ」


「決まったのか。皆殺しで良いんだな?」


「やつらは下水道を本拠地にしてるってえ話だが、この町の下水道は広いらしい。宿無しがそれなりに転がり込んでるってえ話なんで手当たり次第に皆殺しはまずいな」


「入れ墨が見えれば判断つくニャ?」


「つっても、入れ墨の場所が一定じゃなければ目安にはならんわな。目につく人間全員ひんむいて調べる訳にもいかねえし」


「やっぱり皆殺しが一番簡単だろ」


 キジトラ猫が舌なめずりをしている。こいつには細かい仕事は無理そうだな。この建物のなかの生き物皆殺しにしろ、とかなら手もなく片付けそうだが。


「下水というと、閉鎖空間での魔法ですか。火炎は狭いところだとよろしくないのですよね。特に空気がなくなると敵どころか我々もまずい。ここはお嬢さんに先日教わった稲妻の魔導でも試してみますかね」


 あー、やばそうだな。こいつ、魔力は凄いんだけどほんと使い方下手なんだよ。っていうか、味方を巻き込むのにも躊躇しねえのはヤバイって。いや、俺が味方扱いされてない可能性がある? 他の魔法が使えないか一応聞いてみるか。


「金縛りの魔法は教えてもらわなかったのか?」


「覚えましたし、使えるのですが……あの魔法は筋肉を硬直させて相手を動けなくするものでして」


「そういう仕組なのか。知らなかったな」


「私が使うと、強力過ぎるのか慣れてないのかわかりませんが、心臓が止まって死にます」


「ただの金縛りが即死魔法か……やべえな」


 おおう、それはやべえ。やっぱこいつ、魔法覚えるとかなり強くなりそうだな。てか、それがわかるってことは誰か裏でぶっ殺してるのか? 気づかないふりをしておこう。


「心停止なら五分以内に心臓マッサージすればなんとかなるかニャ?」


 こいつが言ってるのが何かわからねえが、そんなので大丈夫なのか? とりあえず、白猫には離れたところで魔法を使ってもらおう。また巻き込まれたらたまらん。


「俺の方は身を守るくらいは問題ない。さっき巻き込まれた火傷もあってちょっと本調子じゃあないがね。あんなのはホントもう勘弁してくれよ? その稲妻の術ってのも使うときは教えてくれ。逃げておくから」


 敵に気づかれにくい猫たちが先行して、俺がオリーの護衛をするという話で落ち着いた。盾くらいはどこかで拾っておかねえとな。流石に暗がりからいきなり矢を放たれたりするのはめんどい。


「そこの男を起こして、敵の内情を喋らせるのはいいニャ。でも連れて回るのは邪魔にニャルのでは?」


 まぁそれもそうだ。情報だけを得て置いていくのがいいだろう。出来れば生かしておいて後に禍根を残したい。俺に歯向かってきたら殺すがね。


 構成員の人数と腕の立つやつを特徴込みで優しく聞き出しておく。こいつは本当に下っ端らしくて、あまり奥の方のことはわからなかったんだがね。都度キジトラを偵察に出すことに決めてあとは現地で流れに任せる感じだ。


 想定以上に地下水道は複雑らしい。入り口周辺ならまだしも、奥の方の結社の本拠地周辺はあちこちに罠が仕掛けられているそうな。中にはこいつが知らないようなものも多いとのこと。


「奥の方まで入れば、関係ない人間を傷つけることはほぼ無さそうってことは救いか」


「罠が目についてきたら、それ以降、見敵必殺ということでよろしいですかね」


「いや、皆殺しが目的じゃないニャ? それに捕らわれてる人も居るって話ニャ」


「遺恨は残さないようにした方がいいと思うぜ? 殺さなかったやつは逮捕して投獄できる訳でもないぞ」


「めんどくせえから目についたやつぶっ殺でいいじゃん」


 口ではこう言ったが遺恨は残して欲しい。ここの盗賊団はそれなりに規模が大きいし横のつながりもあるから、今回だけで終わらせるには勿体ねえんだわ。まぁ多分、皆殺しを推奨すればするほどこいつは意固地になって反対すると思う。なんでそんな甘いのかはわからねーが、やっぱいいとこの生まれなのかね。どこの誰とも知らない相手から日夜命を狙われるような生活を送れば、人間的な成長を見込めると思うからな。絡め手を使ってくる連中を、相手にしてれば徐々に隙もなくなっていくだろう。

 

「いや、降伏した相手は命までは取らないニャ」


「わかりましたよ。貴方がそうおっしゃるのなら」


「ちっ、めんどくせえ」


 こいつら、降伏させないように目についた相手は即ぶっ殺すつもりだわ。しゃーねえ、できるかどうかわからねえが、こっちで殺し過ぎないように頑張ってみるか。


 結局行き当たりばったりになりそうだ。まぁそういうのもときには面白いか。何気にちょっと楽しみにしてる自分がいることが驚きだった。やっぱり人生には息抜きが必要だな。あーしかし腹が減った。一段落したら何か美味いものでも食べに行きてえなぁ。

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