表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第二章
33/75

8話

* オリー *



「あんた犬を飼ってるな?」


 突然カルネが口を開いた。


「あ、臭いする? やっぱりわかっちゃうもんなのかな。散歩が好きな犬でね。毎朝せがまれるんだ」


 カルネはじーっとジャイオさんを見つめてる。ジャイオさんもそんなカルネを見つめ返してる。


「市場で嗅いだ臭いがあんたからしたんでな。ちょっと気になっただけさ」


 そういうとカルネは干物を噛じる仕事に戻っていった。


 僕とジャイオさんは顔を見合わせて。肩をすくめるようなジェスチャーをした。これって通じるものなんだね。




 んじゃ改めて、さっきの話の続きだけど、と前置いて。


「猫たちが神に使命とそれを達成するための力を与えられた、というのは理解できるんだ。世界の病いどうこうってのはわからないけど」


「わからないのかニャ。聞いてみたかったニャ。それを聞いた、ここのお姫様は魔王を倒せとか言ってたニャ」


 もちろん嫌だ。


「そう解釈できるのは否定しないよ。でもそれだけのために創生の秘神が神話の彼方から出てくるのかなぁ」


 それって魔王討伐よりも面倒な何かがあるってこと? 勘弁して。


「オリー、君って西方人じゃないよね?」


「ウニャッ」


 わかる? いや別に西方人じゃないからどうってことはないよ? 実際違うわけだし。


「今までの情報から推測すれば簡単だよ。うん、次は君について教えて欲しい」


 猫二匹の次は僕に関心が移るよね。


「こちらの人は僕みたいな人間を見ると何でもかんでも西方人って扱いにするニャ。そもそも貴方相手にも僕は西方人ですニャ、とは一言も名乗って居ないのニャ。それからこちらの人はザックリ西方人ていうと全部西方帝国出身っていう扱いにしてるみたいニャ」


「なるほど、確かにそうだ。じゃあ一体どこから来たんだい?」


 ある程度は正直に答えるしか無いみたい。黄色人種が西方諸国以外のどこに住んでるのかわからないんだよねぇ。だからあんまりそこは突っ込まれたくない。


「僕はこっちじゃあまり知られてない島国で産まれ育ったニャ。だから西方帝国出身でもなんでもないニャ。黄色人種ではあるけど西方人ではないのニャ」


 この世界の話ではないだけで、嘘は一つもついてない。


「ほー。その産まれた国のことについて聞きたいな、こちらでは知られていないって、一体どんなところなんだろう?」


「うちの国には王が居ニャくて、選挙で代表を決めて政治を行っていたニャ。僕には選挙権はニャかったニャ。だからって訳でもニャいが、金を持ってるやつが力を持ってて貧乏人には生き辛い国だったニャ」


「お、今だに共和制を選択している政体があるのか。そりゃ凄いね。古代グアラ・プルキア地方の都市国家群みたいだ。グアラン人ってのがあちこちに植民市を作っては移住してたんだけど、成人男性の直接選挙で国政を動かしてたらしくてね。汚職や暴力の排除は苦労してたみたいで、しょっちゅう暴君が出ては市民に打倒されて、また暴君が出てみたいなことを繰り返し」


「こちらの国とは言語も文化もまるで違ってるのに、いきなり連れてこられてびっくりしたニャ。ここのお姫様に拾ってもらえニャかったらやばかったニャ。なんとか帰りたいと思ってるニャ。こっちの人で僕の国のことを知ってる人は一人もあったことがニャいニャ」


 遮った。だから長いよ。面白そうなのは認める。


「なんていう名前だっけ?」


「ニホンだニャ」


 しばし考え込むジャイオさん。首を捻りながら唸ってる。


「ダメだ、全く聞いたことがない。君の言った名前とこちらからの呼び方が異なる可能性も否定はできない。確か、ナ・パンっていう都市が北西の方にあったはず。でもあれはこの大陸の話だしなぁ。そうそう、テンガク芋って元々ナ・パンの原産らしくてね。それが今では大陸南東まで流れてきて、庶民の食卓を彩ってるってのは凄いことだと思わない?」


 まぁ知らんだろうね。そこは期待してない。ていうか、話がすぐ逸れる。この人、会話のキャッチボールが出来なさ過ぎ。ボール投げたらそのまま抱え込んでどっかに走り出してるってレベルだ。


 まぁ、日本の細かいことに興味が移ってもめんどくさいしなぁ。正直僕もきちんと説明出来るほどの知識はない。受験で覚えた文学やら歴史くらい? 文明レベルの高さとかそんなの言えないし。言ったところで技術的なことはそもそも答えられないから、ホラ吹き扱いされかねないか。


「なんとか帰る方法を知りたかったニャ。現状だと、どこに行けばいいかもわからんニャ」


 とりあえず彼の話は無視してこちらの話を押し付ける。何か言えば新しい話しに反応するのでそれがこの人相手の正しい対処法らしい。ひでえなこれ。


「お力添え出来なくて申し訳ない。自分以上の知識といえば、学究都市にいくしか無いと思う。でもなぁ、学究都市ロク・サイネデンはついこないだ魔軍に占領されちゃってね……」


 え、マジで??? それを先に言ってよ!!


「うへ、マジかニャ?! その都市には期待してたのニャ。それがダメニャんて……」


「自分もあそこに住んでたからね。知らせを受けたときは凄い衝撃を受けたよ。兄が死んだとき以上に」


 それは比較したらアカンやろ。この人やっぱりろくでもねえなぁ……。まぁそれはおいといて。


「次の質問はどこに行けば帰れるかって相談がしたかったニャ。先に望みを絶たれてしまったニャァ……」


「サイネデンの賢者連以外に知識が豊富な人か……自分の先生くらいしか知らないな。あの人は知識の神の司祭だし、よければ連絡してみようか」


「いいのですかニャ?」


「悩める人に助言をするのも役目だからね。自分の先生が、ロク・サイネデンに住んでたんだ。都市が陥落する前に、丁度仕事で街を離れてて助かったらしくてね。だから任せてもらっていいよ。自分も興味あることだし」


 ともっともらしいことをいって胸を叩いた。


「それではよろしくおねがいしますニャ」


 深々と頭を下げる。頼りになるかはわからないけど、現状は他に宛がないしできることは一つでもしておかないとね。


「じゃあ他に聞きたいことはない?」


 うーん、もう特に聞きたいことはないんだけど……そうだなぁ。


「そうですニャ。貴方のことが知りたいニャ」


「自分のことか? ふむ?」


「ですニャ」


 不思議そうな顔をしてる。まぁ僕もとっかかりが欲しくて聞いてみただけなんだ。 


「名前は先程も名乗ったね、ジャイオ・パッセだ。パッセ家というのは1000年以上歴史のある名家でして、代々太陽神殿の重鎮を排出していてね」


 千年ってのは凄いなぁ。僕の家はそんなに遡れないよ。父親に聞いても知らないだろうな。


「元々、兄が家を継ぐ予定だったんだ。自分は昔から本を読むのが好きで、青年になってからは家を出て学究都市に住んでたし。家庭教師の先生の影響も大きいかな。その頃は太陽神殿ではなくて、知恵の神の信徒だったんだよ。太陽神殿に入信してからは侍祭を拝命して、神殿での役割は薬草園の管理と薬の調合などをしてるね」


 知識はあってもそんなのやったことなかったのにねぇ、と愚痴っぽくこぼしてる。


「それがニャんで太陽神殿に入信したニャ?」


「あー、そのねー。さっき言ったでしょ、兄が戦死したって」


「それはご愁傷様ニャ……」


 死んだとは言ってたけど戦死ってのは聞いてないな。しかしこっちの世界でもこの言葉で通用するんだろうか? まぁ他にお悔やみの言葉とか知らないからなぁ。


「知ってるかもしれないけど、トラーダ会戦で太陽神殿から派遣した部隊が全滅したのでね。兄は『戦車』の部隊長だったんだ」


 優秀で頼りになって、でも筋肉のウザイ兄だったなぁ、なんてしみじみしてる。その感想はちょっとどうなのって思わなくもない。僕もちょっと前に祖母を亡くしたから、親しい人が亡くなったときの気持ちが理解出来るつもりだからね。


「さっき言ってた『太陽の戦車』って部隊だったニャ?」


「そうそう。『戦車』本隊が出陣して敗北したのは五百年ぶりだって聖堂本山も上へ下への大騒ぎでねー」


「魔軍ってそんなに強いのかニャ」


「軍神のところとも連携してたから、負けようが無いと思うんだけどね。自分も軍事は専門じゃないから詳しいことはよくわからない」


 流石にこの人も軍事面は明るくないらしい。


「だから、どこも魔軍の強さをなんとか分析しようと躍起になってるんだ。会戦以降もあちこちで勝ったり負けたりを繰り返してるって話しで」


 負けてばかりじゃなくて、勝つこともあるってのがよくわからんニャ。


「この国も派遣した軍が全滅したのに頑張ってるね」


 最初の討伐隊のことかな? でもあれは全滅じゃないしなぁ。


「全滅したのニャ?」


 彼に、ご存知でない? と聞かれたのに対して、ニャ、と頷くとじゃあそれも、と笑って話を続けた。


「トラーダ会戦は、同盟参加諸国から八カ国もの軍隊が参加した、古今例を見ないような大規模な戦闘だった。この国も、後方だったから義務もなかったのに、国威発揚の機会とばかりに奮発して軍を送りこんだらしいし」


 と言葉を一旦切ってお茶で喉を湿らせた。その後、周囲に目をやって他の客がいないのを確認してた。なんか言いにくいことでも言うのかね。


「ニャアニャア」


 僕も相槌をうっておく。相槌だってわかるのかこれ??


「第二王子自らが箔付けのために率いた軍隊が、見事に全滅してね。その第二王子はニール辺境伯のご息女と婚約してたので、ここからもたくさん騎士を出したらしいんだよ」


 え、それ知らない。いや聞いてないからかもしれないけど。マールはそんなこと一言も言ってなかったよ。


「そ、それって何時の話だニャ?」


「あれから、もう一年とニヶ月になるかな」


 早いもんだ、としみじみしてる。お姫様が、さっきのヒューとの話しのときにちょっとおかしかったのも、魔軍相手に恨みでもあったからかな? 婚約者が居たってのもちょっとショックだけど、既に亡くなってるってのはなぁ……。まぁ会ったばかりの他人には話せるような内容ではないか。


「今はどこも軍隊の立て直しで大混乱だよ。でもこれが収まったらもう一波乱あると思うね。それまでに何故敗北したのか原因が見つかるかどうか」


「素人の質問ニャ。八カ国も軍隊がいたら統制取れなくて、バラバラに各個撃破されるんじゃニャいかニャ?」


「一応各軍隊に軍神のところから派遣された軍師がいて、連携取るように指示されるはずなんだよね」


 よくわからんが凄そうね。しかしそれでも負けたのか。


「敗北の原因がよくわからないってのはしんどそうニャ」


「うちでも上が大わらわでね。まぁ自分は会戦のあとに呼び戻されて、入信してすぐに侍祭なんて位を与えられたから、軍事関連の仕事は一切してない。楽なもんだよ」


 この街に着たのも、この街で勤務してた太陽神殿の司祭が複数名、先程の会戦に従軍して戦死した穴埋めらしい。


 そんな内部事情まで語っちゃって大丈夫なのかねこの人。ほんと口軽いな。しかしどこも面倒そうだ。知らなかったな。ニールにも裏事情がありそう。僕は家に帰りたいだけなのに。


「さて、大分長くなったな。これに関しては十分だよね? じゃあ次はこちらから……」


 まだこちらも聞きたいことあるからいいけど、いつまで続けるつもりなんだろね。


 突然、猫二匹がビクッと立ち上がって階段の方を凝視した。僕とジャイオさんもそれに驚いて猫たちが見ている先を見つめる。


「侍祭様! いつまでか茶を飲んでるつもりですか! そろそろ仕事に戻ってもらわないと!」


 階段から現れた犬が喋った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ