15話
* オリー *
正直お腹は膨れなかった。いや、昨日からろくにものを食べてなかったからすごく腹ペコだったんだ。流石にあんなものを見ちゃうとね。勿論、あの惨劇から何時間も経ってはいる。そんなすぐに食欲は回復しないよ。特に肉料理がしんどくって、でも一応領主様が切り分けてくれたものだから無理に口に運んでなんとか飲みくだしていく。結局、半分以上残しちゃったよ。
当人のくせにバリバリ食べてる猫たちが羨ましかった。マナーわからなかったから参考にするために見てたんだけど、お姫様もあまり箸が進まない様子。そりゃあそうだ。気にせずムシャムシャ肉がっついてたらこの世界には益々居られなくなるところだった。
まぁ今日は諦めよう。普段はもう少し食べるんですが、ちょっと今日は食欲がわかなくて、という内容の言葉をビアンコ経由で伝えてもらう。お姫様も苦笑いしてた。あとは水で我慢する。そう言えば、水は大丈夫なのかな? よく旅先で生水飲んでお腹こわしたとか言うよね。……あとでビアンコに出してもらおうか。便利だなぁ魔法。僕も使えないかなぁ。
領主さんは結構早く席を立ってたな。僕も何とかデザートのプティングぽいものを詰め込んで食べたところで、お姫様に声をかけられた。もう少し色々話が聞きたいから先程の書斎にまたきてくれないかだって。
ちょっと疲れてたから眠かった。とはいえ、いつもなら寝るには早い時間だったしついていくことに。
部屋に入ったらさっきと同じように領主さんも待っていた。お姫様がなにか言ってたけど、領主さんの方はなんだか笑ってごまかしてた。先ほどと同じように席を進められると、メイドさんが飲み物を持ってきてくれた。多分ワインだと思う。あー、水か何かで薄めてるらしい? お茶を飲む習慣ってないのかな。飲み物はありがたいんだよ。アルコールはあんまり飲めないから他のものが良かったなぁ。
「ビアンコ、ちょっとだけ待ってくれるかお願いしてみて」
ワインで喉を湿らせてから話を~ってことだとは思う。ちょっと内輪で話したいことがあったんで待ってもらった。流石に今の状態で会話を続けるのは面倒過ぎる。もう少し状況を改善出来るか試してみたい。
「現状、ビアンコに通訳してもらってるよね。ずっとこれは不便でしょうがないじゃん。何とかならないかな」
「具体的にどうしろとおっしゃるので?」
「僕とカルネに君と同じく彼らの言葉を喋る能力が欲しい」
「切り分けて考える必要がありますね。私が今使っている翻訳の魔法も幾つかの魔法の組み合わせになりますので。少し試させてください」
ビアンコはカルネに向けてあれこれやっていた。ブツブツ言うのを聞く限りだと、入出力の処理が異なるらしい? 残念だけど僕にはよくわからなかった。
しばらくしてから、こちらを見上げたビアンコはどこか満足そうにいう。
「問題の一つは解決しました。まず、弟がこちらの猿の言語を理解できるようになるでしょう」
おお、それなら僕の方もすぐかな? まぁカルネは元々無口な方だから黙って寝てるかもしれないけど。
椅子に座った僕の膝にビアンコが飛び乗る。皆が見守る中で(カルネすら見ていた)、そのまま肩から頭へと駆け上がると、器用にバランスを取り、僕の額に両前足を当てた。そのままビアンコの理解不能な呪文が室内に響くと……。
「マール、あの猫はさっきから何をやってるのかわかるかね?」
「いいえ、お父様、私にもさっぱりですわ」
おお、聞こえる、僕にも彼らの言葉が理解できるよ!!
「ニャ、ニャー! ニャーニャー! (聞こえた! 言葉がわかるよ!)」
喜びを口にしたら猫の鳴き声だった。
「ニャ? (あれ?)」
「オリー君だったか、彼は突然どうしたのだろうか」
「猫の鳴き真似でもしたの?」
「オリー、私の声は聞こえますいかね?」
猫たちと、領主様とお姫様を交互に見やる。相手の言ってることは理解できる。理解は出来るが、自分の口からはニャーしか出てこない。
「安心してください貴方の言葉は我々には伝わっています」
「ニャー、ニャー?! (な、なんだってー?!)」
「領主殿、お嬢様、オリーにはこちらの言語を理解する魔法を掛けました。ただ現状私が使用している魔法では、貴方達の言葉を我ら血族向けに変換しているのです。それをそのまま使ってもオリーには理解できないので、オリーの脳を血族の思考に魔法で近づけました」
だから、みんなの言葉はわかるけど猫語でしか喋れなくなったと? なんだそりゃ! 欠陥魔法じゃん!!
「ニャァニャア、ニャー! (おいおい、急いで戻してくれ!)」
「そうは言ってもですね、貴方、こういうのは急になんとかなるものではないのですよ。段階を一つずつ踏んで目的を達成するのです。だからとりあえずはそれで我慢してください」
やがてはきちんと会話可能になると思いますので、と続けるビアンコ。
確かに直接相手の言葉を聞けるのは通訳の手間を半分にすることが出来る。大きな進歩なのかもしれない。あ、良いこと思いついた。
「ニャアニャー、ニャア、ニャアニャニャー(ちょっと思いついたんだけどさ。領主様とお姫様を僕と同じようにできない?)」
「どうなるかわからない魔法をそんな気軽には使えないでしょう。何より失礼ですよ」
お前そんなものを僕に使ったのかよ!! どういうことだよ!!
僕の盛んな抗議を鉄面皮で無視する白猫。
「ホストである彼らに客の都合に合わせろなどというのは傲慢ではありませんか? 私はそれを要求するのも失礼に当たると思ったのですが」
そう言われると言葉も無いけどさー。でも不便だしさー。
「えーと、とりあえずはもうこちらの言葉を理解できる、ということでよろしいのでしょうか?」
こちらでグダグダやってるのを見かねてか、お姫様が確認するように視線を向けてくる。
ビアンコは何も言わないので僕の方から、伝わっていますよという意味を込めて首を縦に振った。あーでも、首を縦に振るってのが肯定の意思表示とは違う文化かもしれないんだった。
「試しに私が言う言葉に従ってみていただけますか? 無理は言いませんので」
素直に頷いた。はっきりさせたほうが良いだろうし。
「右手を挙げて椅子から立ってその場で左に一回転して、腕をおろしてから座ってみてもらえますか」
その通りにした。ちょっと複雑だと思ったね。
「問題はなさそうですね。今後はそちらの意思表示をする時だけ白猫ちゃんに通訳していただくという方法でよろしいですか?」
頷いた。実際確かに手間はかなり減る。僕がマヌケに見えるのは我慢しないとね。
「ニャー、ニャー? (ところで、これ治るの?)」
「なお……す? 血族の完全体になる算段はついてるんですよ?」
思わず白目を剥いた。なにいってだこいつ。そう言えば、こないだ治療で猫化してたな。あれを発展させて肉体を完全な猫にして今度は脳を改造すると? あとで真面目に言い聞かせないとダメですね……。




