表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫二匹と始める異世界下水生活  作者: 友若宇兵
第一章
1/75

1話

誤字脱字読点抜けなどを修正

 * ??? *



 気づいたら荒野の真ん中に突っ立っていた。

 木は生えてるが背の低い雑木ばかりで、下草もまばらな荒野。

 目をやると彼方には山裾が広がっており、なだらかな丘陵が続いている。

 そんなところに何故立っているのか思い出せない。

 しかも素足にパジャマで。

 自分がどこの誰で今まで何をしていたのかもすぐには出てこないんだけど。

 足元を見ると白猫が一匹、近くの岩の上にキジトラの猫がもう一匹乗っていた。

 猫たちを見て思い出す、というかなんだかピントがあったような気がした。




 僕の名前は柳川織居。

 この春地元の国立大学に入学したばかりの大学一回生だ。大学デビューも上手くいって、入ってみたサークルも可愛い子が多くて結構気に入ったし、学科も気の合いそうな友人ができたので順風満帆といったところ。

 将来の夢とかはそのうち見つければいいやって感じなのはちょっといい加減かもしれないけど、そんな学生いくらでもいるだろう。

 昨日も飲み会で財布が寂しかったから二次会は辞退して帰ってきて着替えはしたけど風呂も入らずに寝たはずだ。

 そこから起きた記憶もないし、寝る前に猫の相手を少ししてから寝たから外で寝たってこともないはず。




「おい、飯はまだか」


 どうしたものか考えがまとまらずにいたら、近くから声がした。

 周囲を見渡しても、何も変わらず僕ら以外に生き物の気配はない。

 気の所為かと思って腕を組んで思案を続けようとしたらまた声がした。


「君、無視をするのはやめたまえ。大人げないぞ」


 まるで腹話術でもしているかのように僕の猫が喋っていた。

 今度はしゃべるタイミングを見逃さなかったので間違いないと思う。


「おい、寝ぼけてんのか? もう昼前だぜ、お前大学行くようになってからだらしない生活送るようになりやがって」


 しっかりしやがれ、とキジトラから叱られた。

 驚きのあまり言葉が出なかったのを勘違いされたようだった。


「いやいや、なんで君たち普通に喋ってるの?」


 何言ってるんだとばかりに猫たちは顔を見合わせた。


「元々私達は喋っていましたよ。君が聞く耳を持たなかっただけです」


 表情を変えずに白猫が責めるような口調で言う。


「全くだぜ。まぁそんなのどうでもいいから早く食い物よこせ」


 こちらは人間の僕からみてもわかるくらい表情豊かに口元を歪めながらキジトラが。

 いや、どうでも良くないから! 大事だから!!


「もうわけがわからないよ、ここはどこでなんで猫が喋ってるの! 誰か説明してよ!!」


 興奮してつい大声を出してしまった僕に、冷めた口調の二匹が語りかける。


「ほんとにお前はバカだな。話を聞いてなかったのか」


 話? 話ってなんだよ!? あとカルネ、君がそんなに口が悪いとは思ってなかったよ。乱暴な猫なのはわかってたけど。そうそうこのキジトラ猫の名前はカルネ。もう一匹の白猫はビアンコ。毛色は全然違うけど兄弟なんだ。祖母が亡くなってからうちで引き取ることになって僕が面倒をみている。


「カルネ、多分彼は寝ていたから聞いてなかったと思うぞ。現状を受け入れがたいのもむべなるかな」


 彼は見かけによらず小心者だからな、と続けるビアンコ。まさか飼い猫にそんな風に認識されていたとはちょっとショック。


「えーと、君たちなら説明できる? ついでになんで話せるようになったのかも教えてくれるとありがたいんだけど」


「それは構わないが」


「先に飯だよなぁ」


 二匹は合わせるように応えた。

 ここで流されてしまうのもどうかとは思うけど、この子達はご飯に関してかなりうるさい。なにかしら食べるものを渡さないと絶対に話をしてくれないだろう。

 でも、本当に着の身着のままなのだ。財布もスマホも持っていない。上はTシャツ、下は薄い夏用パジャマ。

 むき出しの岩場というわけではないけど、足の裏がちょっと痛い。

 ハリウッド映画の役者のようにオーバーアクションで腕を広げて語りかける。


「食べるものもってるように見える? 君たちなら匂いでもわかるんじゃないの」


「まぁそうだよなぁ」


「わかっていたこととはいえ、確認が必要でしたのでね」


 二匹ともどこか呆れている様子だけど、こんな状況で潤沢に食料用意できないよ。


「とりあえずどこかでタクシーでも拾うか交番でお金借りて電車で帰ろう。ここがどこかわからないからそれも聞かないと。ご飯はそれからね」


 スマホがあれば家に連絡したのに。

 こんな何もない風景が日本国内にあるとは思えなかったけど、流石に一晩で拉致されて外国の無人の荒野に放置されたとは考えにくかった。

 喋れることについては帰りがけもう一度聞いてみよう。


「帰るのは無理だろうけどな。まぁ飯は俺らでなんとかしなきゃダメか」


 獲物でもとってこにゃぁと顔をこすりながらいうカルネ。

 猫が突然話すようになったかと思ったらやっぱり動物の言うことは理解できないのかな。不安になってきた。


「え、帰ろうよ。母さんだって心配してるって。それに獲物ってなに? 君がよく捕まえてるトカゲとかモグラとかいたの?」


カルネは返事をせずに鼻をピクつかせてる。


「前よりも鼻が利くようになってやがるな。ただ、嗅いだことのねぇ臭いが多いんで実際見てみねえとわかんねえや」


 ちょっくら行ってくる。

 そう言った次の瞬間カルネの姿が一迅の旋風とともに消え去った。


「!?」


 周囲を見回しても、キジトラ猫の姿はどこにも見当たらなかった。 


「え、今何が起こったの? カルネどこ行ったの?」


 こちらの動揺をよそにビアンコは髭を整えている。

 と、すぐに動作を止めて口を開いた。


「首尾よくいったようです」


 白猫がついと向けた視線の先を見ると、遠くから猫が自分の図体より遥かに大きな鹿を引き摺って来るのが見えた。

 驚きで声も出なかった。




「いやー、いつも捕まえてる雀よりもトロかったぜ。こっちが早くなりすぎたのかもな。なんか慣れねえや」


 僕の目の前にドン! と獲物を横たえて自慢げに見せびらかす。確かにいつも庭で取った獲物を一度見せにきてから食べるよね。でもこれは……でかいなぁ。僕が知っているニホンジカとはちょっと違うように見えるけどシカの近縁種だろう。専門家ではないので、詳細な違いはわからないけどなんとなく。


「んじゃ食おうぜ、安心しろ、おれは寛大だから役に立ってないお前にもわけてやる」


 そういってカルネは腹部に顔を突っ込んで内蔵にかじりついた。


「少し切り分けますかね。このままだとどうにも品がない」


 ビアンコがギランっと爪を伸ばしたかと思うと、音もなくシカの四肢を切り落とし、後ろ足の一本をこちらに転がしてきた。やっさしー!

 血抜きなし、毛皮そのまま、当然生肉の野生の鹿。これをそのまま食べれる人間がいたら、正直文明人とは到底言えないのではないか。いや、世の中にはそういう料理を食べる文化があるかもしれないけどね。


「えーっと、僕はそのままだと食べれないかなって……」


 鹿の胴体から腸を咥えたカルネが頭を引き出して、そのまま小さい口で無理やり腸を飲み込む。

 腿にかじりついているビアンコはかみ続けながらこちらへ視線をよこした。

 彼らは僕の言ってることが理解できていないようだ。


「ほら、人間は調理をした肉じゃないとさ」


「わがまま言わずに食え。嫌なら自分で食えるもの狩ってこい」


「わかっていたとはいえケナシザルは面倒ですねえ」


「ケナシザルって何それ」


「読んで字の如く、毛の無い猿のことですよ。君たちの種族を他種族はそう呼んでいるのです」


 猫だけでなく、犬や鳥もそうらしい。

 ある意味仕方ないとは思うが……。

 僕が複雑そうな顔をしているとビアンコの方は勝手に納得してくれたようだった。

 まぁ君の面倒をみるのも我々の役目だから仕方ありませんね、と腿から口を離したビアンコが手を振ると離れたところに生えていた立木が一瞬でバラバラになった。見ている間に粉々になった木が風にのって近くに集められる。さらに一鳴きすると火の粉が舞い、一瞬で燃え上がってしまった。


「焼き具合は君の好みで焼いてください」というと、自分の肉を再び咀嚼し始めた。


 生木なのでものっすごい煙出てるんですけど。

 頼み込んで皮に切れ込みを入れてもらって、皮だけは剥いだ。火のついてない木の棒で肉の一部を突き刺して、めちゃくちゃ熱い思いをて煙にむせながらなんとか肉に火を通す。途中から肉に刺す棒を二本にしたので大分むらなく焼けたのではないかと自画自賛してかじりついてみたら、なんとも言いがたかった。

 せめて調味料をください……。

 それでも食べ続けると、中の方は完全に火が通ってないので、表面をかじって食べれるところを食べたら火にかける、というのを何度か繰り返す。

 お腹は膨れたけど気持ち悪くなった。生臭いこともあって火を通しすぎたのがまずかったんだと思う。ジビエってもう少し美味しいイメージがあったんだけど、きちんと処理したお肉を調理したらって話だよね。ていうか、朝からこんな重いもの食べたくないよ。




「さて、お腹も膨れたことだしいい加減事情を説明して欲しいんだけど」


 さっきはうやむやにされたけど、知ってるのならはっきりしてもらいたい。


「ここはどこなのかとか、なんで君たちが喋れるのかについて。知ってるんだろ?」


 カルネは聞き流すかのようにあくびをしている。

 ビアンコはまた食事で汚れた毛を綺麗にしていた。


「めんどくせえから兄貴頼む」


「お前は説明が苦手だからね。まぁ話しても構わないがそれを受け入れるかは君次第だよ。織居」


「僕次第ってのはよくわかんないけどとにかくよろしく」


「昼ひなか、突然よくわからない場所に連れて行かれ、そこで私とカルネが協力を求められたのです。その見返りとして、生涯美食を提供すると保証されてね」


「ほんとに聞いてもよくわからなかった。誰に何を頼まれたんだって?」


「自称神を名乗る存在に、別の世界救えとかなんとか」


 ええーーーーーーーー??

 神様が?

 猫二匹に??

 世界を救えって???

 それが本当に神様だとしてもそうとう頭がヤバイんじゃないかな……。

 僕なら絶対に引っかからないよ。

 詐欺だとしてもお粗末過ぎてお話にならないね。


「そこで、役目を受けるにあたって、報酬以外に一つ条件をつけました」


 あっけにとられながらも首をふって続きを促す。


「織居、君です」


 ごめんちょっと何を言ってるのかわからない。


「我ら兄弟は保護対象である君を元の世界に放置するわけにはいかなかったのです。よって君も一緒にこちらの世界へ連れてきてもらいました」


 今度こそ開いた口が塞がらなかった。


「なにいってんのおおおおおおおおおおおお?????!?!?!!」


「だからお前も連れてきたんだって。食事係だからなー」


「保護対象ってなんだよ!? ていうか、食事係? 食事係ってようするに餌係?」


 えさがかりなんていうなよーとカルネが声をあげたが無視した。

 冗談だと言ってほしかった。

 でもビアンコの目を見る限り本気で言ってるのが何故か感じ取れた。

 まさか猫たちと僕とでこんなに意識に差があったなんて……。

 がっくりとその場に崩れ落ち、手をついて地面を見る。


「お前仕事なんだから、次は俺に手間かけさせずにきちんと飯もってこいよなー」


 くそっ、このお猫さまがッ!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ