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この並行世界の何処かに私を愛してくれる王子様が居るはずだ

作者: どんC
掲載日:2018/12/24

 この並行世界の何処かに私を愛してくれる人が居るはず。

 私を嫌い冤罪をでっち上げ私の首をはねた男では無く。

 きっと……何処かに居るはず。

 私を愛してくれる人が……

 王太子じゃなくてもいい!!

 貴族でなくてもいい!!

 ただの私を愛してくれる人が何処かに居るはず。

 そう信じて私は平行世界を転移する。



 私の名前はぺメロぺ・シャモニー侯爵令嬢。

 イタリー皇国の貴族だ。

 私とアドニス様が婚約したのは、アドニス様が10歳私が7歳の時だった。

 お城の庭で初めてアドニス様とお会いした時。

 馬鹿みたいにポカンと口を開けていた私。

 だってアドニス様は本当に綺麗だった。

 金色の髪は光り輝き。瞳は青空のように澄み切っていた。

 白い肌はほんのりとピンクに染まり。

 彼が人形では無く、生きている人間だと気付かせる。

 それに比べて私は母に似て髪も目も黒く。

 この国では少し浮いている存在だった。


「この方がお前の婚約者のアドニス様だよ。ぺメロぺご挨拶なさい」


 お父様に促されて私は彼の前に進み出る。


「ランス・シャモニーの子。ぺメロぺ・シャモニーです。不束者ですがよろしくお願いします」


 しどろもどろに答えた私を王様は暖かく頷いてくれて。

 王妃様は可愛らしいと褒めて下さった。

 アドニス様はニッコリ微笑んでくださって。


「僕はアドニス・ド・ブール・イタリー。よろしくね」


 そうおっしゃられて手を差し出して下さった。

 アドニス様の手は暖かく。私は頬を染めた。

 今なら分かる。

 その瞳は決して私を映していないことに。

 政略結婚。

 いえまだ結婚はしていなかったわね。

 王妃様はご身分が低くアドニス様には後ろ盾がなかった。

 そこでこの国一番の有力者で外国の王族を母に持つ私に白羽の矢が立った。

 お馬鹿な私は政略結婚だと言うことも分からず。言われるまま王妃教育を受けた。



 母は異国の姫君でこの国に嫁いできたが私を産むと身罷られた。

 父は直ぐに後妻を迎える。私には腹違いの一つ年の離れた妹がいる。

 妹の母も妹を産むと亡くなった。

 父は弟の子供を養子に迎えシャモニー侯爵家を継がせる事にした。

 従兄弟は名をトウマスといい。5歳年上だ。

 優秀な従兄弟だが一緒の館に暮らしていたがほとんど顔を合わせることも無く。

 お互い領主教育や王妃教育に励んでいた。

 その中で妹はほったらかしの状態だった。

 勿論乳母や侍女はいたが母親が平民だったのは妹だけで。


「お兄様もお姉様もずるい」


 それがレオノーラの口癖だった。

 いったい何が狡いのか?

 勉強に忙殺されている生活の何処がうらやましいのか?

 毎日遊び暮らしている妹こそ狡いと思った。

 妹にも騎士団長の三男のカルプ・フェルケンと婚約が決まった。

 子豚騎士と陰口をたたき、妹は彼を嫌った。

 少しふっくらとしているが、カルプは性格のいい子なのに……

 カルプに暴言を吐く妹。


「ごめんね。カルプ……妹は我儘で何も分かっていないのよ」


 アドニス様の護衛騎士であるカルプに私はいつも謝っていた。

 母親が平民の妹にはカルプは過ぎた相手だ。

 ゆくゆく彼は王族の護衛騎士団に入ることが決まっていた。


「いえ……私のことはお気になさらず」


 カルプはいつも静かに微笑む。

 アドニス様は月に一度、シャモニー侯爵家を尋ねられてくる。

 親睦を深めるために二人だけのお茶会が開かれた。

 もっともアドニス様も私も侍従を連れていたし。

 メイド達も護衛騎士達もいた。

 その頃の私はアドニス様に夢中で。

 おしゃべりしているのは私だけだということも。

 手紙を書いて、庭にすみれの花が咲いた事や。

 孤児院に慰問に行って子供達と遊んだことなどを書き綴った。

 もっと早く気が付くべきだった。

 おしゃべりしているのは私だけ。

 手紙を書いているのも私だけ。

 私には侍従が書いた手紙が送られ。

 侍従が選んだ贈り物が届けられているだけだ。

 なんて愚かだったのかしら。

 愛は無くても最低限の信頼関係は築けていたと。

 浅はかにも思っていたなんて。

 蓋を開けてみれば……

 卒業パーティーの時思い知ることになる。

 私は妹を虐待していたとあまつさえ殺そうとしたと断罪され。

 牢屋に入れられ三日後広場で首を切られた。

 お父様もお兄様も王様に従って国境付近の砦に慰問に行かれていた。

 私は無実を訴えた。最後の最後まで。

 首を切り落とされる瞬間。

 私は見てしまった。

 いつもは無表情なアドニス様がうっそりと笑っていることに。




「どうしたんだい? ぼんやりして」


 アドニス様の声がしました。

 私はびっくりして慌てて答えます。


「いえ。何でもございません。ただ……」


「ただ?」


「薔薇に見とれてしまって……」


 学園の中にあるカフェテリアは小さな庭があって店のオーナーが丹精込めて薔薇を育てている。

 オーナーは赤い薔薇が大好きで、奥さんにプロポーズした時も薔薇の花を贈ったそうです。


「ぺメロぺは薔薇が好きだったっけ?」


 アドニス様が首を傾げる。

 まるで天使のように美しい。


「いえ……私は薔薇よりすみれの花の方が好きです。ただこの店のオーナーは奥様にプロポーズした時、薔薇の花を贈られたそうで。すてきだなと思っただけですわ」


 私は視線をそらす。

 私とアドニス様は政略結婚になるから。

 アドニス様が私に薔薇の花を贈ってくれることはない。

 オーナーは奥様に薔薇の花を3本贈った。

 花言葉は『愛しています』

 本当に羨ましい。


 妹がやって来る。


「アドニス様ご一緒してよろしいでしょうか」


「ああ……いいよ。レオノーラ」


 そして妹が来て。

 レオノーラはよく私達がお茶を飲んでいると声をかけてくる。

 アドニス様とレオノーラは恋に落ちて。

 私が首を切り落とされる三年前の事だ。


 えっ?


 確かに私は首を落とされた。

 私は首を撫でる。

 誰にも気づかれぬようにそっと吐息を吐き出す。

 首には傷一つない。


 鐘が鳴る。

 昼休みは終わった。

 薔薇の花が揺れる。


 えっ? 


 薔薇? 


 待って。

 百合じゃなかった?

 確かに前は百合の花が植えられていた。

 私が首を切り落とされた学園のカフェテリアでは薔薇ではなく百合だった。

 私は学園の地図を見る。

 似ているが少し何処かが違っていた。

 みんなは教室に向かい。私は学園の外に逃げ出した。

 ここは私が首を切り落とされた世界ではない?

 この世界とよく似た世界があると賢者様に聞いたことがある。

 並行世界と言うらしい。

 私は死んで並行世界に来たのかしら?


 神様が……

 神様が私にチャンスをくれたんだ!!


 そう思った。

 でもすぐに王太子の護衛に捕まり。

 私は城の塔に幽閉され。

 水も食べ物もろくすぽ与えられず餓死した。

 死ぬ間際にアドニス様がやって来て。

 床に倒れているやせ細った私を見て……

 笑った。

 アドニス様の後ろにレオノーラがいて。

 勝ち誇った笑みを浮かべる。



 三度目。

 気が付くとやっぱり私はアドニス様とお茶をしている。

 あら?

 赤い薔薇ではなく。

 色とりどりのチューリップが揺れている。

 妹の姿が見えた。

 私は立ち上がりアドニス様に気分がすぐれぬと断りを入れて寮に戻った。

 アドニス様も立ち上がり教室に向かわれる。

 妹は慌ててアドニス様を追うが授業を告げる鐘が鳴る。

 寮にはメイドがいて。私は頭痛止めの薬を医務室から貰って来るように言いつけた。

 私は母の形見の首飾りをバックに仕舞うとメイドの服を着て学園を出た。

 宝石店で首飾りを売り飛ばし。

 外国に行く船に乗る。

 1日で隣の国に行ける。

 でもその夜嵐が来て。

 私は船もろとも海に沈んだ。




「今日は口数が少ないんだね」


 アドニス様は無表情でそうおっしゃった。

 私はやっぱり学園のカフェテリアで、アドニス様とお茶を飲んでいる。

 ハナミズキが風に揺れ。オーナーが水をあげている。


 4度目だ。


 私はアドニス様に謝罪する。


「申し訳ございません。私だけがお喋りして……手紙ももう出しません」


 私は俯く。

 無表情なアドニス様の顔を見ても感情を読み取ることは出来ない。

 そう言えば手紙の返事を貰ったこともなかったな。

 いつも侍従が連絡してくるだけだった。

 美しいアドニス様、賢いとみんなが言うけれど。

 会話が長く続いた事があったかしら?

 何を考えておられるのか分からない。

 いえ……何も考えていないのかもしれない。

 好ましく思っていた美貌も、今では不気味に感じる。


 【人形王子】

 第一王子派はアドニス様をそう揶揄する。

 人形の様に美しいが中身は空っぽだと。

 第一王子の母君は先の王妃様だったけど王子を産むと直ぐに亡くなられた。

 王は直ぐに学園時代からの恋人だった男爵令嬢を王妃に迎えアドニス様が産まれた。

 本来ならば第一王子が王太子になられるはずだが。

 第一王子様は特異体質で魔力が操れない。

 その為第二王子のアドニス様が王太子になられた。


【人形王子】

 一番最初に首を切られた時の彼の表情。

 硝子のようなアイスブルーの瞳。

 私はぞっとした。

 好ましく思っていたものが反転する。

 美しいアドニス様。

 天使のように神々しいと讃えられる美貌。

 まるで人間では無いような。

 得体の知れない生き物のように感じ始めた。

 アイスブルーの瞳は冷たく。

 最初妹に恋をしたのだと思った。

 だから私が邪魔になって、排除されたのだと思った。


 でも違う。


 アドニス様は妹に恋をしていない。

 利用できる駒ぐらいにしか見ていない。

 レオノーラは?

 アドニス様に恋をしているの?

 いいえ。

 欲しいのは皆に自慢できる()()


 アドニス様は……

 王位を継ぐつもりはない?

 王位を第一王子(兄君)に譲りたい?

 そのために私を殺して間抜けな王子を演じるの?

 私は震える手をテーブルの下に隠した。

 ハナミズキが風に揺れる。


 逃げなきゃ……逃げなきゃ……


 ()()殺される。

 妹がやって来る。

 私は妹を呼ぶ。

 レオノーラは喜んでテーブルに着き。アドニス様とお喋りを始める。

 私は用事を思い出したと二人を置いて寮に帰る。

 クローゼットから母の形見の首飾りを取り出してメイドの鞄に質素な服を詰め込んで。

 メイドと私はほぼ同じ体型だ。

 今度もメイド服に着替える。

 メイドはお茶会のお菓子を買いに行かせた。

 町に出てお爺様の国に向かう馬車に乗る。

 馬車には5・6人の乗客がいたが。

  国境付近で魔物に襲われ皆死んだ。


 


 気が付くと私はアドニス様とお茶を飲んでいる。


「気分でも悪いの?」


「えっ……いえ……」


 私はそっとお茶を皿に下ろす。

 吐きそうだ。震えが止まらない。

 アネモネが風に揺れ。花びらが舞い踊る。

 また失敗した。

 妹がやって来る。


「私……やっぱり気分がすぐれないようです……」


 私は立ち上がり寮に戻ろうとする。


「いや。医務室に行こう。顔が真っ青だよ」


 アドニス様は私を抱きかかえた。


「あ……あの……私……大丈夫です。一人で医務室に行けます」


 みんなが見ている。

 ざわざわとざわめく。


「お姉様どうなさったの?」


 妹が尋ねるが。

 アドニス様は私を抱きかかえたまま医務室に向かう。

 護衛が私を運ぼうとするがアドニス様は拒絶し。

 護衛も妹も無視する。それでも護衛はアドニス様の後を追い。

 妹はポツリと取り残される。

 医務室の先生はアドニス様に抱きかかえられた私を見て驚いていたが、直ぐに私をベットに寝かせた。

 灰色の髪と灰色の瞳の若い先生だ。


「貧血かしら? 王妃教育が厳しいの?」


「いえ……」


 私は口ごもる。

 アドニス様に殺されるのが嫌で逃げ出す方法を考えていたからです。

 とは言えない。


「取り敢えずこの薬を飲んで寝ていなさい。アドニス様は教室に帰って授業を受けてください。私が付いていますので」


 アドニス様は渋々護衛に連れられて行く。

 私は取り敢えず薬を飲みベッドに入った。

 いつの間にか眠っていた。

 人の気配に気付いてベッドがら起き上がる。

 カーテンを開けると一人の生徒が居た。

 第一王子様のキプロス様だった。

 護衛もつけていない。


「どうなさいました?」


「あ……いや……」


「お怪我をなさったのですね」


 キプロス様の手首が腫れている。

 剣の授業で怪我をなさったんだ。

 キプロス様は特異体質であらゆる魔法を弾いてしまうのだ。

 攻撃魔法も弾くが、回復魔法も弾く。

 厄介な体質だ。それ故に王位から遠い。

 王は城のクリスタルに魔力を注ぎ込み王都に結界を張らねばならない。

 王族の務めだ。

 キプロス様は魔力を操れない。

 それでなくても王族は代々魔力が弱くなってきている。

 血筋だけでなく魔力が多いから私は王妃に選ばれたのだが。

 私は棚から湿布を取り出してキプロス様の手首に当てる。そしてクルクルと包帯を巻く。


「随分手馴れているんだな」


 キプロス様は感心して私を見る。

 王妃教育に応急処置は入っていないが、私はこんな知識でも何時役に立つか分からないので。

 色々学んだのだ。


 バタン。


 ドアが開きアドニス様が入ってきた。

 私達を見て顔を歪める。

 まあ!! ビックリした!!

 この方がこんな表情をするなんて!!

 初めて見た。

 知らない人が見たらまるでアドニス様が嫉妬したみたいだ。

 キプロス様と私はアドニス様を凝視したまま固まってしまった。

 直ぐにアドニス様は無表情になり。


「兄上どうなさったんですか?」


「あ……いや……ちょっとな……」


 キプロス様は慌てて袖をおろして包帯を隠す。

 私はキプロス様から離れ。

 そこに保健医が帰ってきた。


「あら……もう気分はいいの? まだ顔色が悪いわね。もう今日は寮に帰って休んでなさい」


「はい。そうします」


 私は三人に頭を下げ保健室を出た。


「待て。送っていく」


 アドニス様が手を差し出す。

 キプロス様も保健医もびっくりしている。

 私もビックリだ。

 こんな事今まで一度もなかった。

 一体どうしたのだろう?

 アドニス様が私に関心を抱かれたことはない。

 これまでもこれからも……

 私はアドニス様に寮まで送ってもらった。


「まあ、ご覧になって」


「アドニス様とぺメロぺ様よ」


「どうなさったの? ぺメロぺ様保健室に居たんでしょ? ご気分はもうよろしいのかしら?」


「それよりアドニス様がぺメロぺ様を寮まで送られるみたいね」


「婚約者なんだから別に可笑しくないでしょう」


「だって……今までこんな事なかったわよ。噂じゃアドニス様はぺメロぺ様を嫌っているって」


「誰情報?」


「ぺメロぺ様の妹のレオノーラさんよ」


「ああ、あの子。あの子の情報は当てにできないわ」


「どうして?」


「あの子自分が王妃になれると思っているお馬鹿ですもの」


「えっ? ああ……そう言えばアドニス様の周りをブンブン五月蠅く飛び回ってたわよね」


「そう彼女知らないみたいなの王太子妃や王の側室は両親が貴族じゃないとなれないって。彼女の母親は三等聖女見習いで平民だから無理なのに。母親が魔力が多い、大聖女や聖女なら兎も角。愛人ならなれるわよね。金も身分も与えられない。王の子を産んでも認められない何の権利もない日陰者。娼婦扱いで笑いものにされる存在ならねえ」


 2人の少女はクスクス笑う。

 勿論彼女達は知っている。レオノーラの母が教皇の隠し子だと言うことを。

 教皇は妻は1人しか認められていない。

 しかし今の教皇は俗物で何人も愛人や隠し子がいることを。

 故に侮蔑の対象であった。

 じきに退位させられるであろう。

 金で教皇の座を買ったと言われる人物だ。

 多くの人の恨みも買っている。

 レオノーラだけが何も知らない。


「平民の女が王妃になれるのはおとぎ話の中だけよ」


「それに彼女魔力も成績もパッとしないし」


「せめてマナーを何とかしないとね。婚約者がいるのに他の男に纏わりついてるなんて。婚約破棄されるわよ」


「言えてる~~。身の程を知るべき~~」


 二人の少女は笑い。次の授業の為教室を移動した。

 カルプは少女達の会話を聞いていた。


 身の程を知るべき~~


 少女の言葉が胸をえぐる。

 カルプの隣にいた友人が痛ましそうに視線を向ける。

 カルプは悲し気な視線をぺメロぺとアドニスが去った寮に向けた。

 友人は知っている。

 彼が恋しているのは妹ではなく姉の方だと言うことを。

 報われぬ恋。

 友人はカルプの肩を叩くと次の教室に行こうと促した。


「送っていただいてありがとうございます」


 私はアドニス様に頭を下げる。


「じっとして」


「えっ?」


 アドニス様は私の首にチョーカーをつける。

 エメラルドの宝石が揺れる。


「お守りだよ」


 ニッコリ笑う。私は首のチョーカーに触る。

 偶然だろうか?

 首を切られた所と同じところ……


「あ……ありがとうございます。大切にします」


 私は取り敢えずお礼を言う。アドニス様から直接にアクセサリーを貰ったのは初めてだ。

 この世界のアドニス様はどこかが違う。


「あ……そうそう。君の母君の形見の首飾りね。修理に出したよ。鎖の所が錆びていたから」


 私は凍りつく。


「今度のパーティまでに首飾りを直しておくよ。パーティーに直した首飾りを付けてきてくれ。君の従兄弟のファルネウス王太子が来るんだ」


 ああなんだ。そう言うことか。

 私が毎回母の形見の首飾りを売り飛ばして逃走資金にしていたから。

 逃走資金を封じたのかと思ってしまった。

 考え過ぎね。

 アドニス様も記憶があるのかと思った。

 でも従兄弟のファルネウスが来るなんて今まであったかしら?

 ファルネウスは隣の国のムート国の王太子で従兄弟にあたる。

 国王である叔父様もファルネウスも私の誕生日にプレゼントを送ってくださり。

 月に一度はお手紙をくださる。

 忙しい方たちなのに。何かと気をかけてくださる。

 ありがたいことだわ。

 どうやら筆まめなのは血筋のようだ。

 本来ならば3年後に私達の結婚式が執り行われるが……

 私は死ぬ。

 結婚式など来ない。

 一番最初の時。

 マダムゾフィーの店でウエディングドレスを仕立てた。

 ベールは自分で刺繡したかったが時間がなくお針子に任せることになった。

 見事な菫の刺繍。

 そうだウエディングドレスの生地選びはこの冬から始まった。

 3年かけたウエディングドレスはどうなったのだろう?

 妹が着たのだろうか?

 私が死んだ後の事など、わかるはずもなく。

 私が消えても世界は続いていく。


「お嬢様おかえりなさいませ」


 メイドのメグが私を出迎える。


「アドニス様からドレスが届いています」


「ドレス?」


「はい。白地に菫の刺繡が施された。それは素敵なドレスでございます」


 困惑する。

 一体どうなさったのだろう?


 メグが箱からドレスを出す。

 素敵なドレスだ。手紙が付いている。


『ファルネウス殿下の歓迎パーティーでこのドレスを着てくれ』


 これまでレオノーラにドレスを贈られた事はあったが……

 私にはドレスを贈られたことはない。

 アクセサリーもだ。

 私はただただ困惑するだけだ。




 ~ アドニスサイド ~


『人形王子!!』


 一番最初の世界では婚約者のぺメロぺは私のことを嫌っていた。

 政略結婚なのだから仕方のないことだと思っていた。


『本当にアドニス様は人形の様にお綺麗ですわ』


 無表情の私を嘲る様にぺメロぺは事あるごとに言う。

 そして……彼女の視線は兄君を追う。

 彼女はキプロス兄上が好きだった。

 熱のこもった眼差し。

 私に向ける視線とはえらい違いだ。

 叶わぬ恋。

 気の毒とは思った。

 本来ならば王位は兄が受け継ぐはずだった。

 王位もぺメロぺも……兄の物になるはずだった。

 この国では母親の身分と魔力がものを言う。

 兄の母親は私の母より身分が高かったが、兄を産むと亡くなられた。

 兄は特異体質で魔力が操れない。

 私の母は野心家で直ぐにぺメロぺと私の婚約を取り結んだ。

 シャモニー侯爵家には娘が二人いたが妹の母親は教皇の数いる隠し子で平民だ。

 この国では両親が貴族でなくては王妃にも側室にもなれない。

 母はレオノーラを初めから弾いていた。

 彼女は母の茶会に一度も呼ばれたことがない。

 この国では王族や貴族の出産時の死亡率が高いため妻は3人側室は5人まで持てる。

 ただし5年して子供が出来なければ離縁され。

 レオノーラは何かと私に纏わりついてきたが。

 私は相手にしなかった。

 レオノーラには婚約者がいたからだ。

 カルプ・フェルケン。騎士団長の三男で、彼もぺメロぺを密かに愛していた。

 私もカルプも兄もぺメロぺも報われぬ恋をしていた。

 そう……私はぺメロぺに恋をしていた。


 報われぬ恋。


 しかし……

 ぺメロぺは諦めきれなくて私に毒を盛った。

 学園のカフェテリアでラナンキュラスが揺れていた。

 血を吐いて倒れる私の顔を見つめるぺメロぺ。

 驚いた顔をしていたが。

 私は悟った。毒を盛ったのはぺメロぺだと。


 そして私は死んだ。

 それが最初の世界での出来事。


 気が付いたら3年前に戻っていた。

 学園のカフェテリアでぺメロぺとお茶を飲んでいる。

 ぺメロぺがお喋りをしている。小鳥の囀りのようなきれいな声だ。

 どういうことだ?

 混乱し震える手を下ろす。

 白い百合が揺れていた。

 レオノーラがやって来て私の隣に腰をおろして纏わりついてくる。

 うざい。

 黙れ!! と言う言葉を飲み込む。

 鐘が鳴り。ぺメロぺは教室に戻る。


「お気の毒なアドニス様。お姉様はキプロス様が好きなんですよ」


 ぼそりとレオノーラが呟く。

 私は真っ蒼になった。

 また……私はぺメロぺに殺されるのか?

 このまま殺されるのを待つのか?

 三年後ぺメロぺに冤罪を着せて殺した。

 ぺメロぺの首が空に舞った時。

 私は安堵の笑みを浮かべた。

 彼女に殺されずにすむと。

 これで彼女は誰の物のもならないと。


 その後。

 帰ってきた父上に幽閉され。

 一度だけぺメロぺの父親、ランス・シャモニー侯爵が訪ねてきてぺメロぺの日記を渡された。

 日記にはぺメロぺが私を愛している事が綴られている。


 う……噓だ!!


 ぺメロぺが私のことを愛していたなどと……

 私は震える手でワインを注ぐと、一気に煽った。

 ワインには毒が仕込まれていた。

 血反吐を吐きながら私は死んだ。

 きっとワインに毒を仕込んだのはシャモニー侯爵なのだろう。




 気が付くとやはり学園のカフェテリアでお茶を飲んでいる。

 薔薇が揺れる。

 小鳥のように囀っていたぺメロぺの声が突然途切れる。

 私はぺメロぺを見ると。

 彼女の表情が凍りつくのを見逃さなかった。

 彼女は慌てて立ち去る。

 私は部下に彼女の後をつけさせた。

 逃げ出そうとしたぺメロぺを部下は捕らえ塔に閉じ込めた。

 その報告を聞いたのは1週間後であった。

 慌てて塔に駆け込んだが彼女は私を見上げ餓死した。

 笑うしかなかった。何故こうなる?

 鏡に青ざめた私の顔と二ンマり笑うレオノーラの顔が映る。

 お前の仕業か!!

 後で部下は教皇の手下でレオノーラと組んで彼女を餓死させたと分かった。

 密かに教皇とレオノーラは始末したが……

 キプロス兄上に責められ刺された。

 本当に笑うしかない。


 気が付けばやはりぺメロぺとお茶を飲んでいる。

 チューリップが可愛いな。

 並行世界はどこかしら違う。

 このカフェテリアの花がそうだ。

 小鳥の囀りの様なぺメロぺの声が不意に止む。

 彼女は私に毒を盛ったぺメロぺと同じ魂を持ったぺメロぺなのだろうか?

 ふとくだらない事を考えてしまう。

 そう言えば昔ぺメロぺと一緒に賢者の所に行った事があった。

 城の外れに研究室を与えられていた。

 賢者は筋骨たくましい男でとても100歳を超えているように見えなかった。

 賢者は並行世界と言うものがあると話してくれたことがあったな。

 ぺメロぺとこっそり尋ねた時のことだ。


「やり直せない程の間違いを正したい時。時を戻せたらいいな」


「時は戻せないのです。でも並行世界に転移してやり直すことはできますよ」


「本当?」


「本当ですよ。一度だけなら死ぬ時。過ちを犯す前に戻れるようにしてあげましょう」


 賢者は光の魔法陣を描いた。

 そして……私たち二人に魔法をかけた。

 賢者は予知していたのだろうか?

 賢者はとうの昔に亡くなっている。

 だが一度だけだと言った。

 何度も私は転移している。

 彼には弟子がいたはずだ。


 今日尋ねてみよう。確か下町で薬屋を営んでいるはずだ。

 彼は何か知っているかもしれない。


 生憎と賢者の弟子は何も知らなかった。

 そして……ぺメロぺは死んだ。

 船に乗って嵐にあったのだ。


「何故ぺメロぺが船に乗っていたんだ?」


 ぺメロぺの従兄弟トウマスが私に尋ねる。

 彼は私とレオノーラが恋仲になって邪魔なぺメロぺを殺したと言う噂を聞いたのだろう。

 その後あり得ないことにレオノーラが私の婚約者になった。

 教皇が手をまわしたのだろう。

 トウマスはカルプと組みこの国に刃を向け。

 私とレオノーラと教皇は広場で首を切り落とされた。



 やはり私は学園のカフェテリアでお茶を飲んでいる。

 ハナミズキの花びらが風に舞う。

 ああ……また戻された。

 悪魔の戯れか? 神の慈悲か?

 またぺメロぺがお喋りを止める。

 もっとぺメロぺの声を聴いて居たいのに。

 君は思い出してしまうんだね。

 君は僕に恋をしていたぺメロぺかい?

 それともキプロス兄上に恋をしていたぺメロぺかい?

 それとも……全く違う別のぺメロぺかい?

 並行世界のぺメロぺの魂は皆違うんだろうか?

 それとも同一人物?

 答えのない問いだ。

 あの賢者なら答えられただろか?

 ぺメロぺが死んだ。

 祖父の国に行こうとしたらしい。

 激怒したムート国の王太子に私の国は滅ぼされた。

 城の大広間に血まみれの両親の死体。


「私は何もしていないわ。誤解です。姉と私はとても仲が良かったのよ。全てはアドニス様のせいです」


 レオノーラがファルネウス王太子に媚を売ったが即座に騎士団にくし刺しにされた。


「姉の婚約者を寝取った淫売が!!」


 ファルネウス王太子にとってレオノーラは赤の他人で、従妹を死に追いやった忌々しい毒婦でしかない。

 そして……私も殺された。

 私はぺメロぺに恋する者に殺される。



 アネモネが風に揺れる。

 私はぺメロぺとお茶を飲んでいる。

 この平和でのどかな時間。

 私に許された一瞬の安息。

 このまま時が止まればいいのに。

 またお喋りしていたぺメロぺが凍りつく。

 私の祈りは神に届かない。

 君は思い出してしまうんだね。

 私が君を殺した事を。

 ああ……

 何故忘れたままにしてくれない。

 怯えたぺメロぺの視線。

 また逃げ出す算段をしているのだろう。

 逃がさないよ。

 そうさ。

 逃がさない。

 青ざめたぺメロぺを保健室に連れて行く。

 保険医は驚いていたが、ぺメロぺをベッドで休ませる。

 保険医に追い出されたが、私は授業をサボリぺメロぺのメイドを呼び出しぺメロぺの母親の形見を修理するからと持ってこさせる。

 ぺメロぺの従兄弟のファルネウスがやってくるから。歓迎パーティーに母親の形見の首飾りをつけさせるためと言ったらメイドは納得した。

 これまでの並行世界ではファルネウスがぺメロぺに会いに来たことはなかった。

 並行世界はよく似ているがどこかしら違う。

 毎回毎回逃走資金に化けるぺメロぺの首飾りはムート王が愛する娘の為に送ったものだ。

 逃走資金は封じておこう。

 代わりにチョーカーをぺメロぺの首に付けた。

 私が外さないと外れないようにした。

 何処に居ても分かるように私の魔力を込めている。

 防衛魔法も練り込んでいるからぺメロぺを害する事は出来ない。

 たとえ君が私を嫌っても私は君を手放さない。

 今度こそやり直そう。

 保健室に兄がいた事は驚いたが。この世界のぺメロぺは兄に恋をしていない。

 間に合う。今度こそぺメロぺを死なせない。





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 2018/12/23 『小説家になろう』 どんC

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    ~ 登場人物紹介 ~


 ★ ぺメロぺ・シャモニー (15歳)

   侯爵令嬢。ムート国の王女を母に持つ。

   アドニス王太子が婚約者。最初の並行世界でアドニスに殺される。

   死んで並行世界を転移する。逃げ出すがすぐ死ぬ。

   黒髪で黒目。よく考えたら逆ハーか? 

   みんな秘め過ぎた恋なのでぺメロぺは気付かない。


 ★ アドニス・ド・ブール・イタリー (18歳)

   イタリー国の王太子。ぺメロぺの婚約者。

   最初の並行世界のぺメロぺに殺される。最初のぺメロぺは人形王子とアドニスを嫌い。

   大好きな第一王子を王にしようとアドニスを殺す。

   その為転移するとぺメロぺを殺すが、恨みを買い。

   ランス侯爵か第一王子かカルプかファルネウスに殺される。

   アドニスも死ぬことで並行世界に転移できる。


 ★ アドニスが毒を盛られた並行世界のぺメロぺ

   子どもの頃アドニスが蜂に刺された事があり侍従が叱られるからと黙っているように言われ。

   その事を忘れていた。アドニスが死亡した。

   レオノーラが蜂毒を使った媚薬を盛ったため蜂アレルギーを起こした為に亡くなったのだ。

   レオノーラは薬を盛ったことがばれ密かに殺され。

   ぺメロぺはキプロスと結婚したがキプロスの分まで魔力を水晶に注ぎ込み早死にした。

   死ぬ間際までアドニスを死なせたことに罪悪感を抱いていた。

   因みに二回目のぺメロぺとは中の魂は違う。

   転移によるゆがみの為アドニスもぺメロぺも転移先の魂と融合してしまう。

   一度しか使えない転移も次々と使えるようになる。

   但し賢者が転移の魔法をかけていない世界ではもう転移出来ない。


 ★ キプロス・ド・ブール・イタリ (18歳)

   第一王子様。母親は侯爵令嬢。魔力も強かったがキプロスを産むと直ぐに亡くなった。

   毒殺されたと噂が流れたが真相は分からない。

   魔力を弾く特異体質で、魔力が操れない。

   その為王族は城の水晶に魔力を注ぎ結界をはると言う務めを行えない。

   そのせいで王太子になれない。

   本来ならばぺメロぺは彼の婚約者だった。努力家のぺメロぺが好き。

   その為ぺメロぺを餓死させたアドニスを殺す。


 ★ ランス・シャモニー (40歳)

   ぺメロぺとレオノーラの父親。

   魔力が強いため彼の子を宿した妻は産後直ぐ亡くなる。

   妻を愛していた。ぺメロぺも愛していたが愛情表現が壊滅的だった。

   後妻を迎えることを嫌がるが母と教皇に無理やりねじ込まされる。

   レオノーラの母は聖女シシアと入れ替わりランスの子を産んで亡くなる。

   教皇の聖女詐欺に遭う。その為レオノーラの扱いが雑。

   騙されたと気が付いた母親はアンチ教皇派になりレオノーラも憎む。

   弟の子供トウマスを養子にする。

   ぺメロぺが殺された後。アドニスを毒殺する。


 ★ レオノーラ・シャモニー (14歳)

   ぺメロぺの妹。勘違い我儘娘。

  アドニスに媚薬を盛ったら死んでしまい。それがばれて密かに処刑される。

  どの並行世界でも20歳まで生きられない。

  


 ★ ミミサ (享年20歳)

   聖女がベールで顔を隠しているのを良いことに聖女シシアと入れ替わった。

   レオノーラを産んで死ぬ。

   教皇の数いる隠し子の一人。美人だったがオツムと魔力が弱かった。

   父親に詐欺の片棒を担がされる。父親の言いなりになる気の弱い落ちこぼれ聖女見習い。


 ★ カルプ・フェルケン (20歳)

   レオノーラの婚約者。ちょっと小太り。その為レオノーラに嫌われる。

   運動神経と性格の良い小太りさん。

   頑張り屋で気遣いのできるぺメロぺが好き。

   秘めた恋であったが、王太子がぺメロぺを殺した事に恨みを持ち。

   ランスらと共謀してアドニスを殺す。


 ★ 聖女教会

   大聖女・聖女・一等聖女・二等聖女・三等聖女(聖女見習い)とランクがある。

   本来ならば聖女見習いで平民のミミサは貴族とは結婚できない。

   大聖女・聖女は顔でベールを隠す。


 ★ 聖女シシア (26歳)

   聖女シシアは教皇を嫌い逃亡。好きな修道士モンクと駆け落ち結婚する。

   辺境で5人子供を産んで幸せに暮らしている。

   どの子も聖魔法が使えて優秀。


 ★ 大賢者 (100歳超え)

   アドニスとぺメロぺに並行世界に転移出来るように魔法をかけた。

   まさかこんな事になるとは思ってもみなかっただろう。

   大賢者が魔法をかけなかった世界もある為、永遠に転移は出来ない。



最後までお読みいただきありがとうございます。

昔の歌のセリフにちょっとずれてる周波数~♪と言う歌詞がありましたが、これだけずれてると悲劇か?喜劇か?

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