なんで私だけこんな扱いなのだろう。
※ネタ出ししていてここまで書いて力尽きたもの。なんとなく公開してみる。
なんで私だけこんな扱いなのだろう。
勉強も礼儀作法もダンスもできていた。なのに教師も両親も足りない、お前ぐらいの歳で姉はそれ以上のことができていた、と比べる。
姉はおかしい。異国にも行ったことがないのにその知識はどこからきているの。恐ろしい人。
私を見る時優しい声で「何かあったら頼ってね」と言うけれど、その目の奥は笑っていない。
私をどこか警戒している目をしている。何を警戒しているのかわらかないけれど、私は姉が嫌いだった。
その知識がどこから来た者なのかわからなくても家の為になるなら両親は使うのだろう。兄も気付いているはずなのに益なるから両親と共に静観しているのだろう。弟は無邪気に慕い、同じ姉でも出来が違うなんて恥ずかしいと堂々と私を鼻で嗤う。
私が何をしたというのだろう。出来損ないと言われる程度の実力しかないなら兎も角、及第点以上はできている。おかしいのは彼らだ。
学校が始まって、私は学年一位を取った。
そのことからも私は優秀なはずだ。少なくともできそこないのような扱いを受けるはずはない。なのに、それでも変わらない。唯一、私を私として扱ってくれた乳母はすでに亡く、今や家でも私を見てくれる人はいない。
学校では流石あの姉の妹だと教師は口にする。姉は学校でも勢力を築いていた。教師からも先輩後輩問わず慕われている。
もちろんそんな姉を疎む者もいるが、姉の取り巻きに婚約者の王太子とその側近たちである有力子息が揃ってるとなれば矛先を向けるわけにもいかず、そのすべてが同じ家でありながら明らかに扱いが低い私に向かうのは当然だった。
教科書は破かれ捨てられて、物がなくなるのも、魔法の実施実習のときに的にされることもあった。
家にいた時以上に私の心が荒んでいった。
ある日呼び出されて婚約を結んだと言われた。相手は姉の取り巻きで王太子の側近の一人だった。
学校に戻ると彼に呼び出されて「お前ごときが僕の妻にだと? 笑わせるな。お前を婚約者だと認めることはないし、そのように扱うことは絶対にありえない。汚らわしい」そう侮辱された。どうやら彼の中では私が彼との婚約を望み、力技でその地位に納まったと思っているようだった。
――――だれが望むか。あの気味が悪い女の取り巻きなどに。
そう口にしたかったが、婚約のことを知った女たちからの八つ当たりが増えたのでその対処に時間を割くことにした。贈り物はない。あっても捨てるけど。そのうち私の悪い噂が流れ始めて、これ幸いとあの男は私との婚約を一方的に破棄した。そのことで姉が部屋にやってきては口先だけの慰めを口にしていたけど全部素通りする。
この女のせいで私はなぜこんな扱いを受けなければならないのだろう。あの男の侮辱も気に入らないし、私に八つ当たりをしてくる女どもも姉に直接やればいいのに。
このままいてもあの女のせいで次はどんな目に合わされるかわかったものじゃない。私は荷物を纏め、家に帰るとお金に換金できるものを漁って家を出た。細かくばらけるようにお金に換えて、王都を出る馬車に乗る。
私がいなくなったことに気付くのはいつになるかわからないが、恐らくそう真面目に捜索することなどないだろう。死んだことにされるか病にかかったから領に帰したと適当にでっちあげるか。どちらにせよもうどうでもよかった。国への忠誠も、家に対する愛着も何もない。領民に至っては自分たちを豊かにしてくれる姉さえいれば勉強しかできない私はどうでもいいみたいだし。
王都を出たら国境に向かってさらに南へ行こう。魔国は強い魔物が出て環境的には厳しいところではあるけど、実力さえあればどんな種族であっても認めるお国柄だ。貴族位に価値はない。そこで冒険者になろうと決めた。
***
私には「前世」と呼ばれる記憶があった。異なる世界で生まれ育った少女の。その記憶から得た情報で、私の将来は恐ろしいものだと知った。
生まれた家の権力を使い、下の者を見下し、自分より容姿であれ能力であれ優れたものを嫌った。だから「私」の評判は恐ろしく低かったし、だからこそ兄も弟も両親も、優秀で真面目で純粋な妹に愛情が向くのも当然だった。
当然「私」は妹を嫌った。
愛情も視線も独り占めする妹を。両親や兄弟がいると止められ責められるからいない間に苛め抜いた。それでも妹の笑顔は失わず苛立っている間に学校に行くこととなった。政略上から王太子と婚約を結ぶことができたが仲は良好でなかった。
「私」は見目麗しい王太子に恋をしたが、彼は評判の悪い「私」を嫌っていた。兄と親友であったから本性を知っていたのだろう。だから一年後に入学した妹に惹かれていくのも仕方なかったのかもしれない。
政略のことを考えるなら評価の悪い「私」ではなく真面目に勉学に励む妹を正妃としたほうがよいとすることができるからだ。
だから、「私」は家でやっていたこと以上に妹にあたるようになるのに時間はかからなかった。そして最後は国母に相応しくないと婚約を破棄され、今まで王太子に近付く女を裏の繋がりで排除していたことを出されて罪人になった。王太子の婚約者に妹が収まり「私」は幽閉の後に――毒殺された。
それを思い出して、ぶるりと肩を震わせた。誰が死にたいなんて思うものか。
だから私は「私」と真逆のことをした。
前世の――少女の記憶はとても有意義に使うことができて私の評判は「私」と真逆のものとなった。このまま使える存在であると示し続ければあの未来にはならないだろうと信じて。
その行動が妹の未来を必要以上に歪めてしまうとは思わなかった。
妹を苛めないようにし、両親とも兄弟とも仲を良好に保つようにできたのはよかった。妹にはどこか警戒してしまったけれど、それを隠して優しい姉として接することにした。けれど、妹から向けられる視線は嫌悪が浮かんでおりどうしてと散々悩んだ。
後から聞いた話だけれど。幼い頃にやった異世界の少女の知識を使ってあれこれしたことが仇となり、妹は辛い立場に立たされていたのだと。私は勉強も真面目にこなしたから太鼓判を押されるほど優秀と褒められた。それに加えて領を豊かにする商品をいくつも生み出して領に貢献した。妹も情報通り優秀だった。けれど――。優秀だけでは足りないと、認められることも褒められることもされていなかったなんて私は知らなかったのだ。
両親からも兄弟からも使用人たちからも領民たちからも私と比べられ続けていたなんて。
妹から嫌悪されるのも仕方ないのかもしれない。
学校に通うようになって、私は妹と離れられて少し安心しそれと同時に来年から妹が入ってくることに不安を覚えた。
お茶会や王太子殿下との付き合いから、前世の知識で敵だった彼らとも仲良くなることができてあの辛い未来から遠のいたことに安堵する。
このまま良好な関係でいればきっと何事もなく未来を歩める気がしたから。
一年がたち、妹が入ってきた。
学年一位になってやっぱりすごいと思った。けれどその裏で、王太子殿下や有力子息と仲が良い私に嫉妬した女生徒たちから嫌がらせされていると気付かなかった。気付かれないように立ち回られてたのか、私が動かなければ何も起きないと慢心していたのか。
今まで以上に妹から避けられ、顔を合わせれば睨まれた。
そのことに殿下やその友人方は妹に対して憤っていた。憤っていたのだ。嫌うまではいかなくても好ましく見られてはいなかった。そのことに気付いていながら、私は見て見ぬふりをした。彼らが妹に憤っている。私を可愛そうだと同情してくれるその姿にほっとしていたのだ。
だからお友達の一人と妹が婚約することになったと聞いたとき少し複雑には思ったけれど、相手が殿下でないなら大丈夫だと思った。けれど――裏で彼が妹に対して暴言を吐き、婚約がきっかけで嫌がらせがさらに悪化していることには気付かなかった。
私は、私が安全であればよかったのだ。私のことしか考えることなどできなかった。
だって死にたくなんてないから。
そして――妹が行方をくらませた。そう聞いたとき私は何をしていたのだろうと唖然としたのだ。両親は捜索もそこそこに病に罹ったから領に戻した、と周囲に話すことにしたそうだ。彼に破棄されたのがショックだったのだろうと。
そして――――国の当代の聖女様が儚くなり、次代を探すことになったときにこれまで自分のことしか考えなかったツケが回ってきたのでしょう。
聖女は魔力を持つ娘が儀式を受け、その力を得ることで決まります。聖なる力を持つ乙女――聖女と。彼女たちがいることで瘴気から国を守っていただけるのです。次代は先代が亡くなることで現れます。事前に候補者を見つけることができません。
この国では魔力を持つのは基本的に貴族の子だけ。ですから、下は五歳から上は未婚の二十歳までが集められて儀式を受けました。
ですが、その結果は誰一人として力を授かった者はいないということ。
国王陛下は言いました。私の妹はどうした、と。いたはずだろうと。
私も両親も兄弟も何も言えません。だって、一年前に妹は出奔してしまったのだから。今やどこにいるのかわかりません。生きているのかさえ。
家から持ち出した宝石類はばらけて売られており、足取りを掴むには向いていませんでした。
領地にて療養しているのは嘘で、実際は出奔してしまったのだと陛下方に伝えました。
今この国に魔力を持ち儀式を受けなかった娘はいません。年齢を引き上げることも引き下げることもできません。このまま時間をかければ先代聖女の残効がなくなり、瘴気が満ちてしまう。そうなれば魔物は強化されて一大事となる。一刻も早く、妹を見つけなければなりませんでした。
私は、今の今まで自分が罪人として裁かれることなく毒殺されることのない未来にこれたことで忘れていたのです。この聖女が亡くなってしまうことは前世の知識で知っておりました。――次代が妹になることも。
そして捜索の結果、妹は魔国にいることがわかりました。魔国で儀式を行い、聖女としての力に目覚めたことも。歓喜する皆様でしたが、魔通信で妹と一年ぶりに顔を合わせた私たちは凍りつきます。
憎しみと嫌悪の籠った目で私たちを見る妹を。
見下すような笑みを浮かべて「私が国に戻ることはないわ? 散々私をどんな扱いをしてきたかなんて、忘れただなんていわせない。なぜ私が、私を蔑んで認めてこなかった人のために力を振るわなければならないのかしら? 謝罪も何もいらない。今の今まで何もしてこなかったあなたたちの謝罪文に意味などないし、いらない。この力に目覚めなければこうして私がどこにいるのか探すことはなかったのでしょう? ね? 間違ってるかしら」
戻ることを拒絶し、忠誠も愛着もなく、すでに母代りで大切な存在であった乳母マーサがいない地に価値はない。そう堂々と言い放った妹は初めて見る自信に満ちた姿。私は私たちは改めて突き付けられたのです。
その後も魔国に手紙を出しましたが返事が返ってくることはなく、国は瘴気に犯されていきました。
活気あふれた姿は鳴りを潜め、家の中に閉じこもっている。
妹がされてきたあれこれに調査の手が入り、認められない生活に学校で八つ当たり、見当違いの侮辱。みるみるでてくるそれに私の顔は青ざめていたことでしょう。
それもこれもすべて私が自分の地位を価値を得る為にしてきたことの反動がすべて妹に向かっていたのですから。それをフォローすることなく警戒し続けていた私のなんて醜い事か。
妹はあの通信の最後に私を気味が悪いと口にしました。幼い頃に商品にしたあれらの知識はどこから得てきたものなのかわからないが、なぜ誰も知りもしないことを知っているのか、気味が悪い。と。
死にたくないから価値を高め、「私」と真逆な行動をすることで防いだ気になっていた。
どんなに説得しようにも話し合いすらしてくれない妹に、陛下は決定を下しました。友好国に頼み込んで国民たちを受け入れてもらうことに。友好国にはその国の聖女様がいらっしゃいますから、属国ではなく――土地が友好国のものとなればその聖女様の恩恵がこちらも得られるのです。
そして、瘴気がなければ栄えていた我が国です。
聖女様がいれば瘴気を浄化できることから、友好国は我が国を吸収し、評判と評価が高かった方たちは一つ爵位を落として継続、そうでないかたは国から出されました。陛下と王妃様は隠居し、王子様たちは切り捨てて空いた領主の座に。私も王太子殿下――――いえ、侯爵の地位を得た婚約者様の妻として私がしてきたことの償いをすることにしたのです。
私は、私がやってきたことは全てお話しました。私がもう少し違う方法をとっていれば死の未来も、この未来も変えて違う未来になっていたのかもしれないのですから。
理解をしてしてくださる方ばかりではなかったけれど、私の意を組んでくれた婚約者様――旦那様と今日も頑張っています。
こうして、一つの国が地図から消えました。
――魔国、通信が終了したあとのこと。
魔国の王、魔王に私は感謝の意を述べた。彼は「面白いもんが見れたからいい」と笑っていた。
今更だ。すべての行動が遅かったのだ。あの気味が悪い女を持ち上げ続けていた彼らに私はすっきりしたと思っている、
聖女の力に目覚めた私は、同じくもう何十年と聖女の立場に立つ魔族の女性と協力し合いながら魔国を巡っている。私を受け入れ、私を認めて、私を頼ってくれる魔国の民が私はすっかり好きになってしまった。私はここにいる、と認めてくれる彼らが好きだった。だから好きな彼らの為に頑張ろうと思ったのだ。
半年も経たないうちに、祖国は隣国に吸収された。それを聞いても私の心は痛むことはなかったのです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
※改行と誤字脱字当訂正。2018/09/18
※違和感や矛盾点・気になる部分が読み直す度に出てきたので、近いうちに加筆修正するかもしれません。タイミングとか修正方法(新しくUPor上書き)どうしようか、とか悩み中です(汗 2018/09/20