これまでのあらすじと登場人物
●これまでのあらすじ
楠木泪は母子家庭の一人娘で、『カフェ・グルマン』を切り盛りしている22歳。母がトラブル引き寄せ体質で、色々と苦労してきている彼女だったが、そんな母に恋人ができた。アロマテラピー講師の足立というその男性は、誠実な上に仕事ぶりもまじめ。こっそり彼のアロマテラピー講座に潜入して人柄を確かめていたルイは、ついに彼が挨拶に来たときにも快く受け入れる。
しかし、彼が作ったというオリジナル香水の香りをかいだとたん、意識が遠くなって──
──次に気づいたとき、ルイは異世界にいた。エミュレフ公国のアモラ侯爵ヴァシルに出会った彼女は、カフェからブラックペッパーのミルを持ち出してしまっていたがために、胡椒をうっかりヴァシルにぶっかけ、くしゃみを連発させてしまう失態をおかしてしまう。
お詫びに、侯爵邸の厨房で働くことになったルイ。ヴァシルは侯爵でありながら、香精師という仕事をしていた。六人の大精霊を使役し、香りを持つ精霊たちを掛け合わせて調香し、『香精』を生み出すのが香精師である。香精は、元の世界のアロマ香水よりも効き目が強く、人々の生活に大きな影響を与える存在だった。ヴァシルはその第一人者だったのだ。
足立氏の香水が異世界トリップの原因であると判断したルイは、同じ香りがあれば元の世界に帰れるかもしれないと考え、ヴァシルに頼み込んで弟子になる試験を受けさせてもらうことに。
「今の君を表す香りを持ってきなさい」と言われたルイは、レモンペッパーのベイクドチーズケーキを作る。面白がったヴァシルは、ケーキからレモンペッパーの香精を調香したのだが、その際にルイは彼女の記憶の中から、七番目の大精霊となる【スパイス】の大精霊ポップを生み出した。
こうして試験に合格したルイは、同時に『七番目の精霊母』となる。午前中は厨房で働き、午後は香精師の弟子として修行を積む生活が始まるルイ。また、ケーキをきっかけとしてルイはスパイスを使った菓子をたびたび作り、ヴァシルはそれをすっかり気に入るのだった。
生み出された香精は香精瓶の中で暮らすので、ルイはレモンペッパー香精の瓶を作ってもらうために、香芸師ギルドを訪れた。そこで、新人香芸師のイリアン、そしてその妹のリラーナと出会う。
ぶっきらぼうなイリアン、引っ込み思案なリラーナと、初めのうちはうまく行かなかったルイ。彼女は瓶の創作作業を通じて、兄妹と仲良くなっていく。また、ルイの突拍子もないアイディアとイリアンの創造力は相性がよく、二人は相棒として互いを必要とし始めた。
しかし一方で、今まで弟子をとらなかったヴァシルがルイを弟子にしたことで、彼女は別の香精師の弟子キリルから強烈な嫉妬を買うことになった。
時は流れ、アモラの町で香精の展示発表会が行われることになる。なりゆきで、キリルと同じテーマで香精を作ることになってしまったルイ。しかも、師であるヴァシルは、ルイが日本に帰ろうとするのに協力している一方で、彼女が帰らない方がいいようなそぶりも見せ……
キリルとの対決はキリルの勝利で終わった。しかし後日、展示発表会を見に来ていた神殿の神官が、ルイを訪ねてくる。
「特徴的な香精を作る方に、協力をお願いしたいことがある。エミュレフ公国に関わることだ」──
自分が何に巻き込まれようとしているのか、ルイは重苦しい緊張感を感じていた。
●登場人物紹介
楠木泪
母と共にカフェを経営する22歳。異世界のエミュレフ公国にトリップし、香精師の修行をすることになった。ひょんなことから【スパイス】の大精霊ポップを生み出し、『七番目の精霊母』と呼ばれる。明るく前向き、思いやりのある性格だが、一つのことに熱中して他のことが見えなくなるきらいがある。
ヴァシル
エミュレフ公国アモラ侯爵。香りの精霊を作る香精師の第一人者でもある。家族はおらず、広大な植物園を擁する屋敷で大勢の使用人たちと暮らす。人間離れした雰囲気を持つクールな男性だが、実は甘いものが大好き。ずっと弟子をとらないでいたが、ついにルイを弟子にした。ルイが日本に帰るのに協力するような態度をとりながら、同時に帰らない方がいいようなそぶりを見せ、ルイを困惑させる。
イリアン
香精の住む香精瓶を作る、新人香芸師。仕事人間で修行一筋だが、早くに両親を亡くしたため、小さな妹の面倒をきちんと見ている。母が隣国バナクの出身のため、褐色の肌をしている。ルイとは良き相棒となったが、ポップを含む大精霊の姿を見る能力はない。
ポップ
【スパイス】の大精霊で、ルイのイメージによりスカンクの姿をしている。生き生きとした精霊たちを愛しており、積極的に香精を生み出すことに協力するが、いちいちセクシャルに聞こえる言い回しをするためルイにうんざりされている。その一方で、いつの間にか皆に愛されているムードメーカー。
リラーナ
イリアンの妹で、六~七歳くらい。母を亡くして以来、引きこもりになっていたが、ルイとの出会いをきっかけに学校に通うようになった。本来は素直で人なつっこい。精霊を見る能力があり、将来の夢は香精師。
キリル
香精師の卵。ヴァシルの弟子になりたいと熱望していたが、彼が弟子をとらないために叶わず、結局ルミャーナという香精師の弟子になった。有能だが融通の利かない性格で、ルイにも自分の理屈でつっかかる。
アネリア
アモラ侯爵邸で家政婦長を務める。三十代後半のさっぱりした性格で、姉のようにルイを見守っている。
ジニック
アモラ侯爵邸の執事。きまじめ。祖父のようにルイを見守っている。
ルミャーナ
アモラの町に住む香精師。キリルの師。
ネデイア
アモラの町にある神殿の神官。
大精霊たち
それぞれのグループで、人々に最も好まれている精霊が大精霊を名乗るため、時代によって変わる。現在の大精霊は以下の通り。香精師が香精を作る際に協力する。
(※同じグループ、隣り合うグループは基本的に相性がいい)
【花】のフロエ……ラベンダー
【果実】のシトゥル……オレンジスイート
【草】のビーカ……ペパーミント
【樹木】のトレル……ユーカリ
【スパイス】のポップ……ブラックペッパー
【樹脂】のハーシュ……フランキンセンス(乳香)
【エキゾチック】のエクティス……イランイラン




