敵意
「おい紅梅、手前何が出来るンだ?」
「何ってどういうことです?というかその紅梅様を馬鹿にしたような言い方はやめて貰えませんかねぇ。」
「…別に馬鹿にしてねェぞ?あー、だから、幽霊になったンだろ?ってことは、何か出来るようになったンじゃねェのか?ッて言ってんだよ。」
「んー成る程ですー…実は私もそれ思ったのですけどねー…大したこと無いのですよー…。」
「例えば?」
「こう、壁をすり抜けたりとかですねー…。」
「おぉ!幽霊っぽいじゃねェか!」
「あとは、人に乗り移れますよぉ…。」
「え、マジかよ!?そりゃすげェな!!」
俺は興奮して声をあげたが、紅梅はあまり嬉しそうにも得意そうにも見えなかった。あのテンションの高ェ紅梅がどうしたンだ?と思った矢先、
「でもでもでも!物触れないし掴めないし普通の人には見えないし!つまんないのですよぉ!特に触覚が!むずむずするです!」
「あー、ドンマイ…嫌なら死ななきゃ良かっただろッて話だ。…ん、てことは俺ずっと一人でしゃべってる不気味な奴か。面白ェじゃねェかッ。」
「どこが!?なんも面白くないんですけどぉ!?あ、そういえば、生前に貸した本、どうせ憇進のことだから返してないのでしょ?さっさと返しなさいですよ!」
「あー、行けば良ンだろ、おら、行くぞ!!」
「今なのですか!?まぁ良いですけど…。」
という経緯で俺達は紅梅の家へと向かった。
ピンポーン
呼鈴のチャイムが虚しく響く。家には誰も居ないようだ。仕方ない、帰るか、と紅梅に言うと、折角ここまで来たのだから、と家にあがるように催促する。
「…いや駄目だろ、それ犯罪じゃねェか!手前が俺にしか見えないなら尚更だかンな!!絶対あがらねェぞ!!」
「ちえ…気付かなければ面白かったですのにー。」
「手前は俺を刑務所送りにしてェのかよ!?」
「んふ、どぉでしょお?」
「うざ…。」
その時だった。
「憇進さん…ですよね?」
「!?」
そこに居たのは美しい女性だった。腰まで垂れる黒髪、陶器の様に繊細な肌、その優しげな瞳には今にも吸い込まれそうで…ンなわきゃあるか!!此奴は紅梅の姉で天照桜女だ。そう、つまり紅梅をいじめていた一人。実際、それを実証するかのように紅梅はぷるぷる震えている。
「うふふ、どう致しましたの?話しているのは私でしてよ?梅の木なぞ見ていらっしゃらないで?」
桜女の目の奥で鋭い眼光が煌めく。当たり前だろう、俺は紅梅の唯一の味方だったのだから。