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短編集

安楽死の国

作者: 巫 夏希

「安楽死、ですか」

「ええ。ニュースに疎いようでしたら、一から説明差し上げた方が宜しいかと」

「出来れば、お願いします」

「この国では安楽死を希望する人間には、誰しも安楽死を実施できるように制度が整えられています。流石に未成年ですと、親か身元引受人の承認が必要になりますがね。基本的に申請された安楽死はすべて承認されて数ヶ月以内には『実施』されます」

「あの……それって痛いんですか?」

「電気を通すので痺れる感覚はありますが痛みはありません。一瞬であの世行きです。安楽死を申請致しますか? 可能性があるならば、きちんと説明を致しますが」

「お願いできますか」

「承知致しました。……安楽死を申請した後は、それが国のデータベースに保管され、会社に勤めている人間は一ヶ月以内に退職を命じられます。退職金も出ますし、『安楽死予備軍支援金』より月数万円の生活支援も御座います。ただし支援金は申請しないと貰えませんのでそのつもりで。あとは安楽死推進機構から葉書が来ますのでそちらを大事にとっておいてください。必要事項を明記して返信すると、一週間後に申請許可書と、『安楽死予備軍通知書及びユーザネージャーカード』が発行されます」

「あの、ユーザネージャーカードとは」

「簡単に言えば、それを提出することで自らの身分を証明するものですね。例えばマイナンバーカードでも問題ないのですが、それと同等の効果を発揮致しますよ。便利なシステムですし、申請は誰だってやっています。必要な物は少々厄介ですが。車の免許は持っていますか?」

「いえ、所持していません」

「ならば保険証と、もう一枚写真付きの身分証明書が必要になります。あなたの場合は、休職中とはいえまだ会社に在職していると思いますので、社員証があるかと思いますが」

「ああ、社員証なら確かに」

「でしたら返信される際に社員証と保険証のコピーを提出してください。そうすれば問題ありません。ちなみにこのユーザネージャーカードは電子タグかカード型か選べますので、返信時に記載してくださいね。電子タグだと、スマートフォンに登録しておけばカード要らずなので楽ですよ」

「成る程」

「それから、申請後に不慮の事故で亡くなった場合は、申請が取り消されるだけで済みますが、それよりも早く自らの意思で死んだ場合は賠償金を家族に支払って貰います。契約の取消しにかかる費用だと思っていただければ」

「了解しました。……それならば、申請をお願いします。もう私は、死にたくて死にたくて仕方がありません。死にたいのです。お願い致します」

「分かりました。……では、残された時間を精一杯生きることを選択されるということで」





 西暦二〇二〇年、東アジアの辺境の国家が、自殺率の低下を防ぐために、敢えて導入した『安楽死制度』により自殺率は格段に低下した。

 理由は、安楽死により死因が自殺では無くなっただけの話なのだが、そこまで深く調べる人間など誰も居ない。

 自殺を減らしたかった国と、それでも早く死にたい両者の意思が一致しただけ。

 ただ、それだけに過ぎないのだから。



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