旅の始まり:エルフ・リリアードの場合
冒険者ギルドを後にし、宿を探すことにしたリリアード。
小さな町とはいえ、大通りを見通すと100は軽く超える程度には家が立ち並んでいる。
商店、民家、各施設等…有事の際に冒険者を集めるため、大体町の入口付近にある冒険者ギルドはすぐに見つかる。だが、宿屋は…
「あぁ…なんでギルドで宿屋の事聞かなかったんだろう…」
初めて見る人間の町で迷わないわけがなかった。
エルフの里では、大木の中に作るため同じ見た目の物は無い。
しかし、人間の家は見た目はほぼ同じ。所々色が違ったりはするとはいえ田舎者のエルフにはさっぱりとわからない。
(とりあえず、もうちょっと探してみようかな…ついでに町を見回ればいいもんね。)
前向きに探すことに決め、ぶらぶらと見回る。
(食堂に武具屋に道具屋。このへんはちゃんと覚えておいてと。)
歩き回りながら今後使う可能性がある場所は覚えていく。
(狭い道とかもあるんだなぁ…出られなくなることは無いだろうし、見ておこっと)
大通りから細い裏路地へと入っていく。
まだ昼時だというのに人気は全く無く、家の屋根によって薄暗い。
扉は度々あるものの、店のようなものは無い。
置いてあるものはゴミばかり…
(うーん…宿はこっち側じゃないのかな…。それなりに歩いたけど店っぽいものは一つも無いし…。やっぱり誰かに聞いた方が早いよね。次会った人に聞いてみよう!)
決意してすぐに人は見つかった。
男が4人木箱に座り、テーブル…のように扱っている木箱に向かい合っている。
木箱の上には人数分の酒瓶。何か話をしているのが分かる。
「あの、すいません。ちょっといいでしょうか?」
声を掛けると、全員が振り向く。
そして、全員見た目が非常に悪い。悪いといっても醜い方ではなく怖い方で。
(なんか借金取りの人に似てるなぁ…まぁ、あの人も良い人だったし、大丈夫だよね。)
どう考えても借金取りの人は悪い人だったのだが、リリアードにとってあの程度はなんの問題もないようだ。
「んん?なんだ嬢ちゃん。見ての通り今は取り込み中だ。売りなら別の所でやってくれ。」
一番大柄な男がリリアードをちらっと見て答える。
「売り?ええっと、宿屋がどこにあるのか教えてほしいのですが…」
「なんだよ迷子か。俺らみたいな奴が宿屋の場所を教えてくれるってー…」
(いや、まてよ…ガキとはいえ見た目は悪くない方だ。どっかマニアに売り飛ばせばそれなりの金額になりそうだな…)
他の男を手招きで耳を寄せさせる。
「おい、あいつをアジトに案内するぞ。捕らえて売っぱらえばしばらくの酒代にはなるだろ。」
ニヤリと笑った男達は、すぐに行動を開始する。
「あー、しゃぁねぇな。今回だけ特別に教えてやるよ。どこの宿屋だ?」
全員立ち上がり、数歩の距離までリリアードに歩み寄る。
「ありがとうございます!宿屋はまだ決めてなくてですね、どこかオススメの場所があればそちらに行きたいんです。」
どこまでも好都合な小娘。これは貰ったなと顔を見合わせてニヤニヤする男達。
「よしわかった。とっておきの場所を教えてやろう。ついてこい」
なんの疑いもなく男達について行くリリアード。
男達は逃さぬように常に周囲を固め、会話もせずに歩いていく。
「あの、なんで皆さん周りを歩くんですか?歩きづらそうな…」
人が二人…と少し分の空きしか無い細道。リリアードの両端の男は壁に肩を時々ぶつけながら歩いている。
「あぁ、そいつらは守ってくれてるんだよ。裏路地は治安が悪いからな。」
先頭を歩く大柄の男が答える。
「そうなんですか、それはそれはありがとうございます!」
そっかぁー優しい人達だなぁーなどと思いながら、不信感も何もなく歩き続ける。
男達は声を出さずに顔も見られないように笑っていた…。
それから少し歩いた所で、他よりも少しだけ立派な扉のある建物が目に入る。
「ここがオススメだ。さ、入るぞ。」
扉を開けると、中は小洒落たバーのように…なっているのはカウンター部分だけで、それ以外はボロくなったテーブルや椅子が乱雑に配置してある。
すべての椅子は昼間から酒を飲む男で埋まっており、扉が開くと共に全員がこちらを見ている。
「よう、この嬢ちゃんがここに泊まりたいそうだ。歓迎してやってくれるか?」
大柄な男が声を上げると、数人はニヤつき、他の者は興味無さそうに手元の酒と、話し相手に顔を戻す。
「数日から、長くなると数十日程度滞在すると思います!よろしくおねがいします!」
元気に挨拶。丁寧なお辞儀。もしかしたら長い間お世話になるかもしれないため、しっかりと。
直後、笑い声が湧き上がる。
「おいおい、聞いたか。あのガキこっから出れる気で居るらしいぜ?」
「底抜けのバカだなありゃ。まだ人攫いに捕まった事も気づいてねぇみてぇだ!」
口々にそんなセリフが飛び交う。
「え…ど、どういうことですか?ここは宿屋なんじゃぁ…」
ククッと笑いを堪える大柄な男。
背後ではガチリと扉に鍵がかかる音。
「なわきゃねぇだろ。おい、縛り上げろ」
「ヘヘ…自分の頭のたりなさを恨むんだなぁガキィ!」
容赦なくリリアードの頭に振り降ろされる鉄の棒。
振り返って視認した時には既に眼前。
響き渡るガゴッという打撃音。
「なるほど、悪い人だったのですね。」
床を叩き割る鉄の棒。その横にはリリアード。
素早く振り向き、鉄の棒を振り下ろしたままの男の首を掴む。
「ガッ!?ゲッ?」
声にならない悲鳴を漏らし、リリアードに引き寄せられ、そのまま床に投げつけられる。
「道案内ありがとうございました!もう会わないように気をつけますね!」
シュバッ!っと扉に走り寄り、速度を維持したまま扉に体当たり………壊れない。
「あ、あれ!?思ったより頑丈ですね!?」
大きな隙を晒した所を見逃してくれるほど男達はバカではない。
「オラァ!とっちめろ!」
号令と共に振り下ろされる様々な武器。
そして飛んでくる酒瓶。
「まって!待ってください!話せばわかりますって!」
短剣を抜き、回避と受け流しを同時にこなして難を逃れる。
「あぁもう、容赦しませんからね!」
小さなバッグから、明らかに容量を超えた弓を取り出す。同時に3本の矢も出てくる。
飛び回るように逃げながら、無理な体制で矢を番えて連射する。
「ぐわっ!」「あだっ!」「ぬおっ!」
手前に居た前衛と思われる剣を持った三人を、狙い違わず全員の利き手側の肩を撃ち抜く。
「ちっ、新米のガキじゃなかったのかよ!正面突破じゃ分が悪ぃ!囲め囲め!」
正面に並んで武器を振るっていた男達が、リリアードの周囲を囲む。
中には槍で行動範囲を狭める者、半身になりながら片手剣を突き出してくる者等、集団戦に慣れている。
「これくらいで諦めませんよ!疾風よ、我が身に宿り追い風となれ!」
服で隠れて見えないが、翡翠のついた首飾りを触媒に魔法を発動。
リリアードの周囲を見えない風が覆う。そしてすぐに飛び立つ。
男達の頭上を大きく飛び越え、天井スレスレを通り抜けていく。
空中で追加の矢を取り出し連射、連射、連射!
一射毎に行動を封じられる男達。
1秒程度の滞空時間で5人を止める。
さらに着地後すぐに矢を番えて速射。
「てめぇら!ガキ一人に遊ばれすぎだ!とっとと潰せ!」
大柄な男が部下に激を飛ばす。
「そうはいっても親分!すばしっこい上にこっちは手加減されてこのザマですぜ!」
矢を受けた者は全員が利き手側の肩のみを正確に撃ち抜かれている。
これだけの腕があれば、当然狙いを変えれば全部頭に飛んでくるだろう。
「そこらへんにあるもんを盾にしろ!所詮は矢だ、木でも防げる!」
指示を受けて素早くテーブルや椅子を盾にしていく。
「だったら威力を上げるだけですよ!風の精霊よ、祝福を捧げ注ぎ入れよ!ウィンドシュート!」
再び発動した魔法は弓自体を覆う。番えて放たれた矢は先程とは比べ物にならない速さで飛び、易々と木材を貫通する。
ついでと言わんばかりに命中した肩をも貫通し、後ろに居る男に突き刺さる。
あまり手加減ができていないのか、肩に命中した男は二度と片腕が機能しないだろうと分かるくらいの穴が空いてしまっている。回復魔法でどうにかなるとはいえ、放置すれば失血死もあり得る。
「そろそろ一度話し合いをしましょう!これ以上続けてもそちらの消耗にしかならないはずです!」
油断なく矢を番え男達を見据えるリリアード。弓は未だに風を纏っており、それから放たれた矢を受ければ手加減してもひとたまりもないことは証明された。
「親分!ああ言ってる事ですし、ここは帰ってもらいましょうや!?もう相手にしたくないですよ!」
部下が泣きそうな顔で訴える。
「…ちっ、わかった、話し合いに応じよう。とはいっても、何話すんだぁ?」
ふぅ、と一息ついて矢を下げる。
「まず前提として…私が本気で戦えば皆さん無事で済まないのはわかりましたよね?なので、こちらの要求を飲んで頂ければこれ以上は何もせず帰ります。」
「あぁ、わかった、わかったよ。要求ってのはなんだ?」
「私からの要求は2つです。一つは、元の要望通り宿屋を紹介してください。もちろん、宿泊料はそちら持ちです。もう一つは…もう悪事なんてやめませんか?」
一つ目の要求は受け入れてもまぁ痛くはないし、それで帰ってくれるならもう何でも良いのだが…
「お前、何言ってんのかわかってんのか?それじゃぁ今無事でもこの後俺らはどうなるんだよ?憲兵に引き渡されるのとほとんど変わらねぇじゃねぇか。
俺達だってやりたくてこんなことしてるわけじゃねぇんだ。どこにも俺達の居場所も、仕事もねぇから寄り集まってこんなことしてるんだよ。わかるか?」
「うっ…そうだったんですね…そう言われてしまうとどうしたら良いのか…」
先程まで明らかにやりたくてやっていたような雰囲気だったのだが、騙されることに耐性のないリリアードは信じ込む。
(仕事が無いというのは私ではどうにもならないし…あっ、そうだ!)
リリアードの脳内に浮かぶ顔。私に何をすればいいのか教えてくれたあの人なら…!
「仕事を紹介してくれそうな人が居るんです!あとで里に手紙を出して、その人がまた里に来たらこっちに来てもらえるように言っておきますね!きっといい仕事が見つかりますよ!」
いい案が出た!これで行ける!そう思いニコニコと笑うリリアード。
対して、引きつった笑いで返す男達。
「そ、そうか…。じゃぁ俺達はその人を待つことにする。おい、お前、宿を紹介してやれ!」
すぐ横に居た男を前に押し出し、リリアードに押し付ける。
「へぇ!?わ、わかりやした。行きやしょう」
「え、あ、はい。お願いしますね!みなさんも、忘れないで待っててくださいね!」
そそくさと急ぎ足で扉を開けて出ていく男を駆け足で追っていく。
嵐が過ぎ去った後…
「おい、お前ら。早い内にこの町を出るから支度を整えておけよ。」
「親分!?真面目に仕事する気ですか!?」
ゴン!と頭を殴られる。
「バカ野郎!逃げるに決まってんだろ!あんなヤツの紹介なんかまともな気がしねぇ!宿代だけ出したらとっとと別の町に移るんだよ!」
親分の大声に部下達は蜘蛛の子を散らすように片付けと支度に取り掛かる…。
それからしばらく経った頃、もう荒くれ者の男達が居ない町に、意味のわからない依頼を受けた借金取りの男が訪れた。
「居ねぇじゃねぇか………」
また痛い目に合うのが嫌だったからとわざわざ来たものの、完全に空振り。
「何やってんだかなぁ…帰ろ…」
馬車代も何もかもただの赤字。
空を見上げて嗜好品の煙草を吹かして歩き去る。
馬鹿を見るのはいつだって力の無い者と、借金の取り立ての際にいつも言っていた。
今回は自分の番だっただけ。被害は徒労感と多少の赤字で済んだだけまだマシだろう。
もう関わりたくは無いなと思ってしまうのはしょうがないが…。
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「今は容量3000Lで銀貨1枚すれば高い方ですからねぇ。まぁ、ブランド物っていうならわからなくもないですが。」
「はぁ…廃墟の探索依頼なんか碌なもんがねぇな。古い時代のアイテムは、その時は凄くても今となっちゃぁ実用価値の無い骨董品だ。依頼された古代魔法のスクロールも、ゴミ同然だなこりゃ。」
「はは、この大海流はさすがにまだ実用範囲ですよ。魔力消費無しで大量に水が出せるだけでも貴重といえば貴重です。バッグを無くした時とか使えるじゃないですか?」
「水もスクロールもバッグに入れるだろう。バッグが無くなったらどっちも無くなるだろうが…。」
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