プロローグ
様々な人々で賑わう王都。その中心にある大きな広場に私は居る。事件や戦争、王位継承等があればここにお立ち台が運ばれ、演説をする場所だ。
とはいえ、何事も無ければただの広場。今も沢山の出店が至る所で商売をしている。出店は昼夜を問わず営業を続け、深夜でも朝方でも買い物や食事が出来る。そのため、この広場から人が消えることはまず無い。
そんないつでも人で溢れているこの場所だが、誰も居ない空間になったことがある。私は、その時の事を知っている。そして、私の使命はこの世界に起きた真実を、語り継ぐ事。
私は、広場の中でも一際目立つ噴水の近くに椅子を置き、腰掛ける。そして、目の前に小物入れより二回りほど大きい箱を置く。使命からすると不本意ではあるが、こうしないと聞いている側の人達に怒られるのだ。「おひねりを入れる場所が無いのは不親切だ」と。別にお金が欲しい訳ではないので、最初は断っていたのだが、毎回毎回終わった後に何十分も説明するのは面倒になり諦めた。
準備を終えると、私は小さいハープを取り出し、音を立てる。ポロン、ポロンと特有の音色が、喧騒の中に響く。私が持っているスキルの影響もあり、かなりの範囲の人がこちらに気付く。そのまま軽く声を出す。
「あー…んっ、んんっ」
軽く喉の調子を整える。問題なく声は出せそうだ。そのまま開演の知らせの声をあげる。
声を聞いた人々は私が吟遊詩人である事に気付いたのか、近くの出店で食べ物を購入し、こちらにやってくる。
「これから話すのは、沢山の人々が犠牲になった痛ましい事件。
その裏にある全く語り継がれていない真実。
戦いと、旅の記録。」