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木漏れ日亭 短編小説集

そっちに行くな。

作者: 木漏れ日亭

 

 毎日毎日苦しいよな、辛いことばかりだ。


 なんも良いことないよな、笑ったのいつだ?


 いくら悩んでも、思い詰めても、考えるだけ無駄なことばっかだよな。ああ、分かるぜその心の痛みをよ。


 なんでこんなにも、世知辛くて生きにくいんだろうな。なんでこんなにも、やるせなくて浮き上がれないんだろうな。


 誰のせいだ?


 自分のせいか? 家族のせいかもな。 いや学校もだ、会社もな。そもそも社会がおかしいんじゃないか? 政治家も国会も法律も、国全体がかもな。


 考えること自体、しゃべること自体、飯食って排泄するだけのこの身体の管構造自体、言っちまえば生きてること自体が変なのかもな。間違いなのかもな。



 イジメや辱めで心も、体も、痛めつけられ。


 進学や就職に追い立てられ、追い詰められ。


 押し付けに、歯車に、抗いたくても無力で。


 守るべきものが増えて、ゆとりなんか消えて。


 痛みばっか増えて満身創痍の、ズタボロで。


 気づいたら、目がかすみ手も、足も、上がりゃしねえ。


 やってらんねえよな、ふざけんなよだ。


 もうどうでもいい。頑張れないさ、これ以上。もうな。


 だから。だから最後に残された、やれること。


 まだ試してないこと、そうだ、簡単なことさ。



 おい。


 おい。お前今、なに考えた?


 なに考えたか聞いてんだ!


 そっちじゃねえよ、そっちは罠だ。嘘っぱちの、デタラメの、まやかしの甘言だってこと、本当は分かってんだろ?


 どうしてそっちが良く見える? 考えろよ。今までで少しでも、美味しい話、上手い話に本物が、本当の幸せがあったか?


 どうしてそっちが楽だって言える? よく見ろよ。さんざん目にしてて、聞いてて、それでも楽園があるって言うのか?



 逃げんなよ。いや、逃げろよ。こっちにだ。



 心が折れたら副え木してやるよ。


 痛めつけられたら薬塗ってやる。それとも、いたいのいたいのとんでけ~! にするか?


 苦しかったら指突っ込んで吐かしてやる。そして背中なぜてやる。


 悩みでいっはいいっぱいならとことんつきあってやんよ。徹夜して、頭ん中ハイにしようや。


 杖にもなるしおんぶもな。あったけえぞ、人の背中はな。


 ああ? 気にすんな。下の世話なんざ、生きることに比べりゃ屁みたいなもんだ。なあ?


 最後は、手を取り看取らしてもらうからさ。



 だから。だからそっちに行くな。


 まわりをよく見ろ。いるだろ?


 一緒に足掻いてくれるやつが。


 生きるも死ぬも変わんねえよ、いつか必ず終われるんだ。今の先には必ずな。そう、絶対だ。


 だから。だからそっちに行くな。


 俺もお前も他のやつもみんな、みんな。



 一緒に足掻くからよ。



 だから。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] これは詩カテゴリなのでは? [一言] 実際に飛び降りをしようとした人に聞いた話ですが、べつに死ぬつもりは無いらしいですよ。ただただ楽になりたいのだとか。
[一言]  良い点とか気になる点とか、良し悪しとかどうでもよくて、ただ自分ってまだ頑張れるんだなって思います。  小説書いて、絵描いて、やりたいゲームして、仕事して、時間がない疲れたなんて言ってる自分…
[一言] なんというか、病んでるわけではないですけど、読んでて泣きそうになりました。木漏れ日さんのような人がたくさんいるのに、視野が狭まった人たちにはもう己しか見えていないのかもしれません。それが切な…
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