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雲心月性  作者: うちょん
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おまけ②「女だもの」


 おまけ②【女だもの】














 「・・・・・・太った」

 野崎すみれは、体重計に乗っていた。

 ダイエットというよりも、現状維持を意識していたすみれにとって、体重の増加はおぞましい現象だった。

 このところあまり動いていないのに良く食べていたからそのせいだろう。

 「すみれちゃん、落ち込んでる?」

 「五月蠅いわね、カス」

 「え!?いきなり暴言!?俺何かした!?」

 はあ、とため息を吐きながら座ったのは、いつもの如く自分の家のように居座っているタカヒサの部屋だ。

 タカヒサは珍しく何もしておらず、ぽかぽかの太陽を浴びながら昼寝をしていた。

 「え、すみれちゃん太ったの?全然分かんないけど」

 「1キロの増加は恐怖だわ。この脂肪を落とすのがどれだけ難しいと思う?」

 「別に男は体重なんてそんなに気にしてないけどね。すみれちゃんはまだまだ軽いから平気だよ」

 「男と女じゃ筋肉量が違うもの。男は筋トレすればすぐに減るかもしれないけど、女はそう簡単には体重落とせないのよ。断食でもしようかしら」

 「この世には美味しい食べ物がいっぱいあるのに、食べないなんてもったいないよ。それに、食べなきゃ生きていけないでしょ?」

 「水分があれば人は生きていけるわ」

 「すみれちゃん、そんなに太るのが嫌なの?もうちょいぽちゃっとしてても構わないんじゃない?触り心地良くなるよ。男はそっちの方が好きだと思う」

 「最近年齢のせいで痩せにくくなってる私にそういうことを言うのね。本当にムカつくわ」

 「すみれちゃん気にし過ぎだって。すみれちゃんは胸が大きいから多少太ってもチャラになる・・・」

 「あんたに話した私が馬鹿だったわ」

 その時、昼寝をしていたタカヒサが目を覚ました。

 誠人とすみれが同時にタカヒサに向けて何かを言っていたが、タカヒサは眠そうに目を細めて大きな欠伸をしたあと、また寝る体勢に入る。

 すかさず誠人が寝かすまいとタカヒサの身体を揺さぶると、戸惑いのない拳が誠人を襲った。

 「うるせぇ奴らだな。ゆっくり寝かせろ」

 「すみれちゃんが自暴自棄になってるんだよ。なんとかしてあげたいじゃん」

 「別にいいだろ、好きにさせとけよ」

 「今のすみれちゃんも好きだけど、俺は自信を持ってるすみれちゃんが好きなわけ。だからお前からも一言さ、太ってないって言ってやってよ」

 「ああ?まずそいつの体重知らねえから、何とも言えねえなぁ」

 「見た目太ってないだろ?」

 「太ってるの価値観は人それぞれだからな」

 「それを言っちゃおしまいだろ」

 「すみれ、お前今何キロあるんだ」

 「ちょっと、そういうことを女性に聞くもんじゃないわよ、タカヒサ。これでもナイ―ブなんだから」

 「何がナイ―ブだよ」

 「タカヒサは何キロだっけ?ちなみにね、俺は186センチで76キロだよ。意外と普通でしょ?」

 「タカヒサって身長何センチ?」

 「188。もうちょっとでかくなりたかった」

 「充分じゃない」

 「体重は確か、86・・・?」

 「ね、すみれちゃん。俺とタカヒサ、背は2センチしか違わないのに、タカヒサの方が10キロ多い。でもこいつは気にしてないでしょ?」

 「俺とお前じゃ筋肉の量が違うんだよ。なんなら体脂肪も教えてやろうか」

 「確かに、タカヒサはがたいが良いものね。誠人みたいに線細くないし」

 「すみれちゃん、俺って実は脱いだらすごいのよ?見る?」

 「見せないで。見たくないわ」

 「で、すみれちゃんの体重は?」

 「馬鹿なの?この流れで私が体重を暴露するとでも思ってるの?言えるわけないじゃない」

 ふとタカヒサが起き上がると、風呂場の方へと歩いていく。

 そしてすぐに戻ってきたかと思うと、手には体重計を持っていた。

 「公開処刑よ、こんなの」

 体重計を床に置いたかと思うと、タカヒサが服を着たまま一度乗った。

 なんでタカヒサが乗るんだろうと思って見ていた誠人とすみれだが、その理由はすぐに分かることとなった。

 一旦体重計から下りたタカヒサは、すみれをかついで再び体重計に乗ったのだ。

 「おお。その手があったか」

 「ちょっと!!下ろしなさいよ!!タカヒサ!!」

 「暴れるな」

 ある程度の数値が出ると、バタバタと暴れるすみれを床に下ろした。

 すみれがだいたい何キロか分かると、タカヒサはさして興味なさそうに、陽のあたる場所に横になる。

 「すみれ」

 「何よ」

 「別に重かねぇだろ、そんくれぇ」

 「タカヒサ・・・」

 「俺が使ってるダンベルの総重量よりは軽い」

 「・・・・・・!!!」

 「すみれちゃん、落ち着いて。タカヒサに悪気はないから。とりあえず冷静になって体重計を下ろそうか」

 以前、バイクを軽々と持ち上げていたタカヒサのことだ。

 すみれを担いだ時点で重くないことは分かっただろうし、数値など見なくてもそんなに重くないことは分かっていただろう。

 ただ、きっと叩き起こされて面倒なことに巻き込まれたため、そういう行動に出たのだ。

 寝ているタカヒサに呪いをかけるかのように、すみれは両手で何か念を送っていた。

 「タカヒサなんて、お腹が出た親父になればいいんだわ」

 「すみれちゃん、恨み方が可愛いね」


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