その4話 または、如何にして流浪の冒険者は世界を旅することになったのか?
今回は、騎士団の中でも、ちょっと変わった女性元騎士の物語。
おかしな騎士団の物語は、まだまだ続きます。
あたし、とある王国の、とある騎士団所属だったんだよね〜。
今は、しがない冒険者稼業で、こんな田舎町で魔物狩りやってるけどさ。
長年一緒にいるパーティメンバー達と、いつものように酒盛りやってたんだけど、ちょっと呑み過ぎたかな?
いつもは話さない、自分の昔語りなど、やってみたくなったんだよね。
あたしはさ、これでも小隊の隊長だったんだよ〜?
信じなくても良いけどさ、ほんとなんだよ?
仲間たちは、
本当かよ?嘘じゃないよな?
とか、
お前さんの小隊だったら、さぞかし部下は鍛えられただろうな……お前さんの強さは、俺達だからこそ分かるぜ。
とか、意外なことを言われる。
あたし、そんなに玄人受けするような強さかなぁ?
そりゃ、奥の手は隠して、いつもは戦ってるけどさ。
あたしの戦い方は、独特だと皆から言われる。
ちょっと、どころか、大いに変わってると。
ふふ、奥の手隠してても、身についた戦闘スタイルは隠せないのかもね〜。
ふと、思い出したように仲間の一人が、こんなことを言う。
あ、そうだ。お前さんの戦い方が、何か誰かに似ていると思ったら、西の国で話題になってる聖変態騎士様に似てるんだな。
な、何その冒涜的な名前は?!神様にも、本当の変態にも失礼じゃないの?
と、あたしが聞くと、
いや、俺も噂で聞いただけなんだけどな。
西の国じゃ、無敵の騎士様がいるんだとよ。
その戦い方ってのが、独特でな。
剣や槍を使わず、鎧も付けずに戦うんだが、これが徒手空拳ではないところに名前の由来があるんだと。
なんと、その騎士様、日用品や普通の服で戦うんだって〜から凄いよな。
ジョッキやグラス、傘や杖なんてものは勿論、とんでもないところじゃ、いつも騎士様の首元に巻き付いてる黒猫さえも武器にするんだとよ。
持ち物すら無い時には、そこいらへんに落ちてる、ひのきの棒、一本の枝だぞ?!それすら使って、魔物を片っ端から倒して行くんだとよ。
あまりに常識破壊の戦闘スタイルなもんだから、ついた2つ名が「無敵の聖なる変態」。
それが、騎士様だからってことで、通り名として、「聖変態騎士様」だそうだ。
あたしは、その話を聞いて、あたしの前に騎士団を抜けた男がいるのを思い出した。
腕はたつが、朝が弱く、いつも朝の訓練にギリギリで参加してたやつだな、その聖変態騎士様って。
まあ、あいつの腕なら、騎士団以外の場で敵うものはいないだろう。
あたしも、騎士団を抜けて武者修行に来てから、良くわかった。
あの国は、おかしい。
いや、あたし達騎士団の戦い方もそうだったんだけど、其の相手をする魔物と魔王に関しても、だ。
あの国では、魔物や魔王と戦うのは日常茶飯事の事だった。
ダンジョンだって、あの国に大きなものはなく、小さな洞窟だけ。
ただし、出てくる魔物や魔王の強さのレベルが大違い!
小さな洞窟だと思って入ったら、いきなり最終ボスくらいのレベル120とかいう魔王が出てきたりする(まあ、普通はそこまで強くなく、自分のレベルに合った魔物や魔王が出てくるんだけど)
あたしが、この田舎町で相手してる魔物って言えば、せいぜいレベル30までの奴が大半。
たまにダンジョンボスと戦っても、レベル50前後が殆どで、あの国の魔物の半分もいかない、よわーい魔物や魔王しか無い。
ダンジョンボスが、ごくたまにレベル60近かったりすると、あたしの隠し玉が出る。
皆を避難させた後、あたしとボス魔王の一騎打ちで、あたしの本当の姿を披露し、本当の力を開放する。
あたしの必殺武器、着ぐるみモード……じゃない!(まったく、当時の部下から「着ぐるみモードが強化服なんですか?」とか言われてた、プンプン)転生反転、にゃんこモード!
あたしは、実は人間の父と魔王の母との混血だ。
普段は、魔物の力を抑えるために人間モードになっているが、短時間であれば、もう1つのあたしの姿、魔王猫又の母に似た、にゃんこモードに変われる。
この姿になると、レベル150魔王とでもサシで戦える。
ただし、肉球の手足になるため、剣も槍も使えないので、騎士団の戦い方は、あたしにとっての理想の戦闘スタイルだったんだ。
さくっと瞬殺したダンジョンボスの落としたアイテムや素材を拾い集めて、仲間のもとへ戻ると、いつものため息とともに、
お前さんの戦闘スタイル、本領発揮したところを見られないのは残念だよ。
と言われる。
あたしは、この体質(?)を変えられる薬・アイテムを探して、色々な国を旅している。
さて、この田舎町にも長居しすぎたかしらね。
次の町へ旅立つ時が来たようで……パーティの仲間たちと別れるのはツライけど、どこかにあたしの、この、呪いか祝福か分からないけれど体質を変えてくれるものがあるに違いない。
あたしは、そんなことを考えながら、今夜も酒を呑むのだった……