その3話 または、如何にして流浪の騎士は騎士団の名を全世界に轟かせたのか?
おかしな世界の、おかしな騎士団の物語。
騎士団から離れて世界を流離う騎士の、その生き様を見よ(笑)
私は、栄えある宮廷騎士団の一翼を担ったものである。
この騎士団なら当たり前、ではあるが、他の国の騎士たちからは、
「異常〜っ!変態だ〜!」
とか、失礼なことを言われるが、この武装を変更するつもりはない。
私は、竹のスーツに網タイツ、ハイヒールを履いて、首には必殺武器の、猫装備。
え?
これの、どこが武装なんだ?
と言われますか。
では、実際に、魔物と戦ってみせましょう。
調度良い所に、魔物が住んでいそうな洞窟が見えるではありませんか。
では、ちょっと失礼して、馬車を止めていただきたい。
ああ、そんなに時間はかかりませんよ、ほんの数分で片付けてきます。
ふぅ、気持ちの良い汗をかきました。
あれ?
何を驚いているのですか?
ああ、私の戦い方にビックリした、と。
よく言われます、それは。
でも、我が国の栄光ある宮廷騎士団では、これは当たり前の戦い方なんですがね。
はい、おまたせしましたね、御者殿。
馬車を出して下さい、もう、この辺りは安全でしょうから。
私は、この国以外、あまり出た事はない。
商人として、あまり国外に出る費用がなかったこともあるが、この国は豊かなので、出る必要もなかったと言えるだろう。
しかし、今は、この国以外の戦士・騎士を見てみたい欲求に駆られていた。
その原因は、今さっき見た、流浪の騎士の戦い方を見たからだ。
私は、戦士・騎士は、槍や剣、変わったところでは戦槌(トンカチの巨大なもの)で戦うものだとばかり思っていた。
しかし、この流浪の騎士は、私の常識を粉々にする戦い方をしていた。
竹スーツの袖を魔物の首に巻きつけ、絞め落とす。
(トランペットのファンファーレが聞こえてきそうな光景だ)
ハイヒールを手に持ち、魔物の身体にブスブスと突き刺す。
網タイツを瞬時に脱いで、魔物の首に(以下同文)
これもファンファーレが幻聴で聞こえてくるようだ。
果ては、猫の尻尾を持ち、振り回して、槌か短い鞭のように使う。
(猫は、心得てでもいるように、瞬時に爪を伸ばして魔物を切り裂く)
この馬車には護衛役として、けっこう腕の立つ冒険者もいたが、彼も自分の常識が破壊される光景を、目を丸くして眺めるだけだった。
ちなみに、この流浪の騎士、寝る時間が遅くなっても、たとえ酒盛りに参加しようが、朝は早いそうである。
理由を聞いたら、
「いやー、一度寝過ごしましてな。せっかくフル回復したスタミナを使う時間が過ぎてしまい、回復していくスタミナを、みすみすこぼれていくのが分かっていながら何も出来ませんでしたわ。それから、何があろうと、朝は早く起きて、できるだけ戦うか魔力消耗をスタミナで補うかすることに決めているのですよ」
騎士殿の言っていることは、私には半分も理解できなかったが、騎士殿にとっては、のんべんだらりと日常を過ごすことは禁忌に近いことらしく、いつも忙しそうにしていた。
目的の町について、騎士殿と分かれるときには、私は、生きているうちに一度は、この騎士殿を生み出した国の騎士団とやらを見てみたいと思っていた……
聞けば、遥か遠くにある王国らしい。
そこでは、日常的に魔物や魔王と戦う騎士たちの光景がある、とのことだった……
と、先先代の当主は書き残している。
この記録が書かれたのは、数十年ほど前。
これを残して、先先代の当主は、店を後進に譲り、遥かな王国目指して旅に出たと言い伝えにある。
先先代当主、伝説にあると言われる王国へ辿りつけたのだろうか?
私は、遥かな時と遥かな国に、思いを馳せる……