その17話 または、幻の王国を目指した男は、いずこへと旅立つのか?
もう一話、続くこととなってしまいました^^;
シリーズ化すると、作者が乗ってきちゃうんですよね、これが(笑)
祖父と父の手記を頼りに、俺も旅に出た……幻の王国を探す旅に。
父の書いた手記によると、北の果てには王国は無かったとのことだから、今度は南に向かおうと思う。
運の良いことに、今の俺には祖父や父の代には無かった、商会ネットワークという信頼できる情報網がある。
それを駆使して、俺は大陸の南と、それを越えた南の果てについての情報を、細大漏らさず収集することから始めた。
あ、仕事は、息子に任せることにした。
我が息子ながら、こいつは非凡だったのだ。
まだ15にもならぬ年で、見事に巨大なる商会ネットワークを管理し、巨額の利益を上げ、大陸にある諸国の信頼と実績も積み上げている。
数年前から俺は事業を譲るなら、こいつしかないと思っていたが、果たして息子は期待に応えてくれた。
これで、心置きなく祖父や父の跡を追い、その続きを進むことができる。
「お父さん、本当に引退する気?」
息子が心配そうに聞いてくる。
事業の心配ではない、俺の為そうとする事が危険だと言っているのだ。
「ああ、これでも事業の合間を見て体術や剣の修行も、みっちりやったからな。下手な剣士よりはレベルは上のはずだ。心配は要らんよ」
別れも、あっさりしたものだった。
妻は、数年前に流行り病で亡くなっているので、息子との別れだけだけだったのが良かったかも知れない。
かくして俺は、南を目指し、旅だった……
住み慣れた町と国を旅立ってから数年後。
俺は、商会で収集した情報通りに南へ南へと旅を続け、ついにここ、大陸の南端にある港町に来ている。
ここに辿り着くまでには、まあ、色々色々とあった。
盗賊集団に襲われ、猛獣に襲われ、魔物にも襲われる事が、幾度もあった……
その度に一人で、または隊商と共に旅している場合は護衛の冒険者たちと共に、その襲い来るものたちを全て撃退し、盗賊の場合は全滅させてきた。
おかげで俺にも、漂泊の剣士という2つ名がつくことになるのは気恥ずかしかったが。
まあ、辺境で名が通るようになったことで、あちこちの村で歓迎されたのは喜ばしいことだったが、歓迎のお返しに村人たちに剣術や体術を教えてくれと言われて数週間の滞在となってしまったのは、痛し痒しということだろうか。
この港町でも、二つ名のおかげで冒険者ギルドでも歓迎され、もう一ヶ月近くも滞在している。
俺としては早くここを旅立って、南の果てを目指したいのだが……そうはいかない事情がある。
季節風というやつが、今は南から吹いているため、わざわざ南へ向かう手間のかかる航路を取る船がいないのだ。
もう数ヶ月待てば、今度は風の向きが逆になるため、南へ行く船は選びたい放題になるという事なので、資金稼ぎも兼ねて、この町にいる。
大陸の辺境にある港町だけあって、魔物や盗賊の討伐依頼は引きも切らず。
おかげで、滞在費に上乗せしてもおまけが多いくらいに資金を稼ぐことが可能だった。
数カ月後、ようやく風向きが変わり、俺は今、海を超えて南へ向かっている。
この船の船員で、気が合う数人が教えてくれたが、これより南へ向かうことになると、逆に寒くなってくるとのこと。
俺は、港に着いたら冬用装備を整える事を予定する。
海を越えての旅は、一ヶ月ほどで終わる。
さすがに風向きに逆らわない船足だけに、その速かったこと!
俺の他にも船客はいたが、船酔いとかで船旅の間中、青白い顔をしていた。
俺?何ともなかったさ。
船旅には強い身体らしいね、俺。
海を渡った港町に着いたら、毛皮などの防寒装備をしこたま買う。
後で思い知ったが、この時に多めに買っておいて良かったと心底思う。
港の酒場で、南の果てに行くための地図や噂話などの情報を仕込む。
面白い情報やら、ちょいと恐ろしげな情報も聞き込み、雑ではあるが南部大陸の地図も手に入れる。
どうやら、ここから南の果てに行くには、途中までは馬車、後は犬ソリか徒歩しか無いようだ。
馬では、南の果ての寒さには耐え切れないらしい。
半年後、俺はたった独りで、極寒の地にいた。
南の果てに近い村は、ひと月前に出発した。
今は、森も尽きて、枯木一本とてない雪と氷の世界が広がるばかり。
こんなところに幻の王国があるのだろうか?
いや、迷っていても仕方がない、今は進むのみ!
何も無いなら、それはそれで選択肢が絞れる。
おっと!
真っ白なクマが襲ってきた。
さすがに雪と氷の世界だ、猛獣まで真っ白とは。
この際だ、こいつを仕留めて食料確保と行こう。
仕留めて分かったが、こいつはでかかった。
ここいらの猛獣をまとめていた「主」かも知れないな。
親父の手記にあったように、雪や氷でドームを作り、俺も使えるようになった魔法で火をおこし、薪も何もない真っ白な世界での魔法の焚き火をして、倒した白いクマの肉を炙って食らう。
残った肉は干し肉として、食料とさせてもらう。
獣だろうが魔物だろうが、最終的に命は全て食うためにあると俺は考える。
骨は削って槍と成し、牙は短剣とする。
ついに、南の果てに到達。
コンパスが、ぐるぐる回ったという北の果てに行った親父の手記と同じ現象が起きる。
だから、俺も、ここが南の果てだと結論付ける。
何も起きなかった……ここも、幻の王国の場所では無かったか……
引き返そう。
次は、海だ。
絶海の孤島ならば、あるいは……
引き返して、港町まで行く間に、様々な村に滞在した。
俺が倒した巨大白クマは、やはり、この雪と氷の世界の獣の主だったらしく、訪れる村々で、その肉と毛皮に敬意を表される。
ある村では、ぜひとも娘を嫁に貰ってほしいと頼まれ、一夜を共にする事となったが、許せ息子よ。
お前の弟か妹が生まれるかもしれん。
子供が生まれたら、これを渡してくれと、一夜妻に家紋の入った短剣を残す。
息子よ、この手記を見ることあるならば、どうか弟あるいは妹を、よろしく頼む。
息子よ。
俺がお前に残せるものは、親父が俺に残したものと同じものとする。
北の果てへと続く地図と、そこにある村々、そして、そこの特産物と鉱物見本、これを俺の手記に付随させる。
願わくは、俺の跡を継いで、幻の王国への入り口を探す旅を続けてくれることを期待する……
お父さんの残した手記は、商会ネットワークにより、私の元へともたらされた……
お父さんは、南の大陸の港町に辿り着き、そこで、この手記を私に届けてくれるように依頼したらしい。
この手記のもたらす利益は、果てしないものとなるだろう……
とりあえずは、この手記に書かれた、私の弟か妹を探すように、手配しなければ……
10年後、巨大な経済国家とも言える規模になった商会は、青年の域に達した男と、色白の少女の手により、より膨大なる規模に膨れ上がろうとしていた。
男は、娘ともみまごう、その少女を、
「我が妹です」
と、紹介するのだった。
ちなみに、商会の持ち主である男の住まいには、男よりも若干若い女性が住んでいたのだが、それも男は、
「母です」
と言っていた。
その家族は、仲睦まじく暮らし、男も後に妻を娶り、息子が生まれる。
息子が15になるかならぬかという年に、
「俺も、父さんや爺さん、曾爺さんの跡を追おうと思う」
と、巨大なる商会帝国の主は言う。
妻も子も、妹も、その母も、その言葉がいつか出ると覚悟していたらしく、何も言わずに頷く。
かくして、4代目に至る、幻の王国探しが始まる事となる。




