その14話 または、とある王国へと迷い込んだ一人の騎士の話
これが今年最後のお話。
たまには正統派ファンタジーも書きますよ(笑)
ここは、何処とも知れぬ深き霧の中……
あ~あ、親には、
「一人前の騎士になるまで、帰ってこないからね!」
なんて見栄切って家を飛び出てきたのはいいけれど、もう路銀も尽きたし、この霧じゃ、地図もコンパスも当てにならない。
残り僅かな食料と水で、どこかの村にでも辿りつけたらいいんだがな〜……
完全に道に迷ってしまった僕は、貧しいけれど騎士の家に生まれて、小さな頃から剣の修行や槍の修行をしてきた。
これでも、いっぱしの剣士にはなれるつもりでいる。
しかし、この霧じゃ、魔物見つけて食料やアイテム、金銭を確保できるわけもなく、途方に暮れているのが実情だった。
「あー、あそこの山道の矢印、壊れかかってたけれども、やっぱり反対だったみたいだな〜」
街まで後10km、なんて看板の下にある矢印が壊れかけてガタついていたのだが、それを信用して分かれ道を右へ曲がったのが大間違いだったらしい。
あそこは左へ曲がるのが正解だった……
今じゃ、悔やんでもキリがないが。
しかたがない!
こうなったら、どこへ出ようが、まっすぐに進んでやろう。
いくらなんでも魔物の国とやらへ出るようなことはないだろう……
もう、どのくらい歩いただろうか?
食料も水も、数時間前に尽きた……
今は機械的に足を動かしているだけだ。
ここは、どのへんだろうか?
村は、どこだ?
街は、どこだ?
もう、腹が減って、のどが渇いて、疲れて、頭も働かない……
その壁は、急に出現した。
それほど突然だった。
あい変わらず、霧は晴れない。
手を伸ばすと、その手の先が見えないほどの濃霧だ。
そこに、突然に壁が現れた。
大きく、高く、広そうな壁だ。
濃霧の中でも、それだけは確信できる。
なぜなら、この壁、都市国家の境界壁だと思われるから。
これで助かりそうだ。
後は、この壁づたいに門を探して、入国手続きをすれば良い。
幸いにして、僕は身分証明が可能な短刀を持っている。
国家の紋と、我が家の紋が刻んである、僕の守刀の短剣だ。
ずいぶん歩いて旅してきたが、この短剣で身分証明できない国はなかった。
今度も、便宜を図ってもらえるだろう。
しかし、この壁、ずいぶんと長いな。
これほど長い壁を持つ都市国家なんて、僕は聞いたこともないぞ。
かれこれ、1時間近く歩いているけれど、まだ門の影も見えない。
僕は、歩きながら考える。
いくらなんでも、こんな長い城壁を持つ都市国家なんて聞いたことがない。
そして、この深い霧。
まるで伝説の王国にたどり着いたようじゃないか。
待てよ……
聞いた事があるぞ。
聞いたこともない名前の国。
その、何処にあるのかわからない、とある王国の話。
その国では、剣も槍も、使わないことはないが、重要視しない戦いが標準だという。
それこそ、徒手空拳だけど、着ているものがアイテムや武器となる、独特の戦闘スタイルを持つ国。
ごくごく少数の者達が、その国を離れているらしいが、その者達全てが、この世のものとも思えぬ戦闘方法を用いるとのこと。
魔物の群れにバケツ1つ持って単独で飛び込んで、あっという間に全ての魔物を叩き伏せてしまうという豪傑も、そのへんに転がっているような国だという……
とある豪商が、その国を目指し旅立ったが、ついに見つけることが出来ずに、別の国にて巨大なる商会連合を築き、その国の場所を探したが、死ぬまで、どこにあるのか分からなかったという国。
もしかして、伝説に近いような、その、とある王国なのか?!
朝になり、門番が大門を開けて、旅人たちを送り出し、また、迎え入れて、入国者の列が最後尾になった時、その人物が門の近くへ、力尽きる寸前で辿り着いたという。
「もし、そこの騎士様。大丈夫ですか?歩けないようでしたら、中までお運びしますよ」
力尽きる寸前で、何とか助かった騎士は、手厚い看護で回復した。
気がつくと、その騎士は、
「この国は、あの、噂や絵本に描かれる、剣や槍によらぬ戦い方をする騎士たちのいる国だろうか?」
と、開口一番、質問した。
その答えは、果たして、正解であった。
その騎士は、宮廷騎士団への入団を許され、メキメキと力をつけていくことになる。
その後、その騎士が故郷へ帰ったのかどうか……
それは、誰も知らない物語になる。




