その11話 または、如何にして、その国が他の国々に紹介されたのか?
噂だけじゃ、人は信じません。
とは言え、ファンタジーとして紹介されるのも……
面白い……面白い国に来たものだ。
我が名は…この場合、どうでも良い。
どうせ、歴史という時間の中に消えていく、小さな波紋でしか無い。
それよりも、残さねばならないのは、この国の事だ。
私は、世界をめぐる放浪者であり、旅行記を書いて糊口を凌いでいる。
今まで、私の旅行記には、様々な驚くべき国々の記述があり、それにより私の名は「ホラ吹き」の代名詞ともなっている……
しかし!
私が今まで書いてきた国々の記述は全て真実であり、これっぱかしも嘘偽りを書いたことはない(まあ、多少の誇張はあるが、それは読者を飽きさせないため。決して嘘偽りは書いていない)
私の書いたものは、童話やファンタジー、または嘘八百を書き記した娯楽読み物とされているが、とんでもない!
全て事実なのだ、これらのことは。
巨人族の国や矮小族の国、皮膚が七色に輝く種族の国の話や、全くの闇に生きる種族、氷と雪しか無い国や、いつも燃えている大地と水に囲まれた国の話も真実なのに、誰も信じてくれないのが哀しい……
しかし!
この国のことだけは、真実だと声高に主張せねばならないだろう。
私は、この国に来る予定などなかった。
砂漠を抜けた後、密林に迷い込み、迷いに迷った末に、たどり着いたのが、この国だった。
王国であり、統治する王がいて、保護されるべき人民がいる。
面白いことに、この国に奴隷はいない。
先々代の国王が奴隷制を嫌い、廃止する事を決定して、様々な軋轢や障碍をはねのけて、これを実行した。
それから100年を経るが、この国に奴隷制は全く残っていない。
おかげで、王国民に貧富の差は少なく、たとえ貧しい人間が外から迷いこんできても優しく受け入れる度量を持つ。
面白いのは、ここからだ。
ここには、他の国々とは違った魔物や魔王が棲む地域が存在する。
そこでは、毎日のように、王国の宮廷騎士団が魔物や魔王と戦っている……
戦っているのだが、ここからが面白い!
通常だと、パーティを組んで魔物や魔王と戦い、討伐するか倒されるか!
の生死を賭けた戦いになるのだが。
この国では、死ぬことはない(いや、間違って死んでしまうこともあるが、それは騎士団の戦闘訓練時のみ)
例えば、高レベル魔王にソロで挑む無謀な者がいたとしよう。
通常は、魔王に倒されて骸はゾンビとなり後に続くものに対して剣を向けるのだろうが、この国は違う。
なんと!敵であったはずの魔王や魔物が、倒れた挑戦者を洞窟の出口近くまで運んでくれるのだ。
信じられないのが普通だろう。
私も、この目で見るまでは信じられなかった!
更に、この国には「当番制魔王」というものが存在する。
日付が変わると、魔王の交代が始まり、それまで戦っていた魔王とは違った属性の魔王が登場するのだ。
そこ!
嘘だと思っただろう、今の話。
しかし、これは全て事実なのだ。
それどころか、こんな事もある。
たまに民間団体からの苦情や助力要請がかかるときもあり、その時には、騎士団からも人手を出す。
依頼は、畑や町にいる迷惑なハチ退治、小さいけれどイタズラ好きな死神退治、鳥よけにいっぱい作ったカカシの撤去作業や、その他さまざまな雑用。
この作業で退治されたハチや死神、カカシを撤去するために攻撃すると、小さなアイテムに変わる。
この国では、ハチも死神もカカシも、神や人が錬金術で作ったものなので、倒すと元の材料に戻るという……
新しい国の紹介は、この本に詳しく書かれている!
今までの、どこの国より面白い、おかしな国の全てが書かれた新刊!
読まずにおられようか?
さあ、買って欲しい!
これが売れれば、また旅に出る事ができる!
私は、新しい、面白き世界の国々に行ってみたいのだ!
著者自らが街に出て自分の本を売るという珍しい手法は大成功し、この本は売れに売れた。
ほとんどの人間は、これをホラ噺として読んだが、一部の人間だけは本気にした。
なぜなら、冒険者たちの酒場での噂の中で、嘘のような話が一連の事実として紹介されており、そのことごとくが、この国の記述にあるものだったからである。
その国の騎士団の、嘘のような強さ。
騎士団の振るう、日用品の攻撃力と防御力の、冗談のような強力さ。
地図さえあったら、今すぐにでも、この、おかしな国に行きたいと思う冒険者は少なくなかった……




