その0話 おかしな騎士団と、おかしな神様の物語
短編だったものを、連載にしました。
どうなりますことやら……
俺は、駆け出しの騎士。
今日も今日とて、ハチの巣退治に駆け回っていた。
「おーい、そこの人ぉ!今日のハチの湧き具合は、どうだい?」
俺の回りにも、ハチ退治の依頼を受けた者達がいっぱいいる。
彼らも、通常の魔王や魔王の手下と戦うよりも楽なハチ退治を選んだ者達だ。
「ああ、今日は暑いくらいの日だからねぇ。結構な数、飛び回ってるよ。チクチク刺されるけれど、それでも対応しやすいから楽だよな、うん」
そうだな。
俺もそう思う。
それになにより、こんな小さなハチでも魔物扱いになり、倒せば経験値がもらえる。
たまにアイテムとかも。
俺は、答えてくれた人に軽く会釈を返し、俺もまた、ハチの巣退治に駆けまわる。
え?お前はハチ退治じゃ無くてハチの巣退治を、なぜやってるかって?
いいアイテムになるんだよ、ハチの巣は。
錬金術で合成すると、なぜかスイカの種になるようだ。
ちょいと畑に蒔いて水やれば、すぐに大きくなって、何故かスイカ飴になる。
(何故?とは俺に聞くなよ。錬金術ってのは、そういうもんなんだとさ)
まあ、このアイテムが重宝するのさ。
ちょっとした傷やら深手の傷、半殺しになったとしても口に入れれば、すぐ治る!
ということで、俺もハチを倒す傍ら、ハチの巣退治にも駆けまわった。
数日間、一心不乱にハチ退治とハチの巣退治に駆けまわってたら、何故かレベルが上がって、結構強くなってた。
さーて、アイテムもたくさん溜まったし、魔王の手下退治にでも行くかね!
ということで、俺は今、魔王の領域に来ている。
チームはあるが、強固な鉄則じゃないので、レベルの割と低い者達は別チームの低いもの達と集まって、雑魚相手の経験値稼ぎだ。
あっちこっちで、
ぎゃー!だの、
ひええー!だのと言った悲鳴ともなんとも判断しづらい声が上がっている。
俺も、レベルの低いザコ敵はソロで倒していたが、さすがに15匹目ともなると、出てくる敵の強さが相当に違ってくる。
こちらの攻撃もザクザク届くが、向こうの反撃も痛い。
俺もそうだが、あっちこっちで、
「助けてくれー」
とか、
「救援頼むー」
とか聞こえてくるな。まあ、俺もその一人だが。
すったもんだやりながらも、なんとか50匹の手下を倒した……つもりだったが、なにも褒章がない。
ちくしょう!
何か忘れたか?
あ、レアドロップのアイテムが無い。
そういや、まだ出てなかったな。
あと、どれだけ倒せば良いってんだよ?!
100体目。最後の一撃!
こいつで出なかったら、いくら無課金で通常バトル可能とは言え、ひどすぎる!出てくれよ……
結論、出なかった。
数日後、運営委員会ってとこからレターが来た。
「拝啓、ゲームを遊んでいただいていますユーザー様へ。今回、バグとゲームのアイテム設定ミスが分かりました。レアアイテムが、極超低確率に設定されており、本当は1/10の確率で出ますところを1/10000の確率になっておりました。あと、合成できるアイテムと、それによって造られるアイテムの関連性がバグによりランダムとなっておりましたので、ご報告いたします。なお、この2点は既に対処されておりますので、通常通り、お楽しみ下さい」
俺の怒りは頂点に達した!
他のユーザも、そうだったみたいで、あちこちで怒りの炎が吹き上げられている。
それから数日後、あまりの激怒メールの山に降参した運営委員会が、以前のバグと設定ミスのカバーのための救済アイテム大盤振る舞いを発表した。
俺?
俺は今でも、そのアイテム貰って魔王と戦ってるよ。
まあ、たまに酷いバグで画面更新止まっちまうけど、ストレス解消には、ちょうどいいさ。
あ、また止まった。
さて、運営委員会へお怒りメールでも送ろうかな。
ん?通常メールで運営委員会からなにか来てるぞ?
「拝啓 まことに残念なお知らせです。この度、*月*日をもちまして、運営スポンサーが引き上げることとなり、同日をもってこのゲームサーバも閉じさせていただくこととなりました」
これ、今日じゃないかよ!
まあ、来てても無視してた俺のせいだけど。
さて、ゲームばっかりやってないで、俺は俺の仕事に復帰すっかね。
俺は、心の中で呟きながら、目の前にある小宇宙の卵を見る。
「さあ、大仕事だぞ!まずは、光りあれ!」
俺の言葉通り、小宇宙の卵は孵り(ビッグバン)、辺りは光だけになる。
よしよし、順調だ。
次に、この世界の辿るべき歴史の方向性を決めてやらねば。
どうしようか?
決めた!
あのゲームのような世界にしてやろう。
武器・武装だけでなく、日用品や服装、調度品でも戦える世界。
そして、日用品にマジックアイテムがある世界。
騎士団が、小悪魔やハチ、兎と戦う世界……
面白い世界になりそうだ!
この瞬間、神様による世界の成り立ちと方向性、歴史の流れが決定されてしまった。
おかしな世界の、おかしな王国の、おかしな騎士団の生まれる、はるか昔の物語である。