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二つ月の帝国  作者: 月城 響
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OL、野盗に襲われる

歩き出してすぐ、スーザがさあやの顔を上から覗き込みつつ言った。

「それにしてもサアヤさんって、とても29歳には見えないですね。最初お会いした時びっくりしました。僕と同じくらいじゃないかって・・・」


 そろそろ年齢の事を言われるのが気になるお年頃のさあやであったが、ここに来たその日に自分で申告してしまったのだから仕方がない。確かに元の世界でいう欧米系の顔立ちの彼らよりはアジア系のさあやは若く見えるのだろうが、さすがに10代には見えないだろう。


「それ、ちょっと言い過ぎ。いくらなんでも16,7歳には見えないわよ」

「え?僕、22歳ですけど」

「・・え・・・」


 うそ・・・。こんなにカワイイ22歳が居る?若返りの薬でも飲んでるんじゃない?いえ、それよりさっき思い切り顔を近づけて、様は要らないわよ、なんて言っちゃったわ。だって子供だって思ってたんだもん。


「あの・・・。ちょっと聞くけど、サーズは・・・」

「サーズ兄上は30歳。2番目のキートレイは26歳。あともう一人フレイヤという姉が居るのですが、彼女は24歳。ちなみに皇帝陛下は今年31歳になられました」


 サーズもアルバドラスももっと年上かと思ったが、同年代だったようだ。年が近い人がいるのは少し安心できる気がするが、友達になれるかどうかは分からなかった。そんな事を考えながら歩いていると、丁度アクセサリーを扱っている店の前を通りがかった。


「こちらでネックレスでも買われますか?」

 さあやが立ち止まったのでスーザが聞いて来た。

「ネックレスは要らないけど、何か髪を束ねるものはないかしら。朝、顔を洗うとき髪が邪魔で・・・」

「髪飾りならこちらにありますけど・・・」


 スーザが手を差し伸べた先にあったのは皆、櫛形のものやかんざしのように髪に差すもので、さあやの想像したものではなかった。


「出来ればバンスみたいなものが欲しかったけど、この世界じゃ無理かぁ」

 かんざしなら丸めた髪にうまく差せば、何とかまとめる事が出来るだろう。そう思って見ていると、スーザが蝶と花の飾りが付いたかんざしを拾い上げた。


「サアヤさんならこれが似合うと思うな」

「そう?じゃ、それにしようかな」

「じゃあこれは僕が買います」

「え?ど、どうして?」

 急に大人っぽい顔になったスーザを見て、さあやは少しドキッとした。


「僕がサアヤさんにプレゼントしたいからですよ」

「はぁ・・・」


 どちらにせよ、この世界のお金を持っていないさあやは、ありがたく買ってもらうことにした。


 店を出てどこか他に行きたい店はないかとスーザに聞かれたが、市場の様子は大体分かったので、帝国で作られているファイファという物の畑を見に行く事にした。ファイファは広大な土地で作られているので、街の外に出てからエグラで向かうのだ。市街地スガヤを離れ、人通りが少なくなったので、そろそろエグラに乗ろうかと話していた時だった。道路脇の路地から急に3人の男が出て来て、行く手をふさがれた。


 良くない目つきでニヤニヤ笑っている男達を見て、スーザはすぐに剣を引き抜いてさあやの前に出た。

「サアヤさん。下がっていて下さい」

「ほお?お小姓のくせにいい剣を持っているじゃねーか」

「そいつも頂いちまおう」


 真ん中の男が顎をしゃくりあげると、両側の2人が剣を引き抜いてスーザに襲い掛かった。一人目の男の剣を弾き返し、2人目の男の剣を受ける。再び襲い掛かってくる男の足を蹴り上げ、もう一人の男を力任せに押し倒すと、余裕の表情で立っているリーダー格の男に剣を振りあげながら走り寄った。


「うりゃあああっ!」


 男がニヤリと笑って剣を引き抜くと同時に、スーザの剣が弾き飛ばされた。さっき押し倒した男が丸腰のスーザの顎を思い切り殴り、彼の体は通りの端まで投げ飛ばされた。

「スーザ!」

 さあやの叫び声が響いた。


 もう一人の男が起き上がろうとしたスーザの首元に剣を突き付け、彼はどうする事も出来ずに荒い息を漏らしながらさあやを見つめた。


「OK、分かったわ。私はおとなしくついて行くから彼は見逃してあげて」

「ほう。物わかりのいいお嬢さんだ」


 リーダー格の男はニヤッと笑いながらさあやに近づくと、彼女の顎を片手で持ち上げた。


「近くで見てもいい肌だ。こりゃあ高値で売れる」

「あら、ありがとう。月に2回はエステに行っているので。所でこんなもの、知ってる?」


 さあやが手のひらサイズのボトルを男の顔の前に差し出した。


「なんだ。こりゃあ?」

「これはね。こうやって使うの」

 さあやがスプレーのボタンを押すと同時に、霧状のガスが勢いよく3人の男達の顔に降りかかった。


「うわっ、なんだ!」

「痛い!」

「わあぁぁっ!」


 男達は顔を両手で押さえながら、もんどりうって転がった。次にさあやはバッグから護身用スタンガンを取り出すと、苦しんでいる男の体に思い切り押し当てた。


「ギャアアアアッ!!」


 男達の断末魔(?)の叫び声が響き渡った後、あたりはシーンとなった。とどめを刺したさあやはバチバチという音と青い稲妻を放ち続けるスタンガンを持ったまま立ち上がって、動かなくなった男共を見下ろした。

「フン。毎日電車やバスで痴漢と戦う、日本のOLをなめるんじゃないわよ」


 ちなみにこの熊をも倒す催涙スプレーと、米軍でも使われている元の世界最強150万ボルトのスタンガンは、独身仲間3人のバースディプレゼントである。


 さあやは驚いた顔で、まだしりもちをついているスーザの所へ駆け寄った。

「大丈夫?スーザ」

「は・・・はい。すみません。僕がサアヤさんを守らなきゃいけないのに」

「いいのよ。命がけで戦ってくれたんですもの。ありがとね、スーザ」


 スーザは顔を赤くして立ち上がった後、キラキラした目でさあやを見た。


「それにしてもすごいです。サアヤさんは聖霊の力も使いこなせるのですね」

「ううん、これは違うの。文明の利器って言うか・・・。私は聖霊の力なんて使えないのよ」


 町を巡回している警備兵が騒ぎを聞きつけてやって来たので、スーザは身分を名乗り、気を失っている男達を城へ連行していくように命じた。一応近衛は十番隊でも一般の兵より役職は上なのだ。


 それから彼等は再びエグラに乗り、城門を抜け、帝都の外へ向かった。途中一回休憩して、城が建っている山が遠くかすむように見える頃、たくさんの白い綿毛状の実を付けた低木が並ぶ、広大な畑にやって来た。丁度収穫期らしく、たくさんの人々が畑に出て実を摘み取っている。それを見てさあやは後ろに居るスーザに叫んだ。


「ファイファって綿めんだったのね。すごい!あたり一面綿わただらけよ!」


 






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