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2016年 4月5日「運動ウンチ」

 壁打ちで、遊んでいた。

 ワンバウンドで、返す。

 沢子は、空振った。

「下手だな、おまえ」

 徹郎は、言った。

「おまえも運動、何かやりゃいいのに……」

「いいんです」

 沢子は、言った。

 むくれて、ボールも取りに行かない。

「うんち」

 彼女が、突然そう言った。

「行って来いよ……」

 徹郎は、困って言った。

「そうじゃないです!」

 沢子が、キレた。

「運動ウンチなんです!」

 沢子は、どでかい声で言った。

「私は、運動オンチじゃなくて、運動ウンチなんです!」

 幸い、誰もいなかった。

 コートも、空だった。

 始業式終わりで、誰も来ない。

「ウンチとオンチ、どう違うんだよ」

「同じですよ」

 でも、と付け加える。

「ウンチの方がより下です」

「そうか……」

 徹郎は、参った。

「救いようのない、運動オンチということだな……」

「そうです」

 沢子は、言った。

「テニスなんて、ムリです」

 沢子は、言った。

「こんなの早くやめて、帰りましょう……」

 沢子は、言った。

「赤理先輩が、気づく前に……」

「来ねぇって」

 徹郎は、答えた。

「今日は、友達と遊びに行く、って」

「なんだ」

「なんだって、なに」

「いえ」

 沢子は、言った。

「こそこそして、損した、と思っただけです」

「げえ」

「何ですか……」

「珍しいこと、するもんだと思ってたら……」

「何ですか?」

「作戦か」

 徹郎は、言った。

「疲れるだろ……」

 徹郎は、言った。

「気が滅入る……」

「大丈夫ですっ!」

 沢子が、胸を張った。

「幾らでも、笑わせますから!」

「はい……」

「サワちゃんのギャグ、見たいですか?」

「はあ……」

「見たいですか、見たくないですか?」

「まあ……」

 見たい、と言えば嘘になる。

「だが」

 徹郎は、言った。

「見てやらんでもない」

「顎、取れますよ」

 沢子は、笑った。

 ふっ切れたような、笑顔だった。

 新学期。

 春休みの間に、何か考えたらしかった。

 迷いがない。

 沢子に、持っていかれそうだった。

 足場のない。

 漂流している、自分を。

 連れてってくれ。

 希望のある、場所に。

「お片しましょう」

「はい」

 徹郎は、彼女を見る。

 雑だった。

 ラケットの、仕舞い方。

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