2015年 2月11日②「パンダ」
「心配してたぞ」
母さんが。
父は、言った。
「おまえが、学校に来てないって」
「知ってるよ」
沢子は、泣きながら言った。
「何で、お父さん来てるの?」
泣きながら。
涙腺が緩む。
父の顔、ぐらいで。
「お父さんに、頼んでないじゃん?」
「頼んでないね」
父は、言った。
「おまえが、ここでサボってるって聞いて」
聞いたのだろう。
役場を訪れる、誰か、に。父は、役場で働いていた。
「心配して、来たぞ」
昼休み時だった。
父は、様子を見に来てくれたのだろう。
隣に座った。
父からは、煙草の臭いがした。
「吸ったの!?」
「吸ってない」
父は、言い張った。
「俺は、吸ってない」
父は、言った。
「林のじじいが、吸いやがるんだよ」
ほんとだってば。
言い訳がましくする父に、笑った。
「しょうがないね」
沢子は、笑った。
「お母さんに、言っちゃおっと」
やめなさい。
父で、気が紛れる日が来るとは思わなかった。
楽しかった。
寒さで凍えた頬が、緩む。
嬉しかった。
助けてくれて。
ありがとう。
そう、伝えて。
涙が、出た。
「泣くな」
父の手が、撫でた。
大きな手。
もう何処へも行かない、と。
そう誓った、手。
「女なら、泣くな」
「どういうこと?」
沢子は、尋ねた。
聞いたことない。
そんな、言葉。
「俺は、母さんが、嫌いだ」
「はっ!?」
目が覚めた。
父の、顔を見上げる。
「それだ」
父は、目を背けた。
「何?」
「母さんも、泣き顔を見せる」
「だから?」
「世界一悪いことした気になる」
父は言った。
「したじゃん」
と、沢子は言う。
「まあね」
「まあねじゃねーよ」
腹が立った。
見続けていると、父が向いた。
「ああ! パンダ!!」
「何が?」
意味も分からずに、尋ねた。
「おまえの、目だよ!」
「目?」
言われて、気づいた。
そうかもしれない。
目を、擦った。
「そうかも」
「母さんと同じだっ!」
駅舎に、響いた。
マスカラが、取れただけだ。
それが嫌、らしい。
「お父さん、私のこと、嫌い?」
「嫌い」
「なんで?」
「俺に、嫌がらせをするからだ……」
上体を遠ざける父に、寄っていった。
「離しなさい」
「いやです」
「何で、俺に寄ってくる……」
「嫌がらせ」
父は逃げた。
そうして、しばらくしてから舞い戻ってくる。
「お父さん!?」
手に、雑巾を持っていた。
「お父さん!?」
手に、雑巾を持っていた。
何をするか、わかる。
「ぎゃあああああ!」
無人の駅に、響く。
虚脱した。
目の周りが、揉みほぐされた。
汚い、雑巾で。
「気持ちいいですか?」
「はい……」
「凝ってるとこは?」
「ないです……」




