表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/19

2015年 2月11日「よりどりみどり」

 漆黒の闇が、続く。徹郎は、目覚める。

 自分がどこにいるのか、分からなかった。

 電気が点く。

 望未がいた。

 隣にいる。

 沢子ではない。

 沢子が、いた。

 夢の中に。

 何かを訴えている。

 そう見えた。

「意地でも、明日?」

 尋ねられた。

 日付変わって、今日だ。

 今日、決行する。

 何もしない。

 それを、決めた。

「いいの?」

「いいわけないだろ」

 八つ当たりだ。

 徹郎は、頭を掻いた。髪が濡れている。

 汗ばんでいた。

 室内の冷房が感じられない。

 自分が、間違っていた。

 今更だ。

 何もかももう、遅い。

 自分がやった、罰だ。

 自分で、片をつける。

「それでいいの?」

 また、尋ねられた。

「いいんだよ」

 今度は、平静に返した。

 ベッドを出た。

 小さな冷蔵庫を、開ける。

 水。

 全部、飲み干した。

 空のペットボトル。

 何もない。有料の冷蔵庫を開けた。

 より取り見取りである。

「何にしようか」

 望未が言った。

 背後に、立っていた。

「どれにしますか?」

 聞いてみた。

「お酒」

 彼女が言った。

「徹郎くんは?」

「ビール」

 取り出した。

 プルタブを、引いた。

 不味かった。

 何度飲んでも、口に合わない。

 だが、美味かった。

 体が求めていた。

 麻痺を。

 空になった。

「まだ飲むの?」

「飲み足りない」

「いいことないよ」

「忘れたいんだ」

 新たな一本に、口をつける。

「死んじゃうよ?」

 彼女の言葉に、ふと手を止める。

「死んじゃう?」

「心が」

 だよ。

 死んじゃうくらいなら、生きていたい。

 徹郎は、そう思った。

「何かできること、ある?」

「ないよ」

 徹郎は、一気に飲み干した。

「ぐらんぐらんする」

「言わんこっちゃない」

 彼女が、やって来た。

 背を擦られた。

「気持ちわるい……」

「それ、みろ」

 悔しかった。

 いつだって、彼女は正しい。

 自分が、間違ってる。

 自分が導き出した、答えなのに。

 それさえも、間違っているというのか。

 望未は、俺のこと、好き?

 問い質せない。

 好き、かどうか。自分では、分からない。

 一度も、聞いたことがないのだから。

 彼女の、口から。

 沢子には、幾らでも聞けたのに。

 望未には、聞けない。

 自分が、間違っているのかもしれないから。

「思い過ごしかな……」

「何が?」

 手を休めずに、尋ねる。

 こっちこそ、聞きたかった。

 でも、答えられない。

 聞きたかった。

「自意識過剰だね……」

 それが、彼女の答えだった。

「どういうこと?」

 徹郎は、聞き返した。

「そういうこと、だよ」

「どういうこと?」

 もう一度、聞いた。その片鱗だけでも、掴みたい。彼女という、その人物の。

 彼女の姿が、見えない。

「誰も考えてないよ」

 望未は、言った。

「相手のことなんか」

 優しかった。諭すように。

「嘘だ」

 徹郎は、言う。望未と、向き合って。瞬きが、返った。

「俺と望未は、思い合ってないのか?」

「思い合ってないよ」

 望未は、言った。

「間違ってるよ」

 勘違い、だった。

 それでもいいと、思う。

 好き、なんだから。

「いいと思うよ」

 徹郎は、言った。

 それでも、好きだった。

「ありがとう」

 彼女は、言った。

 理解は、できない。

 彼女の頭の中が、どうなっているのかなんて。

「知りたい」

 それが、好きなのかもしれない。

 彼女が、分からないから。

「知りたい?」

「うん」

「無理だよ」

「ずっと、いればわかるかもしれない」

「無理だよ」

 望未は、言う。

「人と人とは、分かり合えないんだから」

「そんなことはない」

 唇と唇で、繋がり合える。

 手と、手で。

 心は届かなくとも、体で。

「嘘じゃない」

 実践した。

 ラブホテルの、床で。

 薄い闇の中。

「心は一生通じ合わない」

 彼女が、言った。

「通じてる気がする」

 そう、言い直された。

 満足した。

 深夜一時四十分過ぎ。

 徹郎は、腰を振り続ける。

 一人の、人間であれば良かった。

 願った。

 沢子と、自分が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ