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第38話 竜殺しと軽食

 日が傾きはじめる前、そこらで軽く買い物でもして時間を潰そうかと思っていたが雨が振り始めたので予定を変えてギルドへ直行した。ロゼ、クソ竜(名前は知らない)も一緒。

「あぁ、お待ちしておりましたジェイソン様」

 第一によってきたのはおっぱいさん。先日とは明らかに、こちらを見る目も態度も違う。こちらの腕を疑うような、よそよそしい態度から一転して媚びるような表情と、声色。

「あなたに興味はない」

 金目当ての女しか寄ってこないというのはわかっている。相手は私の中身を見ていない。だから私も相手の中身は見ない。見た目だけならロゼやクソ竜の方がずっといいのだから、どうしてわざわざ見た目だけの女を選ぶ?

「……先日のことは謝ります」

「謝罪は結構。それより彼女らを見ろ。自分とくらべてどう思う、華やかだろう?」

 まあ、俺も人のことを言えるほど性格はよくない。それは自覚している。自覚しているからこんなことが言える。後ろからロゼのため息と、クソ竜の噛み殺した笑い声が。

「……」

 そして前からは歯ぎしり。悔しいだろう、悔しいだろう。たった一度、判断を誤っただけで大金を手に入れるチャンスを失った上に、出直せブスと暴言まで吐かれたのだから。

「君にいい出会いがあるように祈ってるよ。先日抱きついてたあの子とかいいんじゃないかな」

 嫌味をたっぷり含んだ笑顔で言ってやる。俺よりイケメンだし、国に飼われてるから将来も安定。こんな性格最悪なフツメンよりもそっちのが魅力的だろうよ。

「……クッ」

 おお、効いてる効いてる。ふははははーどうだ悔しいだろー。俺だって悔しいぞ。もう少しイケメンに生まれたかった。というか前の世界で寿命を迎えたかった。

 どのみちこの街にも長居するつもりはなかったし、関係を持てるほどの仲にはなれなかっただろう。酸っぱいぶどうみたいだな。

「水と軽食を持ってきてくれ。一人分でいい」

 とりあえず小腹が空いたので。ロゼは血を飲ませたし、クソ竜は人間の食い物はいらんだろうということで、一人分頼む。

「私の分もお願いしようか」

 と思ったが、クソ竜が要求したので二人分に増えた。人の家族を殺して、呪いをかけた上で、さらに飯までたかるとは、なんて厚かましいやつだ。と、白い目を向けるが全く気にしているように見えない。

 そしておっぱいさんは舌打ちをして奥へと消えていった。しばらくすれば料理を持ってきてくれるだろう。

「私が憎いか」

「もちろん」

「なら殺せばいい」

「それができれば苦労しない」

 できないとわかっていて、挑発するように笑う。俺も大概だが、こいつもかなり性格が悪い。

「話は変わるけど、お前はついてきて何がしたいんだ」

「私を殺せる男のそばに居たいだけだよ。ただ待つのはもう飽きた」

 それなら黙って……と何度思ったことか。言ったところで無駄なので、もう口に出さずに聞き流す。なんと自分勝手な女だ、死にたがりのくせに、黙って受け入れないとは。

 言葉と行動が、どうしても矛盾する。改めて考えると、いくつか疑問が浮かぶ。

「質問」

「なんだ?」

 微笑みながら彼女は答えを急かす。

「お前は本当に死にたがっているのか、というのに始まる疑問……本当はただ構ってほしいだけで、別に死にたいわけじゃないんじゃないか? と思った」

 何千何万年と生きているにしては恐ろしく子供じみた動機。しかしそれならつじつまが合う。

 自分のことは誰も傷つけられないが、自分は少し触れるだけで他人を壊してしまう。それはとても対等な関係ではなく、圧倒的な差が存在する。この世のすべてが自分よりも格下で、彼女はただ畏れ敬われるだけの孤高であった。それが永遠に続き、耐えられず、世界を焼き滅ぼそうとまで考えた。

 そこへ俺が現れた。自分を傷つけられる、対等な存在が現れた。

 例えるなら、アレだ。高校入学以来三年間、強面と盛り上がる筋肉に恐れられて誰にも声をかけられなかった番長的な生徒が教室の隅っこで寂しくボッチ飯をつついているところに、転校生がやってきて声をかけてくれた……という仮説なんだけど、こう長々と考えておいて外れていたら馬鹿らしいな。

「……」

 微笑みを保ったまま沈黙。

「そうかもしれん」

「そうか」

 そっかー、そんな馬鹿みたいな理由で家族は殺されたのかー、そっかー……そっかー。

「ご主人様、怖い」

 震える手が袖を掴む。ああ、流石に店の中で暴れる訳にはいかないよな。て、そういうことじゃないか。

「お待たせしました」

 プッツンしそうになっているのを耐えている最中、料理が運ばれてきた。皿をわざと音を立てて置くのは俺が煽ったから。小麦粉を水で溶いたものを薄く伸ばして焼いた、クレープもどきと、その上に干し肉。

 巻いて食べる。硬い。クレープは柔らかいのに干し肉が硬くて噛み切れないからどうもうまく組み合わない。出されたものなのでおとなしく食べるけど。なんて微妙な嫌がらせだろう。美味しいからいいけど。

「さて、いつごろ来るかね」

 クレープを完食して、水も飲んで。気分を落ち着けたら……

「いただきます」

 ロゼに首を吸われた。宿を出る前に吸っただろう。

「竜が居て落ち着けないから。緊張するとお腹がすくの」

「なら仕方ない。好きなだけ吸っていいぞ」

 ああ、仕方ない。美少女の吸血なら、ご褒美でしかないしなぁ。

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