第34話 竜殺しと氷の迷宮(3)
アイスゴーレムAが現れた! アイスゴーレムBが現れた! アイスゴーレムCが現れた! アイスゴーレムDが現れた! 氷の騎士が現れた! ジェイソンは逃げ出した! しかし回り込まれた! ジェイソンはなぎ払う炎を使った! アイスゴーレムAからDは溶けてなくなった! 氷の騎士は解けてなくなった!
ジェイソンは114514の経験地を手に入れた!
はい、茶番終了。ここはさっきの広間から少し進んだ通路。ほんの少しだけ、具体的には百メートルと進んでいない位置で、立ち往生している。十歩と歩かない内に魔物がどんどん湧いてきて、気の休まる暇がまったくない。うっかりモンスターハウスに踏み込んだような気分だが、レアアイテムはどこにも落ちておらず、もし落ちていたとしても燃えてしまっているだろう。
ああ、しかしいい加減飽きてきた。どいつもこいつも同じ種族で同じ容姿で固定されて、攻めかたも物量と硬度を活かした圧殺を試みるだけという単調なもの。変化というものがまったくなくて、退屈してきた。しかし、焼き払う手を止めれば痛い思いをしなきゃならないし、痛いのはいやだし。
「もううんざりだ」
そうは言っても、減らないものは仕方ない。文句を言いながら火の粉を散らして進路を確保。前進し、また囲まれて、また焼き払って。
一応通ったあとからは何も出てこないから、このまま続けていればいつか魔物の湧きも止まるのだろう。どのくらいかかるかはわからないが、いつかは必ず。だがのんびりはしていられない。こうしている間にもあのおっぱいは凍えているのだから。
「おっと、行き止まりか」
分厚い氷の壁。戻ろうかとも思ったが、しかしスキルで索敵した結果この壁の向こうに大物が居るようだし。回り道しようと思ったら背後からは魔物の群れが押し寄せてきてるし。せっかくこんな迷路を用意してくれたここの主には悪いが、正攻法は使わない。ダンジョン探索ゲームにおいては邪道、あるいはご法度とも言えるような手を使わせてもらう。
ひとまず後ろから殺到する魔物たちに火を吹いて足止め。というかそれでもう死んでしまう。氷が炎に弱いのはお約束だが、あまりに脆く、ろくな抵抗もなく魔物はジウジウと音を立てて溶けていく。少し物足りない? いや、楽に済むのはいいことだ。それだけあのおっぱいさんが苦しむ時間が短くなるのだから。
タチバナさんが居たらな。俺がここの主を倒す瞬間の目撃者となってもらって、あのおっぱいさんに俺の雄姿を存分に語ってもらって、おっぱいさんに「きゃーすてきーだいてー」と迫られる未来が待っていた、かもしれないのに。彼はあのクソガキの手当てをしているおかげでここには来られない。ルイスという騎士も同じく。
原因は俺にあるが、俺は悪くない。手出しするなと言われたから手出ししなかった。攻撃されたから反撃した。それだけなのに、どうしてこうも都合の悪いほうへことが転がるのか。
「ええい、くそ」
腹いせに壁を焼く。怒りの炎で壁を溶かす……これが迷宮ではご法度の、壁破壊。中心部へたどり着かせないために多くの壁で通路を仕切り複雑な構造にしているのに、それを無視して壁を破壊することで中心部へ一直線に、最短距離を突き進む。
氷を溶かし、叩いて割って、削って進むことしばらく。やがて出た場所は、中ボスと戦った場所よりもなお広い全面氷張りのフロア。部屋の中央には、氷の玉座に座る明らかに人間ではない肌の色をした……残念ながら、男だ。人外でもナイスバディの美女ならまだここまでの苦労も報われるというのに。本当に残念だ。
「……竜が来たかと思えば、人間一人とは。我の勘も鈍ったものだ。まさか、人と竜の気配を読み違えるとはな」
男が口を開けば、殺気が如く激しい冷気に粘膜が凍りつく。目が、鼻が、口が。言葉をかけようと舌を動かせばそこが凍る。呼吸をすれば気道が凍る。体の端から肌が、肉が、血が凍り、崩れていく。痛みを感じることもない、神経まで凍りついたようだ。
意識が凍る……その前に再生。これでは話をするどころではないと、自分の周りに炎の絨毯を敷き、無理やりに温度を上げる。
「そうか思えば、ただの人間でもないようだな」
「ボスらしく話をするかと思えば、いきなりやってくれるな」
「本来であれば我の姿を見ることも、声を聞くことさえ許されぬのだ。光栄に思うがよい、人間。そして死ね。せめてその醜い肉体を、美しい氷と化してな」
吹き付ける寒波を炎の熱量で相殺しながら、投げかけるべき言葉を捜す。できるだけ相手を挑発するような、汚く、そして効果的な言葉を。
見た感じ、聞いた感じ。相手はいかにもプライドが高そうだ。しかも人間を見下している。なら、逆に見下されるのは大層腹に据えかねるだろう。
「土下座して命乞いをしろ。そうすれば楽に殺してやる」
この世界でこれが通用するかどうかはわからないが、親指で首を切るジェスチャーをした後、それを下に向ける。
美女を苦しめる男は全て悪であり、死んだ後に地獄の業火で焼かれるべし。
「ほう。安い挑発を……その愚を死んだ後に悔いるがいい」
男が立ち上がり、途端に濃密な吹雪が吹き荒れ、視界がふさがれる。
「演出を使うほど余裕があるんだな」
吹き付ける冷気は炎の勢いをさらに強くすることで、相殺。際限なく温度を上げる。
「っ!!」
一瞬後、背中から胸にかけて衝撃。見下ろせば太く、長い氷柱が体を貫いて。胸を中心に急速に氷が広がる。続いて、両手足。喉。頭。外ではなく、内側から氷が広がっていく。普通ならここでとっくに死んでいるところだが、残念ながらこれでも死ねない。不死の便利なところであり、同時につらいところ。
さらに火力を上げて、周りの吹雪を溶かす。自分の氷も溶かす。演出ではなく、れっきとした攻撃の一工程だったか。だがそれもたった今無意味となった。大火事の中で雪が降るか? いいや、そんなわけがない。吹雪に身を隠して、一方的に攻撃する。それがこいつの戦い方なのだろうが、残念ながら相性が悪い。
爆発させるように、炎を拡散させる。
「ぬぅ!」
今の呻きは俺のものではなく、相手のもの。声の方向を見れば、部屋の隅、溶け始めた氷の壁際に追い込まれた男の姿。苦し紛れか、氷柱を飛ばしてくるが、そんなものは見えていれば迎撃は容易であって。炎の壁を立てて、到達する前に溶かしつくす。
「さあ。もう一度さっきと同じことを言ってみろ」
両腕を炎に変えて、一歩近づく。彼の顔には明らかに、あせりが浮かんでいる。
「ふ、ふざけるな! 全身を貫かれて、凍らされて、なぜ死なない!」
「俺だってなぁ。死ねるなら死にたいよ」
でもそれはできない。死ねない体にされてしまった。万感の思いをこめてため息を吐く。
「文句があるなら竜に言ってくれ」
予想外の言葉の登場に一瞬の硬直を見せた男、その正面から、猛獣のように飛び掛り、速度をそのまま。音を越えた蹴撃を、頭に叩きつけてつぶそうと試みる。フロア中に響く轟音。しかし、氷張りの壁に皹が入るだけで血の花が咲くことはなかった。こいつの血が赤いかどうかはひとまず置いておいて。氷の塊だけあってかなり頑丈らしい。
「ぐ、ぎぁぁ」
当然悲鳴は俺のものではない。俺も痛いのは痛いけど。こいつに触れている部分から急速に体が凍り付いて、もう膝まで氷に包まれてしまったせいで。だが痛いだけで悲鳴をあげることはもうないだろう。
凍ってしまった足を解凍するついでに、この死にぞこないを焼却処分する。汚物は消毒だ。
「い゛ェ゛あああ゛あああああ――!?
加減なしの、全力強火。炎に耐性がある竜でさえ悲鳴を上げる灼熱、獄炎。氷属性が受ければとても耐えられないだろう。
繰り返すが、美女を苦しめるのは問答無用で悪なのだ。その罪は重いのだ。ただ燃やすだけでは、罰としてあまりに軽い。骨どころか、灰のひとつすら残さない。この世に居た痕跡を完全に消し去るまで、燃やし尽くす。
――三十秒経過
足をはずして、火を消し止める。
「はあ。まだまだ未熟だねぇ、俺も」
一発で頭を吹っ飛ばすつもりだったのに、そうはできなかった。肉体能力だけが取り柄なのに、それを十分活かした一撃でも倒せないのは屈辱的。
でも主は倒したんだし、まあいっか。露出している部分が即座に凍るほどの寒さは、少しずつマシになってきてるし。事前に受けた説明通り、ボスを倒せば問題解決。まさしくゲーム的。発生した被害はどうしようもないだろうけど。
さて、しかしひとつ気になるのは、あの氷の男がこんな例外を振りまいていた理由。アイスマンは既に天国へ旅立ってしまったので、二度とわからなくなってしまった。死人に口なし。
まあ尋問している間におっぱいさんが死んでしまったら、と考えたら、何も聞かずに焼いたのは正しいことだ。
さあ、外に出よう。おっぱいが待っている。
余談だが、帰り道に拾った重傷者二人はちゃんと生きていた。タクト君も踏みちぎられた腕以外は、綺麗に傷も治って。いったいどんな魔法を使ったのやら。後で聞いてみようとひっそり思うのであった。
氷の迷宮編 これにて終了
モーニングスター一次落ちでした。残念。




